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デザイナーズ  作者: やなぎ
第1章 激動の兆し
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Film.018 エンカウンター

 


「えっ……子供! なぜこんなところに⁈」


 ミーシャの疑問はもっともだ。

 クロード アトクスが鳳龍の大宮殿、6階層で出逢ったその少年はどう見ても魔物ではなかったが異常な存在だった。


 将来有望だろう整った顔立にストレートのプラチナブロンド、青い眼の子供。

 腰元のナイフ以外これといった装備のないTシャツと短パンとラフな姿をしていた。


 エマ シーヤが警戒していた対象は間違いなくこの少年だった。

 あまりの衝撃に、クロードは反応に困っていた。

 それは何故なのかあちらも同じようで、少年は首を傾げながら訊ねてきた。


「あー……なんでお兄さん達固まってんの? なんか警戒してたんじゃなかったの?」


 警戒していた対象の全く見当違いな言葉で、クロードはようやく頭が回転しだした。

 まず指摘すべきは少年のおかしさだ。

 ダンジョン、それも人のほとんどいない6階層に、たった1人でいる現状。しかも武具も付けないでだ。

 全ておかしかった。


 そうこう考えているとエマが少年に話しかけた。

 エマは冷静で頭の回転が早い。だから不意に訪れたこの状況にもついていけたのだろうとクロードは思った。


「少年くん。ここがどこかわかってるの〜?」

「そりゃ分かってるよ失礼だな!」


 少年は心外だという顔でエマに答えた。

 どうやら迷子の子供扱いされたと思ったようだ。実際子供扱いになるのだが。


「そういうことじゃなくてー、ここはダンジョンだよ? 危険な場所なんだよ?」

「まぁそれはそうだけどさ、でもそれはお姉ーさん達にも言えることじゃん」

「いやー、ウチらとキミとでは話しが違うよ〜。キミは1人だし、装備なしだし……なにより子供だし」


 クロードもエマと同意見だった。

 エマ言うとおり、問題は年齢だった。

 もちろん若くても強い奴がいないわけではない。


 実際クロードは自分より強い若者に会ったこともあったし、【シャーロット街の巨人達】を殺したことで有名な10歳の子供だって存在する。


 だがそれにしても少年は若すぎるだろと思った。

 クロードは自分の中の常識が覆るのを感じた。

 世の中には4歳児でもこんな場所に来れる奴がいたりするのかもしれないと、クロードの冷静な部分がそう告げていた。


 クロードは目の前に突っ立ている子供を見ながら考えた。

 少なくともここにいるということは上の階層を突破したということだ。

 それだけの実力があると考えるしかないと思った。

 もちろん他に理由があるのかもしれないし、少年がたった1人でここまで来たと考えるよりかは別の可能性の方が断然高い。

 しかしそれにしても仲間はどうしたのかとクロードは思った。

 いくら強くてもダンジョンではパーティを組むのが常識だからだ。


「少年は1人なのか?」

「まぁね。いつもは世話役が付いてきてくれるんだけど、今日はいなかったから」


 クロードは少年の、いつもはという言葉から、つまり少年は何度もここに来ていて普段は仲間がいるということだと判断した。

 世話役が何人いるのかはわからなかったが、それにしても普段は世話役がついているとなると、今少年が1人でいるのは危険だとクロードは思った。

 もしかすれば自分の力を過信して1人できたのかもしれない。


 クロードは余計なお世話だと思いつつも、放っておくことは出来ず少年に言った。


「いいか少年。キミは確かにここまで来る実力があるかもしれないが、装備も十分に整えず仲間もいないのは危険すぎる。余計かも知れないがキミの安全のためにも俺たちと行動してほしい」


