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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第10話『ヘンタイを探してください!?表原、飛島と一緒に下着フェチを追う』
21/267

Aパート

因心界 VS SAF協会。

その終戦に駆けつけた幹部は、飛島華であった。


「今回も派手にやったものですね。粉雪さん」

「いや、今回。私あんまり暴れてない!怪物退治と此処野の金玉潰して、目玉抉ったぐらい!」

「それで暴れてないんですかね?基準がおかしいですよ」


可愛らしいポーチにワンピース姿でやってきた飛島。戦場になったこの場所に輝き煌く姿。少しの埃ですら煙たがる。風紀委員らしさある姿に、それに似合った妖精のご登場。



モゾモゾ……



「失礼」


服の背中から現れたのは動物。その可愛らしさ、妖精にピッタリな生物と言えよう。


「ラクロ」

『僕ちんのお出番なわけだね!飛島』


アライグマの妖精、ラクロ。レゼンと同じ生物型の妖精。

普段は小動物程度の大きさになっており、飛島の背中に隠れている。


「可愛いけれど、凶暴なのよね?アライグマって名前に似合わず」

「ラクロはちゃんとしています。というか、アライグマの器となっている妖精ですよ」

『失礼だなぁ。僕ちん、戦闘向きじゃあないんだよ』


主に飛島が担う役目は事後修復。

壊された建物の修繕、修復をメインとした能力があり、幹部への召集がされた人物。

彼女がいれば、建物や道路などの破壊と損傷は完全に修復ができるのである。


飛島がポーチから取り出したのは、動物用のシャンプー。

ラクロを撫でつつ、シャンプーで洗いながら


「『隠れもないクリアを、ピュアシルバーは照らす』」


ゴゴゴゴゴゴ


力が溢れてくる存在感。その姿は大きくなっていき、可愛らしい姿と口調が裏返しするほどの変貌。

低い唸り声をあげ


『俺の出番だなぁ』


ラクロが妖人化するのであった。その姿は先ほどの可愛らしさなく、極めて凶暴な外見。

飛島には特に変化はない。

百戦錬磨にして、多くの妖人を知っている粉雪をして


「珍しいタイプよね、ピュアシルバー!妖精が妖人化するってタイプ!いやー、珍しいのを間近で見たわ」

「……私としては佐鯨のような事を夢見てたんですが、チェンジはできないんですかね?」

『無理言うんじゃねぇよ、ピュアシルバー』


ピュアシルバーの手にはリードが握られており、それは妖人化の際に吹きかけたシャンプーが首輪のような形となって、ラクロと繋がっていた。

このリードの範囲内がピュアシルバーの能力が使える限界であり、同時に戦闘範囲と言える。

自身もラクロをしても、戦闘向きではないと認める理由にはこの制限がかなり厳しいからだ。

半径10mもない。

しかし、それでもピュアシルバーが持っている能力は絶大であった。


変身したラクロはそのまま番犬のように佇んでいたが、ピュアシルバーは落ちている瓦礫を拾い始めた。

少々面倒な条件、過程を踏むことでピュアシルバーの持っている能力が発動する。



ズズズズズズズ


ラクロが一度手にして保護した物は、"記録"されている。

この病院がちゃんとしていた時を保護している。

そして、ピュアシルバーが一度手にした物は、ラクロが"記録"した状態に復元される。

ルルと表原が派手にやった病院も、激しい戦闘を繰り広げた粉雪達の戦場も、元通りに復元されていく。



「おおー、これなら派手に暴れられる」

「生物の怪我などには効きませんよ。そちらは私自身が対処します」



すでに使用された物までは復元できないが、施設のありのままを元に戻すのは得意。昔のレイアウトのまま、復元される。

ピュアシルバーはすでに因心界の本部、病院、その他の重要施設を保護し、記録している。万が一戦場となっても、ピュアシルバーがいればすぐに復元が可能となる。ただし、施設を復元するにはそこに実際あった物をピュアシルバーが手にしていなければできないため、やりすぎて跡形も無い場合はさすがに復元できない。



