Bパート
ブロロロロロ
火災が起きているこの建物。
屋上からは中からの煙が立ち昇る。巨大な換気扇がいくつも稼働中。
向かい合っているのは男と男のようで、男と女である。しゃあなし、ブレイブマイハートの特性の1つであるからだ。
ガリッガリッ
「マルカ、見とけ」
『録路』
「お前はやれるんだよ。俺が証明する、力を貸せ」
腹ごしらえのキットカットを済ませた。選んだお菓子はゲン担ぎってところか。
ナックルカシーは床を蹴り飛ばした。
「!!」
それは飛礫となって、ブレイブマイハートへ飛んでいく。飛び道具を自在かつ簡易に放てる技量に驚く。身体能力という点の強化では、食事したばかりのナックルカシーが上か。その判断。
「っ」
ある程度。僅差くらいに思ってはいたが、嘘だった。情報とちょっと食い違う。食べたお菓子の種類によって差があるのかもしれない。飛礫を目暗ましにナックルカシーは飛んで、さらには頭上からブレイブマイハートに襲い掛かるまでの瞬間移動の如き、強襲。
ドゴオオオォォォッ
天井の大部分を崩落させるほどの踏みつけが起こった。
粉雪のクールスノーが凄いのか、あるいはナックルカシーの力を隠していたか。飛礫の目暗ましと、ナックルカシーの強襲に完璧な対応、ブレイブマイハートも素晴らしいものであるが、身体能力の優劣は見えている。
共に宙に浮いたまま。
「うおおぉぉっ、熱くなれぇっ!」
ジュウウウゥゥ
だが、それが全てとは限らない。
蹴りで崩れる床が熔け始めていく。身体能力も確かに高いが、それに合わせて通常の能力もあるものだ。
周囲が高熱を発し始める。
「!」
これがブレイブマイハートの能力。砕いた床すらその熱で熔かしきるのかよ。
「今、熱いよ!あたしの体と心は熱い!!」
先手を喰らっただけでなく、追いかける攻撃も遠いと判断。ブレイブマイハートの戦術眼と戦闘知能は見かけによらず、高い(どーいう事だ、おい)。直撃をもらう覚悟でのカウンター。ナックルカシーがそれにビクつくわけもなく、ガードの上から拳を叩きこんだ。
バヂイイィィッ
「!!、!?」
「っっ、焼くって知ってる?」
ブレイブマイハート本体の高熱は相手に"焦げ"を作り、お互いにくっつく要因を作る。攻撃した相手だけはこの熱の影響をモロに受ける。行動の1つを遅らされると、反応は2つ遅れる。デカイ図体のくせに動揺する。
タァァンッ
「!」
両者、同時に下の階の床に足を置いた時。ブレイブマイハートだけは床が熔けて行く。とんでもない高熱を纏っている。ナックルカシーは熱さをもらいながら想定を超えていると判断した。自分の攻撃を防ぐための腕一本で
「"熱掌"!」
ドゴオオオォォッ
ナックルカシーへの大ダメージを図った。高熱の張り手はナックルカシーの図体をぶっ飛ばした!!
「ぐおおぉっ!?熱っ熱っ!」
「っ」
高熱攻撃に悶える。
先に動いたのはブレイブマイハートであるが、床が溶け出さないように動いただけである。こちらも想定外だった。予想以上に
「あんたの攻撃。強いじゃん。腕が一発で折れた……」
ここで。戦いの勝敗の決め手は。"想定外の大きさ"が決めていた。
両者痛みに苦しみ、動けるが戦意に向かえない状況であった。ブレイブマイハートはゆっくりとした足取りで、打撃の痛みが惹くのを待つ。それでは一歩、二歩遅れる。
その差を理解し、ナックルカシーは栄養補給の菓子を取り出し、食べる。これで体を回復させ、追撃、トドメを刺す。選んだのだから、勝算があるに決まっている。
懐に手を入れた時、ブレイブマイハートの表情は、しまったという表情だ。忘れていたところだった。
「!?」
だが、それはお互いになった。
ナックルカシーは、ブレイブマイハートを甘く見ていた。
スカるお菓子。崩れては溶け出し、飲み物みたいに服もビチャビチャ。
「!」
嘘だろ!?
あいつの熱のせいで、菓子の緊急用も全て熔かされたのか!?液体になってやがる!
想定してねぇぞ!!
