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美少女探偵 柚月莉々華  作者: ゆうすけ


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3/3

お葬式

秋田はゴクリと唾を飲み込んだ。 

葬式で喪服を着た未亡人はぞっとするほど色気があった。

そんなことを思った自分を恥じた。

夫を亡くして一人残された、その妻へ頭を下げ、追悼の意を示した。


美咲みさきさん、お気の毒に。とってもいい旦那さんだったのに…。


友人たちは口々に語った。


美咲の夫は死んだ。殺されたのだ。

  

鈍器で殴られて殺され、雑木林の中に死体が遺棄されていた。


夫の名はレオナルド・マックイーン、35歳のアメリカ人だ。現在は日本に移住し、妻の美咲と一緒に暮らしていた。


「彼はとても大切な同僚だった」

堂前どうまえは残されたレオナルドの妻に語った。


「これでライバルが一人減ったわけだ」

そんな風に語りかけてきた同僚を大隈おおくまは叱責した。

「いくら何でも、不謹慎すぎるぞ」


「こんにちは」

ふと見ると、目の前に場違いな高校生ぐらいの女の子と男の子が立っていた。




「山形さんの紹介できました」

マジで誰だよ…。

「山形さん?」莉々華は明らかに困惑している。


「山形さんはうちの社長の古くからの友人で、出版社に勤務している町田さんの上司です」

誰だよ、町田って…。

「その町田さんは、小説家の正木さんの担当編集です」社長秘書を務める女は語った。

なるほど、そういう繋がりか。


正木からの紹介で俺と莉々華は喫茶店でこの秘書と向き合って喋っている。


正木は以前知り合った小説家で、莉々華のことをえらく高く評価しているようだ。


「うちの会社の次期社長候補と呼ばれていた人間を殺した犯人を見つけて欲しいのです」

秘書は事件について俺たちに事細かに説明した。


「警察の捜査に任せた方が良いのでは?」

莉々華は至って真っ当なことを言う。


「社長は是非あなたにと」秘書は力強く迫った。

「まぁ、引き受けてみてもいいんじゃないか?」

俺は莉々華に言った。莉々華は小さく微笑んだ。

OKなようだ。


「ありがとうございます!」秘書は莉々華に向かって深々と頭を下げた。


社長秘書は俺の方を見ると、「ついでにあなたもご一緒に」と言った。


ついでに?