「一瞬で戻った……これが、因心界の十妖の実力なのか」

「すげぇ。あんだけボロボロだった病院や広場が一瞬で戻っている」

「わーー!やったーー!」

「もうこのままダメかと思ってた……よかったぁ……」


因心界には多くの妖人がいるが、やはり幹部という地位の者は別格の力を持っている。

市民の多くが、ピュアシルバーの力のおかげで安堵の声が挙がった。

一方で、……


「凄いね!これが、十妖の人達の実力なんだ」

「そーいうのに特化した能力だろうからな。ここまでとなると、かなりの制限や条件があると思うぜ」


表原は人々達に混じるように復元されていくところを感嘆としており、レゼンは彼女の頭の上に乗っていた。



「レゼンにはできないのかな?」

「お前の力不足でできねぇだけだ」

「なにおー!少しは褒めてよぉ!」


敵を倒したとはいえ、地割れを起こすほどの事をやってのけた表原。

冷静になって見ると、倒す過程で生まれた被害を直視するというのは難しいものだった。賠償なり言われたらどーしようとも、思っていた。

ピュアシルバーのおかげで少し安堵となる表原の横で


「しかし、敵は取り逃がすのはどーなんだよ」

「この病院の破壊も広場の損傷も、因心界はやり過ぎだよな」

「ピュアシルバーがいるからって、戻るのは建物とか道路だけなんだろ。人の怪我や心の痛みは治せないしよ」

「……………」


元に戻ったとはいえ、戦場があった事は無くならない。

それも住民達が巻き込まれるほどの戦場だった。此処野の、SAF協会の策略がそもそも異端と言えば、異端だった。不安が生んだ言葉や、不信感を作り出す言葉が出るのは当然だった。


「ちょっと!その言い方はないでしょ!」

「そうだ!クールスノー達がいたおかげで全滅は避けられたんだ!むしろ、よく生きていられたんだ」

「それはそうだけど。だけど、因心界って国で認められた組織なんだから、もっと上手くやってほしいもんだ」

「早く危ない組織を駆逐して欲しいし、住民の安全というのをしっかりと保障して欲しい」

「事件が起きてから対応すれば良いと思っているんじゃないか。本部の近くを強襲されるなんて、管理がなっていない証拠だ」



不満は誰にだってあるものだ。

その時の最良をとれたかどうかなんて、後々で裁量されるとあっては現場の人間の全てが罪人扱いだ。

ちょっと、不安に思って表原は逃げるように人込みから外れる。


「む、難しい話をしてるね。レゼン。今、マジカニートゥの格好じゃないから、この人達には私がやった事はバレてないみたいだけど、大丈夫かな」

「トラブルには付き物だ。自分じゃ何もできねぇくせに机でふんぞり返っている奴は、珍しくねぇだろ」

「わ、私。もしかして、やっぱり。怒られるの?それで済むのかな?」

「そのために因心界がいるんだ。こーいうアフターケアをしなきゃ、秩序は守れない。みんな当たり前に思っているけれど、この世の中は大きく繋がった力で守られているんだ」


正直、好きになれない。

だからこそ、残念ながら。

妖人化の才気が見出せないんだろう。

必死に戦っていたとしても、結果を求め続けてきた結果の、哀れな果てではある。


「今声を挙げた連中の大半は、その時の保障だなんだで転がる利益を得たがるんだ。助けて欲しい人間を助けたい人間の横で、遮るよう捕まって押し倒そうとする、普通と装う人間だ」

「…………難しいね。私には分からないな」

「お前にも分かる事だけ教えてやろうか?」

「どんな?」

「あーいうトラブルに巻き込まれない強い人間になる事だ。辛くて下向くのを責めやしないさ。ただ1日1日少しずつ、顎を上げて前に目を向ける。しょげても、現実はいくら魔法があってもそう変わらない。魔法がなきゃもっと変わらねぇさ」


