速突き対決
「一つ疑問があるんだが指子」
「なに?」
「なんでピンポンが鳴る前に一本だってわかるんだ?」
「えっ?」
指子は驚いた顔をして俺を見た。
「判定機械は音が出るより早くランプが光るのよ」
「えっそうなの?」
「だから副審は判定機械をずっと見てるでしょ」
「今初めて知った。勉強になったよ」
試合場では寸止と相手選手がじゃんけんをしていた。
寸止が後攻になったようだ。
寸止の身長は170cm。相手選手も同じくらいか。
「岩田頑張れ。いつも通りでいいんだ」
「落ち着いていけ」
相手高からの応援が聞こえる。
なんとなくだが向こうの中堅の岩田は頼りなさげな感じがする。
「始め」
岩田は少し考えてから寸止の乳首を突いた。
ピンポンピンポン
「一本」
どうやら先鋒とは違い、速突きをしてこないようだ。
後攻の寸止は中央ラインを踏んで、上半身を向こう側に出した。顔を岩田に近付ける。
ついに公式戦で寸止次郎の超接近術がお披露目されることになった。
会場がざわざわし始める。笑い声も聞こえて来る。特に女子が騒いでいる。
初対面の距離感ではない。いや、知り合いでもこの顔の距離感は有り得ないだろう。
「止め」
主審がラインから外に出る。そこに審判が数人が集まって話をしている。おそらく寸止はセンターラインを踏んでいるし、あの超接近はルール上問題ないのか?ということだろう。
主審が戻って来た。
「始め」
問題なかったようだ。直ぐに再開された。
寸止は顔を近づけて至近距離でじっと岩田の顔を見ている。岩田は嫌がっているように見える。
3分程じらし、寸止は突然突いた。
「ここです」
「うっ」
ピンポンピンポン
「一本」
岩田は寸止めから離れて深呼吸した。心を落ち着けようとしているのだろう。
寸止の近くに戻って来ると慎重に胸を突いた。
ピンポン
「技あり」
「ああっ」一瞬頭を抱えた。
岩田はいつも通りに突けなかったようだ。気の毒だがこれも勝負だ。
後攻の寸止の番になった。
寸止は乳首必中の構えをする。
「ええっ?ここで打撃?寸止大丈夫なのか?」
そして1メートル距離から必中の突きを出した。
ピンポンピンポン
「一本」
「勝負あり。的場高校」
パラパラと拍手が鳴っている。
「何故拍手されてるんだ?」
「距離を空けて命中させるのは、直接突くよりずっと難しいのよ。それに高校生はほとんど打撃が使えない」
「そうか。指子は俺が思っているよりずっと凄い奴だったんだな」
「まあね。もっと早くに気づいて欲しかったけど」
寸止が礼をして戻って来た。
「よくやったな。寸止」
「部長。彼は特殊乳首系でした。こちらが外すのを待っていたようです」
「そうだったのか。お前が中堅で良かったよ」
指子が俺の肩をつついて「ちょっと早く行かなくていいの?」
「あっ俺大将だ」
指子は呆れている。
俺は慌てて立ち上がる。
「俺が決めて初戦突破するからな。見ててくれ寸止」
「はい部長」
じゃんけんをする。俺が先攻だ。
俺は身長は172cm。相手はもっと大きい。175cmくらいか。
俺は手をブルブルしてジャンプする。
「俺は自由なんだ」
相手高校側から声がする。
「部長頑張って」
「早守先輩ファイト」
速突きの早守。俺は勝てるんだろうか?