「行くよ、ゆうすけくん」莉々華は俺を促した。

こうして俺と莉々華は葬式に足を運ぶことになった。




「誰だ、君らは?」訝しげに大隈は聞いた。

「探偵です」自信たっぷりに俺は答えた。


「社長から探偵が来るから、事件解決のためにできるだけ協力するようにと言われていたが、こんなに若いとは…」大隈は唸り声を上げた。


社長命令で、葬儀に来ているすべての社員に、莉々華に協力するようにとの命令が下っていた。


社長のワンマン体制の新興企業であり、社長の鶴の一声でどうにでもなる。


「くだらない。子供の探偵ごっこに付き合ってる暇はないよ」そう言って、大隈は離れていった。


「怪しいな。あいつ、多分犯人だぜ」俺は莉々華に言った。


大隈、堂前、秋田、レオナルド。この4人で、次期社長のポストを巡って争っていた。


レオナルドは社外にほとんど付き合いがなく、容疑者として考えられるのは社内の人間、特に社長の後継を巡って争っていた他の3人だ。


レオナルド・堂前は30代半ばで、大隈・秋田は40代半ばである。


一世代下の堂前、レオナルドが、次期社長候補というのは、それだけ二人が有能と言うべきか、

それとも、大隈、秋田の二人が伸び悩んでいると言うべきか。


一人の女性が近寄ってきた。

「レオナルドの妻の美咲です」

そう言って、頭を下げた。

「どうか、夫を殺した犯人を捕まえてください」


「犯人に心当たりとかありますか?」

「それが、全くないんです」首をかしげている。

「夫は頑固で融通が利かないようなところもありましたけど、人から恨まれるような人では……」


「何か気になったこととかありますか?」


「実は最近、誰かにつけられているように感じられることが何度かあったんです」

美咲は不安そうに語った。

「いつも誰かに見られているような…」


その後も、俺たちは色んな質問をした。


「夫を亡くしたばかりの人に、そんなに根掘り葉掘り聞くもんじゃないよ」

そう言って、一人の男がやってきた。


男は堂前と名乗った。次期社長候補のうちの一人だ。


「美咲さん、あっちで葬儀会社の人が呼んでるよ」と堂前は言った。美咲は俺たちに一礼すると去っていった。


「社長から話は聞いてるよ。何でも聞いてくれ」と堂前は言った。


レオナルドについて「真面目で、正義感の強い人だった」と語った。


いろんな質問をしたが、「わからない」「知らない」ばかりで、さっぱり情報は得られなかった。


「ひょっとしてその子が噂の探偵さん?えらい美人だな」男が近づいてきた。


その男を示して、堂前は「こちら、秋田さん」と言った。

「何でも聞いてくれよ」と秋田は鷹揚に言った。


レオナルドについては、真面目、正義感が強い、堅物、融通が利かないなど特に目新しい情報は得られなかった。


「他に何か気づいたことはありますか?

レオナルドさんじゃなくても、それ以外の美咲さんや堂前さん、大隈さんなどについてでもいいんですけど」


「これは言っちゃっていいのかな?」

秋田は少し思い悩んだ様子を見せた。


「この前、大隈と一対一で飲んだんだけど… あくまで相手は酔っていたということを踏まえて聞いてほしい。この前の選挙での話なんだけれど…」


秋田によると大隈が選挙の時、投票した政党は排外主義や同性愛嫌悪を掲げた政党だった


「そんな…」堂前が驚いた顔をした。


「まあ、あいつも酔ってたし、ホラ話の可能性もあるよ。あくまで酒の席での話だよ?」

「わかりました」

莉々華はうなずいた後、言った。

「秋田さん、誰かに後をつけられていると感じたことは?」

唐突な質問に、秋田は驚いている。

「いや、ないな」はっきりと断言した。


俺たちは礼を言って、秋田と別れた。

葬儀会社の人間と話を終えたのだろう、美咲が歩いている。


その後ろ姿を、秋田はじっと見つめている。


秋田はひょうひょうとして捉えどころがない。

しかし自分は気づいてしまった。美咲に向ける目線…。


あと話を聞いていないのは大隈だけだ。

しかしどうするべきか?ストレートに選挙のことについて聞くわけにもいかないし。


「大隈さん、あなたは排外主義や同性愛嫌悪を掲げる政党に票を投じていたそうですね」

ストレートに聞くんかい。


案の定、大隈も動揺している。

動揺した大隈はもごもごと言葉を濁し、結局はっきりとした答えは返ってこなかった。


「最後にもう一つ、後をつけられていると感じたことは?」莉々華はたずねた。

大隈は質問に戸惑いながら否定した。


「レオナルドさんは投票のことを知ってたのかな?

