Dパート
気になった事がある。
「セーシさん。野花さんの身体能力はどんなもんだ?」
運転しながら、拳銃を器用に使う様がカッコつけじゃない。その他にも肉体的な強さを感じさせるものがある。
表原とレゼン、セーシは後部座席にて、野花とドゥーム・ザ・ホールの戦闘を見守るしかなかった。
レゼンはセーシの声を、表原にも伝わるように通訳もしてくれる。
『粉雪ちゃんと同等と見ていい。それに2人は同門だからな』
「ど、同門!?っというか、同じくらいって……」
実は物凄い暴力と凶暴性を秘めているとか……。
『粉雪ちゃんは天然なところあるし、ついついやりすぎするタイプなだけ!野花はちゃーんと弁えているよ。そうビクつかないで』
「そ、そーですね」
『といっても、ある"殺人術"を収めている人間の一人だからな』
「超恐ぇんですけど!野花さんも、"殺人術"の使い手だったんですか!?」
そんな驚きが邪魔をしてしまったのか、あろうことか野花は表原達の方に銃口を向ける。
「どいて」
「うひゃああぁっ」
蹲って回避する表原達。それを確認する前にもうトリガーを押している。狙いは当たり前であるが、後ろに引っ込んだドゥーム・ザ・ホールだ。
バリイィィッ
「うひゃあぁっ!しっつこいねっ!」
ガラスを突き破って、ドゥーム・ザ・ホールに向かって放たれた弾丸であったが、彼にはその弾丸が見えていた。
「効かないねぇ~!」
「!」
「弾丸程度、この俺が見切れないわけねぇんだ!何発撃っても、俺には効かねぇぞ!」
その言葉を鵜呑みすることなく冷静で、野花は運転席側のガラスを破壊しながら、ドゥーム・ザ・ホールに向かって銃撃!
だが、弾き飛ばされる。
「ムダァ!わかんねぇのな!!」
「ちっ……」
「ちょっ!野花さん!前!前!!」
「カーブに差し掛かってる!!」
『前方の車にぶつかるぞ!!』
野花は表原達の声に意識を傾けながらも、敵であるドゥーム・ザ・ホールを追いかける顔でいた。
奴も追突は免れず、バイクの追突は致命傷になる。
ブレーキをかけながらカーブを曲がるハンドルテクニック。
「ひぃ~~」
命を賭けるアトラクションはコリゴリだと思った表原。
キーーーッ
かろうじて、ワゴン車は前方車両との追突前に止まったものの。
「それがテメェ等の限界だぜ!」
「!」
ドゥーム・ザ・ホールは歩道へと乗り上げる。
向かっていくのは一軒家の並びとなっている住宅地。
「はっはーー!"解穴"!!」
ドバアアァァッ
家の壁を能力でぶち抜けて、その中を颯爽と走る。通る道はなんだろうがお構いなしに進んでいく様。能力も凄いが、運転技術も素晴らしいものがある。
「他人の家の中をバイクで走るなんて!!」
「あんな能力があったら、ワゴン車じゃ追いつけないぞ!」
ガシャアァッ
家をぶち抜いて、隣の細道に出るドゥーム・ザ・ホール。
そこを向かうにもワゴン車じゃ遠回りする必要がある。いや、この逃げ方があれば車線変更ではなく、道路変更ができ、捕まえるのはほぼ不可能だ。セーシはすぐに告げた。
『野花!まだ射程にあいつはいる!妖人化すれば追いつく!』
最速の妖人化だ。逃げられるロスも少ない。だが、
「そんなのしないわよ!セーシ!!」
運転席を飛び出し、野花は拳銃を持ったままドゥーム・ザ・ホールを走って追いかける。
その最中に弾丸の補充を済ませる。
「ば、馬鹿!無理だ!」
「車を置いていくんですか!?」
暴走とも思える行動であったが、この判断に自信があった模様。
同じく家の中を通り、細道に出る野花。すでにバイクは行った後であったが、そのバイクに異変があった。
プシュ~~
「!?」
パンク!?盗んだのは新車だぜ!両輪がパンクするなんてどーいうこった!?銃弾はもらってねぇぞ。
『破片だ、代勿』
「!」
……そうか、さっきの窓ガラスの破片が前輪と後輪に突き刺さっていやがったのか。つーか、運転席から撃ったとき、釘も落としてやがったんだな。あの女、やるじゃねぇか。
バイクを道端に乗り捨て、今度は走って逃げる。振り返れば追跡してくるのは野花のみ、それも普通の人間状態だ。追いつけるわけねぇ。その数秒の間に
パァンッパァンッ
野花の正確無比な射撃がドゥーム・ザ・ホールのふくらはぎを捉えた!ガードされる前に逃げる足を封じた。
「うごぉ」
その衝撃で転倒し、追い詰められる格好になったが。彼の目に諦めはなく、野花と丁度向かい合うところには、1つだけ交差点を挟んでのことだった。好機は来ると、右車線を見たドゥーム・ザ・ホール。
ブロロロロロロ
「!!」
幼稚園が良く使っている通学用のバスが、この交差点を通過した時!その一瞬だけ、ドゥーム・ザ・ホールの姿を見失い、野花は撃てなかった。通り過ぎる事を待つ愚行。それを待った後
「いない!?」
地面に穴は空けられていない!となれば1つ。
あの幼稚園児バスの中に……最悪!
