Cパート
ドゴオオォォッ
工場は10数分も満たない間で半壊。
そして、火災という名目で潰れるのは明白であった。
「な、なんだこれは!?」
「穴だ!?こんな巨大な穴が地下深くまで……」
「見て!新しく掘られたばかりって感じ!あいつ等、地中を通って逃げる気よ!」
佐鯨と北野川を除いた妖人達が発見したのは、巨大な穴。工場の見取り図にはまったく記載がなく、明らかに能力によって掘られたもの。人が6,7人は一気に通れるスペースであり、包囲網を完全に掻い潜ったやり方であろう。
予想していないわけでもなかったが、
「追わなくていいわ」
『い、いいんですか!?せっかくの好機ですよ!』
「もしかすると、相手がなんらかの罠を仕掛けてもおかしくはない」
戦闘はせず、単独の待ち構えながら、部下達に指示を飛ばしている野花。
「すでに佐鯨が録路と戦ってるし、北野川も相手の1人とやり合っているみたい。敵が何人か逃げたという事は、彼等の助けは来ないという事実。録路をしっかり佐鯨で抑えたのが大きい」
因心界の勝利条件を挙げるなら、相手の全滅ではなく、キャスティーノ団の統括、録路空梧を倒すことのみ。それだけで済むのなら、逃走兵を追いかける意味はない。
「全員、無事に戻ることが任務における最重要事項です」
『はっ!』
ピッ
撤退ではなく、そのまま包囲の強化を進める野花。
仮に録路が佐鯨を倒し、その地下の穴から逃げるというのならそこに人員を配置し、完全に封鎖できる。敵が逃げたという情報も大きい。これで終わる。
「ふぅ」
戦闘をしない条件での参加。
持ってきていたキャンピング用の椅子に腰掛けて、後方から1人で戦況を見守る野花。もうあらかた、仕事が終わりそうな時だ。
ガシャアアァァッ
「がーははははっ!油断したな!」
『ココココココ!』
逃げたと思われた敵の数までは分からなかった。"萬"の全員が逃げ出したわけではなかった。大柄の黒人男性の妖人、セッティ・オーン・グロウ。そして、彼の妖精。ラッコの妖精、コココン。違法な手段で人間界に降り立った妖精。
彼等が工場の窓から飛び出し、野花に襲い掛かろうとしていた。
「こいつは良い!相手は"女"の野花だ!コココン!!」
『ココココ!』
「『ぶっちぎり、ゴーヨー』」
妖精のコココンはセッティにおんぶするように執りつき、毛皮のように纏わせる。人間と一体化する妖人。
コココンは違法な手段でこの人間界に降り立った事で、喋る言葉に制限が掛けられた。
しかし、そんな不自由をなんら苦にせず、自分と同じような快楽に飢える人間を見つけ、違法契約し、共に生きていく事を決めた。その覚悟は純粋な悪。
「遊んでやるぜ!」
コココンは元々妖精の国でも、かなりの危険な妖精として存在していた。生物型の妖精を次々に襲い、熱くなる自分の体が冷めるまで嬲っては愛でる習性を持っていた。
そして、そんな習性と似た人間。セッティという、女性とショタばかりを狙った犯罪者と出会い、契約。
自身の能力。
"異性に対しては、絶対的な攻撃と防御を持つ"。
まさに犯罪に適した理不尽極まりない、強烈な力。
「はははははっ!たまんねぇなぁっ!」
身体能力の強化に加えて、魔法的な強制的ルールも盛り込まれた犯罪者に相応しい能力。この能力によって、壊され殺された女性の数は10人を超える。
本当に絶対的であり、異性を抑え込む力と反撃を封じる力は揺るがない。
素早くもあり、大声を上げてからの急襲。野花は椅子から立ち上がったくらいの間。妖人化させる間もなく、セッティは野花を壊そうとしていた。幹部であろうと、妖人化していない瞬間を狙われたら、非常に脆いものだ。
野花は相手が聞き取れないほど小声で、懐に入れているセーシを握り締めながらのこと。
