5回目。僕の誕生日が始まった。
アブラゼミがけたたましく鳴く公園を俺は全力で走りぬけた。
球技禁止の公園で早朝ゲートボールで遊ぶ年寄り達の間をかい潜り、出口を目指す。
すれ違いざまにゴールポールに体がふれたらしい。
背後でポールが派手に倒れる音がする。
後ろから年寄りの怒声が聞こえたが無視した。
知るか。球技禁止の公園でなんで球技やってんのよ?
きっと学校に苦情の電話が入るに違いないが、そんなことはどうでもよかった。
すぐに、今すぐに美羽の家に行かなければ。
美羽の家は俺のボロアパートからこの公園を間に挟んだ向こう側だ。
大して長い距離でもないのに、顔中に汗がだらだらと流れた。
今日は八月四日。
俺の誕生日だ。
十五歳になった。
なったんだ。
俺の記憶では昨日のことだ。
登校途中で告白して、いい感じの返事をもらった。
あたたかく穏やかな朝、いつもと同じ日々が続くはずだった。
それが目が覚めたら八月四日の朝だなんて。
とにかく美羽に会いに行かなければ。
何かがおかしいんだ。
家に着くとちょうど美羽が家から出てきたところだった。
息を切らせて汗だらけの俺を見て、目を丸くする。
「ハルト、どうしたの? 今日早いじゃん」
いつもぎりぎりまで出てこない俺を迎えに行くのが美羽の毎日のルーティーンだ。
反対になる事は九割九分ない。
「あ、おはよう。美羽。よかった。会いたかった」
「は? え?? 何言ってんのよ。朝から気持ち悪い」
言葉とは裏腹に美羽の顔は真っ赤になっていた。
「いやほんと会いたかったんだよ。すごいおかしなことがあってさ、ごめん、美羽、なんか変わったことなかったよな?」
「ほんと訳わかんないんだけど。変わったことって、朝出てこないハルトが先に来るってのがあったけど?午後から雷雨なのもそのせい? ねぇ、どうしちゃったのよ」
何も知らないのか? 昨日の告白もなくなったのか?
俺は憮然とした。
美羽の姿は昨日の記憶と全く一緒だ。髪を括っているゴムの色も、靴下のワンポイントの柄も。なのに昨日の記憶はない。
あの記憶はどこへいったんだ。俺だけの記憶なのか。
思わず俺はその場に座り込んだ。膝に顔を伏せ、そのままの姿勢で聞いた。
「今日、何日か知ってる?」
「四日。八月四日だよ」
美羽は何てことないというふうに応えた。すこし間をおいて、
「ハルトの誕生日でしょ? お誕生日おめでとう。十五歳、おめでと!」
と言うとはにかみながら小さな包みをカバンから出して俺に差し出した。
水色の不燃布の巾着袋に丁寧にリボンが括られている。
「あ…ありがとう」
「恥ずかしいから、家に帰って開けてね。いこ。学校始まっちゃう」
美羽はカバンをかけると、動けない俺を置いて一人で歩き出した。
読んで頂きありがとうございます。
5回目の更新です。
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昨日に引き続いて今日も更新できました。
夜はR18(ノクターンノベルズ)になりますが、そちらの話も更新する予定です。
同じ名前・ゆえろんで書いています。
大丈夫な方は是非お読みください。