151 海の中へ
職人通りから近いパン屋さんの扉を開けて入って行くと、焼き立てのパンの香りが充満している。
かなえは動物ギルドを始めた頃、このお店の店員さんに印刷職人のジョディ―さんを紹介してもらったので、なんとなくこのお店に愛着がある。
それにリトくんの好きな雑穀パンがあるので、何度か買いに来ていた。
「いらっしゃいませー!」
いつもの店員さんがカウンターで迎えてくれる。
かなえはリトくん用の雑穀パンと、ピーちゃんの好きなコーンパン、それにかなえ達が食べる食事用の、パンをいくつか購入する。
お店を出ると、歩きながらシロンにたずねる。
「シロン、ジョーさんは今どうしてる?」
「仕事場で作業をしています」
そうか……それならちょっと行ってみよう。
かなえはジョンさんを紹介したままで、気になっていたのでどんな感じか聞きに行くことにした。今日はジョンさんが休みだが、ジョーさんは働いるようだ。
まかない亭で7人分テイクアウトを注文し、1人分をジョーさんの差し入れ用に別にしてもらう。まだお客さんはいるが、ピークは過ぎているようですぐ出来あがった。
すっかり常連になったかなえは、
「へぃ、まいど―」とまかない亭の大柄なシェフに見送られ、ジョーさんのお店の横にジャンプして行く。
扉を開けて中に入って行くと何か作業をしている音が奥から聞こえて来る。
「ジョーさん、かなえでーす」と、大きな声で叫ぶと、
「ちょっと待っていてくれー!」とジョーさんの声が聞こえて来る。
待っている間にお店の中を見ると、今までとは違いきれいに掃除がされ、いくつかジョーさんの独特な、丸みのある家具が飾ってあった。
うーん、この椅子可愛いなぁー。
かなえは家具を見ていると、奥から足音がして来てジョーさんが出て来る。
「ジョーさん、こんにちは。どんな感じか様子を見に来ました」と、かなえは言いながら差し入れのまかない亭のテイクアウトを渡す。
「おー、すまないな」と、ジョーさん。なんだかいつもより顔色も良く、表情も明るい。
「あのー、ジョンさんはどんな感じですか?」
「あー、今日明日は休みだが……まぁーいろいろと助かってはいる」と、ジョーさん。
口下手なジョーさんの話をまとめると、ジョンさんがここに通うようになってから、毎日1食はちゃんとした食事を取るようになり、体調が良くなったそう。
それに、いつも後回しにしていた、お店の掃除や家具の陳列も出来たこと等いろいろと改善されているようだ。
「だから、正式にここで働いてもらいたいと思っているんだがどうだろう?」とジョーさん。
「私は良いと思いますが……後はジョンさん次第ですね。直接本人に聞いて見て下さい」とかなえは伝える。
ジョーさんが言うには、ジョンさんは手先が器用で丁寧なので家具職人に向いているそうだ。
それに、ジョンさんは年上だし柔軟な大人だから、ジョーさんの偏屈さにもうまく対応出来ているんだろう。
でもジョーさんの家具作りの腕前を引き継いでもらうには、誰か若者を雇ってもらいたいところだ。
もう少しジョーさんが人と一緒に働く事に慣れて来たら、もう一度聞いて見ようとかなえは思う。
「ジョーさん、その差し入れをすぐ食べなければコンテナに入れておいてくださいね」
「ああ、すまないな。今から食べさせてもらうよ」とジョーさん。
かなえはだいだい様子がわかったのでお暇する。
さぁー、そろそろ様子を見に行こうかな。
かなえはジャンプで、オーシャンドームへ移動して行く。
「あー、潮風が気持ちいいなー」
広い海を眺めていると心が癒される。
「シロン、みんなはどうしてる?」
「はい、中央の島に集まっています」
えっ? どうしてだろう……。
かなえは海から突き出している山の頂上の島に焦点を当てると、
あら? 本当だ。
なんとなく動物達が島の端の方に集まっているのが見える。
かなえはそこへめがけてジャンプして行く。
『あー、カナカナ』と、かなえに気が付いたのは、ジジさんの頭にとまっていたリトくんとピーちゃん。
アニマルドームからの動物達も勢ぞろいしている。
「みんな、こんなところに集まってどうしたの?」と、聞いて見ると、
『あら、かなえ。この子達が面白いことをしているから見ていたのよ』と、マリー。
すると急にモモちゃんと、ルークスが島の端から海にダイブして行った。
『キャー!』
『ボクもー!』
モモちゃんは助走をつけて海に跳びこみ、水しぶきを派手にあげて中に沈んでいく。
ルークスは1メートルの空中階段機能を付けているので、少し衝撃は少ないが同じように海の中に飛び込んで行った。
そしてしばらく見ていると、水面まで浮かんで来た。
『中にいっぱい水があるよー』とモモちゃん。
『うん、すごーく奥まであるよー』と、ルークス。