野花の最悪のケースは当たっていた。逃走戦から奪還戦に変わる。それも大人数で幼い子達を乗せたバスのハイジャック。
「ええーーん、ええーーん」
「お、落ち着いて!みんな、落ち着きなさい!」
そんなの無理ですと、子供達も泣き怯えているし。大人も驚いている。バスに穴が空けられ、乗り込んできたのは足に銃弾を浴びた者。
逃げ切る勢いでやった代勿は傷を庇いながらも、運転席に近づいていき。
「運転手……俺もこの様だ。騒ぎにしたくねぇ」
「ひ、ひぃっ」
「頭に風穴を空けられたくなかったら、俺の言うとおり、走れ。止まるんじゃねぇ。他人のガキとはいえ殺されたくねぇだろ。ま、俺も殺したくねぇんだよ」
「は、はいい!!」
バスに風穴を空けて車内に侵入。おじさん運転手1名。泣き叫んでいる幼児は7名。恐怖しながらも、堪えている保育士さんは1名。このバスは穴が空いている状態。簡単に言えば、常に出入り口ドアが開いたまま走行している危険な状況だった。
「はぁっ……はぁっ……」
ここまで追い詰められたのは初めてだぜ。左足のふくらはぎをやられたのはマジィ。
どうする?どうする!?
『代勿、子供を1人。外に投げ落とせ』
「!」
『人質がいる事は把握しているだろうが、俺達が凶悪な犯罪者である事を見せつける事で奴等も過激な手が使い辛くなる。この運転手じゃ、脅しても暴走運転はできないだろう。ましてや、今のお前が運転するわけにもいかん』
「なるほどな。なるほど。コットウ、頭良いな」
その笑みは邪悪そのものだ。運転手の首根っこを掴んで、その助言を伝える。禍々しく
「信号の1つにでも止まったら、ガキを1人殺す!」
「む、無理を言うな!」
「じゃあ、テメェも一緒に死ぬか!?なあぁっ!!言うとおりにしろ!!」
『!』
迫力が十分にあるが、コットウには代勿が気持ちが分かった。そんなことするつもりはないって。自らの手を汚すつもりもない。むしろ、ガキに甘い。
妖人化を解除し、コットウをこの場に置く。
『代勿……』
「ガキの泣き顔を見て、ちっと。昔思い出した。お前と出会う前の事だ」
誰かを不幸にしたいとか、誰もやった事がねぇようなこと。したいとか思っていた。
商品が立ち並んだスーパーでまだお小遣い制度もできていない中、駄々っ子めいた事じゃなく、これを俺だけの力で俺の物にしたいって。そう思った瞬間に商品を掴んだ手がポケットの中にいった。
けどそれ、菓子だったから。すぐに胃の中に消えちまったが……。あれが万引きをやった理由だ。泣き叫ぼうが、金積んで買おうが、そう思った事じゃなく
「純粋なんだよなー」
欲しいと思ったから、盗んだ。
悪い怪盗を憧れちまった童心よ。そこにただの他人への迷惑な気持ちを持ちたくねぇ。
