4.湖に到着する
ピーヒョロロロと、鳥の鳴き声がし始めた。辺りも夜が明けはじめて淡い水色になってきている。
俺は、暖かさを感じながら、村に安全に帰るためにしなくてはいけないことを考えていた。まず、子供に俺のそばから離れないように言い聞かせねばならないし、もしかすると俺が運ばねばならない可能性もあるな。そんなことを考えていた内に日が昇ってきて暖色になってきた。
ムズムズと子供が動き出したかと思うと、目がぱっちりと開いた。
「きゃあーーー!!」と言って、
バッと飛び上がったと思うと、まるでここはどこで、こいつは誰だっけとでもいいたげに辺りを見回している。どうやら、まだ昨日の出来事を思い出せていないらしい。全くこいつは目が覚めるたびに叫ぶやつだ。さ、子供がどいたことだし、暖かさがまだ少し残った身体で朝ごはんを準備し始めた。
そうしていると、子供が近寄ってきた。
「おじさん!!!どうして、僕がおじさんの腕の中でねむっていたんだ!!僕がそんなことするはずがないし、おかしいだろ?!」
と、ムーとふくれっ面をしながら言ってきた。
「おお、どうやら状況がわかったようだな。そして、言っておくべきことがあるが、俺はおじさんじゃない。お兄さんだ!おチビ。それに、昨日の夜は、お前が俺の腕の中に入ってきたんだ。」
人は状況の受け取り方の違いによって、事実ではあるが本望でそうした訳ではない事実もある。この場合、子供が寝落ちしてしまったことは、腕の中で眠るためではないだろうに、警戒中(?)である子供はおじさんがいう事実に混乱中である。
「え!?僕が???」
そうして、混乱したままの子供を放っておいて、いそいそと朝ごはんの準備を進めていく。
狩りや採取にも行けていないので、とりあえず昨日の残りのスープを温めて、追加で袋に入っていた芋も入れる。そうして完成だ。
未だに、本当に僕が自分から近づいて眠りに行ったのかと混乱している小さな子供を呼び寄せる。
「おい。こっちに来い。朝ごはんを食べるぞ。今日からたくさん移動して、少しでも早くお前を村に連れて行ってやらんとな。」
その言葉に、子供はとりあえず考えを放棄して、皿をもらうと、
「うー。いただきます。。」
「おチビ、昨日もそんなことを言って食べ始めたな。なんか意味はあるのか?」
「別に、、感謝の言葉なだけっ」
俺は、ふーん。まあ、そういうもんかと思って、それ以上話したりしなかった。
***
さあ!テントも片付けて、火も消してこの洞窟を出ていく。俺は色々と考えた末に、持ち水が減ってきていることと、食料確保のために、森に入ってきた時に見つけたとんでもなく広い湖を目指すことにした。
今いる場所は、危険な森の中でもかなり深淵に近い位置で、水や食べ物を手に入れにくい。湖は森の中間地点より少し上にあったと記憶している。目印も残しておいたため、進もう。
俺を見上げてくる不安げで髪も長くて伸びっぱなしで服もボロボロになってしまった小さな子供にの頭をワシワシと撫でると
「よし!出発だ!安心しろ。俺は強いんだ。」
といって、荷物を担いで森へと歩きはじめた。子供は無言で一生懸命着いてきた。俺は子供ってのは、しっかりしているもんだと思いながら、子供が着いてきているか確認しながら進んでいった。
下っている途中は、警戒しながら慎重に降りていったが獣に出会うこともなく順調に降りていった。ただし、誤算だったのは、子供の歩くスピードの遅さだった。予想では、湖に太陽が昇りきった頃に着くと思っていたが、いつの間にか夕方になろうとしている時間帯であった。
途中で、子供が「僕、ちょっとだけ足がいたい」と歩けなくなって休んだり、子供を担いで爆速下山をしたりと、これは考える必要があるなと感じた。まあ、そんな感じではあったがなんとか湖までたどり着くことができたからよかったさ。
湖の周辺は、少し動物の気配を感じる。やはり水場はどこにいても取り合いになる。周りの木々は青々しく、とんでもなく広い湖にはきれいな陽が写っている。厳しい森の世界にある荘厳な景色である。
「すごい。。。僕。。こんなのみたことない。」
と、疲れ切っている子供が驚いたようにいった。
「まあ。この光景はすごいよな。それに魚もたくさん採ることができる。ここまで、お前はよく頑張った。後は、俺にまかせてゆっくりしとけ。」
と、簡易の釣り道具を荷物から出しながら答える。
子供は、「ありがとう。。。おじさん。」
というと、すぐに俺のそばにコテンと座って湖を眺めている。
俺は水を汲んだり、釣りの準備を終えたりしたら、あぐらをかいて子供の横にすわった。ここで魚を釣らないとまともな飯にありつけないからなと思いながら、簡易の竿をふる。その後、ゆっくりとした時間が過ぎていたら、子供の頭がユラユラしてきて、コテンとあぐらをかいている足に落ちてきた。
おやおや、また子供が寝たようだ。子供はよく寝るもんだなと思いながら、周りの景色を見渡した後にそっと頭をなでてやるのだった。