プロローグ
スタッドの村は勇者の村。
昔、勇者が旅立つのはこの村からだった。
勇者に祝福をし、剣や武器を授ける祭殿があったのである。
先代も先先代の勇者も、ここから旅を始めた。
王国の西の辺鄙な村スタッドだが、10年に一度、村の奥にある祭殿で、10〜19歳の村の子供たちを集めて勇者を探す。
昔は本当に、魔王がいたり、周囲が戦乱だったりするので、勇者や巫女、聖女を探していた。
しかし最近は、平和が続き近隣の国々の代表などを集める儀式となっていた。
俺……村長の長男ケインは12歳。
勉強も好きだが、小さい頃から戦士のおじさんたちにも教わってきた。
夢は勇者じゃなくていいから、狩人や戦士として村を守ること。
両親や祖父母、姉妹も大好きなのだ。
父には兄がいるのだが、若い頃に飛び出して行き、行方不明だった。
本当は伯父が後を継ぐのは本当だが、余りにも素行が悪いという事で、30年前の祭殿で怠け者と言う称号を得てしまい追い出されていた。
そう、追い出されるのは勤勉な職に就けない者たち。
その職は曖昧で、しかし、怠け者、盗人、暗殺者など裏稼業の者は追放の対象になる。
まだ未成年で追放……それは今でも行われていて、それを恐れて村人は小さい頃から勉強や剣の稽古、家の手伝いなどに励むのである。
明日は、祭殿での勇者探し。
楽しみもあるが、少し怖かった。
なぜなら、昨日、30年ぶりに伯父が家族をつれ戻ってきていた。
「俺の息子も14になる。ここで育っていないとはいえ、ここの子供だろう?頼むから儀式に参加させてやってくれよ」
「帰ってくるなと言っただろう!」
祖父は険しい口調で言ったが、温厚な父が、
「父上、兄さん達も長旅で疲れているんだから……」
となだめ、家ではなく宿屋に案内した。
この父の温情が、俺の未来を、人生を狂わせるとは、俺も周囲も解っていなかった。