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仕事なので勇者探します  作者: 新町新
2/23

2話

 



 会議に寝坊したら勇者を探せと言われた。



▲△▲△▲△▲△▲


 王宮を出て貴族街を抜けて平民街まで歩く。ここまで来るのは久しぶりだ、四魔に就任して以来だろう。


「どこになにがあるか分からないな」


 とりあえず人がいる方に向かう。もう日が落ちて時間が経つがサージャント王国は他民族国家故か夜も人が絶えない。


 しばらく歩いていると一際大きな建物を見つけた。どうやら冒険者ギルドとか言うらしい。興味を惹かれたので中に入ってみる。


 受付らしきカウンターに職員だろう、女が座っている。とりあえず色々聞いてみよう。


「ここは何をする施設なんだ?」


 突然話しかけられた事に驚いたのか目を丸くする。いや、断りの言葉を言わなかったからか。


「え、冒険者ギルドをご存知無いのですか?」


 心底不思議そうに聞かれてしまった。周りの奴らもヒソヒソし始めた。


「あぁ知らない、冒険ということは何かを探してしたりするのか?」


「そういう依頼もありますが討伐や護衛の依頼もあります」


 依頼ということは仕事の斡旋屋ということか。なるほど仕事に窮した奴らが来る場所なのか。だが依頼でアンセム王国に行けば怪しまれることも無くなるか?


「依頼はどうやったら受けられる」


「ギルドに登録していただいて、あちらの掲示板から好きな依頼を持って来てください」


 受付嬢が手を向けた方を見る。掲示板の前では冒険者たちが色々話している。依頼について話しているのだろう。依頼は早い者勝ちみたいだな、俺も見てみたい。


「それじゃあ登録を頼む」


「それではこちらの用紙に名前と職業を記入してください」


 1枚の紙を渡された。名前の欄にクライス・シェルと書き込む。職業は……四魔の身分は明かせないから魔道士と書いておこう。自国だが王宮から出ることが基本無かったから誰も俺の顔を知らない筈だ。


「あら魔道士の方だったんですね、杖が無いから戦士系かと思いました」


 杖を使うのは二流だろう、半人前と言ってもいい。だが杖を持たなければ戦士と思わせることが出来るんだな、良いことを聞いた。


「今はアイテムボックスの中に入れてるんた」


 もちろん嘘だ、後で杖も買わないとな。


「アイテムボックスとは良いスキルをお持ちですね、それではこちらの水晶に手を乗せてください。登録をします」


 言われた通りに手を乗せると少し魔力が抜ける感覚がする。


「終わりました、こちらがギルドカードです。失くさないようにしてください」


 1枚のカードを渡された。結構丈夫そうだな。カードの表には名前と職業が書いてある、裏は……Fランク?


「裏のFランクてのは?」


「それは階級と思ってください、Fから始まりAまであります。昔はSランクとかいたらしいですけど今はいません」


 ということは今の俺は最低ランクということか、四魔である俺が。


「面白い……楽しくなって来た」


 勇者探しなんて乗り気では無かったがSランクを目指すのは楽しそうだ。


「どうすればランクを上げることが出来る」


「モンスターの討伐や採取でGP(ギルドポイント)が加算されます。それの合計によりランクが決まります」


 それだと長くやればSランクぐらい簡単になれそうだが。


「何か特別な条件は無いのか?」


「勿論ありますよ、Bランク以上に上がるためには竜種の討伐かギルドからの依頼を達成する必要があります」


 竜種か……ピンキリだな。弱い奴なら一瞬で屠れるが最上位になると俺でも苦戦するだろう。


「竜種を引っ張って来るのか?」


「モンスターごとに討伐部位がありまして、それをギルドが買い取る形で集計します。採取に関しても採取物を買い取ります」


 そういう決まりか、なら討伐部位を覚える必要があるな。資料とかあればいいのだが。


「討伐部位を知るための資料はあるか」


「はい、一応ランクごとに分けてありますがFランクの物でよろしいですか?」


 Fランクといえばゴブリンやコボルトの底辺モンスターばかりだ、そんな奴らを狩っても糧にもならんし金にもならん。


「Aランクまで全てくれ、いくらだ」


「え〜と、自分の一つ上のランクまでしか許可されないんですよ」


 なんて面倒くさいんだ冒険者ギルド。


「ならEランクまでの2冊でいい」


 ここでゴネても仕方ない。地道にランクを上げるか。


「Fランクが銅貨1枚、Eランクが銅貨5枚の計銅貨6枚ですね」


 意外と安いな銅貨1枚なら平民が食べるパン1個分くらいか。


 銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨の順にそれぞれ10:1で交換できる。


 特に思うこともないのでアイテムボックスから銅貨を6枚出して払って討伐部位の資料を受け取る。モンスター図鑑か、図鑑なら一冊に纏めて欲しいと思うのは俺の我儘か?


