キメラ・プラントの焼却
ハグは、エンブリオくんから離れた。この時間が過ぎてしまうのを惜しいと思うように、大きい目で見上げわたしを見る。この子はわたしのことが好きすぎているので、またこの思い出をいっぱい考えながらこの工事現場にいるのかしら。かわいいやつだ。
「それでは、ステラさんも時間なんですね」
「そう。そろそろネロさまに戻らないといけないのだ。もうちょっと早く来てもよかったのだが、わたしもこの野営地のところどころを見たくて回ったら遅くなった」
「なるほど」
「それじゃ、たぶんギルドの行事で見るけど……会うのは家だ」
「はい、わかりました」
「バイバイ」
わたしはフラマの寝床から司令部に戻る。位置を把握したから迷わない。歩きながら、このような大きいキャンプ場を何時間で作り出すとか、やはり平凡の技術者さんはすごいな、と思った。
馬車で板と布団、暗幕や薪は大体運んでもらって持ってきて材料は万全。設置するだけのことだとも言えるけど、クララちゃんがやるにはなかなかのわからない作業だ。多分わたしもチカラは!平凡の人としては力持ちになってると思うけど、作るのはコツが必要なんだね。
「ただいま戻りました」
「おはようございます、薬師さん。アストラさんまだ寝てますよ」
「セーフですね」
中央堂に出入りしながら慣れた、他のアリアのせんせいに挨拶をして、わたしは「いい言葉」「奇怪巨木を完全に燃やす」行いが終わったらすぐ、またギルド長の「轟」に飛ばされてフィレンツェまでの上空を眺める予定だったので、今の地面を楽しむことにした。
ずっと起きていて寝る時間も短い夜型人間のばあちゃん。もう「永生」する心と体になってしまったわたしはクララとして普通のばあちゃんになる予定はない。
「フワァ〜」
あくびをするわたしを見て、ギルド長の土台や机を準備する人たちが、呑気な薬師さんだ、という視線を通しながら動いてる。考えすぎだが、たぶんわたしへの認識は合ってるだろうよ、と、本当になんも考えてないままやっと「水の堂」ガブリエル・ブリナさまにも目が合って挨拶をすることになったわたしであった。
一番群青のふわふわの髪型、ワイン色の目。わたしのことをそんなに気に入らないように見ていらっしゃる。あれかな。わたしが仕えているアストラさんはギルド長の相談役としてあるかないかの微妙なラインでギルドの意思決定に関わってる。その専属薬師をわたしのようなよくわからない頭白い娘に取られて、数えるとアストラさんの同じ系統のアクアのマギアとしてはおいしくないのかな。エンブリオくんはなんかエロい子だと言ってたけど、わたしが見るにはそんな感じではない。
そういうことを考えたら、もう一回わたしの方向に振り向いて、ふむ、本当に心の言葉を読むことができるお方だ、とわたしはちょっと考え方を調整した。
超暇人のまま、荷物の奇怪巨木のサンプルを3回目に確認したら、アストラさんが起きて、ちょうどその後すぐギルド長のお言葉があると言った。
「うわ、めっちゃ寝た」
「おはようございますネロさま」
「おはようステラちゃん」
なんか呼び方がちゃん付けになった気がするけど、それがいったいいつまでかわからなかったので、わたしは確かに彼女の親しい子にはなれたかも知れないと、ちょっと思った。
「この後ギルド長の言葉と『巨木』を焼く行事をやる予定です。朝はなにか食べない方がいいですか?」
「うん。帰ったらちょっと食べて寝るといいのだ。大丈夫だよ」
「はい」
年をとると人間はいろんな病気と一緒にいったん生きるしかないので、わたしは先飲料を貰ってるのと、朝の粉薬をちょっと飲ませる。
「不味いな」
「ネロさまの体のためです」
「ベヒモスの件がうまく終わって、天才の子たちが集まるギルドでより天才が3人もいるから、私たちが慣れてる、なんか『急展開』のようなこともないと思うし、発生しても対処できる。もしかすると人生最後に、『レヴィアタンの海賊』のトラウマが晴れたかも知れないね」
「それはとてもいいことです。でもこれからもいいことがいっぱいあると思いますよ」
「なんでもイベントだ。『強烈な経験』は人生を変えるけど、人はそうぴょこぴょこ変わっちゃうものではない。私は本当にギルド長が、ギルド長のシステマが崩れることが恐ろしかったんだよ」
「はい。そしてその本人もすぐあっちにいますよ」
「おやや」
わたしたちの話を聞いて、わたしにもちょっと本心を明かした後の彼女は、なんかあえて虚勢を張るように言う。
「薬師さんの言うとおりだ。これからも『すごい奴をいっぱい集めて』アストラさん好みの景色を見せるから」
「どうか無理はしないように……」
ばあちゃんはとほほ、と笑った。
「しないしない」
そう言ったラファエルさんの言葉がまだ耳に残ってるのに、今の宣言で、行事がもう全部終わることになる。
「火を付けるのだ!」
ラファエル・ムジカの命令で、引率のせんせいがフラマの代表格として、奇怪巨木のそこに火種を付けた。




