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デザイナーズ  作者: やなぎ
第1章 激動の兆し
12/35

Film.012 フォース

 


──翌日 国家治安維持局第25支部──



 治安維持局のオフィスのソファーにどっかりと腰掛けた(くす)んだ赤髪の軽薄そうな男、【大蛤(おおはまぐり)】バーボン ホジュンはウルフリッグ ネーガスに前日の調査の報告をしていた。


「そ、1番下までポッカリ床に穴が空いてた。原因はあの穴で間違いねーよネーガス支部局長さま」

「そうか、よくやってくれたホジュン」


 ウルフリッグはバーボンに礼を言うと、しばらく考え込んだ後、慎重な口ぶりでバーボンに訊ねた。


「それにしても、智慧の砦に穴が空いた理由は未だ不明……そうだろ? それに【クロノスタシス】は全滅。一体何があった?」

「まぁあんたがそこを気にするのも分かるぜ? だけど俺にだって理解はできてねーんだ。逃げ切れたのも奇跡ってやつだ」

「つまりそれは、何かに追われていたということだな? そしてそれは【クロノスタシス】の連中を殺したもので、穴が空いた原因だと考えられる。それは一体なんだ? どんな外見だったんだ?」


 バーボンはウルフリッグの質問が、まるで何か自分の考えに確証を得ようとしているかのように感じられた。

 しかしバーボンはウルフリッグの思惑などどうでもよかった。


「女だよ女。それもとびっきり美人なプラチナブロンドのな。欲しかった答えはこれか?」

「……あぁ、まさにそれだ。君は本当によくやってくれたよ。これからは我々の仕事だ。君はもう帰ってくれて構わない。報酬はギルドから受け取ってくれ」


 ウルフリッグはバーボンにそう告げると自らの仕事に取り掛かろうとして、止めた。

 席を立たずに不敵な笑みを浮かべ、ウルフリッグを見つめるバーボンに気付いたからだ。


「おいおいそれはつれねぇだろ。あんたはアレがなんなのか知っていて、そのくせそのことを言わずに俺たちに調査を頼んだ。そのせいで【クロノスタシス】の連中は全滅したし、オレだって死にかけた。なのに報告が終わればハイさよならか?」