負けちまったら潔く刑を受けるさ。ただ負けた事ねぇから、俺は俺のやり方で逃げきってやる
「俺は無様な負け犬ふぜぇがやってる万引き犯じゃねぇ、こちとら命賭けて強盗してんだよ!」
『妙な矜持だ。矛盾を抱えて生きるのか』
「はっ」
強盗、逃走の美学があるとすりゃ。盗んで逃げる奴と、何があろうと追いかける奴の死闘。
だからそこの無関係なところは、追いかける側がなんとしてもやる事だ。
「さぁ、来いよ。因心界。まだ宝石はあるからよ」
そー意気込みつつ、自分の世界に入っていた代勿とコットウは、疲れも相まって不注意になっていた。運転手も脅されていただけにスピードが増し、ブレーキが疎かになっていた。目の前の交差点から飛び出して来る。
「敦んちでゲームやろうぜ」
「そーだそーだ!マリカーだ!」
「!あ」
ドガアアァァッ
自転車に乗る小学生達に対し、幼稚園児バスはノーブレーキで撥ね飛ばしてしまったのだ。
バスが緊急停止したのは当然だった。
◇ ◇
「はぁっ……はぁっ……」
「これは」
事故現場に駆けつけた表原と野花。しかし、そこにいたのは撥ね飛ばされて血を流し、倒れている小学生達と、泣き叫んでいる幼稚園児4名。保育士さんや周囲の方々が救急車なり、警察なりを呼び、子供達の手当てなどを行なっていた。
「……酷い……」
「バスは行っちゃった?まだ誰か乗っているの!?」
野花はすぐに保育士に怒るように訊いたが
「この状況を見てください!それどころじゃないでしょ!」
「っ」
そう一言、添えて保育士は教えてくれた。
「まだ運転手と3名の園児がいます!危ない男が乗ったままです!」
「……ありがと、ここをお願い」
「え!?野花さん!」
それだけを教えてもらったら、すぐに走って追いかけていく。どう考えても無理だ。今はもう作戦というものがない。誰が見てもだ。
野花の走るスピードと表原の走るスピードに大きな差があって
「待ってください!」
「表原、妖人化するぞ」
「ええっ!?」
「ただ行かせるのは絶対ダメだ。今なら分かるだろ」
「うん」
ボオォンッ
レゼンは大型ドライバーに変化し、表原の頭上に突き刺さった。
グイイイィィィィィッッ
「あ、足に今回くるぅぅ~。走りすぎの影響~」
そして、超高速回転が止まり。表原は転げるように地面に倒れ、
「あたしだけか~い。おぼろろぉぉっ」
「地面に這いながら、吐くなよ……」
「げほぉっ!うん!」
なんとか立ち上がり、今度こそちゃんとした変身と能力の解放へ。
「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!!』」
いくら野花が早かろうが、妖人化したものに勝るわけがない。すぐに野花に追いついて、倒してでも彼女を止めた!