ドパアアアアァァァァッッ
「あり?」
彼等二人の楽しみの絶頂よりも先に、終わりのブラックアウトが訪れる。心臓は楽々に、半分に切り落とされた。
確かにコココンの能力が発動していたのは事実であるが、それはあくまで想定される範囲内での強制でしかない。セッティに対しての攻撃はついでなんじゃないかと、思えるほどの超超攻撃範囲と抜群の切断力。
「こ、こ、工場が真っ二つに斬れたーーーー!?崩れるーーー!?」
「な、何が起こったんだ!?」
「誰かの攻撃……!?」
巨大な工場の全てが斬られるだけじゃなく、
「!その向こう側の建物まで斬れちまってる!」
「なんだ今の攻撃は!?」
セーシを振り翳した方向の全てが斬り落とされたと言って良いこと。
さらに驚くべき事は、その恐るべき攻撃が本当に一瞬で起こりえた事実。これが野花の妖人化。
「セーシ、工場以外にも斬ってる。ハリキリ過ぎ」
『んん?でも、相手がコココンだからな。あの野郎からは絶対に野花を守りたかった。全力ビンビンにな』
「相手の妖精は知り合いだったの?」
『ああ、気にしなくていい。その程度の奴だからさ。ところで……』
「人前じゃなくても、あの台詞もイヤ」
因心界の中で。いや、全ての妖人の中で、"最速の妖人化"を成し遂げる妖人。
それが野花桜が因心界の幹部を務める、戦闘能力の1つである。
◇ ◇
物事には釣り合いがとれるものだ。
正当なる妖人化とは、適合する人間と適合する妖精が正式な契約をして生まれる者である。
北野川と手鏡の妖精、カミィは正式なる妖人である。
だが、それが全て正当かどうか。少なくとも、正義が絶対ではないというのを北野川という存在が証明してしまっている。
彼女は妖人となった頃、
「この力があれば金儲けだけじゃない。世界を操り支配できる」
強烈な野心があった。
秘密を暴く能力、それも完全にして、記憶以上に正確に割り出す真実は世界情勢を把握できると言っても過言ではない。当時の因心界からも。今は無き、エンジェル・デービズという組織からも。スカウトされることはあったが、悉く拒否をし、自分で組織を立ち上げていた。どちらの勢力にも寄らない、第三者の真実を暴くという組織。わずか1年足らずで大きなものとなっていた。
今ある事件の真相。これから起こるであろう未来。そんな重大な秘密を暴き、管理する。
ただの能力だけに囚われず、因心界と同様に妖人などの戦力補充を行なった。
わずか11歳にして、先見の目と世界を揺るがすほどの組織力を管理する者であった。やがてそれは
「エンジェル・デービズに潰される前に動くべきだろう」
「そうね」
当時の因心界の2強。
涙キッスと網本粉雪の両名を動かすほどの抗争に発展。エンジェル・デービズの小組織をいくつも巻き込んで、激しい抗争は続き。ついに北野川は敗れる。
「北野川。どうか今は大人しくして。でも、あなたの事は私。必要な人だと思ってる!だから、今度は一緒に平和を守ってみない」
後に粉雪達と並び称される妖人、白岩印によって組織は壊滅。北野川も捕縛される屈辱を受ける。小宮山達のように、SAF協会達との裏取引で手に入れた妖精を用いて、違法な妖人達を生み出した罪。抗争にまで発展した勢力の強大さ。各方面の秘密を握るという問題。
まだ大きくは無かった因心界が様々な社会から批判を浴びながらも、
「彼女の力は世界の秩序を守るのに必要だ」
「強大な力を向けるだけが正義じゃないわ」
妖人を輩出する名家、涙一家の協力。
革新党という強い政治団体を束ねる、網本粉雪の協力。
「確かに北野川のしてきたこと、抱えているものは罪なんでしょう。それでも前を向き、更生するという償いなら彼女の協力が必要なんです。これまで悪い事をした分以上に、彼女が良い事をし続ければ消せなくとも、償えます!」