「……何が言いたい?」

「俺にも一枚噛ませろよ! あれが何かは知らねぇがおたくらが(だんま)りしてるってことは大金になるってことだ、そうだろ⁈」


 ウルフリッグは考えていた。

 ここでバーボンを消すのは簡単だ。

 しかし【クロノスタシス】が全滅し、依頼から帰ってきたバーボンまでもが死ねば確実に目立つ。それは避けたかった。


 ウルフリッグは小さく舌打ちして心のなかで毒づいた。

 ウルフリッグは冒険者という存在を軽蔑していた。

 ウルフリッグからすれば冒険者とは金に意地汚く魔物と好きこのんで戦う頭のネジがゆるんだ貧乏人……という認識だった。

 しかし利用するには格好の存在。

 ウルフリッグは心のなかでバーボンを軽蔑しながらももう少しだけ利用することにした。

 消すのは利用しきってからでもいいだろうと考えた。


「……いいだろう、教えてやる。やつは【鳳龍】と呼ばれる朧龍種(ドラゴニア)だ」

朧龍種(ドラゴニア)っ! マジかよヤベェな。それ知るとよく助かったと思うぜ実際」


 バーボンは自分を追いかけてきた存在が想定外の強者であったことに驚愕し、心底自分が逃げ切れたことに安堵した。


「ヤツの足取りは我々帝国の危機管理局が逐一監視していたが、それが1ヶ月前、サンタナに現れて以降突如姿を消していた」

「なるほどな。だが何故帝国は朧龍種(ドラゴニア)の動向なんて気にしてたんだ? アレは神みてーなもんだろ。実際宗教だって存在する。触らぬ神に祟りなしだ」


 確かに朧龍種(ドラゴニア)程の強大な力は十分に警戒する必要があるだろう。危機が国に及ばないか動向を注視するのも理解できた。

 だが朧龍種(ドラゴニア)は滅多に人類に干渉などしない。にも関わらず監視などすればそれこそ危険というものだ。

 しかしウルフリッグの答えは呆れるものだった。


「ふん、何が神だ。しょせんはドラゴン、我ら帝国軍にとっては素材でしかない」


 根拠のない自信。さすがは帝国の元軍人だとバーボンは思った。

 自分たちが最強で他は搾取するただの家畜だと思っているのだ。負けることなど毛頭考えていない。


 そしてウルフリッグは今の自分の立場がわかっていなかった。

 自分が動かせる部隊の強さを勘違いしていたのだろう。

 ウルフリッグがいた部隊と治安維持局とでは軍隊とケーサツくらいの差があった。

 そんなことにも頭が回らないのかとバーボンは呆れた。


 ウルフリッグは元々武力侵攻で領土を拡大した帝国の大隊の隊長。それが数年前の敗戦で辺境の治安維持局にとばされた。

 ウルフリッグはここで【鳳龍】オリンクルシャを討てば過去が帳消しになり軍に戻れると強く信じていた。

 底なしのバカだとバーボンは思った。

 バーボンは最早ウルフリッグを憐れんでいた。

 バーボンを利用しよういう考えも透けて分かったし、その傲慢(ごうまん)さに内心失笑しながら、しかしバーボンはあえてその思惑にのった。


 今回ウルフリッグがやろうとしてることはいずれにしよ失敗すると思ったが、それを傍観してるだけでは金が手に入らなかった。

 多少危険ではあるものの修羅場を切り抜けなければ稼ぐことなどできないし、バーボンは上手くやれる自信があった。


 ウルフリッグは今回の件で朧龍種(ドラゴニア)の素材だけでなく、ダンジョンさえも制圧し自分の支配下に置く気なのだろうとバーボンは思った。

 最下層まで一直線でいけるこの機会を逃すてはない。

 オリンクルシャの討伐が成功しないであろうことを考慮すれば、バーボンが狙うはダンジョンの利権だ。

 そうして2人の思惑は異なったが、目的は一致した。

 オリンクルシャ討伐と、ダンジョン制圧。




 ◆




 それはリネラ リーバスタビオがまだ幼かった頃の話。


 リネラは奴隷だった。

 奴隷になった経緯は別段珍しくもなく借金のかただった。

 リネラを飼っていた主人は冒険者で普段はマトモだが酒をよく飲み、飲むとリネラに暴力をふるった。主人の仲間も面白半分でリネラを殴った。


 リネラは痛いのが嫌だった。

 理不尽なのが辛かった。

 どうすることもできないのが苦しかった。

 リネラは常に暴力を恐れながら日々を過ごしていた。


 そんな生活がずっと続き、やがてリネラは16になった。

 リネラは主人とその仲間に連れられイール大森林で最近起こっている異変の調査に来ていた。魔物の活発化と大気中の魔素(マナ)濃度の上昇。

