ピュアヒーラーの苦難
「子爵の長男に逆らったことを後悔させてやるぞ! ピュアヒーラーのクズ!!」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと来てくれ。孤児たちは馬車旅で疲れているんだ。少しでも早く部屋で休ませてやりたい」
「あの世でお寝ねしな! 平民と奴隷共!」
ブンブン!
頭に血が上ったバカの剣捌きなんて目をつぶってても躱せる。
……だが、ここからどうすればいいんだ?
俺みたいな非戦闘職が子爵の長男に傷をつけたら即刻死刑だろ?
「アホか、そんな直線的な大振り攻撃が許されるのは素人同士の戦いだけだ。もっとコンパクトな構えで、相手の移動先を先読みして振り下ろせ」
「なんだと!! 非戦闘のゴミが俺に指図するんじゃない!!」
……いつもの癖で戦い方を教えてしまった。
騎士団の教育係を兼ねている時のことを思い出してしまうな。
あの時も小言でピュアヒーラーのクズとか言われてたな。
そして、ただ普通にしているだけなのに不評をかいまくったせいで解任されたな。
「はぁはぁ、逃げることしか出来ないのか!?ピュアヒーラーのクズ!!
お前ら!取り囲んでリンチにしてやれ!!」
子爵の長男様が部下たちに合図を送った。
それも無駄にゾロゾロ出てきた。木偶の坊とはいえ、何十人も集められたら十分に驚異だな。
「バカだな。頭数さえ揃えたら勝てるとでも思ったのか? 大魔法を打たれたら、一瞬で盤面を返されるだろう。それに」
バシュ
俺は長男様の後ろに回り込んで腕で首を絞め、もう片方の手で首筋にナイフを当てた。
「こうしてやれば、棒立ちしている木偶の坊共は何も出来ないだろう?
とっとと兵士共に武器を捨てさせろ」
周りを取り囲んでいる子爵の兵士共は、武器を投げ捨てて手を上にあげた。
「うぐぐ、ピュアヒーラーのクズが……殺して……」
首を絞めているほうの腕に力を込める。
「生殺与奪の権はこちらが握っているんだぞ?
謝罪と命乞いをしたらどうだ?」
「これ以上ピュアヒーラーに頭を下げろだと?
俺様を誰だと……うぐぅ」
バカなやつ……、少し眠ってろ。
バタン
手刀で首筋を強打してやると、長男様はそのまま地面に倒れ込んだ。
「おい兵士共! さっさと長男様を館の中まで運べ!
こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまうぞ?」
兵士たちが俺を取り囲み始めた。
「ピュアヒーラーのクズ!!
自分が何をしたのか分かってるのか!?」
「暴れていた長男様を眠らせて大人しくしただけだ。
この後の対処は、チココのバカと話し合ってくれ」
「ふざけるなよ!!
ここのインフラを掌握しているからって好き勝手しやがって!!
今すぐ殺してやる!!」
兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
……こいつら全員眠らせると、さらに面倒になりそうだな。
一人一人のレベルが低いとはいえ、十数人相手に攻撃を避け続けるのは辛いものがあるぞ?
「はぁ、チココのバカになんとかしてもらおう。
パールヴァティー! 無線機をよこせ! お前のならチココのバカに直通できるだろう」
ボン!!
パールヴァティーに全力で無線機を投げつけられた……
俺が何かしたのか?
「チココのバカか? シュライグ村を治めている子爵の長男に因縁付けられて交戦中だ。なんとかしてくれ、オーバー」
「……そのままくたばれ、オーバー」
チココのバカも同じ対応をしてきた。
たかが子爵ごときに、何故ここまで腰を低く対応するんだ?
「冗談言ってないでさっさと判断しろ、そろそろ避け続けるのも飽きてきたぞ?」
「あのさ、そこの子爵様は一番のお得意様(便利な道具)なんだけど? 奴隷以下の獣人族である僕が色々なパイプを持てたのは、すべて子爵のご協力があってこそなんだよ」
「昔話とか苦労話とかに興味はない。具体的には何をしたんだ?」
「……ヒールで記憶を改ざんしたり、記憶窃視のヒールで脅迫の材料を集めたりしたの。今となっては、僕の騎士団がインフラのほとんどを握ってるから、もう言いなりだけどね」
「なら、この状況を解決できるだろう? 俺が銃を抜きたくなる前になんとかしろ」
チココのバカが言葉を詰まらせる。
5秒ぐらいの間をおいて、ようやく話し始めた。
「いや、3ヶ月前ぐらいに僕たちの弱みも握られてるんだよね……
てめぇがカラメルのババアに漏らした機密情報のせいでな!!
だから、こっちもあまり強く出れないというか……
いい感じに捕まってくれない? 色々手を回して無罪にするから」
「何も考えずに追放するからそうなる。あと、俺自身は機密情報を漏らしていない。
カラメルに頭の中を覗かれただけだ、俺はただの被害者だ」
「うるせぇ!! 分かった分かったよ! 少しだけ我慢しろ!!」
しばらくすると、館の中から子爵様が血相を変えて出てきた。
「今すぐ武器をおろせ!! シブースト様を客室にご案内しろ!!」
再び兵士たちが荷物を運び始めた。
……最初からそうしてくれよ。
非戦闘とか、ピュアヒーラーとかというだけで、なんでここまで苦労しないといけないんだ?




