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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第3章セコンド・ピアット(第2の皿)
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第23話【パスタ】


 現在公開できる情報 鞍牛を探す理由は風河の組にもカチコミが入ったから。 点滴  用途は確実な治療を受けられる場所に移送するまでの応急処置として使われている。 増血と止血を目的に作られており、失った血の補完と循環を良くする栄養と水分が内容されてある。  医療機関と工場からの横流し、密輸により手に入れる。  ただし、量と純度は手に入る物の質や組の人員、保存環境のばらつきがあるため安定供給はされていない。 


 車が停止した。ブレーキの弾みで体を揺さぶられた。


身体をよじってうんと伸びをしたら風河が一言。


「お前は寝てな」


 うるせぇなぁと思いながら周囲を見回す。車のフラッシュに照らされている先、全体が森に覆われていた。


 満杯だった点滴は3割減っており、そうか俺は、気絶するように寝ていたのだ。


 体が軽い。毒が抜けたように疲労を感じられない。頭の中で俺は健康に感謝した。


「ここは神奈川県にある俺の隠れ家」


「どういうつもりだ?」


 反射的に応答できた自分にさらに驚く。先ほどまでの焼ける痛みが消えている。声が出なかったのに、すんなりと喋れてしまうのだ。


 2人ともまだ外へ出る様子はない。静寂に包まれた真夜中の森、風河の出方が判らないことの不安感が大きくなる。


違う組の奴が親切にするか普通?


