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第一章 短足のマタタビ売り

あらすじ

数千年に渡りネコ科動物が支配する大陸。

テラコッタ大陸の港町へリン。

そこに闇市でマタタビを売って生計を立てている

シルバータビーのマンチカンがいた。

彼の名は『でんすけ』と言った。

大地を焼き焦がすような西日が、テラコッタ大陸特有の赤い岩肌を重々しく照らし出していた。


ところどころに焼いた土の如き赤岩が露出し、赤錆色に染まるこの大地は、数千年もの長きにわたり猫科動物たちが支配してきた世界である。しかし今、この大陸にはかつてない戦乱の暗雲が立ち込めつつあった。


事の始まりは、狂気の科学者オキシドール・モレルであった。彼が古の氷結層から掘り出し、秘かに復元させたアムールトラの受精卵——そこから生まれた一匹の猛獣は「クセルクセス」と名付けられた。凶暴な野生と冷徹な知性を兼ね備えたクセルクセスは、成長するやいなや創造主であるモレルを噛み殺した。そして、北方の極寒に耐えうるノルウェージャンフォレストキャットの軍隊を組織すると、軍事独立政権を樹立。勢いのまま周辺の町を瞬く間に支配下に置き、「帝国アムレシア」の建国を宣言して自ら皇帝「アムレシアス一世」として即位したのである。


これに対し、大陸の精神的支柱である「にゃんこ聖教」の総主教、『薄紫のメインクーン』レオ2世は即座に動いた。大陸全土の諸公へ向けて緊急の聖書簡を発令。「アムレシアスを正当な統治者として認めてはならない。暴虐なる偽りの皇帝に対し、全霊をもって徹底交戦せよ」と、反逆の狼煙を上げたのだ。


大陸が巨大な戦争の渦に飲み込まれようとしている——そんな時代の大きなうねりの、矢面に立ちやすい場所に、その町はあった。


自由自治都市「ヘリング」。地図上の正式名称は「ヴェルデンハーフェン」といういかめしい名であったが、昔からニシン漁がすこぶる盛んな土地柄ゆえ、市民も行商人もみな親しみを込めて「ヘリング」と呼んでいる。


北は冷たい北海に面し、南には悠々と水をたたえる大河ローゼンバッハが流れる。この町は、名もなき雑種猫たちの聖地であった。数百年前に高貴な血統の支配を撥ね退けて以来、特定の貴族や王家の干渉を受けない自由自治都市として、また陸路と水路が交差する交易の重要拠点として活気と喧喧囂囂に満ちあふれていた。


潮風と干したニシンの匂いが交じり合う闇市の一角。木箱を並べた雑多な露店の前に、一匹の猫が座っていた。


「いらっしゃい! 本日入ったばかりの最高級極上マタタビだよ! 枝も葉も実も揃ってる。ひと匂いすれば天国、かじれば極楽! 落ち込んだ夜も、これさえありゃあハッピーになれるよ!」


威勢よく客を呼び込んでいるのは、シルバータビーの毛並みを持つマンチカンの男、「でんすけ」だ。彼のマタタビ商業グループ『でんすけ商会』は、「3本髭のスイカ」のマークが目印である。でんすけという名も、その毛並みが「でんすけスイカ」の模様に似ていることからついたものだった。


でんすけのトレードマークは、なんと言ってもその極端に短い四肢だ。だが、その短い足で闇市のマタタビ流通を裏からコントロールし、シマを仕切っているのだからタダ者ではない。


闇市という無法地帯で商売をしている以上、当然ながら敵も多く、日々の喧嘩やトラブルは絶えなかった。しかし、実際の彼は優しく、器が大きく、義侠心に溢れる人気者であった。病弱な母親を大切にする孝行息子であり、困っている奴がいれば手を差し伸べる。そもそもマンチカンは短足のみどんな血統でも血統書申請して特権階級になれると、統一国家が存在した頃の『ハンビラキ法典』記されている。

