第47話 槍と勇者と亀裂と
大変遅くなりました。
本当に申し訳ありません。それと、今まで読んで頂いたり、待っていてくださった方々には本当に感謝を。
「はぁ…… ヒルトや、少しばかり常識という言葉を覚えるべきだとワシは思うのじゃがな……」
俺が淡々と作業をこなしていると背後から師匠が、どこか呆れ混じりの言葉を掛けてくる。
その言葉に俺は振り返ると、師匠の困った表情で蓄えた髭を撫でなが首を傾げている姿が在った。
そんな師匠の姿に、
「はい? いきなりどうしたんですか?」
俺も同じように首を傾げながら返答する。
しかし、そんな俺の姿に、師匠は作業途中のものを指差しながら
「たしか、御主は槍を作ると言っておったが…… それはなんじゃ?」
再び呆れたと言うような言葉を投げかける師匠。
そんな師匠の言動に俺は意味が理解できずに、困って首を再び傾げなおすと、
「はぁ、御主の中で盾と槍の違いを言ってみろと言っておるんじゃ」
少し悲しそうな溜息と共に頭を抱える師匠。
それでも俺の中では、師匠が之を見て何故そこまで困惑したり悲しんだりしているのかが理解できずに、
「本当に何を言ってるんですか? 盾と槍なんて根本的に違うじゃないですか! それにこれは、何処から如何見たってパルチじゃないですか」
師匠が終に耄碌しまったのかと思いながら俺は、作業途中のパルチザンを持ち上げて言い放つが、
「…… なんでも言葉を略すでないわぁ!! それに、それのどこがパルチザンなのか言うてみぃぃ!! ワシにはそが盾にしか見えんと言ううておるんじゃ!!」
突然声を荒げる師匠。
そして、
「それと、ハルトと言うたかの? 御主は本当にこれが自分の槍だと理解しておるのか!? このどこから如何見ても盾にしか見えん槍を、槍として受け入れられるのか?」
続けざまに、俺の横で手伝いをしているハルトへと怒り混じりの呆れた言葉の矛先が向く。
そんな師匠の言葉にハルトは、
「私も最初は驚いたと言いますか…… エイズル様と同じ気持ちに成りましたね……」
どこか師匠への同情が篭った声色と気まずいという感情が入り混じったような雰囲気で、歯切れの悪い返答を返す。
その返答に俺は、
「なっ!! ちょっ、それだと俺の感覚が可笑しいみたいな言い方じゃないか!!」
師匠を立てる為とはいえ、そんな言い方は無いだろうと思い咄嗟に声を上げるが、
「ヒルト!! 御主は黙っておれ!!」
「いってぇぇぇ!! えっ?酷くないですか?」
師匠は俺の意見を鉄拳で静止させると、
「少し詳しく説明をしてもらえるかな? ハルト君」
「え? 無視?」
俺の抗議を無視して、ハルトに説明を求めた。
そんな師匠の行動に俺は、驚くと同時に頭に落ちた鉄拳の衝撃を受けて唖然とした表情を浮かべていると、
「そうですね、私も最初は形状に驚かされましたが……」
「うん?」
ハルトは、俺と俺の持つ武器へと交互に視線を向けると、
「私にはエイルさんの様な、しなやかさや速さ、ノエル様とグラン君そしてヒルト殿のような、膨大な魔力や強力な攻撃魔法の行使は出来ません。 しかし私には、両親から貰ったこの頑丈な肉体と守りのスキルが在ります。そう考えたら、私の心の形に合わせた結果が、この武器の形なんだと今では思えるんです」
そう、言葉を続ける。
その言葉と共に、どこかハルトの心の中で悩んでいたものが消えた、そんな感情が伝わってきた。
俺はその言葉と感情に、照れ臭さを感じると共に、いい仕事が出来いるんだという自信みたいなものが込み上げるが、
「ふむ…… コヤツが君の悩みへと真剣に向き合い製作していた事はハルト君の言葉と、ここへ来てからの様子で理解はしているが……」
「ふえぇぇ?」
師匠が突然俺の首根っこを掴んだ事で、俺はその不意打ちからフランのような感嘆句を口にし、師匠へと視線を向ける。
すると師匠は、
「我弟子ながら情け無いがコヤツは……」
