15話
本当に自分勝手な奴だ兼也は……。そういえば昔は——いじめられる前は仲が良かった気がする。あっちは覚えてるかわからないが。
休日も終わり月曜日、天気は晴れ。田辺裕太は恐らく誰よりも一番早く学校へ登校していた。
まだ日も出ていないうちに学校へ来たのは初めてかもしれない。いつもは喧騒に包まれる校内を裕太の足音だけが支配している。
戸締りのされた校舎には図書室の上の窓から侵入した。弥生と話していた時目に入ったのだ。
なぜこんな朝早く——誰もいない時間に校舎に入ったのかというと今からおこなう兼也を救う為の作戦は人目があっては決して完遂できるものではないからだ。
恐らくこの作戦が成功し、二年三組のクラスでの問題を解決すれば裕太はただでは済まされないだろう。
だがそんなことはどうでもいい。
これはあくまで自分の為だ。あいつの——兼也の為なんかではない。強いて言えばいつまでも兼也の為に頭を使っている弥生と愛、クラスの問題に頭を抱えている伊藤先生の為だ。
リュックの中をみて作戦に必要なものを念のためもう一度確認する。
今日は教材は一切持ってきてはいない。置き勉してるわけではない、そういった覚悟を持って裕太は来ている。
図書室を出て二階へ行くため階段を昇る、すると踊り場に幽霊なのか一人の少女が顔をだした。
「うお! あ、愛か……? 」
「別に、あんたのこと待ってたわけじゃない、から」
そういいながら前髪をピンで止めだした。間違いない、華奢な体つきにショートカット、透き通るような真っ白な肌。渡辺愛の姿がそこにはあった。
「なんでここにいるんだ? 」
「こっちのセリフなんだけど……なんで朝早くからこんなところにいんの? 」
いつも控えめな性格の愛らしくない強気な愛は最初から痛いところを付いてくる。その瞳はいつものような光はまとっていないようだ。
「俺は、その……」
「言わなくてもわかってるわよ! どうせ良からぬこと考えてるんでしょ! あんたが帰った後、兼也君が来てそういってたんだから! ほんとばっかじゃないの! 」
「兼也が……でも、言えない。言ったらどうせ止められるのわかってるから……」
あいつ、あの後部室に言ったのか。
「尚更止めるわよ! いいの? あんたもうすぐ飛び級できるんだよ!? 」
「……それでも、やらないといけない。ほら『部活で功績を収めること』って飛び級制度の条件にもあるし」
「じゃあせめてなにするのか教えなさいよ……」
「……それは、できない」
それを言ってしまったら止められるのは間違いないだろうから……。
「……なんで! 昔からだよねあんた……裕太君は……」
昔? 愛とは高校で始めてな気がするが、
「覚えてないのかもしれないけど、愛は……愛はあのころ裕太君に救われたんだよ、だから今ここにいてこうやって裕太君と話すことが出来るんだよ……」
「愛……もしかしてあの愛か! 」
確かに雰囲気は似ている気がする。小学生の頃泣いていたマナにハンカチをあげてそれで……あの頃は長い黒髪だった、そうかマナか。
「あのころからずっと裕太君は愛の心の支えだよ、だからいい加減人の為に自分を犠牲にするのはやめて……自分の為だけに行動してよ! 」
愛はポケットからハンカチを取り出した。紛れもない、あの時裕太が渡したハンカチだ。そういえばこの前貸してもらったハンカチ返してなかったな。
「……ありがとう、愛。でももうあいつとも約束したしな。約束を守るのは自分の体裁を保つ為、だから自分の為だろ? 」
ちょうどポケットに入っていた愛から貸してもらったハンカチを裕太も取り出し愛に返すため、そして教室へ向かう為先へ進む。
「屁理屈だよ、そんなの……」
「ごめんなじゃあいくよ、俺」
踊り場に立ちはだかっていた愛は力なく壁にもたれ涙ぐんでいる。
「じゃあ約束……そのハンカチ愛がいいっていうまで返さないで! その時愛もハンカチ返すから! 約束は守るんでしょ!」
ハンカチを返す直前愛は目の前で声を張り上げる。髪は乱れひっちゃかめっちゃかになっている。
「……ああ、わかったよ」
ハンカチをお互いしまいながらすれ違う。すれ違う直前愛の頭にポンと手のひらを乗せ、
「約束な」
振り返らずに階段を昇っていく。
「ハンカチ、返す時は絶対好きって言わせてやるんだから……」
愛はその堂々とした背中にぼそりと呟いた。




