7月4日 3
夜中の9時ごろ、雄介と裕子がメールで連絡を取り合っているとき、裕子の母親が裕子に向けて電話が来た、と呼び出した。
「わかった。」
先ほどの雄介の推測と、現状から、裕子は、いつもの明るさは鳴りを潜め、沈んでいた。表情がなく、無機質だ。
「只今電話代わりました。」
「おお、美空裕子だな?」
「え?先生?」
裕子は少し驚いてそんな声をあげた。
「ああ、末原だ。どうだ、体調は大丈夫か?」
「全然よくありません。」
末原の問いかけに、裕子は首を振ってそう答えた。
「そうか……今回の異常事態についてだ。」
末原の声は急に真面目になった。
「え……?」
裕子は状況についていけない。
「今回のことは完全に異常事態だ。原因不明の腕の異常にあの夢、それと夢の女の子のような腕になって死ぬ、ということが起こったと言う事だ。」
末原の声はあくまでも真剣で、一切のふざけた風が無かった。
「お前も、あの夢を見たな?あの夢は、原因は不明だが普通じゃない。あの夢は、何者かによって作為的に見せられたものだ。内容から察するに……神原ん家だ。そもそも、最初にこの状態になったのも神原だ。絶対、何か関係がある。」
末原の断定口調に、裕子は押され気味になってきいていた。
「それと、欠席連絡だが……神原だけ理由が病気になっている。だが、あの声は嘘をついている声だ。その後お見舞いもしに行ったが、ちょっと食い下がっただけでウソがばれそうな子供みたいにヒステリックに叫びだされて、追い出された。多分……神原は死んだ。だが、両親が隠していることから……神原の両親は何かを知っているぞ。」
真琴が死んだ、と予想を口にされたとき、裕子はたじろいだ。だが、真島の時と違って取り乱さなかった。心のどこかで、それが分かっていたのだ。
「この後、辰巳とも連絡を取る。しばらくしたら辰巳と連絡をとってくれ。それじゃあな。」
「あっ……。」
末原はそういって電話を切った。相当焦っているようだ。
「先生……。」
ゆっくりと受話器を置いて、裕子は呟いた。
それから数分経つと、携帯電話に雄介から電話がかかってきた。
「裕子、末原から話は聞いたよな?」
「……ええ。」
雄介の声は固く、余裕がないようだ。
「とりあえず、俺の推測は末原に全部話した。俺たちが持っている情報もだ。普段なら信じて貰えないだろうが……末原は信じた。認めざるを得ない。これはオカルトの類だ。」
雄介の声はどこか捨て鉢になっているようだ。
「あいつは、連絡網を駆使して、1回夢を見ちまった奴を中心に電話をかけまくってくるってよ。多分、ほとんどの奴は信じないで寝るか、我慢できないで寝ちまうかだが……ほんの少し、生きれる人がいるなら、って末原は言ってた。」
捨て鉢になってはいるが、雄介の声には活力が戻っていた。そして、裕子も、眠気が吹き飛んでいるのを感じた。
「そう……私たちも生きましょ。」
「当然さ。ひとまず、寝ないのが先決だ。」
「そうね。」
「「長い夜になりそうだ(わ)。」」
2人の身体には、頼れる先生が頑張っている、と知って活力が戻っていた。
しかし、時間は止まらない。
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(まただめだった……。)
真琴は、部屋の中で、醜く腫れあがってしまった左腕を必死に前に伸ばしていた。その先にいるのは、尋美だ。
「このうでもだめかぁ……。」
尋美は、細い女性の右手を放り捨てて、残念そうな表情をした。それは、どこまでも『無邪気』だ。
(尋美ちゃんに悪気はないのに……これ以上悪いことはさせたくない。)
真琴は必死に自分の意思を届けようと尋美に手を伸ばすが届かない。
(明後日は尋美ちゃんが死んだ日だ。何が起こるかわからない。)
これ以上、尋美に人殺しをさせるわけにはいかない。
(雄介、裕子……頼むよ。)
真琴はそう心で呟きながらも、必死に手を伸ばす。




