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「ダンテ! ダンテだよね」

智己が駆け寄ってくる。


「視えている?」

『ここは結界の中。雨降り風間に思い出してくれるだけで良かったんだがの』

 ダンテが項垂れている。会うつもりはなかったんだ。


「智己の側から離れたくなかったんだって。色々と問題があるから」

 代わりに言ってあげる。ただし、へとへとなので、地面に座ったまま。


「色々ってなんだよ!」

 

 説明を奏が引き受けた。彼もへとへとで座り込んだままだが。


「智己。君、憑かれやすいだろう?」

「ああ? 他の二人に比べたら、疲れやすいほうかもだけど、それが何!」

「憑かれる、よ。おそらく漢字が違うわ」

 ボソッと突っ込んだ。


『智己が憑かれやすいのが一番の問題だが、その発生源はあの男ぞ』

 奏は自ら憑かれに行っているそう。それが、智己に鞍替えのように移るのだとか。


「落ち着け、智」

「せや、俺も驚いてるけど、グッと我慢や」

 佳典と皓壱が背中をさする。

「だって、ダンテがっ。側にいてくれるなら、もっと早く姿見せろよ! なんでっ」

 

 放って置いたらもっと言いそう。ダンテだって、一緒にいたいのは同じなのに。


「ダンテがどんな気持ちで、ここにいる選択をしたと思っているの? 生まれ変わって、またあなたの魂と出会える可能性があったのに。ダンテは、私が死んだら消えてしまうかもしれない状況を選んだの。今のあなたと添いたいと願う一心で」

「……っ。そんなこと……。だ、だけど。せめて、せめて、俺と一緒に!」

「そりゃあ、ダンテだって私よりあなたに憑きたかったでしょうよ。でも、あなたと波長が合わなかったんだもの。視えてなかったじゃない、ダンテの姿が」


『我は幾度も成長を見てきた。いつもなら早世しても再び逢えるまで、心配はなかった。だが、今のお主は『過去一まいなす』の『おーら』で、常に良くないモノを背負ってしまう。祓っても祓っても、毎日のように。一瞬たりとも目が離せないと思ったのだ』

耳が地面に着くくらい項垂れている。


「……ずっと一緒にいてくれたの?」

『ああ』


「俺が生まれ変わっても?」

『ああ』


「……もう、俺の側にはいてくれないの? ダンテ……」

『すまないな』

「うっ、うううう……」

 グラウンドの芝生の上、加工された場に汗ではない粒が落ちる。楽しいはずの会場に。


『横文字の名前は初めてだったぞ。過去のお主は、『せんす』がなくてのぅ』

 ダンテはフッと笑うと、泣く彼の頭をなでるかのように、犬の顎でスリスリしている。


「えーとさ。今生の別れみたいになっているけど。今すぐダンテが消えるわけじゃないんだよね。私が生きているんだし。まぁ、ダンテの犬生? からしてみれば、短いとは思うけど、私に先がないみたいな展開はやめて?」

 

 そりゃあ彼よりも早くは逝くけど。


『情緒がないのぅ。このご時世、『ぎゃる』でも感動できることを言うぞな』

 三人に肩を借り、椅子に座らせてもらった。奏はなにかを小さな灯たちにあげている。


 ダンテが結界を解くと、会場の音がクリアに聞こえた。スタッフがステージからいなくなった三人に声を掛けていた。

 佳典と皓壱が「すみません。落ちたらどの動線で戻るか話し合っていました」と言い訳をしている。


『明日、ちゃんと見に来るからの』

 ダンテは、智己の目に映らなくなった。



「で、なんで僕は今日も来てるんやろ?」

「ダンテくんが昨日見たいって言ったから?」

 言っていたような気もする。

 

 ダンテは私の肩の上で尻尾を振っている。ご機嫌のようだ。

『弁当を取ってこい。特等席に案内しようぞ』


「はぁ、いいなー。私に憑きません?」

『嫌じゃ』

 即、答。


「……特等席って」

『眺めがよかろう?』

 

 バックスクリーンの上なんですけどーー‼


「眺めはいいですが、誰かに見つかったらアウトですよ」

 そういうことではなくて。今、私たちがここにいるのは自力で登ったからではなく、ダンテの非常識な力で浮き上がらせられたからで。あなたも一緒に浮かんでいましたよね?


『『あうと』かもしれんが、そもそも見えなければ怒られることもあるまい』

 もしかしてだけど、私たち消えています?

「ならいいですね。ほら、始まりますよ。食事しながらゆっくりと鑑賞しましょう」

 何も言えない。これでいいのでしょうか。

 

 奏が真面目な顔で問い質してくる。

「あれ? コウさん、ペンライトがんがん振るタイプですか?」

「いえ……ゆっくり鑑賞するタイプです」

「よかった」

 

 ライブ中って食事するっけ? そう思いつつ、高級そうなお弁当に箸を伸ばす。

 暗くなったスタジアムにステージが浮かび上がる。派手な電飾と共に爆音が会場を包む。観客の声援とペンライトの明かり。最高潮の中、影三つ。

 会場全体が一気に光の渦。ああ、綺麗。


玲瓏(れいろう)よのぅ。なぁ、晴夏』

 

 小さなダンテが二又の尻尾を振る。彼も初めて生で見る彼らのパフォーマンス。


「そうね」


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