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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第3章セコンド・ピアット(第2の皿)
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メニューNo.24 「襲撃2」

みなさまのご意見やご感想、お待ちしております。

出来れば、読むと嬉しくなることを送ってくださると、頑張れます。


 店主は渋い顔をして、自分で作った回鍋肉と涎鳥を皿に盛り付けていた。手を動かしながら、ちょっと美味くねぇかもなぁと思っていた。

 先代から引き継いだマニュアルをその通りに作って41年。


 この先、自分に成長は無いと10代から働いていてつい最近、悟った。

 

 先代がいた頃からこの調理場で必死に腕を上げた。いつしか一目みたらその皿のクオリティを見抜けるようになった。


 良いものを作っていたい一心で腕を磨いていたら目が肥えてしまった。この目で自分の技量の上限さえも推測(おしはか)れてしまえた。


 美味しいものを提供したいという思いは潰えていないから頑張ってはいけた。そんな店主の慣れた手捌きで野菜が輪切りにされていく。


「いらっしゃいませー!」


 若いスタッフの快活な対応。言い終わりに一瞬の悲鳴があがる。


 何のことか分からない店主がスタッフの目線の先をなぞる。店主も眼をまんまるくした。


 3人の客のうち、1人は手足が長く細身の金髪の、絵に描いたようなアメリカ人だった。

 しかし殴られすぎて目、鼻、口は窪んでへこんでおり、皮膚は梅のように赤黒く変色した顔が異様だった。


 もう1人の男は見える部分全てに擦り傷がある。服は部分的に焦げたり切れていたり、煤(すす)んでいる。


 最後の1人は髪色が変以外に変で黒のスーツ、ヤー公かホストみたいなナリだ。


 ジロジロ見てはいけないと、視線はまな板の上にあるニラの束に戻す。そして店主は思った。


何だこいつら・・・・・・。気っ持ち悪りぃ。




 朝5時の繁華街。人の賑わいに衰えがない大通り。そのハズレにある中華屋。ボックス席に俺たち3人は案内された。


 俺はすごく腹が減っている。この店のキッチンから充満する葱油の香りは外まで広がっていた。


 入店前に匂いを嗅いだだけなのに腹が膨れる準備が整う。


 満員の店内で忙しなく働く店員のデカい声の後、鉄鍋と鉄のお玉がぶつかり合う音がする。


「はい焼きぎょー醤油(しょー)ラー三(みぃ)つー」


 注文した物が上に並べられる。運ばれた物の名前が省略された。


 なんていうか、中華屋のこういう感じが俺はたまらなく好きなのだ。


 どんぶりから柱のように伸びる湯気からは美味くなる物をごった煮させた香りがした。沸々と食欲が加速していく。


━━━1時間数分前。


 風通しの悪い地下室の湿度は熱帯雨林くらいある。こんな場所だと精神の疲労が大きい。しかもへろへろに疲れ切った身体のせいで頭が痛い。そんな所で続けた尋問の収穫はなかった。


