プロローグ-After all its extent
健全で活力溢れる若者を育成するため、100歳未満の方のご回覧は自由意志です。
「どうぞ、こちらです」
銀色の髪を撫で付けた男が、白い手袋の手で俺を導いた。
燕尾服をきっちりと着込んだ男は、無表情な笑顔を崩す事なく、俺を見慣れた扉の向こう通した後、扉を閉めて消えていった。
キョロキョロと、辺りを見渡す。
知らない場所だが、そこいらにある家具などは実に見慣れた物だ。半分以上が、俺の今のマンションの一室に置いてあるものと同じだろう。
ーーーそこでふと、俺を捉える視線に気づく。
視線を感じた方を見やると、そこには、俺が小さい頃使ってた子供椅子に、成人するまで結局ずっと持っていたパンダの人形が座っていた。
「あなたは誰ですか?」
何を思ったのか、俺はパンダくんに声をかけていた。
声は、意思をもって返された。
「ゴッドです」
「嘘つけオマエ、俺が小さいころ叔父さんにもらったパンダだろうがよ」
俺はツッコんでいた。
「ゲーセンのクレーンゲームが出身地ですが、神です。ホントです。因みに余談ですが、あなたはチートを貰って転生できます」
そこは余談じゃないだろ。
突っ込みどころはままあるが、取り敢えず無視しよう。
「チート……ですか? え? なんでもいいの?」
「はい、なんでも良いです。おおかた、ホモ・サピエンス・サピエンスの想像力の及ぶ範囲であらば何だって実現可能ですよ。一部例外がありますが」
ホモ・サピエンス・サピエンス。新人、すなわちクロマニョン人以降の現生人類を指す言葉。
「面倒くさい会話は止めにして、どうぞ。にしてもチートですか……そうですね、では、年齢を若返らせて下さい」
望むものは少ないが、敢えて言うなら、少年時代に戻りたいとは思う。だいたい大まかに20年くらい前だ。
パンダくんも貰ったばかりの頃は、もっと毛並みが白かったね。
「イヤです」
ひどく感情的に断られた。
「…い、嫌?! 無理じゃなくて?」
「はい。嫌です、キッパリと」
断固としている。
「な……何故だ。なぜ神ともあろうパンダが、こんな童貞独身オッサンの、細やかかつ実に微笑ましい願いを、そげな無下に断ろうとする!」
「なんかムカつくから」
「一部しか例外はないって言ったじゃないですかーーー!」
やだぁぁあああああああああ!!!
「これがその"一部"ですよ。さぁ、とっとと別のチートを申請して下さいな」
「クッソ! まぁいい……ならば、俺をイケメンに……」
「死ね」
「………」
もう、頭が良いとか、そんなので良いです。
「頭脳チート? オッケーオッケー、定番ですよね。なろう的に」
思考を読むなよボケパンダ。絶滅危惧種指定で保護区送りに処すぞ。
「んじゃ、世界観設定とかでなにか要望とかあります?」
「……中世暗黒期」
「……大航海時代とかにしない? 12世紀あたりはワールド生成が、ほら、メンドイっていうか」
もう、なんでもいいよ。
そんなこんな、俺は叔父さんに貰ったパンダに導かれ、異世界へと落ちていったのだった。
落ちていくのは、オッサンか、空の方か。
続くよ!