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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~終幕編~
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第119話 市長




 ───激しいエンジン音を響かせながら荒野を疾走する、魔導車の車内。



 無明の層の最奥から連行されたミカ、そして無傷の完全攻略を成し遂げたアロンとリンカの3人を後部座席に乗せ、車はセイドウの街へと帰る途中にあった。


 車輪がガタガタと地響きを立てて跳ねるたびに、重厚な車内には、不毛な大地の暑苦しい空気がそのまま入り込んでくるかのようだった。



「おい……、一応言っておくが……気をつけろよ?」



 オルテ様は神妙な顔つきを浮かべてアロンたちに詰め寄った。


 その双眸に宿るのは、セイドウの街全体の法と秩序、そして数万人もの住民の命を両肩に背負う、冒険者ギルドの最高責任者としての厳格な威厳だった。


 真正面から対面しているからこそ、その眼光に込められた並々ならぬ真剣さが、肌を刺すような圧力となって車内を支配していく。



「……なにが?」



 アロンは、相変わらずの締まりのない顔で首を傾げた。


 その視線には危機感など微塵も存在せず、いつもの気の抜けた平熱がそのまま維持されている。



「街では、すでにお前たちが無明の層を完全攻略したという情報が出回っているんだ……この意味が分かるな?」



 オルテ様は声を低め、その言葉の持つ重大な危機感を警告した。


 最高峰の絶望が陥落したという報せ……それが街に響き渡れば、これまでの閉塞感が嘘のように、民衆がどれほど尋常ではない狂騒に沸き返るか。



 ただでさえ今のセイドウの街は、ギルドの緊急声明によって大混乱の渦中にある。


 そんなお祭り騒ぎのド真ん中へ、攻略を成し遂げた張本人たちが何の防備も覚悟もなく正面から突っ込もうものなら、待ち受ける民衆の津波のような歓声と熱狂を、全身にまともに食らうことになるのは火を見るより明らかだった。


 もみくちゃにされるか、あるいは身動きすら取れなくなるか──文字通り街全体の熱狂が一心に押し寄せてくるであろう、逃げ場のない狂乱。



 オルテ様が伝えたかったのは、帰還した瞬間に彼らを待ち受けている、そんな大パニックに対する現実的な警鐘だった。



「ああ、わかってる……」



 アロンは、言わずもがなだ、とでも言いたげに手でオルテ様を制した。


 その淀みのない手の動きと、妙に確信に満ちた深い頷き。



 自分の忠告を遮るように差し出された手のひらと、どこまでも自然体なその返答。


 実にあっさりとした態度。



 面倒な理屈を長々と並べ立てずとも、こちらの言葉の意図を瞬時に、かつ正確に汲み取ってくれたのだと察し、オルテ様は喉の奥で小さく感嘆の息を漏らした。


 この男がただ無鉄砲に剣を振るうだけの跳ね返りではなく、これからの面倒な情勢についても十分に話が通じる相手なのだと、胸の内で確かな安堵を抱いた、まさにその直後。



「出回っているんだろう? 俺を市長にしろという署名が」


「おうおう、そうそ────は?」



 オルテ様の思考が、あまりにも突飛で、あまりにもくだらないそのアロンの言葉によって、音を立てて完全に停止した。



「優秀すぎて怖いな……なぁリンカ? ……ヒットだ、もう一枚くれ」



 アロンはフンと傲慢に鼻を鳴らすと、手元に配られたトランプのカードを見つめながら、人差し指で床を「トントン」と小気味よく叩いた。


 それを見た、隣に佇んでいたミカは、手慣れた手つきでアロンへと静かに一枚のカードを手渡す。


 もう何戦も繰り返されてきたその役割を淡々とこなすように、指先が滑らかにトランプの紙片を滑らせていく。



「お前の頭よりは怖くないと思うぞ? ……私はいらん」



 リンカは心底呆れ果てたような、冷ややかな白い目でアロンを見つめると、手のひらを下に向けて、左右に「横に振る」ジェスチャーをしてカードの追加を拒絶する。


 呆れと冷徹さが極まったその眼差しは、勘違いの極みに達しているアロンの頭脳を正面から憐れむかのようだった。



「アロンさんは、もう一回します?」



 ミカは手元のカードを器用にシャッフルしながらアロンへと問いかけた。



「もう結構だ……では勝負と……ってなんだ?」



 アロンは手元のカードを床へ叩きつけようとして、不意に、向かい側から凄まじい形相でこちらを睨みつけているギルド長の視線に気づき、心底不思議そうに首を傾げた。


 深く腰掛け、話が通じる相手だと安堵した直後のオルテ様の視線が、今や怨霊のそれのように禍々しく濁っていることに対して、男は純粋な疑問を抱いている。



「なんだその斜め上すぎる発想は……一体何食ったらそんな考えが生まれるんだよ」



 重厚な車内に響き渡るオルテの呆れを通り越して漏れ出た声。


 署名活動などという、あまりにも予想外の返答。



 アロンのその底なしの俗物っぷりの前に、激しい頭痛とともに完全にオーバーヒートを起こしていた。





第120話は、日曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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