サコィ
これにて一章は終了です。
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戦闘後の休息を兼ねて、今後の事……主にシュウの身体について考えるべく、一同は広間で休憩する事になった。
「このままだと出口から出れませんね。いや、出れてもあの道は……」
クムトが溜め息を尽く。
クムトには一度出口の外の様子を見てきて貰ったのだ。
出口は外に確かに繋がってはいたが、山岳地帯の山道……それも断崖絶壁の縁にある細い通り道に繋がっていたらしい。
当然だがシュウが歩ける道幅では無いらしい。
(マジかぁ……)
山道は距離にも因るだろうが飛べば何とでもなりそうだ。が……
(身体のサイズはなぁ……)
シュウも話を聞いて答えに窮していた。
出口があっても外に出られない。流石にこのパターンは想定外だった。
(まぁ何にせよ出口には辿り着けたんだ。よしとするか……)
そう考えながら、蜘蛛の単眼で自身を見てみる。
上半身に関しては然程変わりはない。つまりそれは下半身である蜘蛛の部分が極端に大きく成った事を意味している。
(スキルでサイズ変更とか使えないのか? いや、あれば当然の様にさっさと使ってるけどよ……)
有りはしないスキル頼みを考える位にシュウも現状の打開策が思い付かない。
(魔力っぽいのが操れる様になった事だし、どうにかならんもんかね……)
試しに自身の内側に意識を集中してみる。と――
(ん? サコィ?)
自分の内で繋がりが薄れていたサコィを確り感じ取る事が出来る。
(サコィ! おい、聞こえてるか? サコィ!)
確かに繋がりは感じられるが、サコィの意識的なモノまでは感じ取れない。
(これって……俺が居るからじゃ……)
不意に直感がそう告げてくる。
確かに現在はサコィからシュウが主導権を奪っている状態にある。
であればサコィが目覚めないのはシュウ自身が問題である可能性が高い。
(マジかぁ! そうなのか? 俺のせいでサコィが目覚めないのか?)
だがそう考えると何か納得も出来る。
だからと言ってサコィに主導権を返す事も難しい。
(そういや蜘蛛って、蜘と蛛って両方ともクモって呼ぶんだよな……もしかして……)
シュウにとある発想が思い当たる。
(接合が出来るなら分離も出来ねぇか? んで、意識を俺とサコィに別ければ……)
可能性はある。いや、それこそがシュウとサコィの両者にとって最良の答えかも知れない。
こう言うときのシュウの決断力は高い。
魔力を動かすイメージを更に推し進める。
上半身と下半身の2つが共存出来るように、意識もシュウとサコィの両立が出来るようにとイメージを固めていく。
「シ、シュウさん?」
「シュウ兄ちゃん?」
「シュウお兄ちゃん?」
皆の視線が集まっているのは分かるが、今は其どころではない。
何せサコィの未来が掛かっているのだ。些細な事でも気を抜く事は出来ない。
(サコィ! 戻って来い!)
サコィとの繋がりは残したまま其々の身体に、精神が、魂が宿るように、何よりサコィの意識が戻るように……。
(サコィ……必ず目覚めさせる……から…な……)
そのままシュウの意識は深い場所へと落ちていくのだった。
『お兄ちゃん…』
遠くから? 近くから? 誰かに呼ばれた気がする。
修二は微睡む意識が覚醒へと向かっていることを感じていた。
『起きて…お兄ちゃん……』
幼い声。望んでいた声。
そう、修二はこの声の主を知っている。
とても大切で、自分の半身とも言える大事な存在……。
『起きてよ。お兄ちゃん』
そして修二は漸く何を自身が成そうとしていたかを思い出す。と同時にゆっくりと意識が覚醒してゆく。
『ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんのお陰でお姉ちゃん達も、僕も、皆が助かったんだよ』
「サ…サコィ……」
それはサコィの記憶で見たままのサコィの姿。
『うん。ありがとうお兄ちゃん。僕を助けてくれて……僕を守ってくれて……』
「あぁ……」
サコィは笑顔を浮かべている。それは記憶でも見た事の無い澄んだ笑顔だった。
『僕はもう大丈夫だよ。これからは僕とは別の人達を助けてあげて……』
「あぁ…」
『僕を救ってくれて……ありがとう……』
「あぁ」
『僕の…手を握ってくれて……ありがとう……』
サコィの表情が歪む。その瞳からは綺麗な雫が頬を伝わっていた。