だがでんすけは「ミックスはミックスだろ?」と頑なに平民雑種のままでいるのが彼の吟じとしているところであった。


そんなでんすけが、町中の荒くれ者たちから一目置かれるようになった「ある決定的な伝説」がある。


それは、荒野の韋駄天と呼ばれる俊足の鳥「ロードランナー」を捕獲したという事件だ。でんすけの短足から繰り出されるショートストロークの走法は、驚異的なピッチ(高回転)と圧倒的なパワー(高出力)、そして倒れようにも倒れない低重心を極めていた。一度走り出せば、短い足を残像が見えるほどの超高速で回転させ、地を這うように加速する。人々はその圧倒的な走りを「アメイジング・ストライド」と呼んだ。


このアメイジング・ストライドと、一度高所から飛び立てば短足特有のぶれない軸回転から繰り出される『ムーンサルト・ボディプレス』や『フロントWフリップツインクロー』、『短足の気をつけ姿勢』が空気抵抗を極限まで減らす、『垂直落下式ヘッドショット』などの苛烈な技を持つでんすけに、喧嘩を売る愚か者は次第にいなくなった。


ちなみに、捕獲された災難なロードランナーは、でんすけの手によって立派な燻製の手土産へと姿を変えていた。


でんすけには、死ぬほど惚れ抜いている相手がいた。純白の毛並みと吸い込まれるような青い目を持つラグドールの箱入り娘「マシロ」である。高級キャットフード商家の令嬢であり、本来なら血統書付きで貴族階級なのだが、実をとって商家を営む家柄であった。それでも平民とは身分差があり、さらにでんすけが闇市商人であったため、マシロの両親は交際を猛反対していた。しかし、でんすけがロードランナーの燻製を引っ提げて挨拶にやってきた際、その規格外の行動力と底知れぬ実力に両親は一目置かざるを得なくなり、今や二人の交際は黙認されている。


「ふぅ……今日は湿気が多いな。マタタビの香りが飛びやすくて叶わん」


でんすけが竹籠に入ったマタタビの実を整えていると、可憐な影と艶めかしい影が同時に近づいてきた。


「でんすけさん♪」


上品に微笑んだのはマシロだった。その可憐な容姿の裏には、いざという時に繰り出される鋭利で危険な『プリンセスクロー』を秘めている。


「マシロ! 今日も可愛いね」


でんすけがデレデレと目尻を下げた瞬間、その後ろからマタタビの枝を咥えたペルシャ混じりの美女猫が割り込んできた。


「でんすけぇ。マシロちゃんに鼻の下を伸ばしちゃって。その極上マタタビ、分けてちょうだいよ」


『グダグダのマリア』ことマリアである。マタタビ中毒者であり、マタタビで常にラリッテいる事から付いた呼称であった。ヘリングのドラッグクイーンとして知られる彼女は、ビッチな性格から町中の男たちをお世話にしてきたため、一部からは『聖女』や『天使』、多くのメス猫からは酷く嫌われていた。得意技は股間に首や腕を挟み込んで失神させる『三角絞め』や『腕ひしぎ逆十字』『アキレス腱固め』で、これをされたオス猫たちは歓喜してよだれを垂らしながら意識不明となる。


「マリア、ほら。お前の分だ」


「支払いは不動産屋のモーリスに請求してね」


でんすけは呆れ顔を見せたが、二人の絆は固い。マリアはオス猫を誘惑して割高のマタタビを買わせるでんすけ商会の優秀なセールスレディであり、男女を超えた深い友情があった。また、マシロとは利害関係がないため同性の友人として関係は良好である。ちなみにマシロの父親もかつてマリアにお世話になったことがあり、気まずさから二人の友情に口出しできずにいるのを、マリア本人は知る由もない。


「ふふ。……あ、ムサシさんとサスケさんもいらしたわ」


マシロが視線を向けると、人混みを割って二匹の凄腕が歩み寄ってきた。


一匹はサバトラの正統派マッチョ「ムサシ」。無口で不器用だが、若いメス猫に大人気のイケメンだ。居合の名手であり、一撃必殺の猫パンチ爪付き一式〜十式、噛みつきからの絶望的な『デスロール』、赤い岩石をも粉々に砕くと言われる、スリーパーホールドからの両足爪の『百烈蹴り』を誇る。喧嘩の際に出る甲高い『怪鳥・ボイス』は敵を恐怖させ、歓喜の際に見せる『オットセイ・ターン』は一部のメス猫が言うところ、悶絶するほどセクシーとの事である。


