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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第二部 第一章 幽霊部隊

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第十五話 統合基地奪還戦 その3

 幽霊部隊は方陣を解いて各部隊ごとに分かれオーガの追撃に入った。

 デボラ少尉率いる第六小隊も前進を開始する。

 最初の障害となったのは、山と積み上がったオーガたちの死体だった。方陣のどの方向にも死体の山が築き上がっていたので、迂回することもできない。

 すぐそばまで近づくと死体の状況はより鮮明になり、バラバラになり、臓物をぶち撒けた、緑色のその光景は、流石のマルコでも吐き気を催すほどのものだった。ドレスの機能で臭いが遮断されているのがせめてもの慰めだ。

 それでもまだ若い女性であるデボラ少尉にはきつい光景だったのだろう。オーガの死体の山に近づくことができないでいる。

 マルコはデボラ少尉との専用チャンネルを開く。


「デボラ少尉、ドレスのフィルタリング機能を有効にしてください。オーガの死体にだけマスクをかけるんです」


「してるわ。軍曹。したのよ。でも、一度目に見えてしまって」


「じゃあ見たものは忘れて。走って跳び越えるんです。ドレスのジャンプ力ならできます。奴らに触れることはありません」


「本当?」


「それなら先に行きます。着地地点を確保しておきますよ。それからレギンレイヴの指示に従って」


 それからマルコは小隊へのチャンネルを開いた。


「全員オーガの死体を跳び越えるぞ。少尉殿のために着地地点を確保する」


「了解」


 小隊員たちがジャンプしてオーガの死体の山を跳び越えていく。当然のことだが、死体の山の向こう側にも死体が積み重なっていて、一度のジャンプではすべての死体を跳び越えることなど到底無理であった。

 レギンレイヴ、デボラ少尉の着地予想地点はどの辺りだ?


(表示します)


 表示された円形の少尉着地予想地点にはオーガの死体がごろごろと転がっていた。

 予想地点を小隊員に転送しろ。


(転送しました)


「各員、少尉殿のためにステージを作れ」


 そう言いながらマルコ自身が率先してオーガの死体を、あるいはその一部分を、着地予想地点から放り投げていく。小隊員も協力して、すぐに着地予想地点からオーガの死体は一掃された。もっとも緑色に染まった地面だけはどうしようもなかったが。


「デボラ少尉、準備完了です。跳んで着地したらもう一度跳んで、それでこの醜い山からはおさらばです」


「分かった、やるわ」


 デボラ少尉のドレスのカメラ映像を拾うと、少尉が助走をつけて跳ぶところだった。マスクが掛かってはっきりと見えないオーガの死体の山を跳び越え、着地予想地点の真ん中に着地したが、オーガの血で泥濘(ぬかる)んだ地面に滑って盛大に転んだ。


「ぎゃん!」


 と、女子らしかぬ悲鳴が上がったが、マルコは聞かなかったことにした。幸いデボラ少尉が開いていたのはマルコとの専用チャンネルだったので、他の小隊員には聞かれなかったはずだ。マルコはデボラ少尉に駆け寄って、その体を引っ張り上げて立たせる。


「さあ、もう一度跳んで。それでこことはおさらばです」


「うう、なんでこんなことに……」


「お(いえ)のためじゃないんですか? 貴族様でしょう?」


「それはそうよ。でも誰もこんなことになるとは教えてくれなかったわ」


「それには同情します。でも今知ったじゃないですか。さあ行きましょう。他の隊より遅れています」


「うう、分かったわ。ここにいるよりマシなのは確かだもの」


 デボラ少尉は覚悟を決めて、もう一度跳び上がり、オーガの死体の山の向こう側に着地する。それを確認して、マルコも跳んでその後を追いかけた。

 第六小隊は他の隊よりやや遅れを取っている。全体からすれば八番目、つまり一番後ろだ。

 レギンレイヴ、俺たちに割り当てられた区域を表示してくれ。

 というマルコの要望に従って、レギンレイヴはマルコの視界に表示された上空からの映像に色分けをする。

 同じものを小隊全員に。


「第六小隊、見ての通りだ。警戒しつつ集落に入る。隊列はあらかじめ決めた通りだ。少尉を守りつつ、オーガの残党を狩り、集落に火を放つ」


「盛大なキャンプファイヤーになりそうですな」


「聞いたか、皆、エルマーが火付け役をやりたいそうだ。テオ、火炎放射器をエルマーと交換だ。テオ、さっきは出番が無かったろ。前方のユリアンと交代。オーガが見えたらぶっ放せ」


「了解」


 わずかな変更はあったが、デボラ少尉を中心に前方4人、後方4人の隊列を組んで第六小隊は集落に入った。

 オーガの家々は木を切り出して、丸太のまま組み上げたいわゆるログハウスで、それほど精密に作られてはいない。ドレスで蹴りを入れたら崩れ落ちそうだ。

 前方組は家々を1件ずつ見て回るようなことはしない。家々の間からオーガが飛び出してこないかだけを確認して、先に進む。後方組はエルマーが火炎放射器で家々に火を放っていく。