俯き加減でどこかワナワナとした表情になったと思えば、
「完成間際になって、「悪い、盾は追加要素だったけど気がついたら本体になってた」等と、平気で言いかねないんじゃよ…… ほんに、どこで育て方を間違えたのか……」
俺の声マネを交えなたと思えば、頭をおとし悲しそうに悲観の言葉を溢しだす。
そんな師匠の様子に俺は、
「イヤだなぁ師匠。 機能優先、使用者優先が信条の俺が、何時そんな事をしたって言うんですか? あははは」
思い当たる節が多すぎてバツが悪く感じ、誤魔化すように笑い混じりの言葉を口にするが、
「何時じゃと…? お前はアノ武器を見ても、その言葉を言ううかぁぁぁ!!」
師匠は、部屋の隅に隠す様に置いてある武器を指差して怒号を上げた。
俺は、その怒号に引き攣った笑いを浮かべつつ、
「あはは。 いやーアレはホラ、要望どうりに作ったけど客の方が的なアレですよ。本当にまいっちゃうなぁ」
乾いた笑いと共に俺は、
確かに、ちょっとだけやり過ぎて、某おわる物語の合体剣をパク…リスペクトして造り上げた一品だけどさ、でも客が「多目的でかつ持ち運びが便利な武器」という注文だったんだから仕様に問題などないんだよな。それにちょっとだけ某主人公に似ていたのも悪い。
等と回想と言い訳を思い返しつつも、結果的に神の威光的な何かに叛く等と言った客からの意味不明なクレームにより返品されたアレから、上の人の威光を感じるので目を逸らした。
すると、
「確かに……アレは不味いですね…… 流石にあの形状は……エイズル様がお怒りに成るのも納得です……」
ハルトがアレに目を遣ると同時に目を背け、そして引き攣ったように言葉を溢し。
それに続く様に、師匠も指差したアレから目を背け、無かった事だ言い聞かせるかのように首を一度横に振ると、
「じゃろう…ワシもまさか、四つ柱の雷不死神数教から睨まれかねないものを平然と造り、あまつさえ売るなどとわ流石に声が出なんだ」
そう頭を抱えていた。
それに対し俺は、
まぁ、某ヤバい企ぎょ…… 宗教団体から抹消されずに済んでいるのは、アノ企ぎょ、いや教団が寛大なおかげなんだろう。 まぁ俺と近い諸行をしているのは多数いるし、それにあそこも一度だけヤバい一つ目球体触手というヤバいDがDする戦術研究規約に違反するという神の威光に反した事もあったから、セーフ。
等と、意味不明な言い訳を思い浮かべていた。
そんな俺の様子に師匠とハルトは、深く深く溜息を吐き出すと共に今後の不安を募らせながらも、無常にも時は進み。
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そして、
「久しぶりの戦闘だぁぁぁ!!」
俺は、かれこれ10日間も作業部屋に篭って作業していた反動から、両手を天に突き上げ声を上げた。
そんな俺の様子とは裏腹に、
「…… 行き成り……え?」
ハルトは、張り詰めた表情と共に困惑したように歯切れの悪い言葉を溢す。
そんなハルトに俺は、
「っ!」
「何ビビッてんだよ。 たかがニ対ニの模擬戦闘だろうが! ちゃちゃと片付けて、その槍の実力を見せ付けてやろうぜ」
背中に一喝を入れると同時に、ニッと笑いながら軽口を言うが、
「いやいやいや! ヒルト殿は何を考えているのですか!? 目の前を見てくださいよ、どう考えても無理ですって!!」
何故か慌てた様に、目の前の光景へと狼狽えるハルト。
しかし、そんなハルトと俺へ、
「グラン君、全く僕達も舐められたモノですね。この[白き光の剣]を行き成り強化までして、その上でコンナ物まで送りつけて来るんですから」
「全くだよなノエル。 俺も同じように、【グラン・アルヴートロ】用にと、追加の魔石と一緒に同じ物が送られて来たからな……」
どこか敵意剥き出しといった雰囲気の言葉が飛んでくる。