「なにを考えているんですか!?野花さん!!」
「なにをするの!?マジカニートゥ……!なんで妖人化を……」
「もー、いい加減にしてくださいよ!」
あれを失敗とするには難しいものであるが、全てを失敗とするなら始めから
「妖人化して戦ってください!!それを抜きに、どーやってみんなを守るというんですか!?どーやって敵を倒すのですか!?」
「っ……」
「子供達が轢かれているんですよ!!誰が取り逃がしたせいなんですか!?私達が敵を捕えるためだけに、これ以上の犠牲を増やしていいんですか!?あなたは私よりも先輩なんですし、分かってるはずです!」
敵を倒すという正義を突き詰めれば、
「みんなを護るために私達がいるわけじゃないですか!!」
何かを護るという正義にぶつかる。とにもかくにも、ここでマジカニートゥになった以上。戦うことよりも護ることに重点を置く。ならば、野花がやるべきことは敵を倒すことだ。だが、……
「知ったかぶらないで……」
「え?」
野花はこの現実を見て、言いつけられても、自分を大切にした。
まだ表原にはその経験がなく、この質問を返す言葉が出てこなかった。
「みんなを護るっていうのはね!自分が傷付くことを受け入れる事よ!」
「なにを……」
「無力な人達、見返りすらできない人を助けてまで、私が傷付くのをあなたはなんとも思わないの!?違うでしょ!分かってよ!私は絶対にしない!」
まともそうな外見、考え方の人だと思った。少なくとも、敵と戦う際。妖人化を抜きにして、全力で捕えようとする姿勢とその技術力。
「私は頑張った!努力した!妖人化抜きでも、因心界に貢献できるようにね!!それは全部、私のため。絶対に妖人化なんかしたくないからよ!ひけらかすものじゃないから!!」
それは駄々っ子のそれじゃなく、辛いことを別の意味で乗り切ろうとするもの。とはいえ、マジカニートゥは思ったより聞き取れなかった。みんなを護ることで、傷付く自分がいるという。野花の言葉を上手く理解できなかったからだ。
そこにレゼンが野花に聞き返した。
「俺達は野花さんを傷つけたりしない。勝手に自分が傷付くと思うのは、自由なんだがよ」
「!!」
「仲間だろ?仲間だから傷つけたりしない。それ以外の理由は出てこない」
「……仲間だからこそよ、そう思うの」
それでも野花には信じたくないものがある。自分がよほどの窮地に立たされない限りはしないと決めている事だ。仮にここで代勿を取り逃がしても、自分としては構わないことだ。
逃げ切ってくれないって、敵を応援してしまうような事がある。
そして、野花と違って。マジカニートゥも違う意味でレゼンの言葉にハッとして。野花に頼み込む。
「あたしとレゼンはこれからまだバスの中にいる子供達と運転手を助けます!」
野花の手を強く握って、
「野花さんは敵を倒してください!!あたし、野花さんを信頼している仲間だって、思ってますから!」
「なにを言って」
「思ってますから!待ってます!レゼン!」
「ああ」
マジカニートゥはバスを追いかけていく。その走りは野花が走っているよりも明らかに早く、本当に助ける意志を感じ取ったし。あとの言葉も信頼を寄せての事だって、伝わってしまった。
『俺も仲間だろ?野花』
「セーシ…………正直、あんたのせいなんだけど」
『おいおいおい。ここにきて、その言葉かよ~。ま、追いかけよう。100mまで接近しないといけないし。どうあれ、奇襲が決まる相手じゃない以上、妖人化しないとな』
「……いえ、もっと近づくわ。じゃないと、敵。素手で倒せないから」
『強情……助けるまでに心の準備をしとけよ。久々だからキッツイぞ』
◇ ◇
一方、幼稚園児バスでは錯綜した眼になった代勿が、運転手を脅しながら運転させていた。
肉体的なダメージより精神的なダメージが深かった。
「急げ、急げ、急げ!」
「は、は、はいいぃぃっ」
轢き逃げである。
自らが轢いたわけではないにしろ、それを引き起こしたのは自分自身にある。本来そのような罪悪感は正義側に向けてきた代勿にとって、どれほど愉悦にしてきたかを後悔させるものであった。
それもまだ小さく、自分が儚い夢を追いかけた時期の子達だったこと。
『どこでも良くないぞ』
「うるせぇっ!コットウ!!今はどこでもいいから、逃げるんだ!」
『…………』
代勿にあった、夢見た気持ちがなくなっている。あの愉しんでいる顔を、俺は好きだったんだがな。
このまま因心界とぶつかるのはマズイ。なんとかしてここに残した人質達を使って逃げ切る。生き残れば勝てる!代勿が捕まったら俺まで死んでしまう。自暴自棄になるなよ!