 調査は難航し、結局初日はなんの収穫もないまま調査を終えた。

 そしてその日の夜、森の中で野宿の準備をしていたリネラの主人の冒険者仲間はリネラに川の水を汲んでくるよう命令した。

 リネラは川の場所など知らなかったが、主人らが野営地にした場所から南に下ったところから滝の音が聞こえそこへ向かった。


 歩いていると木々がなくなり川を見つけた。

 近くには滝壺があり、崖の上から大量の水が止むことなく落下しては砕けていた。

 その光景を、リネラは無心で眺めていた。

 すると、リネラの視線は滝壺の中央に浮かんだあるものに目がいった。

 それは空中に浮遊した強大な青黒い金属の結晶だった。

 リネラは金属結晶に魅せられて、無意識のうちに近付いた。

 妖しく鈍い光を放つその金属結晶は、まるで誰かを呼んでいるようだった。

 リネラは夢遊病者のように、甘い香りに誘われた虫のようにフラフラと金属結晶に手を伸ばした。

 川の中に下半身が浸かっていたがそんなことは気にも留めなかった。

 そしてリネラの伸ばした右手が金属結晶に触れた瞬間、眩い光に包まれるとともに声が聞こえた。


『──迷宮起動、支配者認証──獣人種(ビーストシー)狐人族、個体名リネラ リーバスタビオ……迷宮の製作に伴う機構の整備を開始します』


 脳に流れる数々の情報が一瞬のうちに弾けた。

 そしてリネラは自分がダンジョンマスターになったことをすぐに理解した。

 ダンジョンマスターになったことで奴隷身分の〝制約〟が消え去ったことも分かった。

 その瞬間、とめどない憎しみと本能があふれて訴えた。

 グチャグチャのドス黒い感情が大声で叫んだ。


 冒険者(ヤツら)を、殺せと。


 リネラは初期費用のDPで安物のナイフを買った。

 そして元主人達が待つ場所まで歩いていった。


「オイ、遅ぇぞ……って水どうし──ッ!」


 まず野営地から少し離れた場所にいる見張りを殺した。

 元主人とその仲間は合わせて6人。今ので残りは5人になった。

 リネラは殺した見張りと反対にいる見張りに近づき、喉をかっ切った。残り4人。

 野営地では焚き火を囲うようにして3人が談笑していた。

 リネラが近付いていくと1人が気付き、リネラが全身返り血で血塗れになっているのを見て目を見開き固まった。

 リネラはそれに反応し振り向いたもう人の頚椎(けいつい)にナイフを差し込み断ち切った。

 唖然とした隣の冒険者の眉間にナイフを突き立て殺した。残りは2人になった。


「リーダー! あんたの奴隷が(ぼう)()──グッ⁉︎」


 臨戦態勢に入ろうとしていたもう1人の命を投擲(とうてき)で刈り取った。

 残りはリネラの元主人ただ1人になった。


 リネラの元主人はテントの中で眠っていた。

 リネラがほとんど音もなく冒険者たちを全滅させたためまだ事態に気づかなかったようだ。

 リネラは元主人をナイフで殺そうとしたが、そのナイフの刃こぼれが激しいのに気付き、ナイフを捨て元主人に馬乗りにまたがった。

 そこでようやく起きた元主人に対しリネラは嬉々とした笑みを浮かべながらこう言った。


「おはよう……ご主人さま、それとバイバイ」


 リネラは寝ぼけて状況を理解できていない元主人に、渾身の力を込めて殴りかかった。

 何度も何度も何度も何度も殴った。

 相手の歯が折れ、鼻が潰れて、目がえぐれて、皮膚がちぎれても殴るのをやめなかった。


 リネラは笑っていた。

 狂ったように声をあげて。

 もはやリネラの心は狂気が支配していた。

 そしてトドメの1発をさす直前、元主人とリネラの目があった。

 その目には怯えや恐怖、苦痛と憎しみが込められていた。

 リネラはその瞳に見つめられて正気に戻った。

 だが拳は止まらなかった。

 結果、元主人の顔はトマトを踏んだみたいに潰れて、リネラの下にはただの肉塊が横たわっていた。


 最後にリネラを見ていたあの瞳。

 それはリネラそのものだった。

 いつも自分がしていた瞳。

 暴力に怯え震える眼。

 眼下の死体を眺めながらリネラは思った。

 結局自分も、こいつらとなんら変わりなかったのだと。

 暴力に身を任せ、踏み躙ったのだ。

 誰よりも暴力を嫌っていたはずなのにリネラはヒトを殴り殺してしまった。


「……っ! 手、痛い…………」