その言葉と共にノエルは、意味の分からない厨ニ銘を付けた転開剣から光の剣を大きく発生させ、同じようにグランも真紅の刃に炎を纏わせて、俺達のほうへと言葉と共に向ける。
そんな二人からの威圧に、
「っ! 本当にヒルト殿は、あの方達に何をやったんですか!?」
どこか焦ったようにハルトは二人を指を差しながら、俺へと振り返る。
「? あぁぁ! こいつを渡し忘れててな」
「手紙?ですか? …………っ! 本当に何をやってるんですか!」
俺が手渡した一枚の紙を疑問そうに手に取り、それを一目見た瞬間ハルトは形容し難い表情を見せたと思えば、驚きと困惑の表情で俺へと抗議の声を上げるが、
「そんな話をしてる時間は無いと思うぞハルト」
俺はハルトの言葉より、目の前で進行している状況から深く腰を落とし抜刀の構えを取る。
するとハルトは何かを感じ取って、
「あぁぁ本当に彼方という人は!!」
言葉と共に、背負っていた専用武器を手に取りると、上段乃構えをとる。
すると、それを合図としたように、
「覚悟は出来たようだね…… 【光子の勝者の剣】!!」
ノエルが待ちかねた、とでも言いたいかの様に光の大剣を振りかざした。
大地へと振りかざされた大剣が砂煙を巻き上げるが、その中から俺は抜刀の構えを崩す事無く上空へと一直線に飛び出すと、下に居るであろうハルトへと視線をむけ、
「おい! 手助けが必要なら助けてやるけど、必要か?」
そう、声をけるが、
「他人の心配なんて本当に余裕だな…… ヒルトォォ!!」
グランが炎を巻き上げながら横薙ぎに刀を振るい、俺へと襲い掛かって来る。
「ッチ! 無駄な連携を覚えやがって」
その一撃に俺は魔力で空を蹴り身を翻すように避わすと、自由落下から再び空を蹴りぬきグランの足元を抜ける。
そんな俺の逃げの一手に、
「はっぁ?!! 逃がすか!!」
グランは、いつもと違う俺の流れに反応が遅れ虚を突かれたのか声を上げると、素早く[炎風輪]の炎を操り俺へと追撃し始める。
そんな俺達の一瞬のやりとに、
「先ずは僕をですか…… 本当に僕も舐められたモノですね。 君のそういった態度には成れたつもりでしたが…… 舐めすぎですよ!!」
ノエルは右手を俺の方へと向け、その右手へと光弾を集約させ光の魔法を放とうとする。
しかし、
「っ!! なぜ君が無事なんですか」
「ノエル様、彼方の言葉をそのまま返させて頂きます。 私の事を舐めすぎですよ」
文字道理の横槍。
ハルトの槍の一撃に気が付いたノエルは、咄嗟の事で魔法を放てずに身を引き何とか一槍を避けるが、自分の予想と反した出来事に驚きを隠せない様子だっが、追撃の様なハルトの一言にムッとした表情を見せる。
そんなノエルの様子にハルトは槍を一回転させると無言のまま上段乃構えをとり、再び槍の切っ先をノエルへとむけた。
「そうですか。 良いでしょう、彼の前に君の相手をしてあげます。ですが、怪我の一つは覚悟してくださいね!!」
それに答えるようにノエルも光剣を構え直し、切っ先をハルトへと向ける。
彼らのやり取りを逃げながら確認した俺は、
「男を見せたか…… なら俺も、すべき事をやらねぇとな」
そう呟やき、ハルトへと背中を預ける様に背を向けた。
そうして俺が逃げるのを辞め、グランへと向き直る様に抜刀の構えを取ると、
「何だよ。 鬼ごっこはもう終わりなのか?」
先ほどまでの殺気が消えたように剣を下ろし、不思議そうな表情で尋ねてくるグラン。
その反応に俺も剣から手を放し、
「そうだなアイツが男を見せるまでは、お前達と鬼ごっこの積もりだったからな」
アイツの気持ちも分からない訳では無い。
周りに置いて行かれるような感覚や、自分だけが成長してい無い感覚。そんな劣等感にも似た嫌な感情。 それと向き合うという事がどれだけ怖いか。 でも、何時までもそれと対峙しても悩んだとしても解決にはならない。 どこかかで本当の意味で向き合い対決して決着をつけないと、それは何時までも胸の中で燻り続けて後悔が積もっていくだけになる。