「逃げろ……逃げろ……」
コットウの言葉すら耳を傾けられなくなった代勿。
数十分前とは別人と思えるほど、冷静さを欠き、不安定で、神経質な感覚になっていた。現場が離れるように逃げているのに、安心できない。
コトォッ
「!?だ、誰か動いたか!?」
『?な、何を言っている』
「ふええぇっ!!」
何かの足音?を感じ取ったのか、後部座席の方に振り向く代勿であるが、泣いている園児しか見えない。というか
「気のせいか……」
『当たり前だろ!走っているバスに乗り込みつつ、俺達がそれに気付かないなんて、あるわけないだろ』
コットウの言うとおりである。
このバスに乗り込んでくるとしたら、自分達が空けたあの穴のところしかない。バスに隠れられるところなんてない。
「落ち着けよ、俺」
ありえねぇ。絶対にありえねぇ。何を神経質になっている。考えてみろ。この走る密室空間でガキ共を助ける手段はねぇ!だが、なんだ。何かが今。いるっていう感覚がある。
「『高値に決めちまいなぁ!ドゥーム・ザ・ホール!』」
ここで妖人化する。ここまで何度も人間と妖人化を繰り返しているように、長時間の変身ができない弱点があった。そのカードを切ってまでこの不安を断ち切りたかった。
何かがいるという拭えない違和感。今は一匹の虫であろうと、安心できずに踏み潰すことだろう。決して、子供に危害を加えることなく、バスの中を捜索し始めた。
『なにをやっているんだ』
コットウの言葉に返答がない。自信がないからだ。怯えるとはかっこ悪いことだ。
だが、一切の隙を見せずに車内の様子を隅々チェックしている。
思い出したかのように漏らした言葉は
「俺は奴等に追跡されているんだった」
『!』
「今、この車内にいる気がする」
あの時、どうして奴等が追いついてきたのかを考えてはいなかった。
たぶん、あのスカートラインがなんかしやがった。俺の体に発信機みたいなのを取り付けたとは考えにくいが、俺を追跡する何かがあって、追いついたと考えるのが妥当。つまり、このバスの中に!その物がある!俺がさっき感じた音と気配は、たぶんそいつだ!
ガキ共に付着したか?それとも車外に付着した!?乗り捨てさせるためにか!?
「……………」
このドゥーム・ザ・ホールの読み。嫌な直感は当たっていた。
半分は正解。いや、4割ほどの正解ってところだ。かろうじて、危機を乗り越えたわけだが。正確な解答にはなっていないし、対応がとれていない。
追跡されているのではなく、すでに手が掛かっているのだ。
ズズズズズズズ
「…………ふー」
透明化したマジカニートゥがすでにこのバスの中に入って来ていた!
クールスノー戦で使用していた、"普段着もない生活"によって、透明化したままこのバスの中に入って来たのだ。
音に気付かれるのは仕方のないことであったが、姿が見えず、錯乱している状態であればこの透明化能力に気付くのは難しい。焦っているほど感じ取れる器官が鋭敏になりやすい。
マジカニートゥの問題はここからだ。
これは戦闘向きじゃない本気モードだから、バレた時はボコボコにされちゃう。こんな狭くて移動しづらいところじゃ、戦うなんてできない。レゼンから授かっている作戦は1つ!この人を抱えて、バスから追い出すこと!そうすれば、子供達を護れる!
「…………いる。絶対に何かいる!」
ヤバイ。場所は分かってないみたいだけど、気付かれてる。気配を絶つとか、中二臭いこと!あたしにはまだできないんですけど~~!!
「で、でてこい!この野郎!!いるのは分かってんだよ!!」
なんの能力だ!?どーやって隠れてやがる!空間的な力か!?物体に紛れたりとかしているのか!?
このバスにまたデカイ穴を空けたら止まっちまう。仕掛けてくるならきやがれ!
見える見えない、仕掛ける構えるといった2人の神経戦。互いに妖人である事がこの戦場を作っているわけであるが、幼児達には分からず。ど天然で正論を言ってしまう。
「お、お兄ちゃん。幽霊でも見えるの?」
「ああっ!?」
先ほどからの情緒不安定ぶり。もしかすると本当に、先ほど轢いてしまった小学生の幽霊が現れたのかとも思ってしまう幼児脳。それを馬鹿にされたと勘違いしたのは仕方のない。
「うるせぇ!クソガキ!!」
ガシィッ
手を出そうと踏み寄った一瞬を見て、マジカニートゥが先を出して襟首を掴んだ!
