表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

02:I am Alive

(注)グロテスクな表現の苦手な方、お気をつけください...

 両親の記憶はない。どこに住んでいたかも覚えていない。

 妹がいる。でも名前は思い出せない。

 私がいる。名前は思い出せない。

 自分が何なのか、思い出せない。

 眼に映るのは、夜の黒。家々の煉瓦の茶色。鮮やかにぶちまけられた血の赤。虚ろな目をした妹の横顔。

 鼻に届くのは、汗臭い自分と妹の匂い。生ゴミと人体が判別できないほどの腐臭。血と硝煙のむせるような匂い。

 耳に聞こえるのは、すぐ近くから響く銃声。倒れる兵士の喘ぎ。路上の肉の山に群がるハエの羽音。

 私と妹は、すでに変色しきったリンゴを齧りながら、路地裏に蹲っている他に無かった。恐怖や不安、絶望などは全て涙と共に枯れ果て、後には冷たい虚無感だけが残っていた。


 私は、死んでいる。

 私は、地獄にいる。


 そんなことを思った。

 それが五年前、私の最初の記憶。


 散りゆく兵士たちの喘ぎは、いつしか生き残った兵士たちの歓声へと変わっていた。立ち込める血と硝煙の匂いは相変わらずで、胸の虚無感も変わらなかった。

 目の前に若い男が立っていて、声をかけてきていた。何を言っていたかは覚えねいない。顔も見なかった。ただ、妹と二人、膝を抱えて座っていた。

 しばらくして対話が望めないことを悟った男は、妹と私を抱え上げ、近くに降りた軍用ヘリに、数人の他の男と共に乗り込んだ。

 どうせ殺される。抗う気は起きなかった。

 無機質なローター音に包まれながら、人のそれとは思えないほどに痩せた自分の手に目を落とし、ただひたすらに最期を待った。

 耳に届いたのは、名も思い出せぬ妹の細い歓声だった。

 声につられて顔を上げ、ヘリの窓から外の空を、見た。


 目に、焼きついたのは地平線に昇り来る神々しい朝の太陽、美しいグラデーションを湛えた早朝の空、そして、それらに魅了され、光を失っていた瞳を輝かせる妹の姿だった。


 その目を見た時、私は、自分の世界に色が戻るの感じた。ただただ赤と茶色と黒に塗りつぶされた私の目に、様々な色彩の光が飛び込み、凍った心を溶かしていく。思い出したように目の奥が熱を帯び、冷え切った体のどこに残っていたのかもわからないような暑い液体が止めどなく頬を伝った。

「綺麗だろう」

 不意に、男がつぶやいた。振り向けば、先ほどヘリに乗せてくれた男が、同じように朝日を見つめていた。

「はい、綺麗です」と答えようとしたが、声は出なかった。喉は枯れ、僅かに起こせる喉の震えは嗚咽に飲み込まれて声にはならなかった。

 気持ちだけでも伝えようと、必死に首を縦に振る。涙の粒が跳ね、差し込む朝日を乱反射する。

 男はそんな私を見て小さく笑ってから、再び窓の外へと視線を移す。

「この世界は美しいところなんだ。だがそれも、薄汚れた人間たちの手で汚染されていく。物理的にも、精神的にもな。だから、お前らみたいな若い、これから『綺麗』になれる連中をおいそれと野垂れ死にさせておくわけにもいかないんだ」

 糖分の足らない私の頭には、そんな彼の哲学は簡単には入ってこなかった。しかし、それに続いた言葉だけは脳裏に焼きついている。


「父親だろうが兄貴だろうが叔父だろうがなんでもいい。俺のところに来い。俺が家族になってやる」


 私は、生きている。

 私は、美しく愛しいこの世界にいる。


 そんなことを思った。

 それが五年前、直井葵誕生の記憶。


 そして五年。傭兵から個人暗殺家に身を移した直井硝也の元で戦争恐怖症の克服及びエンジニアリング訓練、一部の戦闘訓練を受け、暗殺家専属エンジニア兼補欠戦闘員、直井葵と直井日向が、ここにいる。

今回は葵の回想回でした。

これですこ〜しバックグラウンドがわかってきましたかね^^;

こんな感じのグダグダで続いていく予定ですが、お付き合いください(≧∀≦)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