第11話【スターになるの】
隣の県境までをタクシーを走らせる。向かう先は本組みの看板を構える二次団体の事務所。
道中「簡単な治療をする」と刺鬼さんはでホチキスで縫合を試みる。
後部座席で針を肉に打ち込む。この音が痛々しい。それを平気な顔で行うからより恐ろしくなる。
「病院に行った方が良いかと思います」
俺が左隣でそう言うと呆れ半分の表情をされた。
「大した怪我じゃねぇからこうやって血止めしてんだ。もう少しで打ち終わる。わりぃな、聞くに耐えらんねぇだろうけど我慢してくれや」
門前に到着すると数人が出迎えてくれた。
「誰だテメェら、おう沈められてぇかコラ」
露悪な対応をされるも刺鬼さんは何も言わないで幹部を証明するバッチを見せつけた。
数名は目が点となるが、この中の数人が血相を変え、顔が青紫色になる。
「これはこれは非礼な対応をしてしまいまして、すいません。すぐにこいつらを退けるんで」
事務所の応接間まで通してくれた。
「それで、今回はどのような件で来られましか?」
刺鬼さんより2回りも歳上そうな組長は冷や汗をたっぷりと顔から流す。
刺鬼さんはソファに座り、俺とタクシーの運転手が彼の背中側に立つ。
「ちょうどこの辺に生意気な奴らがいたんだよ。そいつらについて教えろ。あと宿と痛み止めも寄越しな」
「わかりました、準備に時間がかかるのでお待ちください」
そう言うとすぐに下の連中を動かした。
皆んなが和やかな表情をするが居心地はとても悪い。俺らにも粗相がないよう振る舞ってくれる。だが誰も眼は笑わず怯えていた。
ついでと刺鬼さんは事務所の金庫を開けさせた。菓子折りと併せて包み紙を渡すよう連中に指示をする。
「これでおめぇは帰んな。ありがとよ。それから、
悪かったな」
封筒の中身は分厚い札束での層により角張っている。車を修理に出してもお釣りがくる相当の額だった。
目を点にして驚いた表情をする。
「え、いやこれはさすがに頂けませんよ」
突き返そうと運転手は頭を下げたが刺鬼さんは無理やり懐に納めさせる。
「いいんだ。これは詫びだ。お前の仕事を邪魔してまで俺が好き勝手やったんだ。負い目があるのは俺だから受け取ってくれや」
周りの輩は俺を除いて、刺鬼さんの面に泥を塗ろうとしていることに腹を立てていた。
今すぐに食ってかかろうとする圧が居室を覆う。
ヤクザに借りを作ることが恐ろしくて身震いする運転手。受け取るかどうかの天秤に揺れ動いて、結局は受け取った。
足取りが軽かったタクシー運転手はすぐに出て行った。
「ところでずいぶん儲けてんだな」
「女の子達が頑張ってくれてるんで」
「あの、話割り込んで申し訳ないんですが俺も帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」
二次団体の組織の組長と刺鬼さんの目を覗き込んで俺は言う。
「何言ってんのお前は。俺との縁はあんま無くても、いまは俺の下についてるんだ。帰れる訳ねぇよなぁ」
もう帰りたい。この一心で肩の力が強張る。
「分かりました」
話が終わると2人は首の位置を元の位置に変える。
「じゃあ今夜はその店を内部監査しないとダメだな」
刺鬼さんは柔らかいものを鷲掴みするジェスチャーを片手でした。
「赤旗テメェも昨日今日で色々あって疲れただろ。悪いけど組長さんよ、こいつ先に送ってやってくれよ」
組長から子分に命令され、俺は子分に外へと誘導される。
「ささどうぞ、どうぞ」
子分が笑顔でドアを開けてくれる。
応接間から出る時に刺鬼さんに楽しんでこいよ、と言われた。
疲労に見合う蜜がない。だから信用がないが休めさせて貰える。肩の荷が降りると俺も足取りも気持ちも軽い。
俺は助手席に座る。運転席のメーターにはビーニーのキャップが置いてあった。