今、ある。

こんな凄いことが起きても、不安やら不満が噴出するところを知った。戦う無意味さを知ると同時に、自分達がいなかったらもっと危険だったというもの。

もっと気を張って、守る力を欲するかな。諦めちゃった方がもっと楽なのに。守る意味が揺らぎそうだ。



「レゼンは厳しいね。酷いくらい」

「そうかな?今、現場はそんな声で落ち込みも、対話も浮かんでいないさ」


ただのヒーロー1人だったら、足りていない事だろう。


「護ってますよ!因心界は!皆様を護っています!!」


爆発した声が上がった。

そんな不満の声に逆ギレなんて、住民様に向かってどーいう態度だって言われて、謝罪を要求されそうなものだが


「皆様の安全の最善をとっています!誰かが助かりたいじゃなくて、みんなのが護るのが役目なんです!」

「なんだあんた!因心界の関係者か!」


この声を挙げていたのは涙ルルだった。その顔は負けず嫌いが見せるような、悔しさの涙だった。

自分のやれる事がなにか分からない、それはこの人達と特に変わりない事。

精一杯の声に表原とレゼンの気持ちも、少しは動いた。だが、人の数と不満は1人でも2人でも足りないものだ。小さい経験では足りていない。



「あ!もしかして、あんた。涙家の人間だな!」

「!」

「因心界の設立に関わっている家系!そーいや、さっきこの病院を集中砲火したのは、ハートンサイクルだったな!」


表原のマジカニートゥと違い、涙ルルのハートンサイクルは知られていた。そこらへんは活動年数の違いもあれば、生れ落ちた家系というものだ。


「なんだよ!自分達のせいじゃないって言い張りたいのか!?こんな惨状しておいて!」

「違います!」

「この病院が直せるからって!派手に攻撃して住民達に怪我を負わせていいと思っているのか!?」

「っ!」

「組織が護ってくれるからって、何をしても良いと思っているのか!?なんて組織だ!」

「違います!!違います!!」


必死に伝えたい事を、伝えられないもどかしさに、涙が零れる。

どうしたいか。助けたい心になる表原であったが、どうすることもできないし。レゼンも髪の毛を引っ張って出る事を止めさせた。表原が出たところで意味がないし、あんな連中に謝る必要など今はない。

過ぎ去る事をただ耐えるのも、難しい強さだ。

屈辱を受け止められるのも、強さに求められることだった。



「……ご、」


涙ルルは自分の中にある心を叫んだ事を、数による訴えで謝りに変わろうとする瞬間。

子供の謝罪など無意味であると知る大人がこの数の前に、危険な注射器を持ちながら、


「現在、この病院では血が足りてないんですが。血気盛んなら献血をお願いしたいです」

「!!」

「なんだよ!」

「病院にいるんですから、医者ですよ(無免許ですが)。因心界、"十妖"の1人、古野明継です。戦いは終わりましたが、負傷者はまだいます。1人でも救うためにも、言い争いはみんなが助かってからしましょう。訴えたい事も訴える人も、今精算する事じゃないです」


物資の流通も必要だ。

揉め事を先にしたい事も、それに交ざろうとするのも、間違っている。現場は今も動いているんだ。


「お手伝いもできないのなら、どうかお帰りください。他所からの治療班も駆けつけてごった返しになるので」

「……ちっ」

「ふん」


悪態をつけながら、病院内の混乱状態を少しでも避けるためか、病院から出て行く不満を持つ人達。

一方で、ルルは涙を床に零しながら、顔を俯かせていた。何をしているんだって、不甲斐なさが立て続けて、自分に当たっている。それは今に始まった事じゃないのに……。


「うう……うっ……」


悔しい。

何も言い返せない事じゃなくて、自分が本当に無力で、迷惑をかけていることが辛い。

辛いって痛みがジンジンと来る。


「ルルちゃん。病室に戻りなさい」

「古野さん……」

「君ならそれが役目だって分かるだろう?よく戦ってくれた」


それは古野さんも同じ。不慣れで戦いながらも、時間を稼いでいて、忠告までしてくれたのに。それを無視して……。敵は表原のおかげで……。何をしていたんだ。


そんな悔しさが溢れ出て、立ち止まり続ける涙ルルの背後に襲い掛かって来たものは


トンッ


「無理矢理、寝かせるわ。キッスがこの事を知ったら、彼等の命が心配だしね」

「背後から手刀をかまされた方が可哀想と思うんだけどね。粉雪ちゃん」

「今の言い争いを寝てる内に忘れてくれたら良いけど」

「というか、キッス様が君を攻撃するんじゃないか?」

「それはそれ。さすがに私から止めたって言えば、納得するでしょ?」


こーいったトラブルは幹部やそれ対応の人員もいる。いつものことで困ったことだ。悪いのはキャスティーノ団やSAF協会などだっていうのに、文句を垂れたい連中はやっぱりいるものか。



「表原ちゃん!隠れてないで来てー」

「は、はい!」

「悪いけど、ルルちゃんを病室まで運んでくれない?私、色々と手配があるし、古野も忙しいから」

「そ、それならやります!私!」


悲しいかな。ルルよりも表原の方が役に立っているのは、事実であった。



◇      ◇




それから数日の時が流れる。

涙キッスはSAF協会との戦闘の後処理に追われ、本部に戻ってきた白岩と治療のため本部に戻ったヒイロが、キッスに変わって本部の守護を務めた。

佐鯨と北野川は部下達を使いながら、キャスティーノ団の情報を集めて小さな暴動を抑えていく。粉雪は革新党としての活動。キッスと連携し、今回の経費や落とし所をつけている。政治に直接的な力を与えられる事で、保障やその対策などもすぐに纏まり、実行される。因心界の基盤とも言える涙家の1人と、政界でも有数な権力者である1人が組めば、世界の仕組みを変える事すら、不思議もなくやってのける。


