第十一章 会見の台本
【ここまでのあらすじ】
塔子は「一連の捏造」は読まないと佐伯へ返した。臨時取締役会に、羽鳥美緒が代理人とともに原本を持って現れる。公開予約を含む納品記録が示され、NAGIの即時停止、第三者委員会の設置、外部委託への会社の関与の公表が決議された。佐伯の原稿は裏返され、承認欄が空白だった原稿に決議番号が入った。
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採決後、真帆と大和田には、法務補助と会見準備に限った一時的な業務許可が出た。権限停止と調査は、続いたままだった。
午後四時十二分、会見場の隣にある控室で、真帆が資料の見出しを指した。
「〈一連の捏造に関する調査結果〉が残ってます」
「消してください」
「代わりは?」
「〈外部委託業務による動画公開と記録変更の調査状況〉」
「長い」
「説明する資料です」
「炎上は、作られたって言いますか」
「最初の道は作られた。そこを通った人の怒りまで、偽物とは呼ばない」
真帆は四十一アカウントの図を一枚抜いた。
「じゃあ、ここも〈四十一人〉じゃなくて〈四十一アカウント〉」
「最初からそう書いてあります」
「確認しました。広報は疑うので」
「さっき、法務に教わりました」
大和田が、三施設の家族へ送る説明文を持ってきた。
「会見より先に、施設へ連絡します。ニュースで知ることにしたくないので」
「お願いします。原因が分かったとは書かないで」
「会社が分からなくしたことは?」
「書いてください」
野々村は、自分のコメントを半分に折った。
「一分と言われました」
「収まりますか」
「切られた後半まで話すので、収まりません」
「では、急がずに話してください」
「広報が尺を諦めるんですね」
「編集させないためです」
午後五時、塔子は七十四人の記者の前へ座った。
カメラの赤いランプが一斉に点いた。
「当社は、昨日午前九時に公開された動画の制作と公開につながる業務を、外部事業者へ発注していました」
会見場の空気が動いた。
「加工された動画が一つありました。そして、加工された記録が三つありました。前者が偽物であることをもって、後者が存在しないことにはできません」
塔子は、NAGIの即時停止と第三者調査を説明した。
最初の質問は、東都新聞だった。
「自社で炎上を起こし、自社で否定したということですか」
「動画の制作と、最初の拡散経路は、当社の発注した業務から生じました。その後の投稿の多くは、実在する利用者、ご家族、介護職の方々によるものです。すべてを作られた反応とは説明しません」
「最終承認者は佐伯執行役員ですか」
「追加実施の決裁者欄には、佐伯の氏名があります。公開予約を含む納品記録も確認しています。一方、事故記録の変更を誰が指示し、保守用アカウントを誰が操作したかは、現時点で特定していません。公開予約の証拠から推定せず、調査を続けます」
別の記者が手を挙げた。
「では、御社の製品が三人を死亡させたんですか」
「現時点で、因果関係は確認できません。確認できない状態を、当社自身が作ったことは確認しました」
ペンを走らせる音が、短い雨のように広がった。
「野々村さんの発言は、どこまでが本物だったんですか」
塔子は隣へ視線を送った。野々村の言葉を、今度は一行も先に書かなかった。
野々村がマイクを引き寄せた。
「私は、認知症の人には選択肢はいらない、とは言っていません」
一度、会場を見渡した。
「私は、その言葉を使う側が、いちばん考えなくて済む、と言いました。だから、その設計にはしない、と続けました」
会場脇で、司会が〈残り十秒〉の紙を持ち上げかけた。塔子は目を戻さなかった。前列の記者は、挙げた手を下ろさずに待った。
誰も一分を知らせなかった。
「今回、会社は私の言葉の後半を切り取りました。そして、偽物の動画を理由に、本物かもしれない事故記録まで、考えなくていいことにしようとしました」
野々村は、折った紙を開かなかった。
「選択肢を奪ったのは、利用者ではありません。会社です。私はNAGIの設計責任者として、第三者の検証に参加します。安全だとも、危険だとも、記録を取り戻す前には言いません」
次の記者が立った。
「会社は被害者ですか。それとも、加害者ですか」
「その二択で、すべてを説明することはできません」
塔子は答えた。
「ただし、今回の動画について、当社は被害者の席から説明しません。当社が発注し、当社が受領し、当社が止めなかったものです」
「NAGIを今夜止めて、施設の夜勤は足りるんですか」
別の記者が訊いた。
「施設ごとに確認します」
答えたあと、塔子は首を振った。
「違います。もう確認を始めています。けれど、今夜の体制について、すべての施設へ返せる答えはまだありません。支援と費用負担の手続きも、終わっていません」
机の下には、佐伯の原稿が伏せてあった。
そこでは、動画も、事故記録も、告発した人も、〈一連の捏造〉という一つの言葉に収まっていた。
塔子の原稿には、〈当社〉が十一回あった。
記者の手が、さらに上がった。
鎮火ではなかった。
ようやく、質問が始まった。
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次章へつづく。