「その言い草だと、ハルト次第じゃずっと鬼ごっこをするつもりだったのかよ?」
そう言い終わると静かにグランは二刀へと手を伸ばし始める。
そして俺も剣へと再び剣へと手を伸ばし、
「あぁ、そのつもりだったな それに……」
「それになんだよ?」
お互いに剣を握る。
「いや…… 俺も同じだな、ってそう思っただけだ!!」
落し所を見つけて。自分に自分で納得をする。
そうやって漸く、また新しい一歩をふみだせる。
その思いと言葉と共に俺は[迅雷]を発動させると、一気に空を踏みしめると同時にグランへと駆ける。
そして引き抜かれた一刀を逆袈裟に振りぬく。
そんな俺の行動にグランは、
「っ……! はぁ…… お前のそういった所には毎度毎度、呆れるよ!」
二刀で俺の剣を真っ向から受け止め、そして溜息を吐き言葉と同時に力を込めると、二刀から炎を上げ振りぬこうとする。
その剣圧と舞い上がった炎の熱気に、
「おっと! やらせねぇよ!!」
俺は咄嗟に剣へと纏わせた[迅雷]の魔力を上げ一気に振りぬいた。
お互いの魔力と技の反動で、弾かれた様に俺達は距離をとる。
その後、お互いに体勢を整え再び剣を構えると沈黙のまま互いに睨み合う。 しかし、そんな無音の対峙も長くは続かずに再び、
「舞い上がれ!! [紅炎の龍帝剣]!!」
「ッ!! [電磁加速抜刀]!!」
上空で互いの技を打ち合い、閃光を放ち続ける。
そして、そのころ地上では、
「全く、彼の造る武器には驚かされますね。 僕の剣撃も魔法も、その巨槍には効かないなんてね」
動き回りながらもノエルは、どっこか余裕の在る表情を見せながらも困ったといった態度で肩を竦めると、
「それでも、これなら如何ですか[光子力砲]!」
光弾を放つ。
そんなノエルの言動に、
「確かに彼の武器には驚かされます。 ……しかし!!」
「っっ!!」
「これは私の力です」
地面を強く蹴りぬくと同時に、放たれた光弾を槍の横薙ぎで掻き消すし、その勢いのまま体を軸に槍を一周させると背面中段構えから一気にノエルへと槍の一穿を放つハルト。
しかし、その一穿は、
「そのようだね……でも、僕には届かないよ」
大剣から盾へと変形させた[白き光の剣]の防壁に受け止められる。
「流石ノエル様ですね。 ……それでも」
だがハルトは受け止められた事を気にも止めずに、強く強く槍のを握り締めそして、
「私の一念は彼方を貫きます!!」
渾身の力で大地を踏み抜いき、砂埃をあげる。
背面で力が入り難い状態だというのに彼が放ったその一念は、大地を踏み抜いた力をそのまま切っ先へと伝え、
「なっ! [白き光の剣]にヒビが!!」
「うぉぉぉ!!」
彼の雄叫びと共に、
「うわぁぁ!!」
甲高い破裂音を響かせながら光の防壁を砕いた。
防壁を砕かれた反動で体を弾かれたノエルは、叫び声を上げて後方の地面へと叩きつけられる。
その光景に確かな手応えを感じはしたハルトだが、槍を一回転させて龍飛構えをとると、
「言いたくは有りませんが、これでも私は本気で彼方と戦っています。 ですので、そのような御世辞紛いの行為は本気の相手に対は愚弄しているのと同意義です。 今後は下手な気遣いなど不要に願いたい」
言葉は丁寧に話しつつも、それでも声色はハッキリと、本気で彼方を倒したい意思とノエルのとった行為に対しての不快感を感じさせていた。
そのハルトの言葉に、
「ははは。 やっぱりバレていましたか。 でもね――」
ノエルは悪びれた様子も見せずに立ち上がるが、立ち上がると同時に言いかけた言葉と共にハルトへと強い目線を向けると、
「僕の[白き光の剣]の光壁を破るという事が如何いう事か…… 君は理解していないようだね!!」
確かな敵意を込めた言葉を放つ。
それと同時に言葉の勢いそのままに光の大剣を頭上高く発生させると、
「輝光絶勝の剣閃!!」