「つぎ込める予算、許されるラインの犠牲、任務としての期限は2ヶ月ってところね。国がこいつ等に構ってあげられるのは……」


SAF協会はアイーガと此処野神月の負傷は確かであり、録路と違って異質な回復手段はないと見積もっている。他の幹部達の動向も不明なところも多い。シットリとルミルミが動かなければ、安全と言える。

また大掛かりな戦闘は、時期を見てやるだろうと予測。

一度姿を消せば完全に足取りが掴めなくなるSAF協会は、本部に戦力を残せば、多少の足止めが行なえる。長い事戦っている事で傾向は分かっている。


「その間にキャスティーノ団の本拠地とその後ろの黒幕を突き止め、倒し、捕える」

「録路以上にそれが難しい。上手くその尻尾を捕えないとな」


因心界の幹部、"十妖テウスエル"。

10人幹部となっているが、その中にトップの涙キッスが加わっている事から、10人が同列ではない事が明白であった。頂点は涙キッスであるが、現在あれだけの傷を負いながらももう完全復活をしている、太田ヒイロ。そして、網本粉雪。その3名によるトップ会談が、デカイ会議の前には行われる。

さらにそこに同席しているのは映像という形であるが、


『その者が人間界の騒動を喜ぶものであれば、許しがたい事だな』


妖精の国を統率している、サザンであった。

この4名の会談は本部にある涙キッスの専用部屋で行なわれる。

ここで因心界の根本の動きが決められ、細かい指示が幹部達に伝わり、構成員達が実行に移す。他の様々な組織と同様であり、正義の面を被っても変わりのない事であった。


『SAF協会の牽制に、私と涙キッスが担いたいものだが……』

「私情ねぇ」


偉い。しかし、それはお互い様だと思っていて、この中では敬意の感情はなかった。

粉雪は人間としての意見が強く、サザンは妖精としての意見が強い。

しかし、柔軟さを互いに持ち合わせる。


「サザン様。私はこの機会にしか、キャスティーノ団を追い詰められないと見ております。SAF協会への牽制は必要と思われますが、因心界では限度があり、ここ以上の組織はおりませんよ」

「向こうから攻撃してくれないとなんとも反応とれないからね。私達、革新党の支持者達とかからの情報は人間達の動向がメインになるから、妖精達のやり取りまでは確認できないわ。サザンの気持ちは分かるけれど、意味の感じ方は違うわ」

