第12話【“優しさ”で世界は救えるか?】
爽快なそよ風、何十回かに一度だけ草木が芽吹きに似た春風が舞う。
風俗店が軒を連ねる区画の一店。そこへ赤旗は子分に連れて行ってもらった。
他の客がいない待合室。芳香剤独特の何かの花の匂いが部屋いっぱいに薫る。
カウンターに肘をつく二次組織の子分は怒りを隠さないで話す。
「なんで恵那いないのさ。今日は絶対いてよ」
感情が吹き上がった一瞬、悩むように身体がぴくりと静止した、が、待合室の壁を殴る。
そう言われても店に電話一本も寄越さないので。意気消沈した店員が正気なく言う。
「家には?」
「まだです。飛んだとは断定するには早いので。ですが何十回だって電話もかけましたから、と」
「迎えに行く、履歴書わたせや」
言い切る直前で子分は胸ぐらを掴んだ。
「この御方は俺の上司に当たるんだ。俺が紹介したのに会えませんでした。それじゃ俺の落ち度だろ」
水商売では飛んだ、蒸発したは何処にでもある。だがこの慌て様だと辞められたら店が困る子なのだ。
それは重要な稼ぎ頭だったのかもしれない。
「いや別にそこまでしなくてもいいよ」
正直、すごく疲れてるから、くだらないゴチャゴチャに巻き込まないで欲しい。彼にははっきりと言いたかった。
しかし内心で思うことをかなり優しい言葉に変換させていた。
助け舟に乗るつもりで表情が明るくなった店員は
「別の姫でも宜しければすぐに手配いたします。どういたしますか?」
「よろしくお願いします」
そうして俺は暖簾の奥へと足を進めた。店の不手際ということで追加のオプションは全て無料にしてもらった。
すっきりしたから俺は機嫌が良い。激しい眠気が背後から俺を抱きしめているが。
「お兄さんさ。恵那ちゃんが良かったんだもんね?」
俺の腕を抱きしめてくれるアミンちゃん。
「ん?そんな事ないよ。君で嬉しいよ」
「えー絶対うそ〜。事情を黒服に聞いたよ。恵那は飛んじゃったんだって。
お兄さんさここの元締めより偉いんでしょ?」
刺鬼さんの影響が大きいらしく、目の前にいるソープ嬢は甘えるような上目遣いをしてくる。
俺の鼻の下、唇の上にある2本線が伸びている。
「私を助けてくれない?」
彼女の腕をすり抜ける。俺は目の開閉を高速でする。
「え?ど、どうしたの急に」
「最近ね店の外で流行ってる薬があるの」
「う、うん」
一度抱いたから、好きになったって訳ではない。まぁまぁ射精を促してくれた相手の話くらいなら聞いてやろう、このスタンスで話を伺うことにした。
「流行ってるって言ってもホテヘルかソープ嬢でね。相手したら売ってくれるくらいなんだって」
「なんで警察に言うんじゃなくて俺に言うんだい?」
「言っても無駄なの。ヤバいのがもしそれ使って死んでも警察が相手にしてくれないからよ」
「それはないよ。ヤクザだから言えるけど汚した手の跡は残り香になってバレるんだから」
「この前、友達が話してたの。薬を売って死んだ子がいたって。
その子は休みの日は外で遊ぶ子だったんだって。でもね、1週間くらい連絡が来なくてね。その友達が様子見しに家に行ったら死んでたってさ。
警察を呼んで、調べてもらったの。でも変なのは警察がこの事件は“なんとか、かんとか・く”って言ってたことなの」
「なにそれ。それじゃあ分かんないよ」
「でね、それから警察は調べもしないで帰ったの。その後も来なくなったのよ。おかしいと思わない?」
「や、まぁさそれは変だよね」
「すぐ近くに麻薬があるのが恐い。恵那だって、もうきっと、もう、死んでるよ」
「そんなことないって。元気出しなよ!相手の売り方は客で来て、君らに売りつけるんだろ?
それならきちんと断ればいいよ。君なら何とかなる」
「軽はずみな事言わないで。おにいさんはさ組で偉い方だって聞いたから話してるのに。
あいつらに言ったて無理なのははっきりしてるの。怖がってるの。報復が恐いから。
移民にか、売り上げが立たないからって元締めに、よ」
「そ、そっか。ごめんね。帰るよ。ありがとね」
なんか気の悪い思いをした俺は子分に宿へ連れってもらった。布団に入ると疲れが溶け出るように眠っていた。
「よく寝れたか?赤旗。カチコミ行くぞ」
ホテルにてそこに刺鬼さんが椅子に座っていた。
「今何時ですか?」
そう言い、俺は時計を確認する。5時に長い針の尖端があった。
開け放たれた窓からは涙のように温かい軟風が頬を伝う。
陽の輪の眩しさに痛みを覚えて、眩んだ。
彼はまたペペロンチーノを頬張っていた。
「お前も何か腹に入れとけ。今日は忙しいぞ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
また次回もよろしくお願いします。