子供を護るためだった。
「!!」
だが、その逸りが居場所を知らせてしまった。緊張が反撃する態勢をすぐに作っており、ドゥーム・ザ・ホールはすぐに見えずとも、拳を突き出してマジカニートゥを捉えた!
「うあぁっ!?」
「と、透明になる能力か!」
衝撃で幼児用の椅子が吹っ飛び壊れていくことで、いくら透明になっていても存在を感知できる。
「なるほど!それで俺の居場所がバレていたのか!」
こいつ1人か!?こいつ1人なのか!?ならここで、こいつを倒せば俺の勝ち!俺が逃げ切れる!
「た、助けがきたの!?」
「が、頑張って!」
「助けてー!」
見えずとも、幼児の純粋さに心を討たれたのはドゥーム・ザ・ホールの方だった。
何を血迷ってそうしたのか、本人には分からなかった。そして、マジカニートゥにもその真意は読みきれなかった。正当化している理由を、止まらない行動をしながら答えていく。
ここで戦えばバスが止まるかもしれねぇ。
こいつに与えたダメージと、俺の足へのダメージは比べるまでもなく、俺が不利だ。
勝ち目のねぇ戦いだとかは俺の本領じゃない。
ビビッているのか、俺は。
捕まってしまう事をビビッてるのか!?
戦うことじゃなく、逃げ切ることを大前提にしているからこその、選択だからか。
ただのガキを巻き込む事をこんなに恐れているのか!俺はぁ……。
逃げているんじゃない!!
バリイイィィッ
「バ、バスから降りた!?自分から!?なんで!?」
「おそらく、お前から逃げるためだな。だが、足に傷がある」
「レゼン!あたし、どーすればいい!?」
「ここを護れ」
マジカニートゥも透明化を解除し、驚きながらも子供達の無事を確認する。
「あとは野花さんがやってくれるはずだ」
◇ ◇
歩道にて
「ふぅー……ふぅー……」
コットウを引き摺りながら、逃げようとする代勿。
「なぁ、コットウ」
『なんだ?』
「俺って悪役。向いてないな。なんだ今の、ガキ。護ろうとして、バスから飛び降りたんだぜ。お前が言っていた通りにすれば、逃げ切れたのによ」
自分の弱さではなく、自分の不向きに心を討たれていた。
だが、それを知っても。長い付き合いのある妖精は教えてくれた。ずっとずっとしてこなかった事。
『逃げたんじゃない。お前は今日、生涯初めて立ち向かったんだ』
「……お前、サイコーの相棒だぜ」
自分が悪いことしても、人のせいにして来た。
そんな人生の中で初めてだ。自分が正直に悪い事をしたという罪悪感が生まれたのは……。
思っていたより
「キツイなぁーってこと、自分に降りかかると」
『…………』
「そん時。仲間が傍にいるってこんなくだらねぇことが、すげー嬉しいんだな」
同時に思い始めた事は好きではなかったが、コットウの次くらいに大切だったなって思える。仲間の存在。こんな自分と接してくれた、信頼してくれた、そんな奴等のため。最後まで足掻き通したい。
仲間を犠牲にしてまで逃げるのではなく、立ち向かって仲間を護ること。
「その壷で分かるけど、あなたは代勿弁刃よね」
そして、待っていたかのように野花が代勿と向かい合った。
相手だけでなく、負傷も考えれば勝敗は分かっている。
「逃がさない」
「逃げねぇよ」
なぜだか分からないが妖人化をして来ないのならば、代勿にわずかながら逃げ切れる可能性がある。
だが、今は違う。置き土産でもしようかと、捨て身の面だって言うのが、野花には伝わった。戦う覚悟がヒシヒシと伝わる。
「……場所、代えないか?そこの川原とか、どーだ?」
「いいわよ」
正々堂々な殺し合いなんてした事もない。
故に勝てるわけもない。
川原に着いた2人。まず、代勿からコットウを反転させ
「『高値に決めちまいなぁ!ドゥーム・ザ・ホール!』」
妖人化するのであった。
そして、肝心の野花。セーシを内ポケットの中で握り締めた。
「…………」
『なに迷ってるんだよ!あとはお前が妖人化すれば、勝てるだろ!』
「分かってるわよ……」
周囲を警戒してしまう集中力のなさであったが、相手の覚悟のおかげで。自分にもそれを受け入れる覚悟ができた。それでも
「……………」
絶対に言いたくないし、絶対にこんな妖人化したくない……。
集中力の欠くことばかり考えている野花。最後まで諦めが悪い。
そこに向かってくる叫び声。
「おおおぉっ!」
ようやっと攻撃されるという危機を感じ取り、その剣を抜いたのだった!