高度に収束され光の稲妻を爆ぜさせる一閃を、ハルト目掛けて一直線に振り下ろした。
本気の一撃を放つノエル。
それに対しハルトは、
「ありがとうございます……しかし。 っ!!真向勝負!!」
ノエルの一撃をその目に映すと、小さく感謝の言葉を溢すしながらも次の瞬間には強い言葉の下に、両手で槍を強く握ぎり絞めて真っ向から受けて立てたつ。
そして、放たれた一撃がハルトの目の前まで迫った時だった、その手に強く握られた槍が淡い青藍の光を発すると、
「っ!! また彼の小細工ですか!! しかし、僕が新たに生み出した最強の一撃の前にわぁぁぁ!!」
「私に…… いや、俺に新たな力を貸してくれ。 [氷結の聖槍]!!」
まるでハルトの意思に反応したように新たな姿へとその身を変え、光り爆ぜる輝閃の一撃を真っ向から受け止める。
そして、受け止めた衝撃が地面を振るわせるが、
「また僕の最強をぉぉぉ!! ヒィィルゥトォォォ!!」
ノエルは目に映った認められない現実に、上空に居る彼へと怨みの篭った言葉を叫び吐く。
しかし、そんなノエルへと、
「今! 彼方が戦っているのは彼じゃない!! 俺です!! 俺と此の[氷結の聖槍]が相手なんです!!」
そう、力強く己の覚悟を放つハルト。
そして、そんなハルトの強く握る手には、言葉の意味を示すように盾へと変化した[氷結の聖槍]が光を放ち、強大な光の剣を完全に停止させていた。
そんな目の前の現実に、
「君如きぃ! そんな盾ごと僕が粉砕してあげるよぉぉぉ!!」
一気に決着をつけようとノエルは語気を荒げながら、その手に握る大剣へと魔力を注ぎ込む。
注がれた魔力により光は、輝閃が渦巻き、爆ぜた光が炸裂音を上げ圧力を増す。
増された圧力と共に、パキ、パキと断続てきに不安定な亀裂音が響く。
そして、
「ぐっっ。」
体全体へと重く圧し掛かる光の大剣が放つ力とは別の重みと更に増す純粋な力に、ハルトは苦しそうに息を堪える。
しかし、断続的に響く亀裂音が早くなり、その音に合わせるように強まる剣圧に体が悲鳴を上げる始め、顔が下がっていく。
徐々に、徐々にと、眼前に捉えて放さなかったノエルの姿は、もう既にその視界にはなく歯を食いしばり踏ん張る足だけが、その視界にのみ映る。
悔しい…… 自分に答えてくれる武器を手にしても、それでも届かない力の差。
悔しい…… 覚悟、自分を受け入れ、変ると決めたはずなのに。
そんな思いと共に視界には何も映らなくなり、そして心もまた、
ああ、 やっぱり私と彼等とは出来が違うのだろう。
相手は勇者だ。 そして私はタダの騎士。 そんな私がここまで出来たのだから誇っても良いはずだ。 そうだ……俺の目の前の人は勇者で、それに並び立つ彼達は龍殺しの英雄達だ。 そうだ。 ただ、私は……そんな彼等に……
こうして汗と共に流れ落ちた何かが地面へと落下する。
それをタダ感じると、自分の力無さに今まで耐えていたモノが、スッ、と抜け落ちるような感覚と共に握られた手から力が抜け、
「憧れていただけなんだ……」
言葉が零れ落ち膝を落とそうとする。
しかし、
「膝なんて付いてんじゃねぇぇぞ馬鹿野朗ぉ!!」
頭上より響いた叫び声に体が跳ね上がり、そして続く言葉に、
「もう終わりだよ!! そして彼の次は君の番なんだよ!!」
「そうだぜ! それに、俺相手に余所見なんてしてられるのかよ、ヒルト!!」
「ッチ! いい加減に顔上げやがれぇぇ!! それに…… 俺が造ったモンより先にお前が砕けてんじゃねぇぇぇ!!」
無意識に顔が上がり、
「ッッ! ……まだ……」
不意に零れた言葉と、そしてその視界に、
「君も往生際の悪い人だな。 もう彼には…… ……っ! そんなはずは…… もう彼にも…… あの武器にもそんな…… そんな筈。ある筈がないだろう!!」
「……まだ…… まだ俺は…… 俺は…… 」
映る己の未だ挫けぬ心に、抜け落ち、落ち砕けたモノが甦り、