もう一匹はベンガルと茶トラのハーフ「サスケ」。ヒョウ柄と虎柄が組み合わさり、複雑な『おたまじゃくしの大群』のような模様から、メス猫たちから「見ただけで妊娠しちゃう」と騒がれるプレイボーイだ。超低音ボイスゆえ会話が聞き取りにくいのが玉に瑕だが、脅威の運動神経による変幻自在の空中殺法と無尽蔵のスタミナを持つ。でんすけ、ムサシ、サスケの三人は、互いに手の内を知り尽くした絶対に喧嘩にならない大親友であった。


いつもなら、このメンツが揃えばくだらない軽口で盛り上がるはずだった。しかし、ムサシとサスケの表情は恐ろしいほど硬かった。


「……どうした?、二人とも。らしくないな」


でんすけが問いかけると、サスケが超低音の声を絞り出した。


「……でんすけ。北から……ヤバい風が吹いてきやがった」


「アムレシア軍が、北海の北岸まで進出してきた」


ムサシが重く言った。


「北の砦が、一夜にして潰された。アムールトラとノルウェージャン部隊に、防衛隊は壊滅だ」


「なっ……!?」


でんすけは短い前足を叩きつけた。


「総主教レオ2世様の聖書簡を受けて、アムレシアスは完全にタガが外れた」とサスケが続ける。「教団に協力する奴らも、従わない町も、全部『テラコッタの赤土に変えてやる』って息巻いてるそうだ」


「……このヘリングが、戦場に」


マシロが胸元に手を当てて顔を曇らせ、マリアもマタタビの枝を噛み直し、目つきを鋭くした。


「首長どもは日和見を決め込もうとしてるが、悠長な時間はない」とムサシが木刀の柄に手をかける。


「奴らの先鋒隊は、もう目と鼻の先だ」


雑種猫たちが血と汗で勝ち取った自由自治都市ヘリング。美味しいニシンとマタタビの匂い、愛する仲間とマシロがいるこの町。


でんすけはぐっと短足を踏みしめ、低い姿勢をとった。真剣な眼差しだ。


「アムールトラだか何だか知らないが……俺たちの商売とこの町を荒らしに来るって言うなら、タダで通すわけにはいかないな」


「ククッ、そうこなくっちゃな」とサスケがファイティングポーズの構えを見せる。


「俺たちの攻撃を、あの巨大トラに見舞ってやろうぜ」


「フン……ヘリングの誇り、踏みにじらせはしない」


ムサシが短く吐き捨て、マリアも艶めかしく微笑みながら関節技の準備をするように指を鳴らした。マシロもまた、静かに話に耳を傾けていた。


総主教の交戦呼びかけにより、テラコッタ大陸全土が揺れる中、短足のマタタビ売りとヘリングの若者たちの運命の歯車が、いま激しく動き始めた。

◯でんすけ

名前の由来は『でんすけスイカ』の模様に似ているから。彼のマタタビ商業グループは『でんすけ商会』で『3本髭のスイカ』のマークが目印。

優しく、器の大きい、義侠心に溢れる人気者。

ラグドールの『マシロ』が大好き。

ロードランナーを捉えた伝説を持つ。

短足の高回転、高出力、低重心は『アメイジング・ストライド』と呼ばれる。

闇市でマタタビの流通をコントロールしているので、敵も多く喧嘩も多いが『ムサシ』と『サスケ』2人の親友とロードランナーの伝説により、喧嘩を売ってくる猫はいなくなった。

喧嘩の時の技は高い所からの『ムーンサルト・ボディプレス』

同じく高所からの『フロントWフリップツインクロー』※この技は強力ではあるが腕が短いので失敗して自分の顎もぶつかってしまう事もある。ロケット式ヘッドショット(ジャンピング頭突き)。応用技で高所からの垂直落下式ピルムショット(逆さ頭突き)。短足の為、重心や軸がぶれない回転をする。

