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降誕祭と試される愛の絆 1

お久しぶりの番外編です。

 それはとても神秘的な光景だった。


 シャン シャン シャン シャンッ


 錫杖(しゃくじょう)にいくつも通された遊環(ゆかん)が高く澄んだ音を立てる。

 衆人が息をするのも憚りながら見つめる中、煌めく衣裳を身に付けた者達が自ら錫杖を揺らし、その音に合わせてゆっくりと踊りだす。

 その中央に立つ一人の少女が、天に両手を差しのべながら歌を歌い始める。堂々と、そして伸び伸びとした神の誕生を祝う歌だった。

 少女の紡いだ言の葉が不思議な温度を持って会場内を温かく包む。


 あ……何これ、何か……温かい?


 美優はほんのりとした温かさを感じて目を瞠った。とっさに横に座る人に目を遣ると、彼も気付いていたらしく目を合わせて小さく頷いた。首の動きに合わせて金茶の髪が揺れる。

 周囲の人々も確かな温もりを感じて、寒さに縮こまらせていた体を緩ませた。


「奇跡だ……」


 誰かの呟きが聞こえてくる。きっと本人も自分が発したとは気付いていないだろう、それぐらい皆の心の声を代弁したかのような呟きだった。火を起こさずに暖を取ることは、高等魔導士でも難しいと言われる術だからだ。

 彼女を取り囲む淡い光が見え、全ての者がそれに見惚れた。心が洗われるような、そんな光だった。




「いやー、すごかったね、降誕祭!」


 会場の外へ出ると美優は興奮冷めやらぬと言った様子で声を上げた。

 来て良かったなぁ。ものすっごく遠かったけれど。何日も馬に乗って駆けて来たからお尻が割れるように痛い。いや、元々割れてるんだけどね、さらに6つか8つに割れそうなほど痛い。

 あの後、神殿はちょっとしたサーカス団の様になっていた。各自得意とする魔術を用いてパフォーマンスをし始めたのだ。火の玉を出したり、氷の彫刻を作り上げるのは当たり前。天井からぶら下がったブランコを瞬間移動しながら自由自在に渡り歩いたり、分身して全員同時に芸をしたり……何これ、奇術団? 超能力者の集まり? と言うしかないような出し物が続出した。


「降誕祭には魔術に慣れてもらうことが第二の目的だからな」


 エドヴァルドが説明してくれる。勿論第一の目的は神ルトラスの誕生を祝う祭典である。そして、第二の目的は、魔術に対する人々の悪印象を払拭すること、だった。

 魔女狩りと言う黒歴史もあって、人々には魔術への恐怖感が根底にある。その思想は現在にまで引き継がれているため、魔導士と分かると仕事や住居を得るのも一苦労で、悪くすれば迫害されることもあった。そして保護を求めて集まるのがここ、神殿だ。魔導士は神職になることで生きる術を身につける。そして折々の行事で魔導士のイメージアップを図るのだとか。

 なんていう涙ぐましい努力なんだろう。泣ける。


「ユフィ、綺麗だったね」


 斜め後ろを振り向くと、眼帯を付けた金髪碧眼の美麗な男が言葉に出来ない想いを込めて微笑み、小さく頷いた。美優の護衛役であるジェラールだ。それはひどく切なげで、でも嬉しげでもある。そこには決して口に出すことを禁じられた、妹への密かな想いがあった。


 彼の本当の名前はジェラルド・ルイニヴィア・ウェルフォルド。今は亡きウェルフォルド帝国の最後の皇子。


 先の国をも揺るがす事件の後、ユフィは奇跡の力の遣い手として神殿で保護されるようになった。血縁関係を明るみに出せば、いつかウェルフォルド帝国の幼き皇子皇女にまで辿りつく者が出ないとも限らない。よってジェラールとユフィはようやく再会を果たせたというのにもかかわらず、再び離れて暮らすことを選択せざるを得なかった。

 だから、今回の神殿からの招待状を受け取った時、美優は踊りだしそうになるのを押さえることが出来なかった。こういう形を取れば何の問題も無く二人を会わせることが出来るのだ。……例え個人的な会話は出来なかったとしても。

 ユフィが壇上に上がったのを見て、普段滅多に本当の感情を見せない彼が息を飲み身体を強張らせたのを美優は知っている。知っていて、何も気付いてない振りをしていた。


「ありがとう、ミユウ」


「―――何のこと?」


 とぼけると、ジェラールはふふ、と笑って美優の手を取り、その甲に唇を寄せた。が、触れる寸前でそれを阻む者が現れる。ダンフィオール国国王のエドヴァルド・クラウディアス・ダンフィオールだ。冷静沈着だと名高い若き王だが、今はその整った顔をこれでもかとしかめている。