 敵なのか味方なのか。それを区別しようと出方を伺おうと思ったが、めんどくさくなった。


 今ならどんな問題にも対応できる気がする。それくらいに気力が漲っていた。


「赤旗に用事はねぇよ。たまたま友達だから助けただけだ」


「あ、そう。それなら後ろの奴は何もんだ?」


「それを知るためにおれが動いてる」


 つまり何も知らないと言うこと。おれはドアを開けて外へ出た。


 まくられた袖を直しながら風河がいる方のドアを開ける。突き刺すつもりで強い口調を意識する。


「こいつの身元は俺が調べとく。お前は車を俺に寄越しな」


 本音はヤクザに貸しなんて作りたくないのだ。風河も外に出る。


「まだ頭がはっきりとしてねーんだな」


「してるよ風河。助けてもらえて恩義は感じてる。でも他所に貸しを作りたくない」


「・・・・・・うちの組にもカチコまれた」


子供が歯の痛みを我慢するような顔をしていた。


「なにっ?」


「たまたま俺は事務所にいなかったから助かったが、殆どの組員がやられたんだ。壊滅状態といってもいい」


続けて風河は言う。


「マジの話だ。東京にあるヤクザ事務所はほぼ全てやられた。ほら」


 スマホを取り出すとネットニュースの記事を俺の眼前に差し出された。


 眼をぎょろぎょろとさせ、短い文面に込められたたった3時間で多数のヤクザ事務所がカチコまれた騒動を知る。


「まじ・・・・・・か・・・・・・?」


相手の思惑が分からない恐さに脂汗が止まらない。


「悪あがきでもなんだっていい。

せっかくならやられた分やり返してぇ」


「なら尚更だろ。分かってんのか、ありゃカチコミなんかじゃねえ」


 アレは殲滅だ。そして親玉はたった一夜で大小数えて何百とあるヤクザ事務所を一斉にカチコめる資金のあるやつ。

 後ろで気を失っているこいつも単に利用されてただけ。こんな奴に聞き出しても親玉なんかには辿り着けない。


「無理だろこれを相手にするのは。だから鍵を貸してくれ。帰りたい」


 手を前に出す。“チッ”舌打ちをされながら鍵を貰った。


俺の手を沈ませるほどに強い力で渡された。


 乗り込むのに身体を下げる。風河の顔はどんな風に歪んでいるのだろう。背中を向けているからわからない。


 座る体制のままなぜか膝の力みが抜けた。訳が分からないまま身体が傾いて倒れてしまう。硬い砂利が頬にめり込む。


「大して動ける状態じゃないのに」


「━━っっ」風河がおれの胸ぐらを掴む。


「なんで・・・・・・?」


 手に、膝に力を込めて身体を起こそうとするが、できない。訳がわからなかった。少しも上体を浮かせられない。


「あーあ。身体が軽くなって、もう治ったなんて勘違いしたんだろ」


俺を背負って隠れ家に行く。


「そんな状態で外に置いておける訳ねーよ」


 見てくれは二階建ての一軒家。玄関は二股に裂かれている。変な家だ。二つあるドアの内、一つを開けた。


「これは・・・・・・」


 地下室に繋がる階段が存在した。張り替えたばかりの壁紙とは反対に古臭い石畳の階段は違和感そのものだ。


「座敷牢って知ってるか?ほぼ百年前、外部の人間に知られないよう隔離するスペースのことだ。外じゃ分かりようない作りの部屋ってのは都合が良い」


階段を降りながらこの家について説明してくれる。


「昔はあったんだろうがこんな普通の家にもあったんだな」


「いや元々はボロい荒屋(あばらや)だ」


「へぇ」


「この土地を管理してた人間は寿命で死んじまった。その折にその息子の手に渡った。

 すぐにその息子は一軒家として建て替え工事を始めたよ。

 先代の管理人は土地を渡す時にここに座敷牢がある説明はしなかった。知ってたのかどうかは分からない。

 だから工事の開始時に発覚して、そいつ、逃げやがったのよ」


「貰い受けた時に下見とかはなかったのか?」


風河が淡々と話を続ける。


「下らない質問だな。工事を開始してから発覚したんだよ。地下にあるから埋め立てるのに追加の料金が発生した。

 座敷牢があったという事実は埋めても無くならない。それはつまり穢れが蔓延ってるままだなんだと一軒家になる話は宙ぶらりんになった。

 たまたま俺は仲の良い不動産屋からその情報をもらったんで、座敷牢を残したまま隠れ家として建て直した。おばけもポルターガイストも信じなていないからな。

 まぁ電気系統は元から整備されてないからよ、後から俺が付け足したが」


 到着する。入口よりカビ臭さが強い。灯りを灯した先には木で編まれた檻があった。


「まるでその当時の資料を再現してるみたいだな」


 頭の悪い感想だと思う。でも悪しき風習なんて、もう無いと思っていた。


一度俺を下ろして肩を担ぐ。


「だが、俺のマイホームだ」


「何個めのだ?」


「無数にあるうちの、だ」


 土壁で覆われた空間は湿度が高い。暑くないのに気持ち悪い汗が背中から滲み出る。さらに通気口がないので空気の入れ替えがないので濁っている。