頭突き技も『短足の気をつけ姿勢』は空気抵抗が少ない。


◯ムサシ

サバトラの正統派のマッチョ。無口で不器用だが

若いメス猫には王道のイケメンとして密かな人気がある。居合の名手で猫パンチ(爪あり爪なし含む)は1式から10式まであり、一撃必殺である。噛みつきからのデスロールは「一度、噛みつかれたら待つのは死のみ」と恐れらている。両手によるスリーパーからの両足爪による「百烈蹴り」は大陸特有の赤い岩石も粉々になると言われている。見た目に寄らず叫び声は異様に高音質で『怪鳥・ボイス』と呼ばれ喧嘩の際はこの声を、聞くともうやられていると言われる。喜んだ時は腕立てジャンプから両手を3回叩くを繰り返すので『オットセイ・ターン』と呼ばれている。一部のメス猫は『オットセイ・ターン』を見ると求愛されている様で非常にセクシーに見えると言う猫もいる。


◯サスケ

ベンガルと茶トラのハーフ。

豹柄とトラ柄が混ざり『おたまじゃくしの大群』の様な模様の為、若いメス猫達からは「サスケの身体を見ただけで妊娠するしちゃうかも」が、定番の決まり文句に、なっている。

こちらは逆にイケボを超えた超低音ボイスで、低すぎて会話が聞き取りにくいのが難点である。

ノリは軽いが声は低いのが特徴。プレイボーイであちらこちらで浮名を流している。人妻もイケる口で夫達から恨みを買っている事も多い。得意技は脅威の運動神経から来る空中殺法で変幻自在。無尽蔵のスタミナ。ベンガル譲りの喧嘩早さもあって一対一では負け知らずである。ムサシが相手なら勝敗は全く予想がつかないが喧嘩した事はないし、この先一生ない。でんすけが相手ならそもそも追いかけれないし、逃げれないので勝負にならない。こちらも大親友すぎて喧嘩はありえない。


◯マリア

ペルシャ混じりの美人猫。

マタタビ中毒者で『グダグダのマリア』。

ヘリングのドラッグクイーン。

ビッチな為、町中の男子はほとんどお世話になった事があるので『聖女マリア』とか『天使マリア』と呼ばれている。逆にほとんどのメス猫より恨みを買っているので嫌われている。マシロだけは利害関係がない為、関係は意外にも良好で数少ない同性の友人である。マシロの父親は彼女らとマシロが仲良くするのは気に入らないがマリアにお世話になった事がある為、割り込んで口出し出来ないでいる。

マリアはこの関係は知らない。

でんすけとはマタタビ商人とマタタビ中毒者の関係で誘惑したオス猫に割高のマタタビを買わせるので上客であり、セールスレディでもある。どんなにでんすけを誘惑してもマシロを好きなでんすけは落ちる事が無い為、そんな意味ででんすけを表向きは嫌っている。実際は男女を超えた友情があり、絆は硬い。

得意技は『三角絞め』股間に首を挟まれた、オス猫は歓喜して涎を垂らしまま失神する。

『腕ひしぎ逆十字』、『アキレス腱固め』と股間に何かしら挟む必殺技が多い。声はも仕草もセクシーで艶めかしい。


◯マシロ

純白のラグドールで高級キャットフード商家の令嬢。本来なら血統書付きで貴族階級なのだが、

名声よりも実を選んで商家を営んでいるので、

1段階敷居が低い家系になっている。それでも雑種の平民とは身分に差があるので、でんすけともすんなりと付き合う事は難しかった。

でんすけが闇市商人をしていた為、更に両親は軽蔑していたのだが、ロードランナー捕獲を境に一目置く様になり、でんすけとの交際は黙認されている。

必殺技は『プリンセスクロー』で普段爪を使わない為に他の猫より鋭利で長い爪をしている。

ここ1番で繰り出す爪は切り口が深くなり危険。

薔薇には棘があるように、マシロにも鋭利な爪がある。従兄弟に天才だが変人で隠遁しているラグドールのアルフォンスがいる。


〇アルフォンス

ラグドール。マシロの従兄。

天才だが気難しく変人・奇人でもある。

見た目は優雅な貴公子で若いメス猫には『アルフォンス様』と呼ばれる。


〇エドワード

黒猫。亡国の王太子を自称する変な奴。

『黒猫のエドワード』

でんすけとは犬猿の仲(猫猫の仲)喧嘩も二回ほどしたことがある。

たぐいまれな軍事センスで常勝だが放蕩癖のある人物(猫)

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