目をつぶって集中する。
乳首乳首乳首乳首乳首早守の乳首。
そして目を見開くと相手の乳首が光ってくる。
「きたな」
俺はスット突く。
ピンポンピンポン
「一本」
早守は直ぐに突き返してきた。
ピンポンピンポン
「一本」
俺も突く。
「一本」
相手も突く。
「一本」「一本」
「一本」「一本」「一本」
「一本」「一本」「一本」「一本」
速い突きだ。先鋒の近藤よりずっと速い。
応援の手拍子がどんどん速くなる。これで磁場流は乗せられて負けた。
「気を付けて」指子が叫ぶ。
わかっている。向こうの得意な速突きに付き合うべきではない。しかし俺は一歩も引く気はない。とことん突き合ってやるつもりだ。磁場流の仇は俺が討つ。
「一本」「一本」「一本」「一本」
「一本」「一本」「一本」「一本」
「一本」「一本」「一本」「一本」
「一本」「一本」「一本」「一本」
とても速い突き合いになる。ミスが出るのではないかと不安になってくる。
早守の突きが俺の予想を超えた速さになった時、突き合うべきではなかったと後悔していた。
しかし、もう速度を落すことは出来ない。手拍子に乗ってしまったら最後、外れることは出来ない。リズムが崩れて確実に負ける。
俺は崖っぷちに追い詰められるが、集中力は高まっていく。
視野が狭くなり、相手の乳首が強く輝く。周りの声も手拍子もだんだんと聞こえなくなる。ただ光を突いているだけになった。
意識が奥深くに落ちていく。
真っ白い光。心地よい光。
時間が止まっている。
すると突然
「勝負あり。的場高校」
俺ははっと気が付く。一瞬で視界が元に戻った。
歓声が沸き起こる。
「あれ?勝ったのか俺?」
磁場流と寸止が興奮して俺の元へ走ってくる。
「やりましたね部長」
「凄い速さの突きだったっすよ部長」
「え?そうなの?」
両校選手が集まって礼をした。佐藤高校の選手は悔しそうな顔をしている。
特に部長の早守は得意の速突きで負けたとあって、とても悔しそうだ。眼を赤くして声を荒げている。
俺達は指子がいる所に戻った。指子は驚いた顔をしていた。
「5分も高速で突き合っていたのよ。相手の選手は根負けしてたわ」
「会場も盛り上がってましたよ部長」
「そうなのか?俺はよく覚えてないが1回戦勝つ事が出来て今はホッとしているだけだ」
俺の目の前に佐藤高校の校長がやって来た。
「うちの早守に速突きで勝った選手は初めてだ。君は名前は何ていうんだい?」
「父首中です」
「そうか父首くんか。君の名前を覚えておこう」
そう言って校長は向こうに戻って行った。
「凄いっすね。名物校長が話しかけてくるなんて」
「ああ。そうだな」
俺はわざと気のない返事をした。本来の俺なら有頂天になっているだろう。だが気を抜いては駄目だ。すぐに凡人以下になってしまう。
「速突きの間、部長は人が変わったみたいでしたよ」
「よく覚えてないんだ」
「光が、輝きがとか言ってたっす」
「光?なんだそれ?」
「本当に覚えてないの?」指子が怪訝そうな表情で俺を見ている。
「ああ。それで次の試合はどこの高校になるんだ?」
「それが、どうやら去年の優勝高のようです」
寸止がトーナメント用紙を出して広げる。
落ち込んでるのかと思ったら、寸止はやる気満々の顔をしている。まさか優勝校に勝つつもりでいるのか寸止次郎?
神奈川県立壁苔高校。
全国の中学から優秀な乳首当て選手をスカウトして、選手層が厚い。二年で部長の轟霧笛はプロの実力があると言われている。
「凄い名前だな。轟霧笛」
「ムテキングと呼ばれています。今まで学生の公式戦で負けたことがありません。高校を卒業したら直ぐにプロになるようです」
「そうか。俺は乳首当て競技がもっと盛り上がればいいと思ってるから、凄い選手が出てくるのは素直に嬉しい」
「何呑気な事を言ってるんですか。このプロ級の選手と部長は二回戦で対戦するんですよ」
「俺がムテキングとやるのか?まあ勝つのは無理だろうな。それでお前達はどんな選手とやるんだ?」
「先鋒の岩永辰也は乳首スナイパーと呼ばれています。遠距離からの打撃を得意としている選手です。指子先輩系ですね」
「なるほど。そいつが磁場流とやるんだな」
「中堅の胸筋太郎は相手のミスを誘う特殊乳首型だと思います。対戦した選手のほとんどは一本取れずに負けています」
「まさにお前にうってつけじゃないか寸止」
「そうですね」
「高校のトップ選手と対戦できるのはいい経験になるだろう。胸を借りるつもりでいこう」
「はい」
「よし。じゃあ頑張ってみようか二回戦も」