全ての妖人の中で最速と謳われる妖人化の決め台詞は……
「『射精して!エクセレント・チェリー!』」
わずか3文字にして、超絶卑猥な言葉であり、戦士名も非常に考えさせられるものであったのだ!
ズパアァァッ
「ごはぁっ!?」
エクセレント・チェリーは超高速変身であり、その大きな特徴はバイブの妖精であるセーシが剣となっていることである。
その一振りは容易くドゥーム・ザ・ホールを両断する切れ味であった。
2つに斬られて地面に転がった時、妖人化は解除された。代勿は即死したものの
『ごはぁっ……だが。代勿、お前の気持ちを踏み弄ってでも、俺も俺なりにやるぞ』
コットウはまだ生きていた。
死んでしまった代勿の体から出てくる邪念。強い邪念を元に
『罪と悪を永遠に語るがいい!出でよ!ジャネモン!!』
ドパアアァァァ
代勿とコットウの体から物凄い勢いで煙が現れる。そして、川原に丁度生息していた亀にジャネモンが取り付く。
「がめも~~~ん!」
超巨大な亀の怪獣を最後の最後で召喚してきた、代勿とコットウ。最後の置き手土産に野花を倒すための覚悟をしたのだった!そして、そんな怪物が現れたら様子を伺うのも当然。
「ジャネモンだ!」
「最後の切り札を出しやがったか!」
「!あ、野花さんが妖人化してる!なんか格好が……」
色っぽいと、褒めたら良いんだろうか?紫ベースのボディスーツに着替えた格好で、かなり露出度の高いセクシーなコスチューム。人も着替え一つで印象がガラっと変わるのか。セクシーという褒め言葉を出してみる表原。個人的には好みや美しいといった印象を受けない。マニア向けの変身。
そんな中、亀のジャネモンはエクセレント・チェリーに襲い掛かる。
「俺を裁くことなんかできねぇー!」
「…………」
危ないって叫ぼうと思ったら、電撃のようなスピードでジャネモンの中を駆け巡ったかのように、エクセレント・チェリーは動き、カウンターの斬撃をかまし、ジャネモンの背後に移動していた。
ジャネモンを細かく切り刻んでいたのだ。あの固い甲羅でさえもだ
ズパパパパパパ
「うごぎゃああぁぁっ!」
「はぁ……はぁ……」
この一撃でほぼやられていると言える。だが、亀のジャネモンも手強く、手負いになりながらもエクセレント・チェリーに口撃を向ける。
「喰らえ!!」
「はぁっ、はぁっ」
大きく空いたジャネモンの口に、今度は眼にも止まらぬ速さで串刺し!
ドスゥゥッ
「ええぇっ!?」
「剣がいきなり伸びた!?いや、セーシさんが伸びたのか!?」
見えなかった。反応すらできなかった。とんでもない伸縮速度。
不意の一撃に悶絶するのも当然。むしろ、即死しないあのジャネモンは相当強い。相当強いのにまったく寄せ付けていない強さ!恐るべき剣を振るう、エクセレント・チェリー!