 リネラの手は皮があちこち擦り剥け血で滲んでいた。

 それが余計、自分の行為を批判するようでリネラの心を(むしば)んだ。




 ◆




──智慧の砦付近──



 その日、イール大森林奥地の智慧の砦入り口近くには100人程の治安隊が拠点を作り、ダンジョンを制圧しようとしていた。

 何度か攻防もあり、現在は10数名の負傷者を出していたが死者はいなかった。


「やっこさんは出てこねーのか? 俺の時は散々追いかけられて死にそーだったんだが」


 バーボンはダンジョン入り口の手前にある小高い丘の上でウルフリッグの横に立ち、治安隊の隊員達がダンジョンに侵入していくのを眺めながら訊ねた。


「【鳳龍】がダンジョンの中にいるのは確実。出てこないならそれもそれでいい。どのみち穴のある部屋まで到達できたならば現れるだろう」


 ウルフリッグの返答ははたして正解だった。


 バーボンたちの会話から数十分後、オリンクルシャは穴に到達した治安隊の隊員を最下層から見やりながら考えていた。

 ここで自分は本当に戦うべきなのだろうかと。


 リネラは知力で戦うこのダンジョンに誇りを持っていた。

 それは今のオリンクルシャなら十分に理解出来た。

 しかし、このまま放って置くこともオリンクルシャにはできなかった。

 悩みながらも、オリンクルシャの心の中には既に答えがあった。

 リネラは守る。

 たとえそれがリネラの誇りを傷つけることになろうとも。

 オリンクルシャは【クロノスタシス】を葬ったように、穴の辺りでなにやら作業していた隊員達を瞬殺した。

 どうやら今回の敵はかなりの数らしくオリンクルシャがダンジョンの外に出るとそこには数多くの兵隊がいた。


 その様子をバーボンは遠くから眺めていた。


「お、やっと出てきたじゃん。まぁ俺はあいつには興味ないけど」

「ふん、ならさっさとダンジョンマスターを殺しに行け」

「言われなくてもわかってるって。それにちゃんとダンジョンの所有権はあんたに譲るしな、だからあんたも金は払えよ?」


 バーボンはそう言い残しオリンクルシャに気付かれないよう回り込みながらダンジョンへと近づいていった。


「ふん、どうせダンジョンの利権を握る腹づもりだろうが、全てが終わった時はお前も殺してやる。今はあのクソッタレ朧龍種(ドラゴニア)を殺るのが先だがな」


 そう1人つぶやき、ウルフリッグはダマスカス鋼の双剣を抜き放つとオリンクルシャへと向かって走り出した。

 ウルフリッグは1度、戦争で負けはしたが本人はこれまでの戦いで擦り傷1つ追っていなかった。

 それがウルフリッグの自信の根拠でもあった。


 ウルフリッグはオリンクルシャに斬りかかった。

 が、オリンクルシャは難なくその攻撃を避け、反撃の回し蹴りを放つ。

 それを上体を反らして躱すウルフリッグ。

 死角となった背後から再度斬りかかった。


(くだ)け、〈衝波〉」


 オリンクルシャが唱えた短い詠唱は、しかし凄まじい威力だった。

 オリンクルシャを中心に衝撃の波が音速を超えて球体状に広がり、ウルフリッグはもちろん周りの兵士も巻き込んで吹き飛ばし、地面にはクレーターができた。


穿(うが)て、〈鈦鏃〉」


 さらに追い討ちをかけオリンクルシャはウルフリッグが吹き飛んだ方向に巨大な鉄の矢のようなモノを撃ち込んだ。

 それは森を(えぐ)り、地形を変えながらウルフリッグを貫こうと飛来する。


「ぐっ──! クソが、こんなモノで俺を仕留められると思うなよ‼︎」


 ウルフリッグはなんとかオリンクルシャの魔法を双剣で弾く……が──


「いいえ、終わり」


 ウルフリッグが上空から聞こえた声に顔を向けるとそこにはオリンクルシャが、白銀の輝く巨大な翼を生やし飛んでいた。

 その姿は神々しく、オリンクルシャの哀しそうな表情にウルフリッグは瞬間見とれてしまった。


「潰せ……〈隕鉄〉」


 しかしその姿も表情も、詠唱とともに突如現れた巨大な塊に隠れて消えた。

 それは人がどうこうできるレベルを遥かに超えていた。

 ウルフリッグは死の間際、自分の愚かさに気づいたのだった。




──同時刻 智慧の砦、10階層──



「そろそろ諦めたらどうなんだ? お前じゃ俺に攻撃を当てることなんて出来ねぇーよ」


 リネラはオリンクルシャが出ていった隙にダンジョンに侵入してきたバーボンと戦っていた。