新戦力の白岩印。
多くの協力があり、悪と認識された歴史を変えるがため、北野川は釈放される。
「北野川が死ぬことや、囚われたままだとしたら!彼女だけでなく、私達の世界だって何も変わりません!!」
特別に白岩は北野川に優しかったという、歳が近いというのもあった。そして、羨ましがれていたという。
確かに社会的にも問題はあったが、野心の強い彼女が因心界に身を寄せるであろうか?金の問題では解決しようがない、悪の塊のような人だった。粉雪、涙キッスの両名からの説得や交渉でも、囚われたままでいる事を決めていた北野川であったが、
「因心界にあなたの立場を補償します。私には力があっても、組織をまとめるような器はない。でも、あなたは私とそう変わらない歳で大きな組織を束ねた実績がある。それは強さじゃなくて、人を統べる器があるって事です」
因心界という組織が、やはりこれからも強い正義の組織であるために
「支配を悪と思う人達がいても、私はあなたのような器がなければ、組織は内側から瓦解すると思います。そうなれば組織や社会の崩壊は罪にもなるはずです。だから、あなたがいずれ因心界を乗っ取るというお考えでも良い。その時、強いだけの私はあなたと一緒に戦う」
組織という集合を覆すほどの圧倒的な個。しかし、見方を変えれば……。
ともかく、あの北野川が。粉雪や涙キッスが出した条件よりも遥か下の要望で、因心界に加入させたのはこの白岩の純粋な心から来た説得であった。上っ面の正義に飽き飽きしていたところであり、2人は危険人物としても認識しての加入を求めたのに対し。白岩だけは友達、仲間のように自分を求めていた。
お互いに憧れつつも、できぬことだったから。
確かに、残りの一生を牢屋の中で過ごす事よりも、因心界を内側から乗っ取った方が良い。そんな考えもあって白岩の条件で出た。だが、徐々にその考えはなくなっていき、結局のところは同じ方向を向いた正義があったと自分自身で気がつけた。
やっちまった事や過ぎちまった事。そして、敗北した事も。
過去は永遠に変わらず、自分が良く知る秘密にしても、隠し通せない真実。
◇ ◇
野花とセーシが2つに切り落とした工場の倒壊は近い。
切断された箇所より少しの上のところでは、心の削り合いを軸とした戦いがクライマックスを迎えていた。
これまでの恨みのために戦う者が勝者か。これまでの罪を認めつつも戦う者が勝者か。
確かに準備してきた時間の差が、場所や状況を選ばずに決めていた。
ガシャッ
「くそ……アマ……」
壁に叩きつけられるシークレットトークの本体。執拗な追い討ちに会い、分身とは完全に逸れてしまった。
シークレットトーク同士の会話が成立していないと、秘密を探れない。そして、それは相手の動きが読めないこと
ブシュウウゥゥ
「っ!」
ドスゥゥッ
先ほど知りえた情報も、使われる前に知らなければ回避のしようがない。消火器の粉を浴びせられ、視界を失いかけたところに鎖骨を突かれる。
苦しみながら地面でのたうち回る。めちゃくちゃ、体も服も汚れるものだから
「あーっ!ふざけんなっ!!」
これだから戦いってのは好きじゃない。
多少の防御力もあるため、しぶとく起き上がる事もできるが。ペーピング・レンダーから逃れるのは難しい。単純な戦闘力でも個人同士では相手が上回っている。
火災の影響で移動もしづらいし、煙と臭い、異音で周囲の索敵も難しい。シークレットトークの本体が逃げたという手が
「報いは必ず受けるものよ」
恨む者にとっては好意的に受け入れやすい展開であった。