室内は簡素で、物は多くは置かれていない。


 半端に切られた絨毯と背もたれのある椅子が何個か。テーブルの上にはケーブル類とポータブル充電器だけが置かれていた。


「俺はもう1人を担いでくるからよ、お前はまだ休んでな」


「あ、あぁ、分かった」


 椅子に座らせられた。誰もいなくなってから頭を下ろして、項垂れた。考えるのは風河に胸ぐらを掴まれた時のことだ。


どうして俺は・・・・・・。


 おれは首に手をかけられたときの感覚を思い出す。首から脚さきまで、底冷えする感覚。完全に怯(びび)ってしまった。


 生物の闘争本能が負けてしまったのだった。俺は小さく縮こまる。自分の髪の毛を掴んだ。ミチミチと音が鳴るが抜けない。


拳を固めるが力が芯から入らないのだ。 


「ただいま戻った。始めるぞ」


 肩に太い縄を担ぎながらまだ意識の戻らない彼を連れてきて、床に寝かせた。


 さっきまではそいつの顔を見る余裕がなかったが、顔や背格好を今ここで知った。


彼はまだ若い白人系の青年。


「その若さで捨て石同然のカチコミをしていたのか」


「驚くことか?なにも日本でも同じことしてんだからなんともおもえねぇ」


 口を動かしながら慣れた手つきで滑らかに彼のからだを弄(まさぐ)る。不審物を隠してないか、服の裾まで念入りにチェックしている。


 彼の身につけていた物は下着以外全て剥いだ。小物が何個も入れられる重たいベスト、黒のチノパン。

 ベルトにはナイフとハンドガンが別々に装備していた。


 ナイフの柄には滑り止めとして自分で事前にロープが撒かれている


「細かい部分に意匠を凝らしてるんだな」


ナイフを握って裏と表を見返した風河が感心した。


「軍人なのか?」


「そんなに強かったのかこいつ」


俺は答える。


「そんな感じはしなかったがな」


「ただのミリタリーオタクなんだろ」


 手足には結束バンドで拘束されていた。簡単に身動きを取らせないよう、親指同士にも追加でホールドする。


「起きろよ。おーきーろー、起きろ」


 優しい口調でペットボトルの水を逆さにし、水をぶっかけた。重力に乗って水の塊が落下した。


意識の戻らない怪我人とはいえ、可哀想だと思う。


 しかし大きな外傷がないのなら、単に気絶しているだけだ。スマホで例えると機内モードみたいなもの。


 痛みと衝撃に彼はひしゃげた顔をして目を覚ました。


「wats、Heaven?」


 眼を真ん丸くして辺りを見回す。状況が飲み込めていない様子。


「のー、地獄だ。馬鹿野郎」


 すかさずに鮮やかなフックを左右1発ずつ風河は打ち付ける。


 痛みと恐怖に顔を顰(しか)め、歯茎から真っ赤な血が決壊したダムのように流れた。


 その後は無言に殴り続ける。同じ言葉を連呼する。


「I don't know anything. I was just brought here


「I don't know 」言葉を言い切らす前に追加で殴った。


「聞き飽きたよ」


 彼は英語に疎い俺でもスラスラ言えてしまうまで英語でこれしか言わない。


 それが風河にとって殴る力が段々と強くなる理由になった。


 1単語だって日本語を発さない。彼は対話できるだけの日本語を知らない。風河も俺も心底分からされた。


 焦った風河は八つ当たりのように更に暴力を加える。


 散々殴られた顔には紫の斑点が何個も浮かび上がった。


「もうよそう」


 息を切らす風河。薄い酸素は良い結果が見えないのでさらに重くなった。


風河は殴り疲れ、床に座る。


「ぜっったいこいつは日本語を知ってて黙ってるんだよ」


「んなもんどうでもいい。ユー、あ、ネーム」


「・・・・・・shoes」


 シューズ?靴?冗談だろ、こんな場面でも外人はユニークさを失わないってか。


 俺は務めて明るく、優しく振る舞う。風河がムチなら俺は飴だ。心を解いてもらうよう表情を柔らかくする。


「リアリー?」


「YES。Adam・John・shoes(アダム・ジョン・シューズ)


「シューズね、よろしく」


 手を差し出し、もう片方の手の人差し指の尖端(せんたん)は俺の身体に向ける。


「まい、ねーむ、あかはた」


 下手な英語を使う。馬鹿みたいに口を大きく開けて言うので恥ずかしい。


「ゆー、ふろむ?」


「アメリカ」


そのあと俺はスマホに聞きたいことを書き込んだ。


“誰に指示をされて襲撃した?教えてくれれば安全に家まで帰そう”


 英語に変換されたこの文章を読んだ彼は、目を丸くする。


彼の口もとにスマホのマイクを近づけた。


彼はか細い声で一言「本当か?」と嘆いた。


俺は首を縦に振る。


 スマホの翻訳機を頼ることにした。彼が話せば自動で日本語に変換してくれる。


彼は思い思いのことを必死に話してくれた。


そして分かったことは、手詰まりだということ。

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