 彼はネットのテロ啓発動画に感化され、闇サイトの広告に応募して日本へやってきただけ。


「だめ。なんっにも収穫がねぇや」


 自分の汗で誰よりも濡れている風河はシューズの目の前で大の字になって寝転んだ。


 椅子に結束バンドで固定されたシューズの眼と口、鼻の骨は窪んでおり、グレイ型の宇宙人になっていた。双眸は殴られ過ぎたせいで半分も開けられなくなっていた。


「痛い目に遭ったことなんか無いようなお坊ちゃんなんだろこいつ。言ってる事は本当そうだ。もうやめようぜ」


疲労感に耐えられず先に根を上げたのは俺だ。


 こいつの言う事はたまにテレビニュースの特集に組まれるほど良くある話だった。


 例えば家出少女が男性に拾われ、優しくされた。家を提供し、遊び相手を紹介し、飯を食わせてもらう。良く生き抜いたなんて言って人生を肯定する言葉をかけて依存させる。


 親元に帰りたいなんて思わないようにさせた矢先、海外に売りつける。


「カチコミの業者もやることがテンプレートつーかさ・・・・・・」


「人を集められるんならあれが定石だ。おれだってそう習った」


 ネットで募集し、まず集合場所でずた袋を頭に被せて車で連行。


 別の場所に着くとずた袋を脱がされ、指示役に作戦を伝えられる。その後またずた袋を被せられて襲撃地点の入り口前で銃を受けとる。


 当然、指示役もその関係者も全てマスクで顔を隠していた。たとえ背格好も声も覚えていたって、それを特定するのは困難だ。


 強盗(タタキ)の手口そのもの。これもよくある話だ。


 どん詰まって疲れ果てた俺たちは風河んチの地下牢で寝た。が、腹が減りすぎて寝てられなかった。元気の前借りもここで終わる。


 風川を起こして飯を集(たか)ったら行きつけの店へ連れて来てもらい、失った血を補充したくて食う。


 いの一番に食べたのは先程まで尋問されていたシューズだった。切れた口内に熱いスープは染みるだろうに勢いよくかきこむ。


それで顔が苦悶に満ちた。


「ゆっくり食べなよ」


 絶対に伝わってない。それなのに俺はつい言ってしまう。


「で?お前はこいつをどうしたいんだ?」


 シューズと名乗る男に割り箸を向け、俺に質問する風河。


「もちろん帰国させてやりたい」


「・・・・・・そう」


 勢いよく音を立ててラーメンを啜り、咀嚼を充分にし終えてから素っ気なく返事をされた。


「どうやって?」


「ってもな〜。考え中としか言えない」


 とりあえず今は失った血の分だけ栄養を蓄えたい。自然と口は食べることに優先させ、みんな静かだった。


 東京都内の組は殆ど壊滅状態にされたし海外への渡航の斡旋(ルート)を紹介するコネは俺にはない。


 それに帰るまでどうにかして生活させなければいけない。


 一通り食べ終え、餃子を追加で注文する。待ってある間、おれは風河に質問する。


「お前って彼女とかいんのか?もしいたらそこに置いてもらうことはできないか?」


「まず女がいねぇよ」


「ヤクザなら女の1人2人侍(はぶ)らせろよ」


 呆れた素振りをする。俺にも女はいないが、思いついたアイディアが空振ると落胆してしまう。


「そもそも組員でさえ大して信頼ならねーなって時があるのに外部の人間まず当てにならねーよ」


「一理あるな」


「そうだろ。てゆーか女ってよ。付き合い続けるとその分の維持コストがかかってしゃーねーのよ。

 終いにはあれよ。9-1であっちが悪い場合でも美談にするんだよ。

 ありゃ死んでもこっちの苦労を考えられねぇ病気だな」


「車じゃないんだからそんなこと言うなよ」


 風河の愚痴大会が始まりそうになる。疲れた頭にマイナスな話題が入ると頭痛がしてきそうだ。

 だからここで場を締めるようなことをしないと延々と収まらない。


「んだよ、面白くねーなー。じゃあお前、エロ動画とかは見んのか?最後にズリセンこいたのいつだ」


「そりゃそれなりには見るけどよ・・・・・・。シューズはどうなんだ。ゆーあーチェリーボーイ?」


「YES━━━━━」


の次の言葉は何も聞き取れなかった。


「でもよ、話は別だけど、気に入らねーのはSNSで胸や尻を出して良い所から続きはファンサイトに誘導。んで、さらに過激なのあります、なんて売り方とかしておいて、買った動画にチンコが入ってないものがあんの。ムカつかねーか?

