森の野獣たち
同日にもう1話投稿していますので、ご注意ください。
明日は2話連続投稿します。
18時更新予定ので、よければご確認ください。
もっと沢山の読者様に読んで頂きたいので、宜しければ★を押して評価をお願いします。
合流した一行はシュウが切り開いた道を進み森へと差し掛かっていた。
改めて近くから森の木々を見るとその現実離れした光景に唖然とする。
新緑の葉から滲み出る様に光が周辺に漂う。光と光は互いに混ざり合い、かといえば再び分裂し一時として同じ場所に留まらない。
まるで光のダンスを見ているかの様ですらあった。
「これは……凄い…ですね……」
「綺麗……」
クムトとアーチェが思うがままの感情を声に出す傍らで、パルは唯唯その光景に魅入っていた。
流石にシュウも今は大百足の事も忘れて光のワルツを楽しむ事に興じる。
「ガァ」
そのまましばし時を忘れた様に見入っていたが、そろそろ良いかとシュウが鳴き声を上げる。
「あ、すみません。ちょっと見とれて……」
我に返ったクムトが恥ずかしそうに頬を掻く。
シュウは気にするなと言うかの様に右手を軽く上げる。
アーチェは未だ戻って来ないパルの肩を揺すって気付かせている。
漸く現実に戻って来たパルを加えて、シュウ達は森に足を踏み入れる。
と、風も無いのに木々の枝が揺らめいた。
(何だ?)
シュウが即座に反応し三人の前にその巨体を割り込ませる。
「シュウさん!」
シュウの動きに対応するかの様にクムトが右手でナイフを、左手で障壁を張る。一瞬動きを止めた幼児達も直ぐにクムトの後ろに位置を取る。
そのまま息を潜ませる様な時間を過ごすも、森は何の変化も見せない。
幼児達が張り詰めていた意識を弛めた瞬間、右上方から何かが襲いかかってくる。
「くっ!」
反射的にクムトは障壁を右上に掲げてその攻撃を弾いた。
(ナイスだ!)
次の瞬間には一気に距離を詰めたシュウにより一本の樹木が斜めに斬り倒される。
「ひっ!」
倒れた木を見たアーチェが短い悲鳴を上げる。
その樹木には口が付いていた。節にあたる部分が口の様に割けており、鋭い牙を覗かせている。口からは何やら煙の上げる樹液を滴らせていた。
樹液が落ちた地面は焦げた臭いを辺りに撒き散らした。
鎌で樹木を斬り倒したシュウに、多方面から何かが襲いかかる。
(っっ……チイッ!)
シュウは歩脚を使い跳び跳ねて襲撃を避けると、その動きのままクムトらの前に戻ってくる。
(木の……枝?)
襲いかかって来た物は樹木から伸びる枝そのものだった。鞭の様にしならせた枝をシュウに叩きつけてきたのだ。
辺りに光らない葉が散らばる。
枝を叩きつけて来た樹木は三本で、其々がまるで立ち上がるかのように樹木である身体を動かす。
土が掘り返される音と共に、樹木の身体が浮き上がる。根の部分が多脚となっており、実際に地面から立ち上がっているのだ。
(コイツも野獣かよ……気持ち悪りぃな)
その正体は樹木から脚が生えた野獣であった。
周りの樹木に擬態しているのか見た目は他の樹木と見分けがつかない。
だが樹木擬きにとって姿を表したのは間違った選択だった。
(だが…あまい……な!)
シュウは再び歩脚を利用し右の一体に肉薄すると、右手を巨大化させ力任せに身体を殴り付け叩き折る。
(ひとぉーつ!)
次いでサイドステップで真ん中の樹木擬きの前に立つと、左の鎌を振るい一刀で斬り倒す。
(ふたぁーつ!)
最後の一体は身体を捻り尻尾を利用して刺し貫いた。
(これでぇ……ラストぉ!)
三体の樹木擬きは緑の葉を散らせ地面にその屍を晒す。それは樹木擬きが姿を表して僅か数秒の出来事であった。
「す、すげえ」
パルはその早業に感嘆の声を上げながら、シュウに駆け寄ろうとする。
不意に樹木擬きの死骸の常緑の葉が揺れる。
「待って!パル君!」
飛び出したパルを制止しようとクムトが声を掛けるも僅かに遅かった。
樹木擬きの枝に隠れてあった大きな蜘蛛の巣から三十センチ位の蜘蛛が三匹飛び掛かって来たのだ。
「うわあぁ!」
パルがクムトの声に反応して動きを止めたのも悪目に出た。
蜘蛛は腹部後端にあった針を刺そうとパル目掛けて降下してくる。
(くっ! 間に合えええっっ!)
