表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女探偵 柚月莉々華  作者: ゆうすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

盗み聞き

健太はぶらぶらと歩き、気がつけば公園に来ていた。深夜0時に小学生が一人でうろついていたら、警察に補導されるかもしれない。


男がベンチに座っている。携帯を片手に喋っている。

喋っている内容に驚愕した。


「…女をさらって」女をさらって?

「…それから手に杭を打ち込んで、喉を切り裂いて殺す」


怖くなって走って逃げた。走り疲れ、道路に立ち尽くしていると、突然声をかけられた。

男が追ってきたのかと思い悲鳴をあげたが、よく見ると警官だった。

「キミ、こんな時間に、一人で何をやっている?」

緊張が一気に解ける。健太はその場に力無くへなへなと座り込んでしまった。


神社で女性の遺体が発見された。女性は二十歳で喉を切られ殺されて、さらに手に杭を打ち込まれていた。犯行時刻は深夜3時ごろと予想されている。

女性は妻子持ちの男性と不倫関係にあり、それに決着をつけたいと妹に語っていたという。


最近は未成年の子供を指導するために、盛んに深夜に警察官が巡回していたが、町外れの神社はそもそも子供がほとんどいないため、人の気配がない。

そのため、犯行現場に選ばれたのだろう。


妹によると相手の男が誰なのかは不明だが、相手の男性は精神的に相当追い詰められており、姉は男に病院に行くことも勧めていたという。


こんな殺人事件が起これば、独自に調査しないわけにもいかないだろう。

俺は携帯を覗き込み、もう一度事件の記事をじっくりと読んだ。


ふと見ると、近くで少年がじっと俺を見つめていることに気がついた。

「その事件に興味があるの?」

少年は俺にたずねてきた。

少年は健太と名乗り、俺も自分の名前を名乗った。


「ゆうすけさん、俺はその事件の起こる三日前に、男が電話で喋ってるのを聞いちゃったんだ」

少年は自分が深夜に聞いた会話を話した。


「その3日後に本当に事件が起こったんだ」

「警察には?」

「警察に言ったけど、信じてもらえなかった」

忌々しそうに少年は首を振った。

「そいつがどこの誰かわかっているよ。あそこのビルの最上階で働いているやつだ」


少年に案内されて一緒にビルの前まで行く。隣のビルに寄り添うようにぴったりと立っている。ここの最上階に犯人かもしれない人間がいるのか。すると、ちょうど入り口から一人の男が出てきた。

「あいつだよ」

少年が怯えた声を出す。


「俺、もう帰るよ」

少年は怖がって、走って去ってしまった。

自分が見られていることに気づいたのだろう、男はこちらを見つめる。

俺は思わず声に出して言う。

「人殺してます?」


「はぁ?」男は困惑した顔をした。

事情を話すと、男は爆笑して言った。

「事件のあった時間は、ずっと部屋にいた。1階の入り口の警備員の前を、僕が入っていくのをカメラが捉えていると思うよ」


自分は探偵だと話すと(正確には探偵助手かもしれない)男は面白がって、自分の部屋に案内してくれた。


男はビルの4階の自分の事務所に連れて行くと、よく冷えたアップルジュースを出してくれた。

そして正木淳(まさきあつし)と名乗った。


「僕はいつもこの部屋で一人で仕事をしている。だからアリバイを証明してくれる同僚もいない。でもこのビルを出入りするには、絶対に入口の監視カメラに映るから、それがアリバイになると思うよ。」

口調から、嘘をついているとは思えなかった。

俺はがっかりして捜査を打ち切ることにした。


正木に礼を言って、事務所を出ることにした。帰り際、トイレを借りられるか尋ねると、

「この部屋にはないから、出て左に行けばトイレがあるよ」と言われた。


言われた通りに行くと、トイレがあった。トイレに入り用を足す。窓の外を見ると、すぐ隣のビルの窓だった。向こうもトイレのようだ。


4階の窓から隣のビルに移れるのでは?

窓を開け、向かいのビルの窓を引くと簡単に開いた。窓を乗り越えて向かい側に移る。

簡単に隣のビルに行くことができた。


ビルの4階から3階へ、そして2階へと降りていく。隣の雑居ビルは、雑貨屋やガールズバー、居酒屋が入っている。

知らない人間が歩いていても、誰も気にしない。

監視カメラなども特にないようだ。


入り口の監視カメラに姿が映るので、アリバイになると男は言ったが、4階に上がった後、窓から隣のビルに移って出れば、十分犯行は可能では?


そんな風に考えながらビルの外に出ると、男が微笑んで立っていた。

「やあ」男は声をかけてくる。

正木だ。


「君が帰った後、僕もトイレに行きたくなって行ったんだ。そうしたら、窓が開いていてね」

正木はにやりと笑う。


「君がこの窓から、実際に隣のビルに移って、僕もそういう風にやったんじゃないかと考えたんじゃないか」正木は楽しそうだ。


「いいアイデアだな」一人で呟く。

「そうすれば、誰にも気付かれずに出入りできる。でも、それは机上の空論じゃないか?君が誰からも疑われないのは、ここに初めて来たからだ。僕はこのビルにも顔なじみがたくさんいる。一階の雑貨屋の店長は友人で、よく喋るしね」

正木の態度は堂々としている。


「でも、完全に疑いを否定するのは難しいか」

正木は首を振って言う。

「それに、事件があったのは深夜3時だろ?その頃は隣のビルは完全に閉鎖されていて、窓も全部内側から鍵が閉められている」

確かにそれなら、犯行は不可能だ。

「とにかく僕は犯人ではない」道に突っ立ってしゃべっていると周囲の目が気になってくる。

「実は僕は小説家なんだ。小説の内容を編集と話していたんだよ」意外な事実が明かされる。


その瞬間、俺に天啓と言うべき考えが浮かんだ。

「編集、その編集が犯人だ!」どうだ!

