風の不在
「きみも知ってる通り、森のものとも類似な『風の性格』は一見危うくて適当に思えるが、ライン越えはあまりしないから……そこは心配しなくていいんだ」
アルベルト・レグノが言った。
「わかってますよ。ごめんね、ちょっと魔術ギルドでオートマトンのことがバレるのに気が尖っていた。私がマギアになろうとしたのに、おかしいよね」
ううん、とエメラルドは頭を振るう。
「それも、またルビーちゃんのエーテルに正直だったから。それもいいよ。そして、火属性の魔術師がよくそうであるように、有能なひとを1人2人釣って、甘酸っぱい生活でも送っていけばいいのではないの」
「私は真剣だ!」
「じぶんも真剣だよ。どう考えても人間さんたちの頭には恋愛と結婚と恋愛結婚の話しか入ってないんだ。面白いと思うし、いいテーマとしてこれからもずっと扱う気がするけど……『あ、そういうのが人という存在の美しさというものの仕方ない基準点なんだな』とオートマトンとして思ってね」
「だからなに」
「エーテルに素直だから火のマギア。たぶんきみがそのインナーサークルでいちばんよく混ざる為の話も、人間の熱情だ。そういうことしか考えられない画家だから、その面は職業病として見逃してほしい」
「ええ……一回見たところそんな感じではなかったんだ。みんな魔術に真剣で『奇跡の様な行い』をより聖人さんのようなものにするために、一回間違えたら大火事になっちゃう自分の能力に恐れて磨いていく求道者だ」
「それはルビーちゃんが入ったばかりだから高く買い過ぎよ。本当に人が好きとか良いことを認められたいとかそんなことしか考えてないのが人間。そして、それだからこそ心から来る美しさがそれぞれあるということになる」
アルベルト・レグノはエメラルドの話が大体正しいのを知っていたが(そしてルビーも写の記憶を分析したら容易くその結論が出れたのだが)今の話におっさんが介入するとカタチが非常によくなくなる。その型物理性のデメリットを本能的に察して、ただ皿を整理した。
「おかしい……なんかエメラルドに騙される気がする」
「騙すもなにもありません。今まで見た人間のことをタグ:マギアと火属性で絞って読んで見なさい。バカしかいないのよ。恋心の馬鹿しか。
でもそれが尊いのよ」
「わー!」
ルビーは奇声をあげて、椅子から立った。
「エメラルドちゃん、めっちゃ大人ぽい」
「自分たちはもともと何千年生きてた記憶とほぼ同質のものだから。ここはルビーのコアがめっちゃ人間だということだ」
「オートマトンなんだけど?」
「正式にマギアの1人になってるから」
「ふうん、そういうのがエーテルの変化ですか。あ、ありがとー」
呑気なリソくんとサファイアの言葉に、ルビーはちょっと冷静になった。
「……ふうん、私はみんなと同じく、みんなを尊重し、それぞれの属性のエーテルの解釈はその属性の観点では正しいと思ってるから、これは実際フラマの生活をしてみるまでは保留する」
「ちょっと刺激的だったか」
「乗らない」
「でもじぶんはそういうの本当に素敵だと思ってね、アリアのマギアさんたちはそんな自分の本音として言えるものが別にないと感じてるから」
「そうなの?ギルドの伝令として、魔力登録システマの担当として、そしてだいぶ中央堂の職員として頑張ると聞いてるけど。その中の声があるだろうし、逆に頭として意見が張れないのは権力の下のものはいつもそうだ」
「そう……だからじぶんは向いてないと言ってるの。アリアはちょっとそれが過剰よ。他のひと、他のマギアの媒体になるんじゃない。メインは火や水の戦闘魔術師か、土や水の物流だ。名誉の面でも、実利の面でも風のエーテルはその中間の書記担当になってるから」
「ふむ、わたくしもそんなことは感じた事がないな」
他のみんなの食器をキッチンに持ってきたアルベルト・レグノもエメラルドのその話に反応した。
「まるでなにか大きい空白があるような。そしてそれを頑張って埋めようとする大きい目的性すらも、アリアのエーテルには欠けていると感じているの。今でいいんじゃないーのーというのがあるの」
「でも、実際に聖堂の『四元素』の1つとしてあるじゃないか。偉い立場だぞ。
私の、きみたちも属している『木属性』や『金属性』のエーテルよりはもっとメインストリームになっていて、待遇がいいものではあるけどな」
「それは違わない。ただ、じぶんが言いたいのはほかの魔術師に比べて多少色の扱いや役目が薄いということだ。ルビーちゃんの仲間たちのことを悪くいうつもりはないし、今のかしらはその風のラファエルさんだというから、だからって弱いわけでもないけれど、主体的ではないと言いますか?原因が与えられないと1人で立てない不完全さを感じちゃうのよ」
「不完全さ」
「四神に『かぜの神獣』はないようにね。そういうちょっとの奇妙さを感じるのです」
「ふむ……」
「そうか……」
エメラルドはちょっと周りを見て、自分の手首を揉んで、話したことを後悔するように、ちょっと笑って言った。
「そう、長く生きてるうちにわかるかも」
ルビーをからかう言葉とは違って、それは本音に持ってる欠落に関する仕方ない無力さが染み入る言葉だったので、それを機にアルベルト・レグノ家の朝ごはんの話は締められることになった。