正義感の強い人だったらしいけど」

話を終えて大隈と別れてから、俺は莉々華に聞いた。


「社長は人間性もとても重視する。そんな政党に投票する人間に大きな仕事は任せられない、と判断するかもね」近づいてきた男が言う。堂前だ。


「しかし、秋田さんも少しずるいよな」と堂前は言う。


「『これ言っちゃっていいのかな』とか、『酒の席での話だ』とかフォローしながらあんな話をして…」

堂前は軽蔑したような目で語る。

「それでいてどこかで社長の耳に入ることを期待しているんじゃないか?」


これで次期社長候補の3人には話を聞いた。

「まだ何か聞くことがあるか?」俺は莉々華に問いかけた。


「何でもいいので、何かレオナルドさんについて気がついたことや、印象に残っていることはありますか?」莉々華は堂前に聞く。


そう言えばと、堂前は記憶を探るように首をかしげた。


「俺のネクタイを掴んで顔を近づけ、突然『いつも会いたい』と言ってきた。あれは何だったんだろう?」堂前は本気で困惑している。嘘をついてるとは思えない。


「その後、レオナルドさんは、何と?」

「なにも。いつもと同じように振る舞っていたけどなにか誤魔化しているように感じたな」


レオナルドは一体何が言いたかったのだろうか。

堂前は今も困惑しているようだ。


莉々華は、誰かに後をつけられていると感じたことはあるかと聞いた。


堂前は少し驚いた後、小さな声で、「いや実は最近、頻繁にそう感じたんだ」と言った。


「そんなことまでわかってしまうのか。本当に探偵なんだな」と、感心したように言った。


「仕事の疲れで神経質になっているだけかなと思っていたんだけど…」


美咲も堂前も、時折誰かに後をつけられていると感じていた。


莉々華は顎に手を当てて考え込んでいる。



3人以外の社員にもいろいろ話を聞いた。


「ガサツだ」という評価はあるものの、大隈が意外と親分肌で慕われていること。


秋田は「軽薄だ」という声もあるが、柔軟で物腰が柔らかく、社長になってほしいと願う人間が意外と多いこと。


堂前とレオナルドは、入社した頃から「できる奴だ」と評価が高く、社長からすぐ目をかけられていたこと。


いろいろな話が聞けた。


莉々華は今回の事件にどういう結論を出すのか?




社長室に秋田、大隈、堂前の3人が集められた。


「事件が解けたそうだ」

社長は厳かに言った。


秋田、大隈、堂前の3人がうめき声を上げる。3人とも鋭い目で社長のそばに立つ莉々華を睨みつける。


この中に犯人がいるのだろうか。部屋中に緊張が走る。


特に大隈の顔が強張っている。


それはそうだろう。投票について社長の耳に入るかもしれないのだ。


莉々華は1人の人間に近づいた。


堂前だ。


「堂前さん、レオナルドさんは顔を近づけてあなたに何と言ったんでしたっけ?」


「『いつも会いたい』と…」不安げに堂前は答える。


「『いつも会いたい』ではなく“It's my tie.”と言ったんだと思います」


「It's my tie?」堂前は困惑している。

「『自分のネクタイだ』という意味です」


堂前は目を見開く。莉々華は話を続ける。

「その時はレオナルドさんは意味が分からなかった。後々よく考えて、その意味を悟ったんだと思います」堂前の顔が凍りついている。


「美咲さんが不倫をしている。そう疑ったレオナルドさんは、探偵を雇って二人を調べた」


二人が誰かに見られている、つけられている、と感じていたのは勘違いではなかったのだ。


「証拠を突きつけられた堂前さんは焦った。なぜなら社長は人間性も重視する人だからです。

同僚の妻との不倫が明るみに出れば、次期社長レースから脱落する…」


堂前は床にがっくりと膝をついた。

「『いつも会いたい』から真相がバレるなんてね…」


「本当にお前がやったのか?」大隈は信じたくないようだ。


「この事は社長に報告するとあいつは断言した。どんなに頼んでもダメだった…。その後、口論になってカッとして…」


堂前は自嘲的に笑った。

「『わからない』、『何も知らない』、ばかりでは不自然と思って、何か喋らなければと…」


それは堂前の致命的なミスであった。


そもそも他人の妻と不倫するなら間違えて相手の旦那のネクタイをしないようにしなければいけない。



「社長はだいぶ気落ちしてたみたいだよ」莉々華は言った。


それはそうだろう。自分の後継者と考えていた人間の中から、犯人が出てしまったのだから。

しかも、4人の競争を煽るような自分のやり方が、事件を引き起こしたかもしれないのだ。


レオナルドは亡くなり、堂前は逮捕。

大隈は排外主義政党への投票が理由で、社長の不興を買うかもしれない。


「そうなると、秋田が次期社長候補に決定ってことになるのかな?」


「わかんない」莉々華は両手を広げて背伸びをする。興味はなさそうだ。

「それに秋田さんもかなり落ち込んでたしね」

ポツリと莉々華はつぶやいた。


堂前と美咲の関係にショックを受けたのだろう。


自分は秋田の美咲に向けた視線は情欲だと思っていたが、かなり真剣に想っていたのかもしれない。


すべてが終わった後、美咲は俺たちに「事件を解決してくれて、どうもありがとうございます」と礼を言ってきた。


夫の死体が発見された時、ひょっとしたらそれが堂前がやったのかもしれないと彼女は思ったのだろうか?それともそんなことは夢にも思わなかったのか。


答えを探そうと彼女の目を見つめる。

彼女も見つめ返してくる。


しかし、どんなにその瞳を覗き込んでも答えを得られそうになかった。

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