この辺りは一番深いので水深1000メートルはある。
アニマルドームの川や貯水池と比べると、驚くほど深く感じるだろう。
そんなルークス達の飛び込む姿を、他の動物達が見ていたようだ。
「シロン、動物達用の酸素ボンベみたいなものが無いかな?」と、かなえはダメもとで聞いて見ると、
「はい。ボンベではありませんが、海の中を泳ぐ事が出来ます」と、シロン。
出て来たのは半透明なバニーちゃんや猫達にも着けたブレスレットだ。
でも動物用だからアンクレットが正解かな……。
シロンに寄ると、このアンクレットの水中歩行機能により、体中に薄い酸素の層をまとう事で、潜る事が可能になるようだ。それに水圧にも対応しているようで、この海の深さなら底までも行けるそう。
かなえはアンクレットを取り出して、動物達に説明すると、
『へー、水の中でも苦しくならないのかい?』と、リキさんが一番に興味を示す。
『あたし、試してみたいわ』と、クイーンも。
『それならわし達も行ってみないとな』と、ジジさんも乗り気だ。
『ボクも行ってみたーい』と、なんとリトくんも海に入ろうとしている。
うーん、どうしたらいいかな。
「シロン私も海の中に入れるの?」
「はい、ブレスレットで入る事も出来ますが、普通にスクーターやカーペットでも潜ることが出来ます」
なるほど……それなら大丈夫そうね。
かなえは動物達用のアンクレットを出してもらい、リトくんとピーちゃんはかなえの運転するスクーターで一緒に連れて行く事にした。
「はーい、それではみんなの足にアンクレットを付けますねー」
かなえは動物達の足と海から上がって来たモモちゃん達にも説明してアンクレットを着ける。
「シロン、このアンクレットのスイッチのオンオフはこすればいいの?」と、聞くと、
「いいえ、さすがにそれは危険ですので、毎回この海に入る時にかなえが装着し、出る時には取り外してください」と、シロン。
そうね……海の深い所で謝ってアンクレットの機能がオフになったら取り返しがつかない。
毎回かなえが付けるのが一番いいのだろう。
「では、今から海の中に入りますねー」
かなえはリトくんとピーちゃんを肩にとまらせ、シールドを掛けてスクーターを移動させて行き、水中ボタンを押して海中に入って行く。
他の動物達も、かなえの後に続いて潜り始める。
『わー、水のなか―!』
『きゃーすごーい!』と、リトくんとピーちゃんは羽をパタパタさせて興奮している。
かなえのすぐ後ろでは、ルークスとモモちゃんがもう魚の様に泳いでいる。
さすがに他の動物達は緊張しているようだが、ちゃんと水中でも呼吸が出来ると確認できたのか少しづつ深く潜り出した。
「みんなー、大丈夫ですかー?」と、かなえが声を上げると、
『ええ、問題無いよ。苦しくないわー』とマリー。
水中でもちゃんと会話も出来るようだ。
普段は重そうなジジさんとババさんも水中では、上手に足を使って泳いでいる。
キングスとクイーンは長い足を使って、結構なスピードだ。
リキさんは泳げるのが嬉しいのか、足を動かし過ぎてうまく進んでいないが、マリーはなかなか上手に泳いでいる。
まだ水面に近いので明るく、みんなの様子が良く見えるがルークス達はどんどん下の方へ泳いで行っているようだ。
「シロン、水中でもジャンプは出来るのよね?」
「はい、地上と同じように移動できます」
そうか、それなら何かあってもジャンプして行けるから大丈夫ね……。
かなえは注意深くみんなの様子を見守る。
「シロン、海の底は暗いの?」
「はい、水深100メートル位の地点でもう真っ暗になっているはずです」とシロン。
「海の中を明るくするライトみたいなものは無いかしら?」とかなえは聞いて見ると、
「そうですね。それなら水中の山や岩、石や砂自体に光の成分を混ぜてはいかがでしょう」
そうか、それは温泉の浴槽や床に使ったやり方ね。
かなえはその場で画面を表示し地図上に水中の山を出して、光る素材に変えてみるが、水面に近い所にいるので、底の方がどれくらい明るくなったかわからない。
なので、かなえはジャンプで海底まで移動する。
「わー、何ここ!」
水深1000メートルのこの辺りは山の斜面が薄く光っているが、ちょっと不気味な雰囲気だ。
『ここくらーい!』
『やー!』と、リトくんとピーちゃんもこの辺りは苦手な様だ。
「明るくするからちょっと待ってねー」と、かなえは海底の岩や砂なども光る効果を付け、山の斜面の光も強くしていく。
すると、フワーッと辺りが明るくなり、水底の様子も良く見えるようになった。
『わぁー、明るいよー!』
『うん、面白いねー!』と、リトくん達ももう怖く無いようだ。
かなえはしばらく海底を散策しながら灯りを追加して行く。