自分が逃れることができず、こうして今。北野川話法と向かい合う状況と同じような事であるから。かろうじて起き上がる程度のシークレットトークを甚振るように、筒となった消火器でぶっ叩く。相手にされた仕打ちを返す光景。
「人の寿命を決めたお前は!!」
「っ……」
「こうして死ぬことが自然なんだ!!」
戦闘向きではないのに、戦うことを選んだのは単純にその場での気分が占めるだろう。
「ふぅー……、血が出てるじゃない」
それは別に"自分だけは"違うと、意味を作ったもんじゃあない。
「そりゃそうね。白岩は、ああ言っても。私はあんた達にして来たことは絶対に変わらない」
シークレットトークが弱そうに自分の過ちを反省してきたかのような言葉に、ペーピング・レンダーの殺意は停滞した。
「恨んだ連中が来る。分かっていた。1人1人覚えちゃいないけど」
あの時を振り返る。
それでも自分のできる事は変わった事でも成長でもなく、やっぱり含めたありのままってこと。
今、自分が殺される事は有り得た場面で、言葉を用いた話で紡いだ。
「そんな連中が来たら、負けちゃいけない。返り討ちにする」
「そんな気力も体力も信念も、今死に底ないのあなたにあるの?私はあんたの事を忘れちゃいない。あなたが死んでも恨み続ける。あんたを殺すために強くなった私が……」
「別に良いわよ、なんだって!」
生きてきた人間同士で、好き勝手すりゃいい。考えれば良いだけのことだ。
良い物を良く。悪い物を悪く。当人の判断。
「過去に囚われ固執し生きるあんた達と、過去を糧に生きる私の差って奴を見せなきゃね」
「………なに?」
「結果、負け以下の廃棄物確定者が。それ受け入れて、人間様。それもこの私に挑むって無謀くらいは評価する。だが、それだけよ!!」
反撃の準備は整った。
度重なって自分への意識を強めさせた。
ペーピング・レンダーのさらに後方を意識した視線と言葉は信じさせるものがある。特に、固執してきた者にとっては
「あんた!やっちまいなさい!!」
「!?」
まさか、分身がここに辿り着いた!?時間稼ぎの話術!?
なによりこれまで意識をしていた存在の言葉が、恐怖と共に体を反転させた。
そんな人の心理を読みきって。
「んなわけないでしょ!!」
バギイィィッ
シークレットトークに専用の武器はない。最低限の格闘術が基本。しかし、懐に隠し持っているのはホームセンターで買って来た、小型ハンマーがあった。相手をぶっ叩くというのが性に合う。甚振るのに最適だ。
それはペーピング・レンダーも同系統の武器攻撃をするのだから、同意するだろう。
「ぐっ」
「私を恨む恨む、言っておいて!」
やられた状況からの這い上がり。それはペーピング・レンダーがしてきたことをやり返すようだった。だが、相手にとっては絶望的な違いが垣間見れる。
「私に対しての"恐怖心"は克服できなかったようね!!」
「っ、この、……」
一瞬の怯みを勝利と確信するかのような、シークレットトークの叫び。この強さが、相手にとっては怖いのだ。
それでも大丈夫だと、乗り越えられると。勇気にしては弱気成分を含んだ、か弱い抵抗を開始。元々ある身体能力の差で怯みの差を縮める。
「あいつが狙っているのは左目への突き!!」
そして、そこに差をつけたのは隠し切れなかった恐怖。怯えから無意識に出てくる動きを、叫ばれても止められなかった。叫びと叫びで会話をし、ペーピング・レンダーの動きを先読みしていたシークレットトーク。
ヒュオォッ
「っ……」
「秘密をありがとう!」
相手の筒による突きを完全に横っ飛びで回避し、隙だらけの頭上に打ち下ろすハンマー。
ドゴオオォッ
「くあぁっ」
この直撃でうつ伏せに転がるペーピングレンダー。
「恨むってことは」
「こーやるんですよ!」