「?」
ナックルカシーの明らかに動揺した顔。彼が練りに練るタイプである事が、裏目に出た戦いだった。
決め手が出て来ない事を不思議に思いながら、ブレイブマイハートだって戦う必死さがある。なぜかは理解できなかったが、痛みが惹いた瞬間に足はナックルカシーに向く。
次で決められる。
「おおおぉっっ!」
「!!」
ガードしても熱は伝わる。次の攻撃をもらえば、……
「"熱掌"!!」
ドゴオオォォッ
ブレイブマイハートの攻撃をガードして見せたが、先ほど以上の熱で焼き尽くされるナックルカシー。
「ぐおおおぉぉっ!!?」
蒸発していく汗。水分。
それでも死ぬにはまだ早いと、心に残る執念が彼にあった。
◇ ◇
ブレイブマイハートとナックルカシーの死闘開始から少し前。
こちらの戦闘開始は彼等よりも早かったが、些か違っている。それはシークレットトークの特性だろう。戦闘向きではない。
「北野川。この小宮山初理を、覚えてる?」
シークレットトークVSペーピング・レンダー。
「誰よ?あんた」
「知らなーい」
戦闘は言葉から始まった。対峙する数は2VS1。
真剣な返答をしたつもりのシークレットトークの両名ではあるが、それが許せぬペーピング・レンダー。
背中から取り出した、自身のカレンダーの妖精、シシュウ。
「まぁ、どーでもいいわ!あなたが私とシシュウの命を決めたこと!」
『私達もあなた達の命を決める。それまでのこと!!』
怒りの表情に対して、やっとの思いって感じの顔で下種に笑いながら。
「あぁ、そんなこと?キッスと粉雪が帳消しにしてくれた事件の被害者だったの」
「それは覚えてないもんね、誰に妖精を使わせたかなんて」
挑発オンリー。双方、とんでもない表情でペーピング・レンダーと向き合う。どっちが正義かを言えば、こいつ等ではないのは事実。先ほど告げられた名前すら忘れちまったような、無関心ぶりに
「できない人間が罪」
「できない妖精が罪」
余計に怒りというのは湧いてくる。
それを煽る。精神攻撃の基本と言えよう。
「「それが本当に悪いのよ、弱者」」
因心界が人間界における正規の組織でありながら、北野川のような悪人がいる。元、罪人なのだ。
これまでの罪の帳消しを条件に、因心界に加わった人物。
貴重な能力故に異例の幹部としての待遇。
被害者達としては許される行為ではない。当時、高い金を積まれようともだ。でも、法的にも世界的にも許された。極少数の被害者達を除いて、正義は通った。
「因心界には捻じ曲がった正義がある。あなたがいる事を正当化するなど、許されない!それで私が罪になろうと、あなたを殺す!」
北野川の罪状。
第三者の人間と第三者の妖精への違法契約を結ばせた仲介、強要容疑。
適合しない者同士の契約はお互いの命に関わるだけでなく、心身の障害も発生する。
妖人としてもその力は不完全だったり、不安定だったりと、違法契約の罪とも言える事実が突きつけられる。
「そー?できるのかしら?」
「弱っちぃ人が無理してる」
言われたくないだろ?
「お前等の人生、合わせて50億だっけ?高い金で因心界に買われたじゃない」
「奪われたのは両腕かな?両足かな?首から上だっけ?」
「んー、もしかして。あなたの見た目、健康そうに見えるから」
「契約で寿命を奪われちゃったんだ(笑)」
ペースに入って来た。シークレットトークの本領が出てきそうな時、ペーピング・レンダーはさせじと彼女達に突っ込んでいく。身体能力は違法契約で出来上がったとはいえ、シークレットトークの2人を相手取れるものを持ち、武器を生成し扱うパワー。戦闘面ではペーピング・レンダーが上手。
筒となったある物を武器に襲い掛かる。
「おーっと」
受けに回ればやられる。
ヒットアンドアウェイと精神攻撃が軸となっているシークレットトーク。2人合わせての妖人であり、お互いが近づき、会話していく事でその力は発揮される。とんでもなく厄介な能力。
「あなたのお父さん、札束を見て目の色を変えたんだね」
「お母さん、立派なマイホームをもらえて、幸せに暮らしてるんだね」
「一人のポンコツ娘が売れて、老後も安心」
「子供が売れるだけで、一家離散は救われたのね。感動で涙流れます」
対象者の秘密を暴く能力。それは対象者本人の意思に関わらず、対象者の近くにいる事とシークレットトーク2人の会話を成立させる事で引き出せるというものだ。それも対象者自身が知らない事であろうと、欲する秘密に関しては情報を見聞できる。
