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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第3章セコンド・ピアット(第2の皿)
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第20話【ムッソブーコ】


 

 かろうじて夜道を半袖で移動できる温かさだが、日に日に気温が下がっていくように感じる。


 風河が去った後すぐに俺は店の鍵を閉めないで裏口から出た。


 向かうは俺の所属する組、鏡泉組・4次団体“篠鶴しのつる”。


 組がある事務所へ走りながら俺は電話をかける。

事務所の人間に繋がる窓口。


「そんなこと言われたっておれが1人で何ができるってんだ・・・・・・」


 “やる”って言えばやるのがヤクザ。風河はヤクザだ。だからこそ、警告をしに来てくれた。


 受話器を取ってくれたのは呼び出し音が6回鳴った後だった。


「今何時だと思ってんだ馬鹿野郎」


大声で真っ先に俺へ、相手は罵声を浴びせる。


「赤旗だ。そっちに鞍牛さんは?」


怯まない姿勢をとる。


「お前に言う訳ないだろ」


相手は俺に話す用がないから通話を切断した。


 いるのかいないのか判らないにしても行かないといけない。


 店のすぐ近くの駅まで脇目も振らずに走ることにした。


「あ゛ークソっ、ストレッチしとけば良かった」


 両足首にギチギチに物が詰まって、ぎこちない感覚がある。


それは昔より体力が格段に落ちた証拠だ。


とあるビルに着く。


 服のいたるところに汗染みを作ってしまうほど大量の汗を流していたから息を整えて身体を冷やす。


 空を見上げた。外壁に吊るされる看板には数多くの店の名前が記されている。


このビルの全てを篠鶴の管理にある。


 ドアを潜った入り口には階層ごとにある店が記された立札が置かれている。


 エレベーターの7階のボタンを押す。箱が2階、3階へと昇っていく。


 ニスの効いた煌めく白、無音に近い空気清浄機が天井から作動している。


圧迫感の感じない空間。


 外側からだとヤクザが巣食っているなんて判断がつかないようカモフラージュされている。


 7階にて、最奥の左脇に株式会社アッセンボウ・ホールディングスと記されたシルバーの表札が壁に埋まっていた。


 ドアに設置されている電子ロックに俺は焦りながらも確実に番号を打ち込んだ。


 ピッピッピッピと気持ちのいい音が鳴った。しかし開錠しない。


「おい!赤旗だ。開けてくれっ!用事があって来たんだ。

おい開けろ。開けろっ。開けろ!!」


 血が昇って、何度も扉を叩いたり蹴ったりした。2.3分も続けているとようやく誰かが内側から開けてくれた。


「なんだよ赤旗か。何しに来た」


 さっき電話に出たやつが現れる。巨体をふんぞり返らせて道を塞いだ。


「通るぞ」


「おっ、おい」


 俺の服を掴もうと手を伸ばすが、壁とそいつの隙間を縫うように事務所の敷地に足を踏み込む。


その手は空振った。


 ビルの外観とは真逆であちこちが錆ている壁やゴミで満杯になったデスク。そして電子タバコ特有の燻した臭いが部屋に充満している。


ズカスガと歩いて話の通じそうな人を探す。


 三谷が客間のソファに脚を組んで座っていた。彼の目線は床に座る2人の若い子分たちに注がれている。


 表情に変化のない真顔。俺が視野に入ると、仏頂面になった。


「よう赤旗、久々だなぁ」


「三谷さん・・・・・・ご無沙汰です」


 子分らしき男を無視しておれは言葉を続けようとする。


「あぁこいつらな、俺の店でハイボールの代わりに水で薄めたハイター提供してたんだよ。馬鹿だよな」


「そうなんですか」


「片目失明で警察沙汰だ。馬鹿は突飛なことで損失を与えてくるから嫌いだ。で、要件はなんだよ」


「・・・・・・あんた、鞍牛さんの居場所を知ってんですよね」


探し人の名前を出すと立ち上がる。


「しらねぇよ。ほら、要件は済んだな。暇だったら帰っていいぞ」


 眉を八の字に曲げて口を尖らせる。俺に見下ろされているのが嫌と表情に描いてあった。


「あんたの兄貴分なんだろ。どこにいるのか知ってんですよね」


「あ?随分な態度じゃねえかよ。カタギの仕事を請け負ったらテメェの根っこもシャバくなっちゃったか?」


「今まであんたに世話してもらったことなんか無かったですよ。

・・・・・・それよりヤクザは偉くなると事務仕事しかしなくなるんですねぇ」


「あぁそうだよ。管轄をする側に回ると大変でな。赤旗とくだらない口喧嘩をする暇もないんだ。さっさと未納分の金を持ってこいよ」


「あぁどうりで三谷さん。あんた、室内の仕事ばかりで考え方も喋り方からもシャバ僧くささが出たわけですか」


 三谷さんは鼻で笑って一蹴すると荒々しい物言いをする。


「ハッ、人間の処分場1つ任されて調子に乗ってんなぁ。無事に帰れるなんて思うなよ。舐めた態度を悔やませてやるよ」


「今はそんな話がしたくて店を閉めずに来たんじゃないんで。

おれの質問に答えてもらえませんか」


俺と三谷は張った胸を押し付け合う。


「そりゃてめぇの不備だろ。つーか今までで1っ番っ口の効き方が気に食わねぇなぁ」


「鞍牛さんを野放しにしていいんですか?このままだと他所の組と戦争になりますよ」


「戦争に・・・・・・か。大層な物言いだな」


 よっぽど鞍牛さんに温情を感じてるんだ。信頼してる人間を否定した俺の言うことなんて信じられないか。


「明日、組長に話を通します。あんたじゃ話にならない」


「あ゛あんっ」


ピーン・ポーン━━━━━ピーンポーン。


 チャイムの呼び出し音が、俺と三谷の一触即発な場面にヒビを入れた。


 胸ポケットや腰、テーブルの下に手を置く。俺以外にいるヤクザ達は一瞬で臨戦体制に入った。


 三谷に叱られていた若者でさえ、正座の体勢のまま目がギラついている。


「おい、だれだ。こんな時間に来る馬鹿なんか赤旗以外いねぇだろ」


三谷の側近の部下がインターホンの画面を見る。


「郵便らしいですが開けますか?」


「郵便局はもう時間外だろ。対応すんな」


 全員が一つしかない出入り口の扉に視線を向けていた。だから、窓ガラスを突き破った音に不意を突かれた。


細長い黒色の物体が転がってくる?


「身を、屈めろっ!」


 三谷が叫んだが遅かった。一瞬だけ眩い波動がこの空間を支配をする。


「っっあっつっぅ」


 微かだけど俺も閃きに目が焼いてしまった。瞼を開きたくても痛くて開けられない。


三谷の呻き声が隣から聞こえてきた。


 これを皮切りに10数人余りの襲来者よ足音が響いた。奴らは銃を振り回して狙いを定めると次に静かに発砲音が鳴った。


 辛うじて目を開けられるようになった視界では血を吹いているヤクザの姿を多数目撃した。



「あいつらの分まで生きて、生きて、殺さなきゃなぁ」


 胸ポケットから取り出した拳銃をコッキングする、三谷の目は険しかった。


 三谷は叱る立場になったり注意を受けた人が身近にいると一丁前な口を叩く人物なので、赤旗は一方的に三谷を嫌ってます。

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