 少年は一瞬キョトンとした表情を見せた後、満面の笑みを浮かべてクロードの申し出を了承した。


「うん、ぜひよろしく! でもお仲間さんたちは良いの? 勝手にメンバー増やして」


 少年に言われてクロードは後ろにいるミーシャ達を見やった。

 エマ、アレックスは賛同の意味を込めた首肯をし、エイシャはなにやら考え込んでいるようで少年をジッと見ていた。

 そしてミーシャ複雑な表情をしていた。


「その、クロード。私達はこれから10階層のボスを倒しに行くのだ。私もこの子を放っては置けないが……ボス部屋に連れて行くべきではないと思う」


 ミーシャのもっともな発言に、しかしクロードがなにかを言う前に少年がミーシャに答えた。


「それは問題ないでしょ。セーフゾーンあるし」


 10階層にも当然安全地帯(セーフゾーン)は存在した。【オーディナリー】がボスと戦っている間、少年を安全地帯(セーフゾーン)に待たせておけば問題は解決する。

 ミーシャもそれに気付いたようで、なら問題はないと賛同した。


「それで、エイシャは何か言いたいことがあるのか?」

「──っえ? ……あ、すみません。いやその、僕もこの子を連れて行くのは賛成です。すみません、ボーっとしてました」

「ん? そうなのか? まぁそれなら良いんだが。じゃ決まりだな。少年、俺はクロードだ、ヨロシク」

「そーいや名前言ってなかったっけ。僕はデイヴィッド、デヴィって呼んで。こっちこそよろしく」


 【オーディナリー】全員の同意をえてクロードはデイヴィッドと名乗った少年と握手した。


「ところでデヴィ、お前の戦闘スタイルはどんなのか教えてくれ。見たところ得物はナイフだけのようだが……」

「あ違うちがう、これは念のため。ホントは遠、中距離からの魔法で戦う。ナイフは振り回すしかできないし、近接戦は逃げ回るくらいしか出来ないからあてになんない」


 短刀術は対魔物戦において優位には働かない。

 その理由として大抵の魔物は頑丈でタフで、小さなキズでは倒すのに非効率だからだ。

 そんな非効率的な得物を使ってるのは剣が重いからだろうとクロードは考えていたがどうやら護身用だったらしい。

 魔法使いは大抵近接戦に弱く、ようするにデイヴィッドは魔物に近づかれたアウトということだ。


「それじゃデヴィには後援を頼んでいいか? それと、俺たちは今までこのメンバーでやってきていた。連携もあるしとりあえずしばらくの間は俺たちの戦い方をみといてくれないか?」

「両方オッケーだよ。もし手が必要だったら言ってね。微力かもしんないけど援護するから」


 デイヴィッドはクロードの提案にすんなり従った。その方がクロードとしても都合がよかった。


 クロードがデイヴィッドにただ傍観する役割を与えたのは、やはりデイヴィッドの実力を完全に信用しきれていなかったからだ。

 まだデイヴィッドの戦闘技能を見たわけではなかったが、どうしても見た目から不安になったのだ。

 こんな子供が魔物を倒せるとはクロードの経験上想像できなかった。

 言われた通り後ろの方に向かっていったデイヴィッドを見ながらクロードは内心ため息をついた。

 それは急速に発展した街の負の側面に対してだった。


 元々【迷宮都市】は冒険者とギルドが主軸に、国家の費用を使用し急激な発展を進めてできた街だ。その結果公共機関の整備が追いついてない。

 通常、ダンジョンに潜るにはそれなりの手続きと関所での確認がある。

 ダンジョン内部の状況を把握するためだ。

 だがサンタナにはそれがなかった。

 だからデイヴィッドのような子供が自由勝手にダンジョンに入っていても把握しようがないのだ。

 しかし愚痴をいったところでクロードにはどうしようもない問題だった。

 11階層解放などという無駄な要求をするギルドと国に今更何かを求めても意味はない。


「そういうわけでみなさんよろしくー。お世話になるデヴィです」


 デヴィの挨拶に各々返事を返した。

 それぞれデイヴィッドに対して思うところはあるようだったが少なくとも今は問題なさそうだった。


「じゃデヴィはアレックスの隣で頼む。アレックスも魔法屋だからな、わからないことがあればアレックスに訊いてくれ」

「つーわけでよろしく、不思議な少年! おんなし魔法使い同士仲良くやろーな」

「あんた魔法使い? 全然ぽくないんだけど」


 アレックスが魔法使いらしくないとの評価を受けてるのは毎度のことだった。

 魔法使いはどちらかといえば学者然とした者が多く、アレックスはその真逆でチャラくてアホっぽい性格だ。


「そ、魔法使いだって全員が全員インキャでローブ纏ってるってわけじゃねーのよ。それに少年だって魔法使いらしくねーしな」

「若いからなんじゃ? まぁなんでもいいけど。よろしくアレックス」


 若いってか幼いだけどな! というクロードのツッコミは心の中で、色々ゴタゴタはあったもののクロードはとりあえず前に進むことにした。


 デイヴィッドが【オーディナリー】と一緒に道を進みはじめてしばらく経った頃……


「え! 少年って5歳なのかよ‼︎ てっきり4歳くらいだと思ってたわ。背ー低いのな」

「それ結構気にしてるんからあんま言わないでほしいんだけど」


 アレックスは歩きながらデイヴィッドと話していた。

 その内容にはクロードを含め他のメンバーも多少驚いていた。

 クロードもデイヴィッドはせいぜい4歳くらいだと思っていたからだ。

 だからといって幼いことに違いはないのだが。


「そうか、そりゃ悪い。けどにしてもスゲーよ少年は! 俺も魔法使えるようなったのは早い方だったけど流石に5歳で魔法は使えなかったしな」


 アレックスは【オーディナリー】の中で、いや【オーディナリー】に限らずその他大勢と比べてもいわゆる天才と呼ばれる部類に入っていた。


 アレックスが初めて魔法を使えたのが7歳の頃。

 その他多くの、魔法使いの素質がある子供は9歳頃から徐々にその力を見せ始めることからアレックスのスゴさは伝わるだろう。

 そうして素質のある者は11の頃に魔法使い専門の学園に入学するのが、アレックスは同年代が入学する時点で学校を首席卒業していた。


 そこから冒険者などいう職を選ぶのはアレックスの性格ゆえだが、とにかく天才なアレックスと比較してもデイヴィッドが魔法を使えるというのはケタ違いに早かった。

 身体強化程度しか使えないクロードはスゴイとか異常とか、そんな漠然とした感想しか出てこなかったが、アレックスやエイシャみたいな魔法使いはどう思ってるんだろうなとクロードは思った。


