追跡15 空いた時間
殺風景な自分の家。あの屋敷と比較したら・・・なんて考えたくないな。俺の家は俺の家だ。うん、ただいま。
しばらく、ゴロゴロしていたが、落ち着かない。おじさんはというと俺をおいてまたどこかへ行ってしまった。本当に何してんだ・・・。
そういや、朝飯まだだった。って言っても昼が近いのだが・・・冷蔵庫・・・賞味期限切れ・・・こいつも・・・これも・・・食えるやつはないことはないが・・・しょうがない。パンでも買ってくるか。作るのめんどいし・・・。
外へ出て、隣の町に行くことにした。
町自体は栄えており、商店街のイベントは多々あったり、数々の店においてもいまだに繁盛していたり、ビルこそないものの人が多いことは確かだ。俺の住むところとは大違いだ。隣とはいえ、いきなり風景変わるし・・・。
ショッピングモールもあり、その中のパン売り場に行く。テキトーにボリューミーかつ安い、そう、あくまで安いパンは・・・
いつものように悲惨な選び方をしていると、かすかだが唸っている声が聞こえる。その声の方向に目をやると女の子だった。髪はツーサイドアップの黒髪、小柄で、その体にはやや大きいであろう白の服とホットパンツ。
さすがに見すぎたのか、こっちに気づかれる。そしてこっちに向かって歩いてくる。
「ねぇ、おじさん、今、私のこと見てたでしょ。」
「・・・おじさんじゃねえけどな・・・」
「じゃあ、どれにしようか迷っていた女の子を見て、興奮するおじさん。」
「だから、おじさんって言われるほど年取ってねえって・・・興奮ってなんだ・・・」
「はぁ・・・きも・・・」
いきなり何でこんなことを言われんきゃならんのだ・・・。かわいい子だなと思ってしまった俺の青春を返してほしい。よく見ると牙?犬歯?吸血鬼みたいな歯がちょこっと出ている。最後の言葉さえなければ、百点満点でした。
「・・・思うんだけど・・・あんたってここに来たの初めて?」
「いや・・・結構来てるが・・・なぜそんなことを?」
「だって、ここのパンよりもう一つ向こうのパン屋のほうが有名なのよ?人も多いし・・・」
「・・・高いから無理。」
その女の子は俺の言葉に驚いていたようだが本当である。たしかに少し奥にあるパン屋のほうが人が多いし、多いなりに理由があるのだろう・・・。でも昔から・・・つっても俺の名前がなくなった頃って言うか、記憶がよくわからん時からだから、そんなに来てはいないのだが、結構ここにきているつもりだ。やや高いだけで俺は諦める。これぞ経済的だろ?たった数円の差だが・・・美味さより金である。
違うか・・・
「この店に来る人ってあんまいないし・・・あんたみたいな若い人がくるって珍しい。」
「それはおまえもだろ・・・」
「わ、私は、ここのパン屋のおばあちゃんにお世話になったからっ!」
「・・・そうなのか。なんつーか・・・えらいな。」
「え?そ、そう?・・・」
頬が赤いな・・・相当そのおばあちゃんに何かあるらしい。話を聞いてる間にパンを買い、帰る。
「小さいころお世話になったし・・・って話聞けや、こらあ!!!」
「・・・ほかに聞いてくれるやついるんじゃねえの?そこのおじいちゃんとかさ。ってことで俺はこの辺で・・・さらばっ!!」
猛ダッシュ。かわいいけど関わってるとめんどそうだ。
町の喧騒を抜け、だんだん静かになるところまで歩いてきた。いつの間にか気だるけに歩いていたが、その足は動きを止める。
「・・・おにーさん・・・おにーさんっ!」
「姫乃・・・」
そうか・・・いつの間にか辻家のほうまで近づいていたのか・・・なんか、「おにーさん」に戻ってるけどまあいいか。
「ぜんぜんこないから・・・姫乃との、やくそく、わすれちゃったの?」
「わるいわるい、いろいろあってな・・・ん~・・・よしよし。」
姫乃の頭を撫ででやる。
「おにーさん・・・おねがい・・・」
「え?なにを?」
「なんかね、ここがきゅうきゅうってしてるの、よくわかんない、おにーさんと会うといつも・・・だから、その・・・ちゅ、ちゅ、ちゅ・・・ぅ・・・し・・・て?」
姫乃はかわいい手を胸にあてて言う。なんか途中から声が小さくなって聞こえなくなった。恥ずかしそうな姫乃が目の前にいる。
「え~と・・・俺はどうすればいいって?」
「え!?やぁ・・・あの・・・なんでもないよ・・・」
「そう?ならいいんだけどさ・・・」
「あ、おかあさんね、いつもより、はやく、かえってくるようになったよ。」
「そっか・・・よかったね、いっぱい遊んでもらいな。」
「うん!」
めいいっぱい撫でてやった。少々荒かった気がする。しばらくは会えなくなりそうだし・・・。姫乃を家まで送り届け、俺は自分の家へと足を走らせる。
家の目の前には、井手口さんと満月が立っていた。もう夕方だ。
「はやいな、おまえら・・・」
「寝すぎな変態くんとは違うしねー」
「悪かったな・・・」
情報は確かなようだし・・・とりあえず、今俺にできること・・・
それは――――――――――――――――
空腹を満たすことだ。