「……いい加減、悪あがきをぉぉ」
「負けてません!!」
その身に残ったモノ全てを心へと捧げる。
――――拮抗―――――速まる亀裂音――――光爆――――
そして……
―――――
炸裂音
遅れて響き渡ったその爆発音が大気を震わせ、辺り一帯へと爆ぜる魔力が周囲のモノ全てを飲み込んだ。
一瞬。 ほんの一瞬の出来事だったが――
「……おぃ。 ……生きてるかぁ?」
「はぁ…… 死んだ……」
ガラガラと音を立てて瓦礫を無造作に退けると俺は、気の抜けた言葉をかける。
すると溜息をつきながら呆れたように瓦礫へと腰を下ろすと、生返事をするグランが居た。
そして、俺は辺りを見渡し、
「にしても…… やり過ぎだろこれ…… 全く。事前にちゃんと説明したってのに、加減って物も、予定調和ってのも、前らは知らねぇのかよ」
閑散とした荒野化した訓練場に俺は、頭を抱えたように言葉を溢すが、
「はぁ…… お前にだけは言われたくないよ。 途中から本気だったじゃんか」
「はぁ? グラン、お前が初っ端からあんな技を繰り出すからだろうが」
グランは呆れたように言い。 俺も俺で言いたい事があるので言い返すが、
「でっ? この後はどうすんだよ? 特に……後始末的な部分で」
そんな俺の言葉を無視して、俺は嫌だという意思を込めたグランが立ち上がり座間に言葉を吐く。
その意味に俺も、
「いやー…… 俺等の責任じゃないしな。 だから元凶に任せたい所だけど…… はぁ……無理、だろうな」
同意だという意思を言葉にするが、目に一人の人物が映り俺は諦めた。
そして映った人物は、
「ふぅーん! 一応、理解はしているようねヒルト・レーヴァ。 それに理解をしているのなら私が何を言いたいかも判っているんでしょうね?」
俺の目の前まで来ると腕を組み、穏やかな口調の中に威圧の篭めたように俺へと質問を投げかける。
その得体のしれない威圧に俺は冷や汗を流しながら必死に目を合わさないようにグランの方へと目をやるが、
「はぁ? いつの間に!?」
しかし、そこには既にグランの姿は無く、すでに退路の絶たれている俺は従う以外の選択肢は残されておらず、その人物が見せる終始笑顔の威圧の元に大人しくその場に正座をする。
しかし、こんな状況で正常な会話も出来るはずもなく無言のまま顔を伏せるが、
「うん? 聞こえているわよね? それとも、もう一度だけ聞けばいいのかしらね? うん?」
そう何度も何度も笑顔で言い放つ彼女。
その威圧力に俺は終に耐えかね、
「あはは…… いやー、ノエルとハルトには困ったものですよね。 まさかこんな事になるなんて。 あはは…… それにしても、ルーズ師匠は、お早いお着きでしたね……」
それとなく今回の件について、無実の証明と弁解を入れつつも疑問に思った事を口にする。
しかし、そんな俺の言葉にギギっという擬音が聞こえ、
「うん? そうね。 あと、私がなぜ早いかは理解しているわよね?」
より一層強い威圧を放ちながら笑顔を向けてきた。
そんな彼女の反応に俺は、
あれ? 何か忘れてたっけ? すっー、駄目だ思い出せない…… いやでも、ここで素直に「あれ?何か有りましたっけ?」なんて言ってみろ、確実に殺れる。 考えろ俺。思い出せ俺。
そう高速で頭の中を整理するが、
「へぇー。 まさか覚えてないなんてことは――」
「いやいや!! まさかそんな事あるはずないじゃないですか!! アレですよねアレ!!」
「そう、アレね」
スルーズ先生の言葉に咄嗟に反応を示すが、如何せん何も思い出せない。
そして、未だに笑顔と威圧を向けてくる彼女に対して俺は、焦りを覚え始めていると、
≪我は逃げる事を進める≫
≪行き成りなんだよ! てか、俺だって判ってるよ。 でもな、今逃げれる状況だと思ってんのか? つか何で、この人はこんなにキレてんだよ。 これくらいの事は何回もあっただろう≫