どうせヤッてんなら、撮っとけってのな」


 俺たちは馬鹿な話をして笑っているがシューズは分からない顔をしている。


 帽子を目深にかぶった男と野球のユニフォームらしき服の男が2人、俺たちの席を横切った。つい癖でそいつらを目で追う。


 一瞬、片一方の男と目が合った。つんざくような眼光に相手の目が逸れる。


 こいつに警戒をしなくていい。だから、俺はまたくだらない話に乗った。


「それでどうなっ━━━」


 俺は相槌を打とうと顔を近づけると━━━目の中で黒い稲妻が走る。


強い衝撃が頭蓋骨に加わった。


 殴られた勢いでラーメン丼ぶりに顔を突っ込んだ。スープが飛び跳ね、テーブルに置いてある食器類が床へばら撒かれる。


 何があったのか理解できない。顔を上げようとしたら強引に髪を鷲掴みされて残ったスープの中に沈められる。


 溺れる。だれかに溺れさせられている。目が染みて痛い。鼻も口も液に浸かるせいで息ができない。


 死なない為に身体は抵抗する。脚を振り、左手はこれ以上、沈められないために相手の手首を握る。どんぶりは右手で殴って割った。


「誰だ、お前ら・・・・・・」


 息は絶え絶え。しゃがれた声で敵を睨む。焦った顔をして逃げようとするも掴んでいる手を俺は離さなかった。


 風河は頭を手で覆う。悶え苦しみながら別の奴を睨んでいる。


 回らない頭で状況を把握していた隙にそいつは俺を殴った。拳の硬さをモロに眼頭で味わう。


手は緩み、逃げられる。


「風河起きろ。アイツら追うぞ」


 何も言わないで椅子から離れる風河の脚が震えていた。


 アイツらが店を離れると、後を追う俺たち。広い繁華街だったが早朝のおかげで人の通りは少ない。雑多に紛れることができないアイツらを走って追う。


 繁華街の終わりに差し替るまでただの一本道を走って走った。そうして片一方のヤツの服の裾を掴みかけたその時だった。


 眼をギラギラに光らせ、余裕の顔をする若者たちのグループがやって来た。


標的は俺たちだってのはすぐ分かった。


「・・・・・・偶然、この地域の族と戦うって状況じゃ、ないよな?」


後ろから追いかけてきた風河が息を整える。


「や、黒幕がいんだろ」


「今からこれヤンのやべぇな。やれそうか赤旗」 


「やるっきゃないだろ」


 東京中のヤクザ事務所に銃を持ってのカチコミとなぜか現れたこいつら。俺たちは標的にされていると考えるほうが自然な考えだよな。


ファイティングポーズをする。


 どりゃぁぁ、なんて雄叫(さけ)びを両陣営が開始の合図を示し合わせたように同じタイミングであげた。


荒々しいハリケーンのように2人は数を圧倒する。


 風河の強さは身体の扱い方が上手な事である。イメージできる動かし方は大概可能。


 いま、目の前の敵に左脚で蹴りを顔に入れた。相手は両腕で防ぐ。脚を戻す弾みで回し蹴りにて、空いた腹(ストマック)に足の裏を押し込んだ。


 大勢がイメージするステゴロ喧嘩(ファイト)とは大ぶりの殴打とついでに蹴りをすること。


 ストリートあがりの相手ほど風河の動きの不明さに惑わされる。この闘い方はテコンドーそのものだ。


 赤旗はアウトボクサーのように軽い足取りと当てるだけのジャブを基本にする。

 ジャブで相手の気を散らしてから空いたスペースにストレートをいれる。


 これはボクシングの教科書通りの闘い方。しかし本来のボクサーと異なる点はストレートを体当たりの要領で突き刺すこと。


 肩を巻いて打ち出すよりもより相手の内臓と拳が近くなるので、どことなく詠春拳に似ていた。


 戦闘は終わり、アイツらは退散する。路上で倒れ込んだ奴らもいた。俺は足元にいる人の顔に口に溜まった血痰を吐き出した。


「で、こいつらは連れ帰るのか?」


「馬鹿か、無理だろ」


「あぁ冗談だよ。・・・・・・でもこれで一つ確信した。事務所を襲撃したやつらとこいつらが俺らを潰そうとしたヤツらの足取りの追い方にアテができた」


現在公開できる情報


 物語の方ではなく、現実の8月17日、17時にて“火災時に吸った一酸化炭素中毒の解毒剤候補”という記事がありました。

 鉄分をオリゴ糖で囲んだ“人口ヘモグロビン”は一酸化炭素を奪い、血液が酸素を運搬できて中毒が緩和されるという薬の発表がされました。


 物語内にて火災現場から生き延びた2人に行った応急治療にこの薬が使用されたという設定にいたします。

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