「私、もうダンとパーティを組むって決めてるの!」
「あら、あなた獣人なの? 綺麗な毛並みね……。文字は書ける? うん、ペンを使って、こことここにね」
シェレラがギルドの受付嬢に説明を受けている。
受付嬢はエイラと言って、やっぱり俺の知り合いだ。
俺たちが住む、この都市国家コーフは、山の中にあるから、他の都市国家との交流が少ない。
だから、自然とここで生まれた人間は、みんな幼馴染みたいになる。
「うん、君の説明は分かりやすい。書けたよ!」
シェレラが書類を書き終わると、受付嬢のエイラがそれを丁寧に確認する。
抜けはなかったようだ。
「はい、ありがとう。これであなたは我がワンダラーズギルドの一員。新たなるワンダラーとなるわ。ええとね、希望するなら、後日ワンダラーとしての教練も受けられるけれど、どうする?」
「それはいいかなー。すぐにパーティを組んで仕事したいし。ランク上げたいし」
シェレラが、ランク1と描かれたネックストラップを受け取ると、いつの間にか俺の後ろで待ち構えていたワンダラーたちが殺到した。
「あのさ、君! 弓使いなんでしょ! うちのパーティ来なよ! 手取り足取り教えてあげるからさ!」
「いやいや、うちがちょうど、飛び道具使いがいなくてさ! それに男ばっかりでそろそろ、もふもふ……じゃなくて彩りがね!」
「ねえ狐の獣人さん! うちは女子だけのパーティだから安心だよ! ちょうど新人の娘がやめちゃって困ってたんだー! 気が利く娘歓迎!」
シェレラはと言うと、一気に押しかけられて、驚きのあまり尻尾のもふもふが逆立っている。
やれやれ、これは俺が助けなければいけないな。
「あー、みんないいかな。彼女は俺とパーティを組むことになってる」
殺到するワンダラーたちと、シェレラの間に入り込む。
俺が告げると、騒がしかった彼らが一斉に静かになった。
「だから諦めてくれ。先約なんだ」
「……命中率ゼロ%のクロスボウ使いが? 獣人の弓使いと組むって? なんだよそれ?」
「後衛と後衛じゃないか。いや、お前は後衛ですらないな」
「空気読んでよね。あんたは都市のどぶさらいでもしてればいいのよ」
うわあ、散々な言いようだぞ。
まあ、俺のいつもの扱いだ。何せ、パーティを組んでくれる相手がいなかったから、一度もワンダラーとしての仕事をできなかったからな。経験がないぺーぺーは侮られるのだ。
シェレラは、この圧倒的な見た目の良さで、彼らに気に入られたらしい。
多分全員が全員、下心ありの勧誘だろう。
ワンダラーは結構、ダメなやつも多いから。
「残念だけど!」
シェレラがすうっと息を吸い、大きな声を出した。
「私、もうダンとパーティを組むって決めてるの! だからみんなとは組めないわ!!」
わいわい言っていた、ワンダラー達を圧倒するような大声だ。
みんな、目を丸くしてポカンとする。
俺もポカンとした。
「ダン、なんでこんなのに言わせっぱなしなのよ。君のほうが全然強いでしょ!?」
「ああ、いや、ギルドの建物内で、喧嘩はご法度でね」
「外に出たら? 流石に今日のはぶっ飛ばす」
俺が正直に言ったもんで、ワンダラーたちは一斉にざーっと距離を取った。
彼らもいろいろ悪口は言うが、俺の腕っぷしが強いことはよく知っているのだ。
何せ、この中にはこのコーフ出身である者も多い。
「ちっ、後悔するなよ! 仕事の最中に、流れ弾に当たらなきゃいいな!」
そう捨て台詞を吐いて去っていったのは、ナッツブレイカーというパーティの一団。
男三人、女一人で、剣と盾を使う男と、槍を使う男、クロスボウ使いの男と、やはりクロスボウ使いの女の四人組だ。
「イーッだ!」
シェレラが、彼らの背中に向けて思いっきり舌を出した。
「やれやれ。仕事の遂行を邪魔するような強迫行為。あの人達、減点三ね」
エイラがため息をついて、ボードに棒線を三つ引いた。その下に、ナッツブレイカーという名前が書いてある。
というか、このギルドを根城にするパーティ全員の名前が書かれていた。
「エイラ、それは……」
「これ? これはね、ギルドマスターが作った減点表。減点が五つ溜まったら、一ヶ月出禁ね」
にっこり微笑むエイラ。
「ひえ」
「ひえーっ」
ワンダラーたちが震え上がった。
仕事はギルドからしか受けられないし、一ヶ月仕事なしなら、簡単に干上がってしまうからだ。
そうなったら、危険を冒して別の都市国家に行くしか無い。
「へえ、案外ちゃんとしているのね、ギルドって。それで、ダン! 早速仕事を受けたいよね!」
「そうだな! 初仕事だ! なあエイラ、こう、ド派手にモンスターをやっつける仕事はないか!?」
「そういう仕事ちょうだい!」
俺とシェレラは、鼻息も荒くカウンターに飛びついた。
エイラが、困ったような笑顔をした。
「ごめんねー。ランク1だと、大した仕事はないのよ。最初はこの辺って決まってるの。ほら、薬草取り」
「薬草」
「取り?」
「そう。簡単な仕事だけど、小さなモンスターが出るわ。ラプトーンって言う、二本足で走る大きなトカゲ。気をつけてね」
「おうさ。駆け出しは、仕事を選んじゃいられないからな!」
「それで……あなた達のパーティ名はどうするの?」
「ええとそれは」
俺が一瞬考え込んだ時である。
シェレラが得意げに告げた。
「ダンがいるんだから、ダイレクトヒッターズで決まりね!」
「はい、ダイレクトヒッターズね」
記録されてしまった!!
おいおい、後衛二人なのに、ダイレクトヒットってどういうことだよ。