↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/58

33 包囲戦・Ⅳ

 たった四名による大立ち回り。

 ひどく現実感を欠いた無双劇の果て、夜の闇に立つ者は片手で数える程しか残らなかった。

 

 ガシャン。鎧の崩れる音が、やかましく響く。

 敵兵、最後の一人――。それをたった今無力化し終えたのだ。


「――イージー・オペレーション」


 銃を仕舞い、そう呟きながら。迅は無力化した敵を一瞥する。


 呻く者、逃げる者、動けぬ者……。

 各々がそれぞれの敗北を噛みしめている。が、その何れからも、一切の戦意は感じ取れなかった。最早、彼ら傭兵は戦闘要因としてカウントする必要も無いだろう。


 完全なる勝利。そう評して相違ない。


 蒼衣が両手に持つナイフを腰に収め、迅に笑みを見せた。


「敵兵は……これで全部ですね。セクションⅢでのお仕事よりも簡単です。迅、そちらは?」

「損害なし。ソフィア、レイルー。どうよ?」

「問題ないよ」

「レイルに同じ。――ふぅ。久しぶりに動き回った気がするわね。いい運動になったわ」


 ソフィア、そしてレイルは迅の方へと駆け寄ってくる。

 蒼衣もそれに追随する。音すら立てず、影を縫うように彼らの下へ歩いてきた。


 次いで総員、真正面にただ立っているだけの、一人残された男へと目線を向ける。


「――さて。これで敵は、晴れてテメェ一人になったワケだが?」


 オーヴェル・ライプニッツ。


 彼は、この差し迫った状況においても、少しも態度を変えようとしなかった。

 腕を組んで、何とも言い難い表情をしている。

 戦闘力を削がれた周囲の傭兵に反応する事もない。金で雇った兵士が責務を果たさなかったのだ、本来ならば腹の一つでも立てて然るべきだろう。にも拘わらず、ただ一人、このオーヴェルだけが戦闘開始前とまるで変わらぬ様子である。


 迅の問いに呼応するように。オーヴェルは、ゆっくりと口を開く。


「……ジン、だったな。やはり凄まじい戦闘能力だ。今からでも遅くはない。私の配下に加わるがいい。禄は弾むぞ、言い値で雇おう」

「何度同じセリフを繰り返すんだ。サルかテメェは。悪党に付く気は更々ねぇって」

「フム。残念至極だ。しかし……分からんな」

「あぁ?」

「何故だ? 何故、私には目もくれず、鎧兵のみを蹴散らしたのだ? 本来ならば、頭であるこの私を真っ先に狙うべきであろうに」

「分からねぇのか。……まぁ、いいぜ。教えてやるよ」


 レイルもソフィアも興味を惹かれる話題だったらしい。オーヴェルではなく、迅のほうへと注視するような眼差しを送っている。

 ――戦闘開始前、迅は三人にこう告げていた。「オーヴェルは後回し」だ、と。

 二人とも発案者の意図を理解しないまま、迅に従ってはいたが……気になるのだろう。「なぜ敵のボスを放置したのだろう?」と。


 オーヴェル、そして迅たち四名。

 両者5メートル程の間隔を取った状態で、迅が解答を告げてゆく。


「理由は三つだ。――一つ、『傭兵の人数』。大抵の戦場において、敵の数ってのは何よりも有利に働く。だから一気に殲滅したのさ。テメェが具体的な指示を与える前にな」

「……成る程、理にはかなっている。二つ目を聞こうか?」

「二つ、『周囲へと及ぶ被害の防止』。……チンタラ敵を殲滅してたら、ならず者傭兵連中の事だ。騒ぎを聞きつけた町民に手を掛ける事も予想できる。説得も通じる連中じゃねぇんだろ? なら言葉で通じない相手には実力行使だろ。テメェはゴミ野郎だが、ゴミなりに最低限、話は通じる。そう見込んで後回しにした」

