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第三回 コスプレ女とコスプレ男

 目が覚めると、目の前には今まで見た事のない、澄み切った青があった。


「ここは……」


 些かの倦怠感を覚えながら身を起こすと、そこは見覚えのない山中だった。


「やっと起きたわね」


 勇人の傍で、林檎印のタブレットを動かしていたヤナが、ジロリと一瞥をくれた。


「此処は?」

「何言ってんのよ。戦国時代に決まってんじゃない」

「……戦国。ここが戦国!」


 と、興奮気味に言った所で、山の中だ。この部分だけで見ると、現代か戦国かは判らない。


「来てしまったんだ、戦国時代に」


 だが、根っからの歴史オタクである勇人には、それだけで感慨深いものがある。


(この時代には、信長も秀吉も家康もいる)


 いや、そんなメジャー所だけではない。蒲生頼郷がもう よりさと北信愛きた のぶちか明石全登あかし たけのりだっている! これは感動的ではないか!

 そう浸っている勇人を横目にして、ヤナは〔お得意〕の舌打ちをした。


「どうしたんだよ」

「勇人。申し訳ないけど、トラブったわ」

「えっ?」

「タイムスリップが少しズレてしまったのよ」


 ヤナは、林檎印のタブレットを忙しく動かしながら吐き捨てた。


(WiFi飛んでいるのかよ)


 と、いう突っ込みを飲み込み、勇人はどう失敗したのかを訊いた。


「日時の誤差よ。まぁ、それでも作戦の続行は可能だし、継続するけど」

「元々、いつタイムスリップする予定だったんだよ」

「七月十二日」

「で、誤差は?」

「十五日ぐらいかな……」

「つうと、今は七月二十七日か」

「そ……そうみたいね……ハハ」

「ハハって。七月二十七日ってお前さ。紹運の命日じゃん!」

「そう! ビンゴ!」


 と、某お笑い芸人のようなゲッツポーズを決めたヤナの後頭部を、勇人はスパーンと張った。


「ビンゴじゃねぇよ。どうするんだ? また今から助けられるとは思えないし、もう一度タイムスリップを……」

「あ、それは無理よ無理。タイムスリップをするには、膨大なエネルギーを使うの。週三回がギリね」

「週でカウントしているのかよ、アンクルーは」

「私が決めたわけじゃないもの。兎に角、今週使えるのは、あと一回。勇人、あなたを現代に戻す時よ」


 成る程。そう言われたら是非もない。


「で、作戦を続行って言ってたけど、どうすんだ?」


 すると、ヤナは「よく訊いた」と、言いたげな、ドヤ顔を決めた。


「強行突破よ! 仕方ないから紹運を立花城へ逃がして、そこで講和に持ち込むの!」

「……」

「何? 何か文句あるの?」

「いや、文句っつーか、俺さ喧嘩とかした事ないし、そういう肉体労働は得意じゃないというか」


 流石に、そうした事は男として言い難いものがある。本来ならば、


「やってやるぜ!」


 そうポーズを決めたい所ではあるが、情けない話、勇人はモヤシ野郎である。


「知ってる」


 ヤナは平然と、冷めた目を向けて言った。


「でも大丈夫! 勇人に道具を用意したから」


 そう言うと、ヤナはまた魔法のステッキを取り出し、詠唱を始めた。


「……ラー・ソール・トーイ・インセム。善なる父よ、正道を歩みし勇者を祝福をし、悪しき爪を守る鎧、邪悪を退ける正義の剣を与え給え……」


 ヤナはステッキを天に翳し、


「フルゥゥアーマァァァー! カモンッ!」


 と、叫んだ。

 すると、空から一丈の光が差し、勇人の身体を包んだ。

 変身は一瞬。Tシャツと短パンの姿から、当世具足と頭成兜という武者姿に変身した。


「すげぇ……」


 具足は思ったより軽く、不思議と力が漲って来る感覚がある。


「馬子にも衣装ね」


 そう言うヤナを横目に、勇人は様々なポーズを決めて見せた。


「コスプレでお楽しみの所悪いけど、装備を説明するわ」

「あ、お願いします」

「まず、その鎧はオリハルコン製よ。並みの刃物や銃弾は跳ね返すわ」

「ほうほう」

「そして、刀。これは全自動の〔らくちん兼定〕よ。勝手に防御や攻撃をしてくれるの。勇人は、刀の心得なんてないでしょ?」

「ん、まぁ」

「しかも、斬られた相手は電流が流れるようになっているわ。勇人は人殺しなんてしたくないでしょ?」

「当たり前だ!」


 いくら戦国時代とはいえ、人殺しなんかしたくない。自分は普通の高校生なのだ。


「でも〔らくちん兼定〕には、本当に殺しちゃうデストロイモードがあるわ。使わないと思うけど、一応ね」


 勇人は、深く頷いた。出来れば、いや絶対使いたくないが、


「勇人に死んで欲しくないから」


 と、ヤナがその方法を教えてくれた。

 他にも、ヤナと連絡する〔ドラグナイ無線機〕を与えられた。作戦を開始すると、〔大いなる宇宙神が定めし、絶対不可侵のルール〕によって歴史に介入できないヤナは光学迷彩で姿を消すらしい。そのヤナと連絡をとる手段として、〔ドラグナイ無線機〕があるが、これは緊急時のみの使用と限られている。

 その後は、具体的な作戦についてだった。紹運のいる本丸までの間道と、〔協力者〕が用意した抜け道の場所をタブレットを使って説明してくれた。


「よし、行こう。俺でも出来そうな気がする」


 フルアーマー勇人は、ヤナを前にして言った。


「うん。心配じゃないと言えば嘘になるけど、勇人にしか出来ない事だから……」

「紹運を救い、〔正史〕を取り戻すよ、俺。そしたら、ヤナ。俺……」

「ん?」


 ヤナが上目使いで、見上げる。困り眉だからか、その表情には憂いの色が帯びているように見えた。

 すると、周囲が何やら騒がしくなった。


「¢£△%#◆&□※……」


 聞き慣れない言葉。島津兵だろうか。鹿児島に縁もゆかりもない勇人には、全く聞き取れない。


「もう時間がない。行くよ、ヤナ」

「勇人。信じてる」

「おう、待ってろ」


 ヤナがニッコリと微笑むと、その姿は薄くなり、周囲の草木と同化した。

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