17話
今年の夏って心霊特集とかあんまり無かったですけど人気ないんですかね?
背面の蛇+顔面の狼=窒息……?
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「何も無かった」
朝目覚めて何も無いことに謎の虚無感を感じる。クルウはいないしヒメは床で丸くなってるし……ヘソ天じゃないだと?
「寒いなら一緒にベッドで寝ればいいのに」
寝息を立てるヒメを抱き上げるとゆっくり瞼を上げ始める。数回瞬きをした後また寝てしまった。
これ以上構うのも可哀想なのでベッドに乗せて布団をかける。
「うわ、慈愛に満ち溢れた顔してる。似合わないよ」
「うるさい、ヒメの寝顔見てんじゃねぇよ」
「いや、自分のことはいいのかいっ」
朝から元気な奴だ、今日は何かお祝いでもあるのか?
「今日は何しようかな」
「ギルドに行くんじゃなかったの?」
そういえばそういう話もしてたな。
「でもヒメちゃんが起きてないし起きるまで待つ?」
「クルウは?」
そういやあいつはどこだ。
「下で豚食べてる」
「また生焼け食わせてんのか」
やめて差し上げろよ。
「違うよ。ちゃんと生だよ」
ちゃんと生って何だよ。丸焼きは諦めたのか。
「というかどこに豚なんて置いてたんだ?昨日は無かっただろ」
「今日朝市で買ってきたんだ。ちょっと早起きしちゃって」
朝市は4時くらいだから5時間も前に起きてたのか。
「そんなに楽しみなら早く起こしてくれて良かったのに」
「な!?ちが、別に楽しみとかそんなんじゃ……とにかく下でご飯食べよ!」
なにを焦ってるんだこいつ。ヒメに対して変態的な狂愛を見せてるのに今更取り繕う必要無いだろ。
おや、ヒメもフラウの叫び声で起きたらしい。
『……』
キョロキョロしたかと思うとパタッと倒れた……寝ぼけてるだけか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ本当に大丈夫なのか?」
「俺を信じろ」
「不安しかない……」
今俺はフラウと"2人"でギルドに来ている。従魔達はお留守番だ。ついでにギルドに来た目的はランクアップの手続きだ。
「はい、これでクライスさんはCランクですよ。念のために、Bランク試験を受ける資格があることを証明する書類を用意しますね」
従魔登録をした時の受付嬢は相変わらず優秀だな。昨日来なかったのに笑って許してくれた、内心は分からないが。
「ムッ」
「いた、何だこの野郎」
フラウが突然小突いて来た。
「なんでもないよーだ」
暇なのか?
「暇なら帰ってヒメ達と遊んでてもいいぞ。まぁ、ヒメも大型犬くらいになったから遊ばれるかもな」
「帰らない」
珍しいな、変なものでも食べたか?
「どうぞ、他の街で試験を受ける際にこの書類をお渡しください。それと今日はお菓子屋さんが新商品を出すと言っていましたよ」
お菓子?興味な……
「行こうよクライス!お姉さんありがとう。誤解してたよ」
いんですけど?しかも何のお話しですか。
「いえ業務ですから」
この2人に一体なにが……
「ほら行こ!」
グイグイ引っ張るのはやめろ。腕が伸びたらどうする。
「早くしないとお菓子が逃げちゃう」
逃げねぇよ。無くなるかもしれないが。
何やかんや着いて席が空くのを待っている。でも道を知らなくて受付嬢に聞きに戻った時のフラウの赤面は笑った。
「笑うのやめろ!」
いや、まだ笑ってる。
「だって……『お菓子が逃げちゃう』って言って走ったのに道分からなくて戻るとか、しかも説明してもらっても理解できなくて態々描いてもらうとか」
ダメだ、今思い出しても笑える。よく分からないがツボに入った。
「くそぉ、覚えてろよ」
「はー笑った。腹減ったから飯食おうぜ」
「いや菓子食おうぜ!?ここまで来たんだから!」
「フラウ持ちな」
「わ、割り勘で良くない?」
「……まぁいいか」
「お待ちの方どうぞー」
どうやらちょうど席が空いたようだ。若い店員だなぁ。
「店員をイヤラシイ目で見るな」
「いて、でもあっちも満更でもなさそう」
手を振ってみる。ほら、振り返してくれたぞ。
「気を使われてるんだよ!」
バシッ蹴られるが音だけで痛くない。すごいツッコミの技術だ。
「なんで痛がらないの?痛覚無いの?」
「いや、普通に痛く無いだけだよ」
フラウってそんなに弱いのか。クルウが照れた時は守らないと危ないな。
「何その慈愛に満ちた目は、嬉しいけど嬉しくないよ」