蜘蛛に取りつかれそうになったパルを救ったのは、三体の樹木擬きを倒しても残心して気を抜いていなかったシュウだった。
即座に身体を硬化させパルの前に飛び込むように巨体を捩じ込むと、蜘蛛の攻撃を身体を張って受け止める。
だが毒針は硬化させた肉体をも貫きシュウの身体に突き刺さる。
(なっ!?)
硬化した身体を貫かれるのはシュウにとっても予想外だったようで、急いで尻尾から網の目状の糸を吐き出した。
自身の身体ごと蜘蛛を固定したまではよかったが、次の瞬間シュウは身体から力が抜けていくのを感じていた。
(まさか……毒だと……!?)
そのまま力を失いパルの上へ倒れこもうとするが、意思の力で無理矢理身体を捻らせる。
(んのやろぉ!)
何とかパルの上に倒れこむのは防げたが、その身体に力は入らない。
(やべぇ! 麻痺毒か!)
動けないシュウを他所に蜘蛛が糸から逃れようともがく。
だが動けないシュウにはどうする事も出来なかった。
(くそっ! どうする?)
蜘蛛が顎を使って糸を食い破ろうとしているのが分かるだけに、シュウは動けない身体がもどかしい。
だがその時間もクムトが来た事によって解消された。
「はっ!」
クムトが鎌のナイフで糸に絡まっている蜘蛛を刺し貫いていく。
三匹纏まっていたのは幸運だったのだろう。クムトによって三匹はその生命活動を永久に停止させた。
樹木と蜘蛛の野獣を無事退ける事に成功したシュウ達だったが、現状は楽観視出来ない状況にあった。
一行の最大戦力であるシュウが全く動けなくなったのだ。
何時何処で野獣が再び襲って来るか分からず、シュウの麻痺も何時解けるのか分からないという状態。現在戦闘が可能なのはクムトだけだった。
「ごめんなさい……シュウ兄ちゃん」
パルが泣きそうな顔で謝罪する。
パル自身、自分のとった行動によってシュウが動けなくなった事は理解していた。
だからこそ、今何も出来ない自分に腹が立ち、情けなくなっていた。
「…グルゥ」
気にするなとばかりにシュウが小さく鳴く。
「パル君は何が悪かったか分かってるんだろう?」
「……うん」
「なら、次からしなければシュウさんも許してくれるよ」
クムトがパルを諭す様に言う。
「……でも…シュウ兄ちゃんが……」
「大丈夫。あのシュウさんだよ? 直ぐに動ける様になるよ」
(どんなシュウさんだクムト? お前は俺をどんな化け物だと思ってんだ……)
内心で苦笑しながらクムトの言葉に突っ込みを入れる。
だが実際に今回の一件はパルにとって良い経験になったと思っている。
クムトが言った様に過ちは繰り返さなければいいのだ。
(まぁ実際に何時になったら動ける様になるのかは分からんけど)
だが感覚からしてそう大した時間は掛からないだろうとシュウは思っている。
何故なら合成獣の身体には治癒の力があるのだ。
今すぐにというのは無理でも回復する事に不安はないのだ。
(それよりこれからだな……。今の俺は間違いなく足手まといだ。自分自身は硬化で守れそうだし……何時動けるか分からん俺を待ってる時間が有るのか無いのか……)
事実、先程の蜘蛛の毒針は別にして、その他の野獣相手に深傷を負った記憶はない。仮に派手な傷を負っても回復出来る事は研究施設で経験済みだ。
ならば多少危険だろうが別行動を取ってもらった方がいいだろう。
(奴に……大百足に気付かれる前に撤退したいしな)
正直あの大百足が一番心配なのだ。
(アイツとは策無しで戦っても勝てる気がしねぇ)
最低でも確りとした作戦を練った上で、出来ればもっと情報を集めてから戦いたいのだ。恐らくそんな時間は無いだろうが。
今は気付かれてはいないが、大百足が動き出した場合、気付かれる可能性は格段に高くなるだろう。
そうであれば今は多少の危険は許容範囲内だろう。
(であればだ。さっさと行ってもらった方がいい。後はクムトを信じて任せるしかねぇ)
シュウはどうやってこの考えをクムトに伝えるかを改めて考えるのだった。
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