その瞬間を絶対に逃すまいと、本当たる、堂々たる、ってくらい。2人掛かりでその頭を足で抑えつける。恨む恨むって言葉を吐いた連中よりも、その見事なまでの惨さをやってのけるシークレットトーク。
これしかない戦い方だ。誰にも非難できようもない。
両者達の笑みが分かりやすく、天使のように鬼を感じさせる2つの笑顔と、今怯える者が懸命にご機嫌をとろうとするゴミの恐怖にビビッた笑顔。
「拷問の」
「お時間です」
分かってんだよな?こっちは慣れている。
「あんたが生きてきた全ての時間」
「今度は全否定してあげる」
ゲシィッ
交互にペーピング・レンダーを踏み続ける。ムシケラに相応しい姿を晒させ、秘密にしては惨め過ぎる真実を心に突き刺す刃に変えて、差し込む。
「どれだけ準備してきたの?」
「再戦するために準備してきた時間は、……5年間!?」
「あははは!5年間も惨めな敗北者!」
「悔しくて悔しくて眠れなかったんだね!あ、便秘気味で大変だったんですか!」
「仕方ないねぇ、何年生きても変わらん敗北者!」
「そんな人はいないでしょうにね!」
容赦なし。むしろ、本当に恨んでいるって事が、声じゃなく。行動で示せという良き見本。
「家族に捨てられて、路頭に迷って!」
「金で転がった家族(笑)と友達(笑)、間違った正義(大笑)を恨んでも、何もできなかった者!」
「落ちぶれたところがエンジェル・デービズ行き!それも白岩と粉雪達にぶっ潰され、憎しみを因心界に向けて!」
「あたし達が幹部待遇に良い暮らしをするから、便所の落書きに2日も書き込み続けて!ウサ晴らし!!」
「今の自分は他人でできていると、思い上がりの言い訳!!」
「同じ奴等と傷の舐め合いでキレイになったと、根拠の無い強がり並べて生きて!!」
「敗北を誤魔化し続けた、惨めな奴!」
「寿命は残り1年!?」
「まだそんなあったの?やっぱり、ここで死んだ方がいいよ!」
秘密を暴かれ、罵倒される。激高することも認めたということ。
それよりも惨めさを曝け出され、否定でも肯定でもなくデクの棒のようにさせゆく、意志を奪い取る精神攻撃。
これ以上は乗り越える意志がないと見抜いて、完全に人間の形をしたゴミにするシークレットトークの攻撃。罵声と踏みつけを重ねることで、苦しいと抱ける時間すら与えず、長期化させる拷問。
悲鳴も、懇願も、本気に恨んだや殺したいと思った奴に無意味なことだ。
違い過ぎるし、望みもしない。挑む覚悟は全て、現実を超えてくる。戦う、見返す意志はあれど。恐怖を乗り切る覚悟には及ばず。心が死ぬまでの間。心臓か脳のどちらかが止む事を、願わせてくれない無残な仕打ち。
「この私に向き合ったあんたと」
「私自身の過去と向き合い、今戦っている私」
シークレットトークには分かっていた。能力を使うまでもなく。
そして、本人が望んでいないという本当の真実を気付かせる、秘密を閉ざして。
「「その差が真の敗者を決めた!!」」
絶望のまま、ゆっくりと鈍器による殴打、罵声による精神崩壊。もうすでに用済みなくらい、小宮山が知っているだけの秘密は掻っ攫った。
火の手が回って、肉体も完全に死ぬ。そうなる程度に留めて、手を置き、妖人化を解除する。かなりの消耗をしてしまった。
「ふぅ、ま」
同じ気持ちになんかならない。
「私を忘れていたら、この勝負はあなたが勝てたね。恨みから来る、恐怖があったから隙があった。それだけ近づいたって事じゃない?もう二度と届かないだろうけど」
"萬"のリーダー、小宮山初理を殺害する北野川話法。
◇ ◇
ゴゴゴゴゴゴゴ
激闘は終わりを迎えようとしていた。それに相応しい光景。
「工場が崩れるぞ!」
「やばい!逃げろ!」
「火も回っている!周囲の建物に影響がでないよう、守れ!」
