治安
「あ、そうだ。ドルイドさん、先帰り道であやしい人を見ました」
「ほへ?」
おれはギルドから戻る間に見た、影のような男の事をドルイドさんに伝えた。
「背は普通。成人男性で、早く歩いてて建物の間に潜んだ。何かを持ってました」
「ふん、それは明らかにあやしい奴だな。泥棒か?」
「その可能性が高いですね」
おれはドルイドさんが平然と聞くと思ったけど、意外と彼女は心配な表情だった。
「物騒なもんだ。実はわたしは、桜のドルイドとして生身だけで動く事をやめ、現代人として物を持つことを決めた時に、『泥棒対策がないな?』とか思ってたけど、実際ここ、我が家のように仕組みがなっているところに来てから安心ができたのだ。普通の人はこれが不安でどう生きる?」
「それは……ふだん鍵で閉めて、盗まれると平凡の衛兵に知らせます」
「なら探してくれる?」
「まあ、その同じ泥棒がすぐ捕まったらですね。でも、大体仕方ない」
「やはりそうか。怖い事だよ」
おれは先よりあきらかに柔らかくなったドルイドさんの態度に安心しながら問えた。
「意外と心配ですね。もの自体はそんなに重く感じないと思いました」
「そんなことないよ。わたしは混ざりだ。クララちゃんであり、深紅の悪魔だ。深紅の悪魔として、ムー大陸のシステマに慣れ過ぎていたのだ。そこは自分のものがあって、それの識別子が付けているのがどうぜんであって……それが平凡のものも非凡のものも自分の奴が判別できる。そういう仕組みに慣れているの……まあ、そしてクララちゃんとしての心配性との合体だ」
「なるほど」
おれはそのムー大陸の個人のシステムはほぼわからなかったが、(これも、夢の主体さんとしては本当にどうでもいいことだったかも知れない)先まで言ってた「贅沢過ぎる」その過去の国を思って納得した。たしかに……平凡の人さえ非凡の物事が利用できるなんでも豊富な国なら、今の様な社会は……別に自分の身があって健康だから平気なら平然だ。でも、それを超えて、家があってものを保管することになると……心配になるしかないのだ。
「ギルドのドアロックと似たような感じだ。それがほぼ国の全部のものに名前が付けている感じなんだ」
「それは……便利そうだけどややこしいですね。逆に不便ではなかったんですか?」
「まあ、実際わたしには情報過多の感じもあったな。ぜんぶ名前名前名前名前が見えちゃうから。しかも、管理システマも関与してたから」
「そうだったんですね」
「でも、その管理はギルドの風のシステマのようなものが……よりエーテルを浪費しながらできていたから、言葉で処理をする感じだった。別に、個人が自分のものを整理することに困る事はなかった」
「へえ」
つまり、なんでもやってくれる……国と大陸全体で働くギルドの魔力管理システムみたいなものか。そのような、使い魔みたいなものだったということか。それは確かにエーテルが豊富で豊かな国だったんだろう。
「でも、そのような国はもう現実にはないから。だから、わたしは無意識的に、逆に『わたしの身だけなら、別にいいのだ』と思ったんだ。杖1つあればよいのだ」
「ドルイドさんの杖、ありますね。高級そうなもの」
「うん、わたしはクララちゃんが亡霊の時も、枝を持って離れてなかったんだ。だから作ったのだ」
「なるほど」
「うん?」
そこでブイオさまが疑問の音を出す。
「どうかしましたか?ブイオさま」
「亡霊のくららちゃん、枝とか持ってなかったんだ」
「そうですか?ならどっかで落としてた。最初はあったんです」
「そうか。まあ、その状態の『霊術師』は、なにもかもが曖昧な存在だったから。器自体が非常に不安定なものだったからそれも十分ありえる」
「なるほど」
「確かにこの子は自分の服の次にすぐルビーの杖を欲しがるくらいに杖を持ってて、それが商売道具としてよく働いた頃までは、他のものは持つ必要がないと感じた」
「まあ、ブイオさまのエーテルで行動ができて、普段はなんでもお水をちょっと飲むと元気になるのだから。もふもふで寝てもいいし自分はどこでも寝れる健康体だ。それは今も同じだ」
「そうですね。パンを食べなくてもでもいけるということですね。でも、ドルイドさんもアストラさんの話し相手及び専属薬師としてギルドから支援金に出るようになってからはその必要もなくなったんですね」
「うん、お金でものが買えるようになったのだ」
そう、ドルイドさんは……もう現代のいちばんいけてる国、フィレンツェ市内で買い物ができるようになったのだ!以前おれも一緒にパンや干した肉などををちょっと買ったことがある。
「そういう生活をしてからは、普通の家ならいつ盗まれるか不安で不安で仕方がなかったのだ。それがきみに会いに来る日、ブイオさまと『これからの方針』を決めるためにずっと悩んだこと」
「はは」
なんかおれがいつかの午後、ほぼ徹夜の連続で心も体も限界だった時、ドルイドさんは(そしてマントのブイオさまは)おれの人生に再登場した。