正木は拍手した。

「すごい面白い考えだね。だが、編集は今、体調を崩して入院していてね。病院をこっそり抜け出して人を殺してこっそり戻るというのは、ほぼ不可能だと思う。人の出入りに関して、かなりチェックの厳しい病院だしね」俺はがっかりした。


編集との会話の内容は、誰にも喋っていないという。おそらく編集も同じだろう。未発表の小説の内容なのだから。


俺は正木に、そもそも深夜の公園で編集にしゃべった小説の結末はどう考えていたのか尋ねた。

「実は結末は考えていないんだ。締め切りが迫ったら出だしの設定だけ編集に話して、その後、頭をひねって一生懸命に結末を考えるんだ。毎回僕はそんな感じだよ」正木は自嘲的に笑った。


「もし今回の事件が解決したら教えてくれ。小説のアイディアが手に入るかも」

そう言って正木は帰って行った。


帰り道を歩きながら思う。正木が非常に魅力的な人物であることは認めざるを得ない。

殺人犯かもしれないのに、誘われるがままに部屋に行き、ジュースをご馳走になってしまうほどだ。

正木は信頼できる人間なのではないか?


明日、莉々華に相談してみよう。


翌日、俺は学校で同級生の柚月莉々ゆづきりりかに事件のことを相談した。莉々華は頭脳の冴えに関して、俺が敬服している相手だ。俺は彼女を密かに探偵扱いしている。


「というわけで、正木にも編集にも犯行はかなり難しいんじゃないかと思うんだ。だけど他に犯人の可能性が思い浮かばない」

自販機の前で莉々華に俺は昨日の出来事を話した。


悔しいが、莉々華に頼るしかない。

莉々華はボタンを押し紙パックのジュースを購入する。


彼女は呆れた顔をした。

「犯人かもしれない人間に話を聞いて、『アリバイがある』とか『信頼できる』とかどうなの?」

ジュースを取り出しながら言う。


「そもそも、電話で喋っていた相手は編集者ではないかもしれないし、小説家というのも嘘かもしれない。なのに、部屋にノコノコついていって、殺されたらどうするつもりだったの?」

言われてみればそうだ、俺は自分のまぬけさにすっかり落ち込んでしまった。


落ち込む俺を見て、莉々華は嬉しそうだ。

「でも、正木淳という小説家は実在するよ。この町に住んでるって聞いたことがある。正木淳を騙る偽物の可能性もあるけど」莉々華は携帯を取り出す。

「調べればすぐにわかるよ」そう言って携帯で画像を検索する。

「この人?」俺に携帯の画面を見せる。

「間違いない。こいつだよ」画面に映っていたのは、間違いなく昨日会った正木淳その人だった。


「それじゃあ、昨日喋った内容は本当だと、とりあえず信じてもいいんじゃないかな。きちんと調べればアリバイとか電話の相手も確認できそうだし」

紙パックのジュースにストロー挿す。


「正木と編集の電話の会話が事件に無関係のわけがないと思う。だけど、他に電話を聞いた人間がいないんだ」俺の頭脳ではもうどうにもならない。

「いるじゃん」と莉々華はジュースをストローですすりながら言った。

「誰だ?」「健太君」平然と莉々華は言った。

こいつ、あんな小さな少年が犯人だって言うのか?

なんてやつだ。

「まあでも、体格的に相手が女性とは言え、難しいかもね」

「当たり前だろ」そもそも俺には、あんな小さな少年が犯人という発想自体がなかった。


「でもそうすると、犯人の可能性がある人間がもう誰もいないんだよ」

「小説家の話した言葉を聞いた人間がもう1人いるよ」

「誰だよ」

「警察」莉々華は飲み終えた紙パックのジュースをゴミ箱に放り言った。

警察?


「いや、でもお前、それおかしいだろ?」

俺は混乱して取り乱した。

「健太くんは何て言ってたっけ?」

「警察に言ったけど、信じてもらえなかった、と」


「女性が喉を切られ手に杭を打ち込まれ殺される。そして、事件の前にそれを喋っていた男がいる。

そんなどう考えても重要な情報を無視するなんてことある?」

そう言われてみればそうかもしれない。

「健太君が警察と喋ったのは、事件が起こった後じゃなくて前なんじゃない?」

そんな…そんな事があるだろうか?


…あり得るかもしれない。

深夜に出歩く未成年を指導するため、警察が頻繁に巡回していた。

「殺人の計画かもしれない電話を聞いてしまった健太くんはその夜、警察に出会った。不安を感じて怯えていた健太くんは、それを話した」

その警察官が被害者の不倫相手だったのだ。


「泥沼の不倫に悩んで精神的にも不安定になっていた彼に、少年の言葉は天啓のように響いた。そしてその言葉に取り付かれるようになった」

小説家の言葉通りに殺人を実行する。

もはやそこには小説家に疑いを向けようという計算も存在していなかったのかもしれない。


後日、全てが明らかになった。

ほぼ全て、莉々華の予想通りであった。


逮捕された警察官は不倫相手を殺害したことを自供した。小説家の言葉通りに殺害したのは、まるで神からの啓示のように響いたからだと言う。


学校が終わり、だらだらと歩く。公園が見えてきた。ケンタが正木の電話を聞いてしまった公園だ。


こんな事件が起こってしまった以上、正木はあの設定で小説を書けないのではないだろうか?締め切りが迫っていると言っていたが、大丈夫だろうか…。


公園では正木がベンチに座って電話で喋っている。編集と話しているのだろう。盗み聞きする形になってしまった。


「小説家は少年に会う。少年が開口一番、こう言うんだ。

『人、殺してます?』」って…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