 順調に進めるかと思ったとき、一件の家から子どものオーガが棒きれを手に飛び出してきた。人間の子どもなら8,9歳くらいかと言うほどに見える子どもだ。だがオーガの巨躯を考えるともっと子どもかも知れない。

 テオは素早くレーザー銃をオーガの子どもに向けたが、引き金を引くのを躊躇(ためら)った。

 オーガの子どもが振り下ろした棒きれがテオのドレスを叩いて、簡単に弾き返され、オーガの子どもは反動で転倒する。テオは小動(こゆるぎ)もしなかった。しかしそれでもオーガの子どもは諦めずに立ち上がり、再びテオに殴りかかってきた。


「くそ、逃げろ。逃げろよ」


 テオはレーザー銃をオーガの子どもに向けるが、オーガの子どもはそれが何かなど理解できないのであろう。そのまま何度もテオを棒きれで殴り続ける。何かを叫んでいるが、当然何を言っているのか分からない。

 マルコもテオに撃てと命令するのを躊躇った。自分自身で代わりに撃つ気にもなれない。ストッパーを通常弾頭にして、オーガの子どもの足元を撃つが、それでもオーガの子どもは何をされているのか分かっていないようで、無駄な抵抗を続けている。


「家になにかあるのかしら?」


 デボラ少尉が言った。


「それだ。フリッツ、ついてこい。パウル、オーガのガキを抑えてろ」


 開きっぱなしになっていた扉から中に入ろうとすると、テオを殴っていたオーガの子どもは慌ててマルコに向かっていこうとして、パウルに両手で捕まえられる。


「絞め殺さないように注意しろ。少尉の命令がない限りはな」


 マルコはストッパーを手に家の中をクリアリングする。誰もいない。


「フリッツ、行け」


 フリッツが家の中に入り、奥の扉についた。そして扉を開けて中を覗き込む。


「……赤ん坊だ」


「なんだって? フリッツ、なんて言った?」


「オーガの赤ん坊がいます。軍曹。表のガキは赤ん坊を守ろうとしてたんだ」


「くそったれ」


 小隊の共通チャンネルで話すべきじゃなかった。デボラ少尉は今の会話を聞いてしまった。この状況での選択を彼女に託すのはあまりにも酷だ。


「大人しく寝てる……。生まれてほんの数ヶ月くらいだと思う。うちの子もこんなのだった」


「フリッツ、口を閉じろ。少尉、撃ちます。いいですね!」


「待って! 軍曹。赤ちゃんを撃つの? それからこんな子どもを? 私たちはここで何をしてるの?」


「害虫駆除です。少尉。ブリーフィングを思い出してください。こいつらは人間を食うんですよ! そのガキだって人の味を知ってるかもしれない。こいつらは魔物なんです。見たでしょう? 緑色のあの血の色を」


「でもこの子はその赤ちゃんを守ろうとして必死になってるのよ! まさか赤ちゃんまで人の肉を食べてるなんて言わないわよね!」


「いずれ食います。少尉。遅いか早いかの問題です。それにこいつらにはもう親はいません。多分。ここで見逃してもいずれ野垂れ死にます」


「なら、それでいいじゃない! 私たちが手を汚すことはないわ。赤ちゃんを連れて来て。優しく、大事に運ぶのよ。分かった、軍曹?」


「――了解、少尉。フリッツ、おまえが運べ。俺は赤ん坊を抱いたことはないからな」


 マルコはストッパーを構えたまま、フリッツがオーガの赤ん坊を抱いて出てくるのを待った。寝藁ごと抱き上げられたオーガの赤ん坊は痩せていてあまり栄養状態は良くないようだ。人間の赤ん坊と比べるとやはり大きいように思えるが、マルコには違いがよく分からなかった。だが確かにこいつは同情心を誘う。デボラ少尉はフリッツのカメラ映像を見たのかもしれない。

 フリッツが赤ん坊を抱いて家から出てくると、オーガの子どもはパウルの腕の中で激しくもがいた。


「パウル、離してやれ。フリッツ、ガキに赤ん坊を渡すんだ」


 フリッツが膝をついて、オーガの赤ん坊を、オーガの子どもに差し出すと、オーガの子どもは赤ん坊を抱きかかえて、家の中に戻ろうとした。咄嗟にマルコはその前を塞ぐ。


「おっと、おウチはダメだ。エルマー、火を放て! 少尉、火をつけるのは司令官の命令です。いいですね」


「……分かってる。やって」


「了解」


 エルマーが火炎放射器をオーガの家に向ける。エーテル変換による魔法で生成された炎はただ表面を焦がすのではなく、粘着して燃え続ける。あっという間にオーガの家は炎に包まれた。


「流石に火炎放射器の怖さは分かっただろう。エルマー、このガキをちょっと脅してやれ」


「了解、軍曹」


 エルマーが火炎放射器をオーガの子どもに向けると、赤ん坊を抱いたオーガの子どもは一目散にこの場から逃げ去っていった。


「なんとか一段落だな」


 後はあの子どもが逃げ延びようが、どこかで別の小隊と鉢合わせて撃ち殺されようが知ったことではない。


「さあ、少尉。仕事を続けましょう」


「そうね。嫌な仕事だわ」


「同感です」


 そこは本当に、全くの同感なのであった。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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