VS潜水艦4 / 双子の潜水艦
古代戦艦コレッジオ。2隻で1隻の潜水艦。
「それって、つまり海域には2隻の潜水艦が存在するってこと?」
「コレッジオは単独行動はとらないわ。だからまず間違いない」
不審だと話にあがっていた潜水艦の進行方向に説明がつく。
後ろから来るいまの一隻はたぶんオトリ役。
岸側へ舵を切ったところでもう一隻が現れて、挟み撃ちか側面攻撃をするつもりだ。
「それで仕留められなければ、二隻で大陸側についてイリスヨナを遠洋へ追いやる算段なわけね」
浅い海域は遠い。
敵は潜水艦が二隻。一隻は位置が確定せず、もう一隻はどこにいるかもわからない。
アクティブソナーを使えば相手の位置はわかるけれど、ピンを打ったら気取られるかもしれない。
相手の位置取りによっては先制攻撃される。仕掛けたのは向こうからなので、まず間違いなくそうなるだろう。
「コレッジオの2隻は巫女の交感で連絡をとりあえるの。だから互いの位置がわかる」
「それはすごいわね。さすが、魔法がある世界の古代戦艦って感じだわ」
私は素直に感嘆する。
潜水艦は、探知されないために作戦中は無線を封鎖する。また海中に潜ってしまえば、海水で電波が減衰するため望んでも無線通信ができない。
古代戦艦コレッジオは、私の世界の現代艦船でも難しい海中での連携戦闘ができる。
イリスヨナはその二隻に囲まれた。
「互いの位置がわかるなら相打ちの心配もないわけね」
まあ海では相打ちなんてそうそうないものだけれど。特に潜水艦の魚雷攻撃では。
自分の魚雷に当たった潜水艦の話はおいておく。
「潜水艦の艤装は?」
「前部発射管2門。魚雷は終端で感知誘導のある400mmの単魚雷」
魚雷としては小型だが、船体に穴が開きっぱなしのイリスヨナは、魚雷サイズによらず直撃すれば一撃で沈む危険もある。
「旋回性能は?」
「海中のコレッジオはそれほどではないわ。水上艦の半分程度。単魚雷は大国アルセイアの同等品とおおむね同じ性能と思っていい」
私が視線を向けた掌砲長がうなずく。私が知っているイリスヨナの入力情報のとおりで良いだろう。
「発射可能深度はやっぱり水深20m?」
「ええ」
「砲塔とかついてないのよね?」
「魚雷の他には衝角もないわ。対空防御は魔術師がする想定。でも現在は乗員に迎撃担当の魔術師を乗せていないと思う」
魔術師は近接がありうるならば脅威だけれど、艤装としては対空機関銃すら載せていないらしい。
「一番厄介なのは、コレッジオの稼働時間。艤装の少ない小型艦なのもあって、巫女の負担がかなり軽いの。
それに、コレッジオは二隻で一隻、巫女がふたり。
変則的だから半分とはいかないし一番ではないけれど、古代戦艦の中でも長い方だわ」
私が頭に思い浮かべるのは原子力潜水艦。核戦争時も海中で独立して活動でき、水すら海水から作り出すことができる。
核燃料の補充も不要な古代戦艦となれば、連続稼働時間は船体寿命とイコールでも不思議はない。
「どれくらいなの?」
「3日間」
「えっ?」
フーカは真剣な顔をしている。
「たぶん、いまはもっと長くなってる」
「そうよね。半年くらいは」
「交代で1週間は連続で戦闘可能になっているかもしれない」
そこまで言ってから、フーカは私の顔を見て、やっと私の反応に気づく。
「半年って?」
「あー、えっと、そうよね。すごいわよね1週間。7日だものね」
「何なのその反応」
一週間って。
ディーゼル動力潜水艦か?
いや、動力以外にも空気なども必要だから十分すごいのだけれど。
さっき『さすが古代戦艦!』となったばかりなので落差が。
あとは潜水艦の性能としては潜水可能深度が重要だけれど、水温躍層より下に潜航できることがわかっている。
状況はわかった。そういうことなら、初動の対処方針はおおむね定まる。
「ちなみに潜水艦の形状は? 涙滴型?」
私の疑問に、フーカは不思議な表情をした。