彼は浅黒い肌と真っ白い歯をしている。長めな顔
をしていてカッコ良くはないが眉間には皺が残っており、相当な苦労を買っているのが伝わる。
発進したと同じタイミングで運転手が声をかけてきた。
「お兄さんさ、たぶん自分と同じ年くらいですよね」
高めの声に気さくな喋り方。この人は人懐っこい感じがある。
「あー俺は25くらいです」
「全然俺が年下でしたわ。ところでお兄さんの上司、厳ついですねー」
「そうですよね、上司ってほどの関係でもないんですがね」
「そうなんですか!でも幹部の人の下で働けるってことがすごいですよ」
本当は4次団体所属だから君を敬わないといけない。でも本部の人間だと思われるのは気持ちがよくて、このまま嘘の身分でいることにした。
「お二人に何があったかは深くは分かりませんが、血みどろの姿からお察しします。
組長からの懇意です。今日はこれから疲労を取ってくださいよ」
「ありがとうございます。ところで僕らどこに向かってるんです?」
「あーえっと女と薬ならどっちします?」
「そう言うことね。それなら女がいいですね」
「何系のとこにします?」
「普通のとこならなんでもいいですよ」
「それなら自分いきつけのソープ嬢がいるんですよ!めっちゃテクやばい子で、速攻、腰砕けますよ」
あんたが早漏なだけだろ、心の中で突っ込んだ。
ソープか。勃起するな。
「裏オプどうします?」
「いやなしで頼む」
「硬派すっね」
「違う違うゴム付ける方が生より挿れた感じあって好きなだけね」
「へー、あっですよね。自分もそうです」
分かってはもらえないが、ローションの皮膜が敏感な部分を包み込む感触がSEXしてる感じするだけだ。
赤旗が居なくなり、物々しい雰囲気か一層濃くなった。
「まず禄郎組長が亡くなったのは周知の事実だろ。葬式会場は東京・箱町だった」
「えぇっ。箱町だったんですか」
「なんだ知ってるのか」
「ええ、まぁ。もうあそこは不法移民に占拠されたことで有名でしたから」
「徒党を組んだ移民どもがギャングごっこをしていやがった。あいつらは流儀を分かってねぇ上に葬式会場にカチコミまでしてきやがった。
参列に行けたのは暴対法の煽りだろう。来た人数は少ない。
選ばれたのはきっと本組でも最も組長から近い存在と別の組のご友人方だろう。だが移民たちのカチコミによって殺された」
「殺すしかありませんね。それで皆様で」
「あぁ。あの現場は酷い。弔うにもまずは無念を晴らすためにあいつらを殺す」
「よく帰ってこられましたね・・・・・・。
言葉が通じないから道理も筋も無い連中相手に。うちらも手を焼いてたんです。是非とも協力させてください」
「へぇどんな風に困ってんだ」
「販売とルートでです。あいつらに麻薬と銃の顧客を盗られました。彼らは移民斡旋とのパイプが広いので」
「どこもやってることだろ。それならお前らでなんとでもなったんじゃないのか」
「マトリと警備課が動いてます。移民にけしかければこちらが優先的に捕まる状況です」
「そりゃ動けないな。だから箱町の奴等とそのパイプが好き勝手やってんのか」
「はい」
「目障りだな。葬式を敢えて狙った訳はそこか」
「勢力図を書き換えたと言うことですね」
簡単に話を飲み込む二次組織の組長。
「・・・・・・あの街を仕切ってるのはどいつだ」
「八体という組織が箱町を取り仕切ってます。リーダーはヤハー・ウィンアと呼ばれており、九つに裂かれた首の下に八つと胴体の絵を身体に入れており、東の団地群で麻薬を作っていると噂が有ります」
「そうか、そこまで判ればなんとでもなる。明日の朝にここを発つ。宿に連れてけ」
「それまでには銃と宿を揃えておきます」
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