「す、すごい!凄いよ、野花さん!最初からすれば勝ってたじゃないですか!」
めっちゃ喜びながら応援する表原。
「つ、強過ぎる。……もしかして、セーシさんって……」
昔、サザンに話しを聞いた一頭の妖精の事を思い出す、レゼン。当時からデタラメな強さを持った妖精の剣は、ある作品の主人公を務めた。その強さに敬意を評し、"聖剣"と呼び、仲間達は彼の逸話を"聖剣伝説"と賞賛したのだった。
「はぁっ、はぁっ、あひぃっ」
一方でエクセレント・チェリーの様子も何かおかしい。
とんでもない出力で攻撃しているため、息切れしてしまっているのかと思うが、息使いがまったくそれに該当しておらず、なにやら表情も戦闘に集中しているとは思えぬものだった。
「ひいぃぃっ、あぁん」
「……あ、あの……」
遠くからでも、その。
エクセレント・チェリーが歪んでいる表情が確認できる。
先ほどまで応援していた表原であったが、こちらの気まずい表情にまったく気付かないで、別の意味で喜んでいる顔を魅せまくるエクセレント・チェリー。
左手を剣から離し、くちゅくちゅと、舌で左手の指を舐めながら。
「亀のジャネモンっ……それっ、エロくない?」
伸ばした先端はいつの間にか元に戻っている。それほど早い伸縮速度。
「す、すみません。別なのを思い浮かべたんですけど……」
「そーいやサザン様が言ってた」
彼こそに正義が向かってくると称され、"聖剣"と呼ばれた彼。だが、その戦いぶり。特に備わっている剣の能力は、剣のようには思えない能力。とんでもない伸縮性を持つだけでなく、
グサッ
「うふふ、ふふふふふ、興奮するぅぅ」
剣が地面を突き刺した瞬間。
ドガガガガガガガガ
「おおおぉぉっ!?」
「な、何事~~!?」
「じゃね~~~!?」
街どころか、国を揺るがすほどの地震を引き起こす震動能力!!
穏やかな川の波も揺れ、道路に亀裂が起こるほどの衝撃。
立っていられず、柱にしがみ付くのも仕方ないほど!
揺れが止むと
「はぁはぁっ、堪らないっ……」
妙な声で鳴くエクセレント・チェリーの姿が……。イケナイ部分に手をやりながら言うのはどうだろうか?
「やばい、謝らないと空気が重いんですけど。っていうか、地震攻撃っていうか?震動攻撃?」
「言うな。気持ち分かるけど、言うな……」
"聖剣"と崇められた彼ではあったが、その戦い方はあまりにも"聖剣"らしくはなかった。大衆の面々は彼に皮肉をこめて、"性剣"と呼ぶのであった。
ガシャァッ
「ぜっ・ちょ・お~~、」
剣となっていたセーシが変形する。トドメに入るため、剣の先端が唐突に丸くなっていく、そして良からぬ高出力のエネルギーが貯められていく。巨体であり体勢を崩しているジャネモンにこれを避けるのは無理な事であり、防ぐことも不可能であった。
「っしょっ!」
ドバアアアァァァァァッ
ジェット噴射のような透明なる聖水が、ジャネモンを浄化しながら空へとぶっ飛ばしていく!
それは魔法のステッキでやっているような事柄が、全部に悪影響へと考えさせられる行ない。
「ちょっ。なんかもう、見てられません……いろんな意味で」
「すげー強いが参考にならないな。別の次元過ぎて……」
キラーーンッ
超強力だったジャネモンを相手に一切寄せ付けず、圧勝してしまうほどの強さを見せるエクセレント・チェリー。野花の妖人化!
「さいっこぉっ、あはぁんっ……」
それでも戦った疲れの影響からか、エクセレント・チェリーは背を向けて地面に倒れ、さらには妖人化が解除されてしまう。
「の、野花さん!」
あまりの強さを持つが、その皮肉な性能故、"性剣"は長い間、妖精達から恐れられ封印されることとなった。それが"聖剣伝説"の始まりの主人公だった。全一巻。ジャンルはR_18指定のギャグストーリー。
「えっ」
「お、おい」
ちなみに、この"性剣"はとてつもない性能を誇り、あまりの強さ故に持ち主の脳が強烈な快楽と自信過剰を生み出してしまう。(これは戦いでの痛みを堪えるための処置でもあったが)
使用目的を失うと同時に、使用者の精神は一気に弾き飛ばされ、その場で崩れ落ちることもしばしばあり、
「し、白目じゃなくて、○○顔になってる~~~!!?」
「なんて顔で気絶してんだ!野花さーーん!」
『久々やると早々意識戻らないんだよな……』
「お前!どーいう妖人化してんだ!こんな妖人化だったら、そりゃ拒否るに決まってるだろーー!!」