野花の一撃がそれを決定付けたが。勝敗は佐鯨と北野川が付けた。
工場が崩れ落ち、大量の粉塵と地響きが伝わった。炎が周囲に撒き散らないよう、新たな事故にならぬよう。後始末をつける。
それが始まろうとしていた時、
ブロロロロロロ
「"どくんじゃねぇぞ"!!ゴミ共がーー!」
「!?」
「なんだぁ!?」
正面を守っていた妖人達の包囲に、外から襲い掛かる大型トラック。全員がかろうじて、回避をとる。何者かと身構え、叫ぶ。それとは違い、緊急停止をするトラック。
「誰だ!?」
「動くな!お前は包囲されている!!」
「キャスティーノ団の者か!?」
攻撃に対応するための準備は皆していた。
カアアァァッ
「!?眩っ……」
そこに届いたのは目が眩むほどの閃光であった。
防御のしようがなく、この隙に逃げられるものかと思わせておいて、相手は
「誰を包囲してるんだよ?雑魚共」
「ぎゃあああぁぁ」
「うぐああぁっ」
一瞬過ぎる光の中で一方的に、この包囲陣を崩してしまうのであった。
「!!今の光、まさかっ……」
工場の後方とはいえ、光を見た野花は気付いた。
誰が突如、現れたのか。狙いは分からなかったが、かつて録路の仲間であった事もある縁からの救助か。予想外過ぎる強者。
ブレイブマイハートの一撃で焼かれながらも、地上に落ちてきた、ナックルカシーも彼に気付き。敵以上の意識を向けた。戦況の不利は理解しながらも、
ガラァァッ
「て、テメェ……。何しにきやがった」
地上に落ちて起き上がっても、警戒する。
「無様にこんがり焼けた豚になったじゃねぇか、録路」
すでに佐鯨との勝敗は決まっていた。あとは、
全てのプライドを賭けて、死ぬか。
全てのプライドを捨てて、生きるか。
「商売相手がこんなところで死んじゃ、俺もSAF協会も困るんだよ。ま、死にたきゃ死ね」
「……っ、テメェの力なんざ借りたくもねぇ」
「あ、思い出した!お前の部下のせいで、トラック壊れたんだ!そいつだけはきっちり賠償しろ!」
「なんだそれは」
判断に勇気はなかった。
録路は突然現れたこの男に、身を寄せる形でこの場で逃げる。
「逃げるぞ。トラックを出せよ」
「くくくく、ま。その先は俺が決めさせてもらうぞ」
「ちょっと待て、菓子を食いたい」
「お前それだから虫歯にもなんだよ。食いかけのスナック菓子が置いてあったぞ。我慢しろ」
この謎の危険人物の助けによって、窮地を脱した録路。
"萬"のメンバーも5人から3人になるものの、完敗はしなかった。
一方で因心界は戦力を大きく削られる事もなく、録路に致命傷を浴びせるまでも含めれば、完全な勝利を収めた。
「ま、あいつが来たんじゃ、しょうがないか」
粉雪にも、キッスにも報告すれば納得する相手。
やっぱり動き始めたか。
「くそーー!なんでいきなり、工場が崩れ落ちるんだよ!あれで録路が地上に落ちちまったじゃねぇか!もう少しだったのに」
「まったくよ!こっちもそれのおかげで、分身の到着が遅れてピンチになったし!」
「………」
あれ?もしかして……
「セーシが悪いじゃない」
『俺が悪いのかよ!?ここは敵を褒めたらどうだ?』
次回予告
佐鯨:しゃああぁぁ!勝ったぜーー!
北野川:あんただけは録路を取り逃がしてるんだから、唯一の負けじゃない
佐鯨:いや、勝ったっつーの!!逃げられちまったがよ!
北野川:都合のいい言い訳ばかり浮かんでいいわね
佐鯨:北野川ーー!お前、ホント!毒ばっか吐きやがって!!周りから嫌われるぞ!
北野川:別にいいわよ。さて、次回は
佐鯨:おう!次回は
北野川:『此処野達はカチコミに来たよ!!因心界VSSAF協会!病院大バトル!』
佐鯨:いってー!舌噛んだーー!
北野川:あんたは次回予告に向いてないわよ