「……必要であれば、俺と白岩でSAF協会に圧力をかけますが……。シットリを黙らせればまず動けない組織であるのは変わりません」



因心界の現在と未来は、この4名の力と思想によるものと言えよう。



「ダメダメ。それってキッスとサザンが足止めしてるのとなんら変わらないじゃない。戦力的に」

「気にかかるのは理解できる」


対立するのも当然である。


『この本部に私と三強の1人が留まれば、牽制には十分ということか。そう願うということか』

「キャスティーノ団との戦闘直後にSAF協会が強襲するのは有り得る可能性。その際、私と粉雪、白岩の内の一人は本部に残り、SAF協会と戦う準備をする」

「確実な情報でかつ手短で、こっちの戦力が削られないようにやらないとね」



あーだこーだと話し合い。

キャスティーノ団との決戦までを明確に決めておきたい。

そのための幹部召集がある……。



◇      ◇



「表原ちゃんを貸してもらっていいですか?粉雪様」

「顔が近い」



そんな会議が終わってから、病院本部の警護に付く粉雪に、飛島華はその綺麗な顔を前に向けたのだった。

うざそうにどけつつ。


「私は別に構わないわよ。本人が良いって言うなら」

「そうですか」

「ただ、責任持って助けてあげる事よ」

「それくらいなら大丈夫です」


現場の判断に任せる。故に、警護役の粉雪に一度断ってから、飛島は話を進める。

事情を知っている粉雪は


「あんたも大変ね。馬鹿探しでしょ?そーいう役目もできるからでしょうけど」

「ええ、まったくです。こちらからの連絡も返さないので、ラクロを使っての調査となるんですが」

『僕ちんの嗅覚で追えるけれど、まったく手掛かりないと困るんだよねぇ』

「その事は任せるわよ、護衛も込みで。私はいくら実力があっても、人間として終わってるアホに構う時間はとらないから。あんたもそう思うでしょ?」

「……私にも言っているんですか?」

「ふふん。お言葉に甘えて、私はちょっと遠出しちゃうから。幹部会の日取りが決まったら教えて頂戴」



病院に着いて早々、また移動。楽じゃあない。

執事の南空をここに呼ぶ、粉雪。ぼやいてしまうが、


「野花がいれば良かったけど」



ブロロロロロ



キーーーッ



「網本党首、お待たせしました」

「いや、早い早い。こちらとしても悪いわね」

「行き先は革新党の本部でしょうか?」

「もちろん。次の政略を練らないとね。妖人と人間、妖精の関係性も深める必要もあるし……」


バタンッ


やってきたのは南空の車ともう3台。どれも高級車であり、完全にVIP待遇としての移動である。明らかに重要人物が乗っていますよ、っていうアピールであった。ちょっと堅苦しいのが、今はイヤなところ。

アイドルも政治家も、妖人としても、多忙である。

少々行儀が悪いが、後部座席にて爪きりだったり、メイクだったりと。今の絶対安全の保証を大事にしている。防弾ガラスであり、車内の様子を把握できない事がこの自由を作っている。

それに小言を述べる南空。こんな時でも、1人いるのだから。


「網本党首。お気持ちは分かりますが、かようなところで人としての活動は如何なものかと?」

「人間やってるんだから、人間らしくしなきゃ。人々との話しにならないでしょう?」

「仰るとおりですが。組織を越えて、国の上に立つ者の振る舞い。人を従えるのならば、日頃からそうして頂く義務がございますよ?王も神も、私のような凡人を従えるのですから」

「仲間と部下、……それから手駒の境界線は難しいわね」

「私は、野花達のような立ち位置でございませんから」


信頼を置いてくださるというのは、嬉しい限りではあるが。南空の心境、想い。まだ幼さが残る粉雪からは辛いところを抱いている。当然でもあるか、彼と粉雪の歳の差は自身の子供、孫のようなぐらいはあるだろう。

事実、彼は網本粉雪の育ての親の1人であった……。

自身の政治家としての活動、夢、残したモノを彼女に渡している途中。いずれは、国の全てを請け負う者。

人々の幸福、平和、それらを任せるには彼女しかいないという崇拝がある。粉雪としては気の重たい従者ではなく


「あなたが生きている間に見せてあげるわ。だから、そう焦らないで」

「…………無礼でしたな。私は見送りや護衛、見守る事しかできませぬ故」

「それでも良いじゃない。私があなたに"拾われた"頃からお年寄りなんだから」


数少ない友達。あるいは家族として。

付き添って欲しい人の1人であるからだ。

気を本当に許すとは、そーいうものだ。

信頼されているのだ。


「……あら?」

「どうなされましたか?」


そんな話をしている時、粉雪は発見した。向こうは気づいていない。

少々。その和装姿が人の目をひきつけているが、本人は至って気にしておらず、ブラブラと買い物でもしようかという姿。ちょっとは格好を考えろってのは思う。目立たない格好はあるものだろうに。


「キッスが本部から出てるなんて、珍しい」


自分と立場が同列であれ、力が同等であれ、振る舞いはまったく違う。人が違うっていうのが、人を見て知れる。

粉雪からしても、あの涙キッスが因心界の本部から離れているのは貴重であり、珍しい事だった。

他の幹部達の状況を逐一調べておいて、自分だけはプライベートを使える……少々ズルイものだ。ちょっと脅かしてあげようという笑みを作った粉雪。それに気付いて、南空から提案をする。


「声をかけますか?Uターンできますよ」


護衛をまったく付けず、自分以上に自由をやっている。

とはいえ、この外出の目的はなんとなく分かっている。

悪戯心の笑顔より、人の笑顔を護りたいという意識が強くなったか。


「いえ、別にいいわ。話すことないし」

「そうですか」

「同じ気持ちが分かりあえば、邪魔しちゃいけないものでしょ?白岩が帰ってきたから、ちょっと自由時間してるのよ。キッスに悪いわ」


時には頂点の1人。時には家族の1人。時には人間という1人。




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