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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第一部 第三章 エルネ=デル=スニア
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第十六話 遅すぎた救援

 意識を取り戻したとき、俺は見知らぬ場所に居た。

 石造りの無駄に天井の高い建物の中だ。

 床に毛皮が敷かれ、その上に寝かされている。


「ルフト――!」


 俺に覆いかぶさるように抱きついてきたのはルフィナさんだった。

 彼女は俺の胸に顔を押し付けるようにして、わんわんと泣いている。


「目が覚めて良かったよぉ」


「ここは――?」


「ぐすっ、えっと、教会だよぉ」


「そっか、無事で良かった。ヴァレーリヤさんは?」


「お姉ちゃんも大丈夫。自警団の人が助けに来てくれたんだよ」


 そうか、最後の瞬間、ゴブリンの頭を貫いた矢は自警団の人が放ったものだったのか。

 俺は俺に泣き縋ったままのルフィナさんの体を抱きしめる。

 遅すぎる救援だった。

 それでも俺の守りたいものは守ることができた。

 そのことだけでも感謝しなければならない。

 そしてふと気づく。


「傷が治ってる?」


 ゴブリンたちとの死闘でついた大小様々な傷だけでなく、左腕の骨まで達していた傷すらも完治している。

 こうして両手でルフィナさんを抱きしめられていることがいい証拠だ。


「うん。教会の人が治癒魔法をかけて回ってくれてるんだ」


「そっか、後でお礼を言わないとな」


 ついでに治癒魔法の基礎でも教えてもらおう。

 俺はルフィナさんの体温を感じながら、周囲を見回している。

 教会の内部には俺のように床に寝転がされた人々で溢れかえっている。

 彼らはおそらく俺のような負傷者なのだろう。

 まだ治癒魔法を受けられていないのだろう人のうめき声なんかも聞こえる。

 そして彼らの間を忙しく動きまわる神官やシスターたち、それに紛れてヴァレーリヤさんも忙しそうにしているのが見えた。


「ヴァレーリヤさんは教会の人の手伝いをしているのか」


「うん。なにかできることはないかって聞いてた」


「それでゴブリンたちは?」


「なんだか大聖堂のせーいぶつを持って逃げていったって」


「せーいぶつ?」


「なんだかエルネ=デル=スニアの結界を張っていたすごく大事なものだったんだって」


 せーいぶつが何かは分からないが、とにかくそれを持ち去られたことでエルネ=デル=スニアの結界はその作用を失ったのだろう。

 今回のゴブリンの襲撃はそれが目的だったのだろうか。

 それともまだ終わりではないのか。


「ルフィナさんたちはこれからどうなるんだ?」


「しばらくは城壁の内側にいていいみたい。その後はわかんない」


「どこで寝泊まりしてるの?」


「今はここで。でもルフトの目が覚めたから出て行かなくちゃかも」


「そうか」


 先は見えない。

 でもできることからひとつずつ始めてみよう。

 俺は抱きしめていたルフィナさんを解放して、立ち上がった。

 遅れてルフィナさんも立ち上がる。

 俺たちは連れ立って人々の間を縫うようにヴァレーリヤさんの元に向かう。


「ヴァレーリヤさん」


「ルフト! 目が覚めたのね。良かった」


「はい。それで何か手伝えることはないかと思って」


「いいから2人ともまだ休んでいなさい。特にルフトはひどい怪我だったんだから」


「いえ、怪我はもう平気です。治癒魔法のおかげで」


 俺はヴァレーリヤさんと行動をともにしている神官に目を向ける。


「神官様、俺には魔法の心得があります。治癒魔法を教えていただけないでしょうか」


「本当かい? それは心強い。でも君には魔法紋がないようだけど」


「魔法紋無しで魔法を使えるように訓練してきました」


 俺は手のひらを掲げてその上に水を生み出してみせる。

 その若い神官は目を見開いて俺の顔と生み出した水とを交互に見やったが、すぐに頷いた。


「羨ましい才能だ。入力系がよほど大きいんだな。だけど治癒魔法は他の魔法より少し難しい。人の体を修繕するんだ。分かるだろう?」


「ええ、イメージだけではどうにもならなかったです」


「そう。治癒魔法は想像力ではどうにもならない。実際にやって見せながら説明しよう」


 神官様は1人の負傷者の傍に跪くと、その右腕の魔法紋を輝かせた。

 しかしその輝きはもはや右手の甲に近い辺りのみに限られていて、彼の魔力が尽きかけていることを示している。


「人の魂には、その人が本来こういう形だという情報がある。怪我をしても自然に元の形に治癒していくだろう? それはその情報に従って体が自然治癒するからだ。だからまずその情報を汲み上げる」


 淡い光が負傷者の体を包む。


「後はその情報に従って、肉体を本来ある形に修繕していく。それが治癒魔法だ」


 見る間に負傷者の腕の傷が癒えていって、後には傷跡ひとつない肌が残された。


「僕の魔力も残り少ない。君が治癒魔法を使えるようになってくれたら助かる」


「やってみます」


 どうやら残されているのは比較的軽傷な者ばかりのようだ。

 ならば焦ることは何一つ無い。

 俺は続く負傷者の傍に跪くと、魔力で彼の体を探る。

 怪我を負っているのはやはり腕で、そこだけ彼の体が違和感を訴えている。

 彼の肉体は本来こうあるべきだと言う情報が流れ込んでくるのが分かる。

 ならそうしてやろう。

 俺は魔力を傷口に流し込んで、情報に沿って再構築していく。

 傷口はゆっくりではあったが、確実に癒えていき、やがて傷跡の無い肌が残された。


「素晴らしい。1回でものにするとは思わなかったな。軽傷者の手当は君に任せて大丈夫なようだ。ヴァレーリヤさん、彼の案内をしてくれるかい? 僕はもっと重傷者が現れたときのために魔力を回復させておきたいんだ」


「はい、レナート様。ルフト、すごいのね」


「もっと早くできるようになっておくべきだったと思うよ」


「そんなことないわ。今できることを誇りに思うべきよ」


 そうして俺たちは教会に並べられた軽傷者の治療に当たるのだった。

第十七話の投稿は7月7日18時となります。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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