六話「喰い破り」中編
どうしてこんな事に…
そもそも病院に運ばれた怪我人を殺すのに10人以上で襲撃するなど目立って仕方がない。
そんな事は分かりきっていた事だ。
だから俺は反対したんだ!
今や外には憲兵隊が包囲していて野次馬の人だかりはさながら肉の壁だ。
脱出が出来る様には到底思えない…。
いや待て。下水道はどうか?
もしかしたら憲兵もそこは見落としているかもしれない。
望みは薄いが賭けてみる価値はあるか。
東側に亡命しよう。
それか大阪くんだりで身を潜めれば上の連中にも俺が生きているか死んでいるかの確認も難しいはずだ。
乾いた物音が耳に刺さり音の方角に振り向く。
脂汗で滑る手を苛立たしく服で拭い取ると固く小銃のグリップを握りしめた。
「誰かいるのか!」
怒鳴って威嚇したが怒声は廊下の闇が飲み込んで返答は帰って来ない。
辺りは日が沈み始めていて、廊下は影が支配しつつあった。闇の壁は塗り固められた様に視界を遮り、先が見えない。
黒が視界の半分を覆い両手に衝撃が走り銃を落とす。
「…!」
驚きの声を上げようとするが口が、鼻が、何かに塞がれて発声出来ない。
酷く濡れていて生臭い。
苦痛に呻く中で男が廊下の闇から駆けてくる。
ナイフを抜き身にした。
痩軀で屈強な浅黒い肌の青年。
精悍で中性的だとも言える顔立ちが眼前を覆ったところで男の意識は刈り取られ。絶命した。
「殺す必要があったのか。」
刺殺した歩哨の男をじっと見ながら荻はつぶやく。
「こんな状況だ。ここは戦場だと思え。それにさきにも言ったことだが、あまり騒がれると人質に危険が及ぶ。後顧の憂いは絶っておかないと。」
「…。そうだな。」
「さあ、歩哨は倒した。問題はココからだ。さすがに人質の前でこの力は使えないからな。お前の様に怯えられては事だ。」
悪戯っぽく笑って見せると荻は罰が悪そうにジトリとこちらを睨みつける。
「冗談を言っている場合か!さあ人質を救出するぞ!次は本当に一人なんだろうな!」
「心配するな。一人だ。そう怯えるなよ。」
「お前生き返ってから意地が悪くなったぞ!」
「はは。緊張をほぐしてやってるんだろ。」
「余計なお世話だ!」
この部屋にもう何分こうしている?
背中に伝わる扉の感触は固くじわじわ身体を痛め付け、床は固く冷たく尻の感触を奪っていた。
浅くため息をつくと誰にでもなく愚直がこぼれる。
「交代はまだか。まさかこんな状況で道草もないだろうに」
不意に背中に衝撃が走り態勢が崩れる。
襲撃だととっさに判断し、床を転がり視界を背後へ走らせる。
入口か!裏口か!どちらかの連中が突破されたのか!
視界が美形の少年の顔を捉えると同時に視界に少年の靴が飛び込んで来る。
視界が衝撃と共に天井へと跳ね上げられる。
息は出来が無い。
顎に強烈な鈍痛が走り視界が暗転した。
「人質は無事か!」
男の顔面に蹴りを二発食らわせると結城は叫んだ。
「ああ!怪我人一人いない!」
人質となっていた人々からは安堵の声が上がる。
「皆さん、心中はお察ししますが、今しばらくご辛抱を」
ぴしゃりとそう言い放つと人々の声は止む。
人差し指をした唇にあてると真っ直ぐに全員の瞳を射抜く。
「まだ出口は占拠されたままです。私達が問題を解決致します。皆さんはこの部屋に潜んでいる限りは安全ですのでご協力願います。」
ここで騒がれては困るからな。
人質達に気絶した男を拘束させると部屋をあとにした。
「ここからはどうする?さすがに複数人を相手に静かに制圧していくのは無理がある。…どちらか一方の人質を見捨てるしか…ないのか。」
荻の言葉に食い気味に言葉を返す。
「それはダメだ。今回の件はあくまでも完璧に解決しなくてはならない。そうしなければ、俺達のやっている事はただ場をかき乱しただけ。っと判断されるだろう。もちろん数が数だ。隠密で事を進めるのは不可能。」
「ではどうする!憲兵隊もこの状況では簡単には突入出来ないぞ!」
「そもそも、憲兵隊の救助を待つこと自体が愚策だ。荻。俺達二人で敵を制圧出来なければ事件の手柄は憲兵のモノに。俺達は中将の死の責任を取らされておしまいなんだよ。だから、逆に派手に行く。」
にやりと笑って見せると荻は解せないとあからさまに顔に出すが、反論は出ない。完全にこちらのペース。
「正面の入口と裏口は同時に制圧する。正面は敵も人質も人数が多いから俺が行く。裏口は敵が三人、人質はなんと一人だ。裏口はお前に任せる。そして今回の主役はお前だ。荻。」
「俺?」
「俺は相手にする敵はあの数だ。この力を使うしかない。だから人目につかない方法で入口を制圧する。もちろん人質にも。だ。荻は裏口を制圧する際に人質を庇いながら三人の敵を倒す事になる。それは群衆の目にも映る事だろう。だから今回の一件はどうやっても俺達の手柄となる。」
「それは俺が人質を庇い無傷で救い出し。銃を持った暴漢三人を倒せたらの話しだろう!俺にはお前の様な力は無いぞ!」
「大丈夫だ。俺が力を貸す。荻は俺の言うとおりにするだけで良い。約束しよう。お前は傷一つなく。敵を倒し、民衆の英雄となる。守護と復讐の英雄だ。」




