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最高の幽閉生活


 プロメシア皇国の皇女であるイリーナ・アリフレート・トランドは悪女として歴史に名を残す極悪皇女と評されている。


 なぜそう言われるに至ったか。


 数ヶ月前、イリーナの父であるアリフレート皇帝が持病の悪化により意識不明の重体となり、国政を()(おこな)うことが不可能となった。


 アリフレート皇帝には17歳の娘である皇女イリーナと、12歳の息子の皇太子ルイがいる。

 通常ならば皇位継承権第一位であるルイ皇太子が皇帝代理として政治を()仕切(しき)るのが(なら)わしである。


 だがイリーナはそれに反発。

「ルイには皇帝としての資質が欠けている。私にも王位継承権がある。自らが皇国の(まつりごと)(にな)うにふさわしい」と、


 イリーナはその美貌で有力貴族たちを味方につけ、ルイ皇太子を取り除こうとした。


 だが、アリフレート皇帝に仕え、ルイ皇太子の摂政(せっしょう)に就任した大魔導師ライ・カーンがそれに対抗した。

 イリーナとイリーナ側に立つ貴族たちの不正行為を次々と告発し、教会と世論(せろん)を味方につけ、イリーナ皇女を国家反逆者としてホロミア塔に幽閉してしまったのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「と、いうことです。何か、思い出されましたか?」

 メイドのティアが説明を終え、一息つく。


 イリーナが塔に幽閉されてから1ヶ月ほどになるらしいが、昨日までのイリーナは毎日のように「必ずこんな塔を脱出してやる!」と叫び、癇癪(かんしゃく)を起こしては暴れまわっていたらしい。

 昨晩は珍しく酒をあおり、その後すぐに体調が悪いと言って眠りについたようだ。


「ありがとう、ティアさん。

 私は弟との政治争いに(やぶ)れた皇女で、二度と悪さができないように、この塔の最上階に閉じ込められているということね」


 とりあえず幽閉生活のストレスによる記憶喪失という設定で押し切るつもりだが、ティアに疑う様子がなく、加えてこちらにとても協力的なのでなんとかなりそうだ。

 

 ひとまずの状況は理解できた。

 転生前の自分も高層ビルで終電間際まで労働を強いられていたが、まさか死んだ後も高いところに閉じ込められるとは……


「ちなみになんだけど……私ってどんな人間だったかもっと教えてもらえる?」


「そりゃあもう、イリーナ様はとってもわがままで細かくてお厳しい方でした!

 この塔に来る前から宮殿の使用人たちは手を焼いておりました!


 私もお礼を言われたことなんて一度もございませんし、ティーカップが飛んでくることなんて日常茶飯事でした」


 言い終えたティアは、「やばい!」といったような表情で急いで口を塞ぐ。

 なるほど、この体の本来の持ち主はかなり高飛車な性格なようだ。


 とくに気にしていない様子のイリーナを見て、ティアは安心したのか表情を和らげる。


「私のことは単にティアとお呼びください!

 私、実はずっとイリーナ様の離宮(りきゅう)で働いていたんですよ?

 どういうわけだか巻き添えでイリーナ様のお世話係として、一緒に塔に連れてこられてしまったんです……」


 その後も、ティアは塔での生活がどのようなものなのか詳細に説明してくれた。


・塔の最上階の中なら自由に行動できる(専用の浴室とお手洗いが直結したイリーナの部屋と、ティアの部屋、簡易的な浴室・お手洗い・キッチンがある)

・食事はきちんと朝食、午後の軽食、夕食が用意される。

・必要なものは言えばだいたい用意してくれる(衣服、日用品、化粧品、嗜好品など)

・宮殿から持ってきたドレスやアクセサリーが山ほどある。

・週に1回、神父がやって来て礼拝を行う。


 塔の中にある家具や調度品は皇族が使用するにはあまりにも粗末なものらしいが、転生前の世界で平民以下(社畜)の自分からすれば十分豪華だ。


 ティアの年齢はイリーナと同じくらいか、それより少し下くらいだろう。

 短く切りそろえられた栗色のおかっぱ頭とクリクリした目、よく動く口が小動物みたいでかわいらしい。


 悪くない。


 イリーナはベッドに横たわり、布団を被る。


「イリーナ様!?どうされましたか!?」


「どうされたって……二度寝だけど。とくにやることないし」


「二度寝!? イリーナ様が二度寝!? あのイリーナ様が!?」

 ティアがわななく。


「毎朝目が覚めたら薔薇の花びらがブレンドされた紅茶をお召し上がりになられて、必ず朝のうちにメイク・ヘアセット・ドレスアップを欠かさないイリーナ様が! 夜になるときちんとイブニングドレスにお召替えをなさるイリーナ様が!」


 塔に幽閉されてて外出もしないのに?

 イリーナが高飛車かつ意識が高い娘だということがよくわかった。


 毎日何にもしなくて良くてゴロゴロできるなんて最高じゃん。

 同じ高いところに閉じ込められるのならこっちのほうが断然いい。


 夢だったら覚めないでほしいな。

 こうしてイリーナは再び眠りの世界に(いざな)われていったのであった。


読了ありがとうございました。

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