「何か依頼を受けますか?」


 そう言われて掲示板の方を見る。色々聞いているうちに冒険者が減って見やすそうだ。


「自分のランク以上は受けられないと考えていいか?」


「あ、一つ上のランクまでは受けられます」


 顔は可愛いが結構抜けてるな、説明不足が多い。


 掲示板には所狭しと依頼書が貼ってある。出来れば討伐依頼が良いな。1枚手に取ってみる。


「オークの討伐……Dランクか、まだ無理だな」


 今の俺はEランクまでしか受けらないんだ。Eランクなら何だろう、ゾンビとかポイズンキャタピラーらへんだな。


 オークの依頼書を掲示板に戻す。


「あら、そんな依頼も出来ないの?情けないわね」


 掲示板を見ていた冒険者の女に話しかけられた。……気付かないふりしよう。この依頼とかどうかな?


 別の依頼書を取る。


「ゴブリンの討伐か」


 不満はあるがランク上げと割り切って受けよう。


「ちょっと、私を無視するつもり?」


 無視無視。 ん、魔力の揺らぎを感じる。どうやら怒らせてしまったみたいだ。


「平民のFランク風情が貴族である私を馬鹿にするとは良い度胸ですわ」


 一応四魔は公爵並みの権力を持つんだが……叙爵された訳じゃないから平民といえば平民か。


 思考していると女が回り込んできた。気の強そうな美人というのが第一印象だな。腰に剣を吊るしているから戦士だろうか。というか剣に手をかけてるがまさか抜くつもりじゃないだろうな。


「そこになおりなさい、首をはねるわ」


 おいおい、本当に抜きやがった。しかも首をはねるとか正気とは思えないな。もう面倒だしさっさと黙らせよう。


 突きつけられた剣を右手で掴んで魔力を流して錬金する。剣は一瞬で正方形の鉄の塊になった。

 

 俺のスキルの一つ『錬金』は魔力を別の物に変化させたり、物に魔力を流して変化させたり出来る汎用性の高いスキルだ。


「なっ!? 」


 自分の剣が無くなってしまったことに驚いているようだ。元の剣は鉄とミスリルの合金だったから価値はかなり下がっただろうご愁傷様。


 固まった女を放置して受付に向かう。


「この依頼を受ける」


「え、あの女性はどうするんですか?」


 なんて聞いてきたが知ったことではない。


「知ったことか、早く手続きをしろ」


 少し高圧的になったかもしれないがいつまでも惚けられても困る。


「は、はい。少々お待ちください」


 その間にギルドを見渡すと中にいたほぼ全員が俺を見ていた。貴族に刃向かったことに驚いてるのか?家に力があっても本人は大したことないから正統な後継者にはなれないだろうな。


「手続きが終わりました」


 そんなことを考えている間に手続きが終わったらしい。そういえば依頼が終わったらどうするんだ?

 

「終わったらまた来ればいいのか?」


「各国のギルドでも大丈夫です。依頼書も必要になるので失くさないようにしてください」


 街か……ここら辺だとホープが大きかったはず。商人や若者が集まって出来た街だったよな確か。


 依頼書を失くしたら依頼の登録が失効するらしい。仕方ないのかもしれないが結構厳しいな。


 外に出るために後ろを向くとさっきの女がこちらを睨みながら立っていた。腕を真っ直ぐ下に伸ばして両手は握りしめて白くなっている。怒っているのか悔しいのか判断に困るな。


「まだ何か用か?」


 相手が貴族だろうが知ったことではない。俺はさっさとランクを上げたいんだ。


「私の剣‼︎弁償しなさいよ!! 」


 この女の頭はおかしいのか?自分から絡んできて何かあれば相手のせいか、典型的なお馬鹿貴族だな。相手にするだけ疲れそうだ。


「そうか、ならこれをやろう」


 アイテムボックスから1m四方のミスリルを取り出して魔法で分離させる。もちろん渡すのは剣に含まれていた量だけだ。3%くらいだったからおまけして50gで良いだろう。


 サイコロみたいなミスリルを投げ渡す。あの量だと銀貨で済むな、下手したら大銅貨で払える。


 ミスリルをキャッチした女の肩が震える。怒髪天といったところか、魔力を身に纏い始めた。だがお粗末過ぎるな出力が全然安定していない。ザールの娘よりヒドい。


「この私をここまで侮辱するとは良い度胸ですわね」


「剣もろくに振れないくせによく冒険者になろうと思ったな、あんまりお転婆だと嫁ぎ先に困るぞ」


 あ、何か涙目になってる。思った以上にメンタルが弱いらしい。


「ぐすっ貴方なんかに何が分かるっていうのよ!!」


 仮にも貴族の令嬢ならこの場面で癇癪を起こすのはマイナスしかないだろう。だが怒った上に泣いてる女は手が付けられないことはラナで学んだからな、逃げよう。


「分からないし分かりたくもない。俺は忙しいんだ。それにミスリルも返しただろう」


「こんな量で剣が作れる訳ないでしょ!! 」


 当たり前だ97%はただの鉄なんだからな。


「含有量そのままだぞ。後は鉄だった」


「そ、そんな訳無いわ、私が商人に特別に用意させたのよ!!」


 じゃあその商人に騙されたのか商人が騙されたのかのどっちかだろう。混じりっけの無い純粋なミスリルの剣なら大金貨が数枚は必要だっただろう。


「お前の手にあるのが真実だ。残念だったな」


 俺の言葉に呆然とする女だが、貴族ならもう少し慎重に動くんだな。


 立ち尽くす女を尻目にギルドを後にする。

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