記憶でも記録でもないため、純粋で正確な秘密を得られる。罪を帳消しにしても、手元に置くべき人材であり、才能。気に食わない理不尽。
ペーピング・レンダーの握り締める力は増して、筒をシークレットトークの本体の方へ振り回す。
「やあぁっっ!!」
戦闘向きではない。シークレットトークは自覚している。幹部の中での戦闘能力は下の下である。
もっとも、三強が突き抜けていて、佐鯨とヒイロ、野花が次点にいる。
相手の攻撃を空転させながら、
「チャンバラごっこを磨いて強くなったの?」
「ぷーぷぷ、避けちゃえばどーということないよ」
本体と分身は互いに自我を持ち、さらには情報を共有する。2VS1を強いられる状況、真っ当な戦いなら覆せなくもない。数の暴力を使うのなら、接近戦に成り得るものだ。安心安全の挟み撃ち。そんなセオリーがないのが、シークレットトークの異質な、しょうがなしの戦闘術。
「あなたの妖人の戦士名は"ペーピング・レンダー"」
「両手で握った物体を筒状に丸めたり、広げたりする能力」
「切り札は自分だけ、その筒にした物の性能を使用できるってわけね」
「今、手に持っているのはただの鉄っぽいけど」
「消火器を丸めて隠し、あたしに粉を浴びせる気ね」
「そんな美味しい秘密は大好物」
お互いが会話を繰り返す事で敵の能力さえ、暴く事ができる能力。
「ふーん、床とかも筒にできるんだー」
「これに私達を巻き込んで動きを封じれるんだ」
相手の作戦、思考すらも、秘密という形で先んじて知り、対応してしまう。
声を出すという条件なため、タイミングによってはペーピング・レンダーにも悟られる。
「はっっ!」
ベロンッ
「ほっ!」
両手で剥がすように工場の床を筒に変え、シークレットトークの本体を巻き込もうと狙った攻撃。範囲も狭いし、速度も遅い。上にも下にも逃げる箇所があればなんて事はない攻撃。
衣類をプレスする大型の機械の上に飛び移っての回避。ペーピング・レンダーはシークレットトークの本体のみに攻撃を仕掛け、能力封じを狙っている。互いの会話を止めるために、片側を集中して攻撃するのは理にかなっている。
「危ない!逃げすぎ!」
工場という場所と火災という状況が、間合いを重視しているシークレットトークに不利か。分身の身体能力も人並みを超えていても、追いかけるには適していない。
加えて、いきなり初手で奇襲を仕掛けたペーピング・レンダーの攻撃。能力に隠密性もある。工場に隠れるスペース、さらには紙のように薄い隙間さえ、通り抜ける力を持っていれば、優位は分かっている。
「だから能力が拷問向きなのよ」
戦闘にはならない。
◇ ◇
ブロロロロロロ
「はぁ~、長距離運転はやってらんねぇなぁ。狭いし、キツイし」
「だから、クッションを買い替えろって。運転席は家のようにしなきゃダメなんだ」
因心界VSキャスティーノ団の戦闘が行なわれている、ちょっと前の時間。
高速道路を走っている一台の大型トラック。
2人のドライバーが仕事中のところに
パァァァァ
「ん?」
通常ありえぬ、対向車線からの眩い白い光が届いた。
「なんだ!?」
「まぶっ」
何事かと思った瞬間、頭の整理が追いつかないほどの衝撃的な事に巻き込まれる。
まったく無関係で愚痴愚痴言いながら働く社蓄の皆様に対し、
「良い感じのトラックに移動できたな」
「へ?」
「な、なんだお前!?」
時速80キロは出ているトラックに対し、ガラスの一切を破壊することなく、狭い運転席に割り込んでくる形で1人の男の妖人が侵入し、
「お前等、飛び降りろ。あんまり壊したくねぇんだ」
ドゴオオォォッ
あろうことか高速道路で、人を2人も突き落とすというイカレた行動。
動きながら突き落としたのだから完全に即死であり、後続の車に激突したりもした。異常な行動が交通を麻痺させる。ジャネモンなんか使わずとも、人間の悪意1つで簡単に規律と秩序は乱れてしまう。
証明できるサイコパス。
「壊れちまったトラックの新型じゃねぇか。大切に奪い取れて良かったぜ」
人の命をなんとも思わない、強烈な存在。
それが
「そんじゃ間に合うか、録路~。トラックの修理費払ってもらおうじゃねぇか」
因心界とキャスティーノ団が戦っている場所に向かっていた。