「あぁ……」
『今迄……僕を守って…助けて……ううん。僕の事を大切に思ってくれてありがとう……』
サコィの姿が霞む。それは涙だった。
修二の瞳からも涙が溢れていた。
言葉にならない。唯頷く事しか修二には出来ない。
『だから…もう目を覚まして……。お兄ちゃんを待ってる人達が居るんだよ……』
「………あぁ」
サコィの輪郭が徐々に壊れていく。
霞んでいた涙の奥で見えていたサコィの姿が。それを止めようと咄嗟に手を伸ばす。
「サコィ……行くな! 行かないでくれ!」
混濁している思考の中で懸命に声を張り上げる。
『本当にありがとうございました……。そして……』
修二はサコィに向けて必死に手を伸ばし続けた。
だがサコィの姿は消えていく。
あぁ。もうお別れなんだと心のどこかで悟った。
だから懸命に精一杯、サコィの顔を心に刻み込んでいく。
『大好きだよ…お兄ちゃん……』
その声を最後に修二の意識は何処かへ浮上していくのを感じていた。
「シュウさん!」
クムトの声にシュウの意識は覚醒する。
(ここは……)
シュウはゆっくりと目を開けていく。
目に映ったのは、心配そうにシュウを見つめる見知った三人の顔。
「大丈夫ですか?」
「あぁ」
「そうですか…よか……えっ?」
クムトの顔が安堵から唖然としたそれにシフトする。
「シュ、シュウ兄ちゃんが喋ったーーっ!」
「う、うそ……」
幼児達が驚愕した大きな眼でシュウの顔を見詰めてくる。
(いや、喋るだろ……)
そこまで考えて、シュウも今自分が何をしたのか理解した。
「なっ、何だとぉ!」
理解してシュウは思わず叫び声を上げる。
「うわあ!」
「ビックリした…」
幼児達が思わず後ずさる。
「シュ、シュウさん? 喋れるんですか?」
「あぁ……どうやら…そうらしい……」
クムトと顔を見合わせながら困惑した感じで答える。
「へえー。シュウ兄ちゃんってそんな声なんだー」
パルが初めて聴くシュウの声に然も面白そうに言ってくる。
「ん? 何かおかしいか?」
「そ、そんなことないよ! ただシュウお兄ちゃんの声…初めて聞いたから……」
「そ、そうか…」
アーチェが恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに話す声を聞き、シュウの方が戸惑いを感じてしまう。
「あ、あぁ、うん。クムト何がどうなったか教えてくれるか?」
「いえ、どうと言われても……シュウさん身体大丈夫ですか?」
「あぁ勿論だぃ……な、なにぃぃぃ!」
「きゃっ!」
「おわぁっ!」
再びの絶叫に幼児達が更に後ずさる。
「あっ、ス、スマン…」
シュウは咄嗟に幼児達に謝りながら、自分の身体を再度確認しようと視界に意識を向ける。
が、今まで見えていた感じとは少し違う視界になっている事に驚く。
今のシュウの視界は以前と同じく三百六十度ある。
だが今迄とは見え方と言うか距離感の捉え方が違う感じで、何か違和感を感じていた。
シュウは自分の下半身を見て、漸く理解を示す。
そこには蜘蛛の身体は無く、狼と人間を合わせた様な、所謂狼男と言われる姿形をしていた。
(蜘蛛の単眼が失くなったからか…)
視覚の違いは分かったが、一部不思議に思っていた。
(何で蜘蛛の尻尾がある? 背中の羽が無いのは分からんでもないが……)
取り敢えずそれは置いておこうとシュウは一度問題を棚上げする。
と、何かに気づいた様に、焦りながらクムトに問いかけた。
シュウにとってはそれ以上に重要な問題があったのだ。
「クムト! 蜘蛛は……下半身は何処だ!」
「えっ? 蜘蛛なら……」
忙しくクムトの視線を追う。
それは倒壊した巨人像の頭の部分。そこに見知った巣を見つける。そしてそこに居る鎌の前腕を持つ子供の頭位の大きさの羽を生やした蜘蛛の姿を。
「サコィ!」
「キューキュー」
蜘蛛は一声鳴きシュウを一瞥すると出口とは反対方向……即ち光る森の方へと飛び跳ねて移動して行った。
それはまるでシュウが起きるのを待っていたかの様だった。
シュウに別れを告げる為だけに広間に居たかの様にシュウには感じられた。
(そっか……でもサヨナラじゃないぜ)
「またな! ……サコィ!」
消えて行った蜘蛛の姿を想いながら、シュウはサコィに別れを告げるのだった。
何時かまたサコィと出逢うために……。
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