「感謝のキスも許してもらえないの?」


「……必要無い」


 バチバチッと二人の間に火花が散ったのは見間違いではないだろう。最初はまーまー、と宥めていたものの、何かと張り合うので、今ではそれも一つの余興だと思って放っている。

 今では私そっちのけで、お互いに口喧嘩を楽しんでいるんじゃないかとすら思う。

 国を背負った元王子と、国を捨てた元皇子。私には分からない感情があるのかもしれない。



「ミユウさん! 来て下さったんですね」


 扉が開くとユフィが扉を開けて入って来た。そのまま脇目も振らずに美優の元へと進み、胸に飛び込んでくるのを包み込むように抱きとめる。さっきの神秘的さはどこへやら、無邪気さと元気さを兼ね備えた年頃の女の子がそこには居た。衣装も少し落ち着いた神官服に着替えている。


「うわ、久しぶり、ユフィ! 見たよ~すごい綺麗だった!」


「そんな、やめてください。照れちゃいます~」


 腕の中で頬を赤くし、もじもじするユフィ。かわいすぎる。後ろでエヴァも、ユフィ様、お元気そうで良かったですわ、と微笑んでいる。ちなみにアメリアは今回お留守番だ。


「あ~……女性同士で抱き合うなんて、ずるいです~」


 これはもちろん側近であるシャルルの発言だ。今回の旅には必要ないとエドヴァルドに言われたものの、そんなこと言うなんてひどいです~と駄々をこねて半ば無理矢理同行してきた。


「ずっるいよな。俺達が抱きつくとすぐ殴ったり蹴ったりすんのになぁ」


「言うな。また蹴られるぞ」


 横で同じく唸っているのは王立騎士団のルークとレオナルド。言うまでも無くその任務はエドヴァルドの護衛だ。美優は一介の騎士なので本来なら同行出来る立場では無かったが、神殿―――と言うよりも、聖女ユフィたっての願いでこの旅に参加することが出来た。


「遠いところを遥々よくおいで下さいました」


 そう言って頭を下げたのは漆黒の魔術士メタス改め白の魔導士フェイゼンだ。かれは恩赦による釈放後、ユフィと共に神殿へ行った。魔導士だからという理由もあるだろうが、ただ単にユフィの近くに居たかったに違いない。今までもずっと祈りの塔に閉じ込められたユフィを守っていたのはおそらく、ユフィを亡くした子供の代わりのように思っているのだろう。


 ま、確かに、ジェラルドよりはユフィの方が心配だよね。


 美優は相変わらずエドヴァルドと口論を続けているジェラールに目を向けた。視線に気付いたジェラールが美優に何とも色っぽい流し目をくれる。それを見咎めたエドヴァルドに思いっきり睨まれている。


 王様、心の余裕が無さすぎるよ?


「国王様も、ようこそお越し下さいました」


 ユフィはようやく美優を解放してエドヴァルドに向き直り、お辞儀をした。先程の年相応の少女の顔はどこへやら、彼女は瞬時に表情を引き締め聖女の顔に戻っていた。


「他の皆様も、遠いところをよくお越し下さいました。ささやかながら今夜は夜会を開催いたしますので、それまでどうぞ、お寛ぎを」


 ユフィの視線はその場に居る全員を巡り、最後にジェラールの顔を捉えた。無言で見つめ合う二人。言葉が無くてもお互いの想いを伝えあうような、そんな眼差しをしていた。遠く離れていても兄妹の絆が途切れることは無い。そう思えるような眼差しだった。

 きっと、私も一緒だ。家族や友達と二度と会えなくても、想う気持ちは変わらない。いつでも幸せを、祈ってる。


 その時、入口の扉がノックされ、神殿の召使がお辞儀をして入室し、何事かをユフィに耳打ちする。ユフィは一瞬怪訝そうな顔をした後エドヴァルドに向き直り、口を開いた。


「国王様、ネイシュヴィア国の国王代理の方が挨拶なさりたいといらっしゃってますが……」


 その言葉で、美優は何故ユフィが怪訝な顔をしたのかが分かった。他国の王族がこの国の国王に挨拶するのは別段おかしいことではない。だが普通は、まず挨拶したいと願い出て、許可が取れればやってくるという流れなのに、ネイシュヴィア国の国王代理は扉のすでに前まで来ていると言っているのだ。それは礼節を欠いた行動のように思われても不思議ではない。 


「良い。入室を許す」


 それでもエドヴァルドが頷くと、扉が大きく開かれ、そして凛として瑞々しい女性の声が室内に響いた。


「お久しぶりです。ダンフィオール王。……いえ、エドヴァルド様」


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