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彷徨のレギンレイヴ  作者: 二上たいら
第一部 第二章 アインホルン

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第七話 侍女

 マリア王女殿下の部屋を退去したナタリエさんはすぐ隣の部屋に入っていった。

 俺もそれについて部屋の中に入る。

 そこは隣の部屋とは比べ物にならないほど質素な部屋だった。

 司祭様の部屋よりも狭い。

 家具と呼べそうなものは部屋の奥に並べられたふたつのチェストだけだった。


 その片方に一人の女性が腰かけている。

 司祭様とそれほど年齢の変わらなさそうな女性だ。

 ナタリエさんとおそろいの服を着て、手に持った編み物をせっせと織っていたが、俺が入ってきたことに気付いてその手を止めた。


「ナタリエ、その子は……、ああ、例の子だね」


「はい。ウルスラさん。彼がルフトくんです。姫様の侍従になったんですけど、本当は船のお仕事をするそうです。でもなんでそんな面倒くさいことをするんでしょう?」


「そりゃ、乗組員たちの中に不埒なことを考えるのもいるからね。男と一緒で、相手は若けりゃ若いほどいいって人もいるんだから、子どもだからって何をされるか分かったもんじゃないよ」


「相手って、ええっ!?」


 ナタリエさんは目を白黒させて、頬に手を当てた。耳まで真っ赤になっている。


「相手ってなんのですか?」


 分からなかったので素直に聞いてみた。


「そりゃ、分からなければまだ分からなくていいんだよ。それで今はそのほうがいい。分からないほうがいいことだって沢山あるんだよ」


「そうですか」


 何やら自分に直結した話題のようだったので、ちゃんと知っておきたかったのだが、そう言われれば従うほかはない。

 知らない方がいいこともあるってことは、なんとか理解できる。


「まあ、姫様の侍従になったというのなら、坊やはこの部屋の仲間だ。わたしらのことは家族みたいなもんだと思えばいいよ」


「家族、ですか……」


 素直にはいそうですかとは思えないが、ひとまず寝食はともにすることになるのだ。

 仲良くなるに越したことはない、というような意味だろう。

 それよりもこちらをちらちら見てくるナタリエさんの視線が気になって仕方ない。


「なんでしょうか?」


「あ、うん、うーん、ぎりぎり? いや、ダメでしょ!」


 なにか駄目出しされてしまった。


「まあ、船の仕事をするってなら、ここは寝るためだけの部屋になるだろうね」


「寝るだけ!?」


 ナタリエさんのテンションがやけに高い。一方、ウルスラさんは落ち着いたものだった。


「ハンモックの使い方は分かるかい?」


「いいえ、教えていただけると助かります」


「そうかい。じゃあそれから始めようか」


「あの、ナタリエさんは」


「放っておきな。しばらく役に立たなそうだ。あと服とかもどうにかしなきゃなんないね。それしか持ってないだろう?」


「はい。なにも持ってきてはいないので」


 一応服の中にお金の入った小袋はあるが、船の上でお金がなにか役に立つということはないだろう。

 取り上げられたわけでもなかったので、これは大事に持っておこうと思う。


「侍従用の服なんて用意してないからね。ナタリエの予備でもいいだろうけど、スカートは嫌だろう?」


「できれば」


 とは言っても男が駄目なら女になる宣言をしてしまっているので、そうしろと言われたらそうするつもりだった。

 大変面白い見世物になるだろうから、マリア王女殿下は喜ぶかもしれない。


「まあ、船の仕事をするんだったら、スカートと言うわけにもいかないね。とは言っても、背丈の似たようなのはフリーデ様くらいか。士官服ってわけにもいかないね」


「一応、そのフリーデ様につくように言われています」


「そうかい。災難だね」


 それがどういうことか聞きたかったが、マリア王女殿下から釘を刺されている。

 だが俺に似た背丈ということや、士官服という言葉でピンときたことがあった。

 さっき甲板に出たときに俺のことを睨み付けていた少女だ。

 おそらく彼女がフリーデ様なんだろう。

 だとすれば災難だというのも頷ける。

 なぜかは分からないが、彼女は俺のことをとても敵視しているようだった。


「でもやっぱり士官服じゃダメだね。乗組員から余ってる服を出させて詰めるしかないだろうね」


 異論はない。

 今だって成長を見越してやや大きめなものを着ているのだ。

 不格好だったりしても仕方ないだろう。


「まあ、わたしが手を回しておくよ。なにか必要なものがあれば早めに言うといい」


「ありがとうございます。今のところ困っていることはありません」


「遠慮はいらないよ。応えられるかどうかは別だけどね」


「ではいろいろと教えてください。私はなにも知らないのです」


「分かった。それとそんなに畏まらなくてもいいよ。もちろん普段はそう心がけたほうがいい。でもここは君の部屋でもあるんだ。心を休められる場所にしなくちゃいけないだろ。さっきも言ったけど、わたしらは家族みたいなもんだ。家族に遠慮なんかしないだろ?」


 そうだろうか?

 俺は両親の前では常に気を張っていなければいけなかった。

 俺が遠慮せずに接することができる相手はニコラとエメリヒだけだった。

 そして彼らはもうこの世にはいない。


「そう難しく考えることないよ。まあ、押し付けるつもりもないさ。ただ人間ずっと気を張り詰めていることなんかできないからね。姫様の前でぼろを出す前にわたしらの前でやらかすようにしな」


 俺は相当難しい顔をしていたのだろう。

 ウルスラさんはそう助言してくれた。


「まあ、なんにせよ寝床くらいは自分で用意できるようにしてくれないとね。まずは手を動かそう。何かしら一緒にやっていれば打ち解けられるというものさ」


 それからウルスラさんにハンモックの使い方を教えてもらった。


 浮遊船のような大きさの限られている場所では常設された寝床なんてものは一握りの人間しか使えない。

 だから普段は畳んでおけるハンモックを寝床として使うのだそうだ。

 部屋にはハンモックを引っかけられるフックが付いていて、そこに引っかけて使う。

 それだけ言えば簡単そうだが、俺の背丈ではハンモックを引っかけること自体が難しい。

 フックの高さは背伸びをしてなんとか指先が届くかどうかというところだ。

 結局ジャンプしてフックに飛びつくようにするしかなかった。

 それを二回やってハンモックを宙に浮かせると、今度はそれに乗らなければならない。

 なぜか俺はこれが大変にうまくできなくて、何度も床に転げ落ちた。

 ウルスラさんは真面目にやり方を教えようとしてくれていたが、謎の興奮状態から回復したように見えたナタリエさんが今度は俺の失敗を見て笑い転げていた。


「お手本を見せてくださいよ」


「いいよー」


 ナタリエさんは半笑いのまま、するんとハンモックの中に納まった。

 あまりにも簡単そうに見えて、俺がなぜできないのか分からない。


「まず座ることなんだけどね」


 ウルスラさんはそう言ってハンモックからナタリエさんを追い出した。

 座ると言っても、ハンモックの高さは俺の腰より少し上くらいにある。

 そこに座るためにはどうしてもよじ登るような動作が必要になって、そうするとハンモックが俺の言うことを聞かずに逃げていってしまうのだ。


「フリーデ様ができているんだから、できないわけはないんだけどねえ」


「そうですね。明日コツを聞いてみることにします」


「そうするのがいいね。うまくできるようになるまでは手伝うから気にしなくていいよ」


「ありがとうございます」


「あたしも手伝うよ」


「……ありがとうございます」


「なんでか反応が悪い!」


 そんなやり取りをしながら、俺はハンモックの練習を続けるのだった。

第八話の投稿は本日16時となります。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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