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プロローグ
その夜、タカムラは何かが起きるのを感じ、ただ辻を見下ろしていた。
「迷い出る、いや、彷徨い出る、か……」
自らのその感覚に少しばかりの疲れを感じたように、タカムラは息を吐いた。
すると、鈴の鳴るような声が耳元に滑り込んでくる。
「何か起きる?」
その問いは、彼の足元、やはり宙を浮いて纏わり付いている猫から発せられたものだ。白いその猫は期待に喉を鳴らすようにして、タカムラを見上げる。
「さて、どうかな……」
タカムラはその問い掛けと視線に応えず、白い猫──永い付き合いの相棒に先立って宙に歩みを進めた。
「そういうことを期待するのは、行儀のよいことではないよ、マチ」
たしなめられて、マチ──そう呼ばれたその猫の方は、声なく一声啼くともう一度辻に目をやり、何かを感じ取ったように目を細めている。
それから、素軽く宙を蹴ってタカムラの後を追った。