「少年は何系統得意なんなんだ? 俺は4元素系統の火と土属性なら上級(ハイ)まで使えんだぜ!」

「へー、人間種(アンスロポス)上級(ハイ)使える割合って数万人に1人くらいじゃなかったっけ?」

「そーそー! 俺って意外とすごい部類なんだぜ!」


 アレックスは得意げにデイヴィッドにそう言った。

 クロードはそんなアレックスの自慢にあきれていた。アレックスの発言は半分くらい見栄が入っている。

 確かに上級(ハイ)を使えるのは凄いとクロードも認めていたが、膨大な魔力を喰う上級(ハイ)を一発でも使えばアレックスの魔力スッカラカンになるからだ。


「デイヴィッド君。アレックスはあんなふうに言っているが上級魔法(ハイ・クラス)を使えばすぐに魔力切れを起こすんだぞ。それにエイシャだって上級(ハイ)を使えるんだぞ!」


 そうクロードが思っているとミーシャも同じ考えだったようだ。

 しかも素直すぎて思ったことがすぐ口に出るミーシャはアレックスの見栄張りをバラしてしまった。


「あちょ、ネタバレすんなってミーシャ! てか別に使えんだからいいじゃん。あとエイシャは森艶種(エルフ)だからノーカン! まあ見てろって少年、次魔物に会ったら俺の超スゲー魔法でけちょんけちょんにしてやんよ‼︎」

「それはいいがボス戦の時に魔力切れなんてシャレにならないことはやめてくれ。ところでデイヴィッド君。興味本位で訊くのだがキミはどのくらいの魔法が使えるのだ?」


 そうミーシャがデヴィに訊ねた。


「う〜ん……得意なのは別にないけど闇苦手かな。階級とかはあんまり気にしたことなかったけどだいたい中級(ノーマル)くらい?」


 その答えにまず反応したのはエイシャだった。


「え、中級(ノーマル)ですか⁈ 魔法適性の高い森艶種(エルフ)でさえ中級魔法(ノーマル・クラス)を使いこなすには20年近くかかるんです。それを人間種(アンスロポス)の、しかも5歳のデイヴィッド君が?」

「確かに。そんな話聞いたことねーぞ少年。それがマジなら少年は歴代最年少魔法使い決定だな!」


 と、魔法屋2人が盛り上がっているとエマから警告が入った。


「おーい、お喋りもいーけど敵さんだよー。約8秒後エンカウント。機巧蟻3体だね〜多分」

「あ、ホントだ。クロード大丈夫?」

「これくらいなら余裕だな」

「じゃ僕はクロード達の戦い方見せてもらってるから」


 機巧蟻は緋緋色金(ヒヒイロカネ)の外骨格を持った6〜8階層でよく見る2メートル程度の蟻の形をした機械種(エクスマキナ)だ。

 鋼鉄コウモリよりは遅いがそれでも鳳龍の大宮殿では素早い部類、1発1発の攻撃が重く火魔法も使う。それでいて機巧蟻は群れで行動する。

 3体はまだ少ない方だ。


「エマ下がれ。ミーシャは右側、真ん中と左は俺がやる。援護頼むぞ!」


 前線にいたエマが後退する。

 それにつられるようにしてこちらに向かってガシャガシャとやかましく6本の脚を動かし近寄ってくる機巧蟻。

 機巧蟻はたしかに速かったがクロードからすれば動きが単調で読みやすかった。


「悪いな、お前は一撃だ!」


 まだ少し距離の離れた蟻に向かってクロードは剣を振るった。

 本来は空振りもいいところだが、結果は3メートル離れた蟻が真っ二つに斬り裂かれた。


「おぉ! 斬撃飛ばすとか初めて見た‼︎」


 デイヴィッドの感心した声が背後から聞こえ、クロードは感心した。

 なにせ今の攻撃は初見では何が起きたかわからない者が大半だからだ。

 そんな感想は置いておいて2体目の機巧蟻。

 2体目はクロードに向かって〈劫火〉と言う中級(ノーマル)の火魔法を放った。青い炎がクロードに迫るが、その炎は飛来する途中で何か見えないモノにぶつかり消え去った。


「サンキューエイシャ!」


 エイシャの得意な魔法は2つあった。

 治癒魔法と結界魔法だ。

 結界は主に遮断の効果があり、先ほどのように攻撃を防ぐためによく使われる。

 そしてエイシャの結界展開速度はその他の白魔術師より数段上だった。

 エイシャのおかげで隙ができた2体目を余裕の体捌きで倒すクロード。

 ミーシャの方も終わったらしく、ちょうど機巧蟻の首元に突き刺さった片刃の大剣を引き抜くところだった。

 いつも通りの戦闘。問題もなく終了するとクロードの後ろからデイヴィッドとアレックスの話し声が聞こえてきた。


「あれ? アレックスなんかしたっけ?」

「……次から本気出す」




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