「ふん。それで? 三つ目は?」

「三つ目は、……――コレ(・・)だ」


 そう言って。迅が返答として与えたのは、明らかに常軌を逸した行動だった。


 銃口・・である。


 おもむろに銃を取り出し、前方のオーヴェルへとシグ・ザウエルを向けたのだ。

 次いで、警告も予告もないまま、悪辣な笑みを向け……、


 ――発砲した。


 ドォン。

 バギン。

 発砲音と衝突音、二つの音がほぼ同時に響く。


「ッ、っ!?」

「ななな……、何!? 何よッ!?」


 瞬間、迅以外の三人は後ずさりした。

 銃声に驚いたからではない。原因は、迅が銃を向けている先にある。

 ソフィアもレイルも、蒼衣でさえも。反射的に再び武器を構えていた。それぞれがオーヴェルの正面(・・・・・・・・)へと最大限の警戒を差し向ける。


 極めて単純な状況である。

 迅がオーヴェルに向けて発砲した弾丸を、新たな闖入者が遮った(・・・)のである。


 ――否。『闖入者』という表現すら正しいかどうか。人ですらないソレに対し「者」と呼称すべきなのだろうか、と迅はガラにもなく訝しんでしまう。理性すら皆無、生物という頚木から放たれた存在であるソレに対して。


「ハハハハハハハッ……! やっぱりか! そう、そうだよ! これが、三つ目の理由だ。テメェの『根拠不明な余裕』!」


 思わず出た、乾いた笑い。それが迅の表情を染める。予想通りの展開に笑いしか出てこないのだ。

 オーヴェルも迅と同様である。下卑た嗤いを高らかに披露していた。


「ククくくッ……どうやら勘付いておったようだな?」

「ああ。嫌な予感しかしてなかったぜ」

「些か態度に出すぎていたようだな。気付かれぬようにしていたつもりだが」

「その余裕の正体も、少し考えれば己ずと見えてくる。――『裏に傭兵連中より強大な戦力が控えていたから』だ。もしテメェに手を出せば、途端にコイツが襲い掛かってくる手筈だったんだろ? だから手出し出来なかったんだよ……ッ!」


 初めから、すべて予測できた。


 息子を人質に取られ。

 手駒の傭兵達を失い。

 そして遂に、こうして単騎孤立状態になった今でさえ。

 オーヴェルは焦りを一切見せず、余裕の態度を変えずにいる。つまり、この男には勝算があったのだ。ボスである自分が、たった一人存在していれば勝てる――。そんなパワーバランスも何もない、暴虐極まる手段が。


 迅の眼前。オーヴェルへの銃弾を遮ったソレは、低い唸り声を繰り返す。


「ぎ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ」


 ――魔瘴獣、ベディウス。


 もし、マチスを盾に兵を退かせようとしたら。

 もし、オーヴェルへと攻撃を仕掛けていたら。

 間違いなく、この獣は迅やソフィアたちへと超常の一撃を放ってきた事だろう。


 迅、ソフィア、レイル、蒼衣。

 四人は最大限の警戒を、ベディウスへと向ける。


「――ソフィア。お前にも念のため確認しとくぞ。アイツで間違いないな」

「ええ。忘れたくても忘れられない。……間違いなく、兄さんを殺した魔物よ。当時とは若干見た目が変わってるみたいだけど」

「僕とジンが戦った時とも少し違うよ。特に腕まわりが……肥大化してる?」

「オーヴェルの野郎が何らかの調整を施したんだろうな」

「あれが、……魔瘴獣!」


 蒼衣の瞳に、これまでにない切迫感が満ちる。

 その意志へと呼応するように――。ベディウスが一際大きな咆哮をあげた。


「ヴ、ヴォォ。ォォオオオオオオオオ、……――ォッ!」


 数時間前に遭遇した時とは装いを異にしているソレは、ゆっくり、ゆっくりと――。

 首を傾げ、迅たち『敵対者』を睨め回した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。