突然、頭の中に直接的に駄犬が語りかけてきた。
行き成り話し掛けられた事に驚きつつも、表情には出さずに俺は駄犬へと対応と助け舟の要求をする。
すると、
≪…… 既に遅い≫
「でもね、アレだと理解しているて今の態度を見せるとは、良い度胸だとは思わないかしら? ……ね?」
駄犬の声と同時に俺の頭上から強大な魔力と共に感じた殺気。
その殺気に、
「あっ……」
≪今頃思い出したか。 貴様がもう少し早く思い出していれば我も力を貸したと言うのに。 しかし、雌との約束を失念した罰は人とて恐ろしい物よな≫
「そう。 そうなのね…… まったく、あの人の要らない所ばかり……」
俺は全てを悟り、咄嗟に逃げようとするが、
「逃がさない!! [天罰]!!」
時既に遅く、俺は降注いだ雷に声にならない声を上げた。
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「ノエル様、無事ですか?!!」
ハルトが焦ったように声を上げる共に、その人物の元へと駆け寄ると、
「ふぅっ。 大丈夫だよハルト君。 それより君の方こそ大丈夫なのかい? 僕が彼用に開発した業を受け止めていたんだよ」
ノエルはユックリと体を起し、ハルトへと何所かぎこちなさそうに言葉を返す。
そんな姿に、
「えっ? いえ私は体だけは頑丈なので…… それより!――」
どう返すのが正解なのか悩みつつも返答しようとした時、ハルトの目にノエルの額から流れる血が見る。
それを心配して自信の服を咲き、当て布にしようと服へと手を伸ばした。
その時、それを止めるかのように腕を掴まれる。
そして、腕を掴むその手を辿るように顔を上げると、
「すまない。 君が何かに悩んでいる事は何となく知っていたんだけどね…… 僕は、その事にどう接すれば良いのか判らなかったんだよ」
「っ!!」
ノエルが今まで見せた事の無い、その表情にハルトの言葉が止まり、
「正直、君が彼の元へ行った時は嫉妬したよ。 いや…… 僕は元々、彼に嫉妬していたんだよ。 共に強く成れる人が側に沢山いて、彼の周りには僕が欲しかったモノが全部有ったんだ。 そう、勇者なんて言われて持てはやされて居た僕よりも。 そして、そんな僕よりも彼は……」
そんなハルトの様子を確認したノエルは、その表情を隠す様に視線を変えつつも言葉を語るが言葉が出なくなる。
そんなノエルに、
「……っ 私は…… 私もヒルト殿に嫉妬していました」
ハルトは言葉に詰まりながらも言葉を振り絞る。
そんなハルトにノエルは驚いた表情を見せる。
その表情を見たハルトは、不器用にハニカンダ様な表情を見せると続けて、
「彼は憧れていた彼方に対して、いつでも対等な態度で接していて対等な強さと才能を持っている。 そんな彼に私は嫉妬していました。 もちろん、憧れていた彼方の隣で共に歩める名誉は、私には本当に嬉しい事でした。 でも…… でも本当は、隣に立っているだけじゃなく、ヒルト殿とグラン君のような友…… いえ、好敵手で有り続けられる、そんな彼らのようにノエル様と過ごせたらと……」
胸の内にあった思いを言葉にする。
そんなハルトが見せる何所か距離の有る表情に、
「ノエル・ドゥースト……」
「え? ノエル様?」
「もう一度言うよ。 ノエル・ドゥースト。 だから……」
不器用に。本当に不器用な言い回しと、
「様は止めて、ノエル…… ノエル/ブレイバーでは無く、ノエル・ドゥーストとしてのノエル。そう君には呼んで欲しい」
はにかんだ笑顔を浮かべていた。
そんなノエルの不器用な思いに、
「ノエル…… はい!!」
恥ずかしそうに、でも嬉しい。 そんな感情が入り混じった表情を返すハルト。
その互いにぎこちなく、でも素直な、そんな二人の間に、
「「ふっ。 あははは」」
確かに今、新たな友情と呼べる関係が流れ始めたのかもしれない。
そう、終わりが有る様に始まりも……