 バーボンは戦闘針術と得意の幻影魔法を使った戦闘スタイルで、1つひとつの攻撃力は小さいがもらいつづければ傷が多くなり出血が酷いことになり体力を奪われる。

 現にリネラはバーボンの攻撃をくらいつづけ、身体のいたるところに切り傷ができて動きは鈍くなり不安定になっていた。

 対してリネラの両手剣は一向にバーボンを捉えられず全て避けられていた。


 それもそのはず、リネラが相手をしているのはオリンクルシャが引っかかった虚像。

 バーボンはリネラの背後に隠れ、隙を伺い攻撃力の高いナイフで殺そうと考えていた。

 そしてその時はすぐに来た。

 リネラが両手剣を振るった勢いで体勢を崩し、絶好のチャンスが生まれたのだ。

 バーボンはリネラの背後から幻惑魔法と気配遮断で完全に認識されなまま近づいた。

 そして直後、ブスリというナイフが肉に刺し込まれる鈍い音が響いた。


「──ッグフ⁈」


 しかし苦痛の声をあげたのはバーボンの方だった。

 バーボンはリネラの隠し持っていたナイフに刺されていた。

 肝臓をやられたバーボンは倒れこみ、血の海に沈みこんだ。

 血走り見開かれた目には、リネラがうつっていた。


「相手の隙を伺って背後からブスリ……有効だしあなたの戦闘スタイルにはバッチリ合ってたと思う。けどだからこそ読まれやすい。わざと隙を作って飛び込んでくるだろうところにナイフを用意すれば……まぁあなたが身をもって知った通りになる」


 つまりは最初っから、リネラの思惑通り動かされていたのだ。

 バーボンはかすれた思考の中で、素直に負けを認めざるをえなかった。




 ◆




──1週間後──



「リネラちゃん、本当にいいの?」

「うん、もう決めたんだ。ダンジョンマスターは辞める」


 オリンクルシャとリネラは礎室でダンジョンコアの前に立ち話し合っていた。


 あの後ウルフリッグが死んで治安隊は瓦解した。

 元々ウルフリッグの私欲のような理由で起こった出来事なのだから、治安隊はオリンクルシャの化け物じみた力に(おのの)きすぐさま逃げ去った。

 しかしそれでもダンジョンの床は壊れっぱなしで、また変わったこともあまりに多すぎた。


 リネラは最早、ダンジョンマスターとしての自信を失っていた。

 オリンクルシャの作った穴や、それを塞げなかった不甲斐なさや、最後は力で解決したことでこれ以上知力に頼ることは出来なかったし、そうなればダンジョンを運営していくことも不可能だとリネラは思った。

 リネラはバーボンとやりあった後オリンクルシャに打ち明けていた。


「アタシは、暴力が嫌いだった。だから知力を使ったダンジョンを作ることにした。そしてアタシは、この知力で戦うダンジョンを誇りだなんだといいながら、本当は認めたくなくて、逃げてただけだったんだよ。自分だって暴力を振るうんだって認めたくなかった。暴力から逃げたかった。

 このダンジョンはまるでアタシのエゴそのものだよ。暴力を排除し、知力で戦えると思った。

 まぁそれもオリンクルシャが全てブチ壊したんだけどね……っていやいや、怒ってないよ、むしろ感謝してる。

 暴力と武力は違うんだって気付かされたから。アタシも鈍感じゃないし、ちゃんと気づいてるよ。オリンクルシャはアタシを愛してくれたんでしょ? そして守ってくれたんだ。暴力でもなく知力でもなく、武力で。そこにはきっと、優しさがあったんだ。

 だからアタシは、オリンクルシャにならダンジョンを譲ってもいいと思う。オリンクルシャなら、アタシが納得できるダンジョンを作ってくれると思うし。マスターが変わればダンジョンも初期化する。穴の問題も解決だよ」


 リネラは終始曇りのない晴れやかな笑顔で語っていたが、オリンクルシャは全てが自分の浅はかな考えが引き起こした事態だと考えればやはりリネラに申し訳なかった。

 それでも、オリンクルシャは謝らなかった。

 リネラのためにも、そして自分がこのことを忘れぬ為にも。

 それに、今は前に進まなければいけない。


 オリンクルシャとリネラはコアに手を触れ、そして言葉を紡いだ。


「アタシ、リネラ リーバスタビオは、ダンジョンマスターの資格を放棄しオリンクルシャに受け渡すことを宣言する!」




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