プロローグ
約18m。
相手はたった18m先。
しかしその相手はあまりにも巨大すぎ、そして少しの夢をも消し去る、もしかしたら悪魔だったのかも知れない。
ロジンバックからでた白い噴煙が夏の清々しい風に流されていった。
よく整備された黒土のマウンドに真っ白のスパイク。
僕の後ろにいるもう一人の、九人の中では一番孤独な、相手と目でサインを交換する。
二人の意志がぴったりと合ったら、一瞬の勝負の幕開けである。
マウンドから左足が上がる。
体を捻る。
まっすぐ、ただひたすらまっすぐに腕を振り下ろす。
「直球だ」
僕は小さくつぶやく。
そして状況を考え、最善の策を取ろうと努力はしてみる。
とりあえず、今は僕一人でも塁にでる…
その意志を感じ取った両腕はコンパクトに、しかしあくまで力強く、バットを振りぬく。
「直球?」
直球ではないと気付いたときにはすでにバットは白球に鈍い音をたてて当たっていた。
我に返った僕は必死に走る、走る、走る。
かなしいかな、僕が一塁に辿り着く寸前に、マウンドに力なく転がったボールは拾われ、構えられた一塁手のグローブに入っていた。
こうして僕は高校生活最後の夏を、一番目標としていた地で、終えた。
考えてみれば僕達がこの晴舞台にたっていたこと自体、奇跡に近いものだったのだから、とりあえず一勝というのははかない夢だったのかもしれない。
だが憧れの地に僕達は立ったんだ。
勝てなかったけれど、胸を張って帰ろうじゃないか。