意味わからん。飯食ってすぐに『腹減ったー』とか言う奴くらい意味わからん。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
話してばかりで決めてなかった。
「え?あ、えっと……」
「俺はオススメを頼む」
「あ、じゃあ私も!」
「オススメは何だろうか」
「受付のお姉さんが言ってた新商品じゃない?」
「フラウの煮付け……か」
あぁこれから調理されるんだな。
「違うしお菓子じゃ無いよね!?その『あぁこれから調理されるんだな』みたいな目はやめてよ!」
「ツッコミが長い、うるさい、動きがない」
「ひどいダメ出しをくらった!」
周りの客達が分かりづらいが笑ってるな……よし。
「そんなので美味しい料理になれると思ってるのか?甘ったれるな!甘くなって良いのはお菓子だけで良いんだよ!」
「なりたいと思ってな、そのドヤ顔やめろ!上手いこと言ったつもりかよ!」
もう良いだろう。
「え、何で座ったの?いや悪い訳じゃ無いんだけどなんかさ」
「フラウ、騒いで恥ずかしくないのか?紳士淑女に見られてるぞ」
「え?」
フラウがグルリと見回す。ほらみんな見てるぞ。
「—っ!」
静かに座って顔を赤くして俯いてしまった。
「お待たせしました。フルーツパフェです」
テーブルの上にドンッとガラスの器など盛られたパフェ?が来た。かなり甘そうだが……
「これ2人分か?」
「はい、カップル向けの新商品ですので。赤くなってる彼女さんと一緒に食べてくださいね」
最後にニコッと笑って離れていった。
「カ、カカ、カップルって」
「そうらしいな、お前これ食えるか?俺あんまり甘いの好きじゃないんだ」
「そうだろうと思ったよ」
俺は甘味の強くないフルーツだけ食べよう。これはバナナか?器用にハート型にカットしてある。
「何だその口は」
「あ、あーん」
鳥の雛みたいに口を開けるフラウ。まさか食べさせろと?
「目を閉じて待っててくれ、心の準備をするから」
心の準備をするため、まずは近くの店員を呼ぶ。
「はい」
空気を呼んで小さな声で話しかけてくる。
「フォークをくれ」
「一体何を……それノニですか?エグいですね」
店員が持って来てくれたフォークにカットしたノニというにが〜い果実を刺す。
「あーん」
「あ、あーん」
周りの紳士淑女が固唾を飲んで見守る中、フラウがノニを口に入れた!
「ムグムグ……うん?うぇぇ」
舌を出して吐き出そうとしてやがる。
「こらこら、何を吐き出そうとしてる」
「ほのわへのわはらなひやふらよ!(この訳の分からない奴だよ!)」
可愛らしい舌を出してるのでうまく喋れていない。見てて最高に面白い。
「ほら、水でも飲めよ」
「ありが、この水これ入ってるでしょ!臭いがする!」
チッ、ばれたか。そこは飲んでからの反応が見たかった。ラナは2回も飲み物で騙されたんだぞ。それ考えたらあいつ、かなり純粋だったんだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひどい目にあった……」
「でもまた来てくださいねって言われただろ。周りの人からおひね、寄付金も頂いたし」
「大道芸人が何かだと思われたよね!?しかもおひねりって言いかけたね!?」
「でもパフェは美味かっただろ?」
「美味しかったけど、"でも"の意味がわからないよ」
フラウと総評をしながら家に向かう。
「ん、面白そうな店発見」
「どれ?」
装飾品を扱う店を指差す。ヒメの首輪を魔改造しよう。
「え、まだ早いよ」
なに顔を赤くしてクネクネしてんだこいつ。
「いいから行くぞ。嫌ならここにいてもいいが」
「行く」
妙にフワフワとしたフラウと店に入る。
「「マリン商会へようこそ」」
マリン商会というらしい。
「フラウは適当にぶらついてろ」
「う、うぬ」
なんだうぬって。まぁいいや。
さて、どういうのにしようかな。
「ペット用の首輪があるなら見せてほしい」
「かしこまりました」
従魔用ならフラウの店にあるのか?あるかもな。でもせっかく来たし何か買うか。
「こちらです」
全部同じデザインで色も四属性に合わせたものしかない。店構えが立派なだけに気持ちの落差も大きい。
「……首輪はいいや。バングルを見せてくれ、出来れば幅が広いものが良い」
「かしこまりました」
バングルはフラウにプレゼントするか、結構世話になってるしな。
「こちらです」
ボツ、ボツ、ボツ、ボ……これは良いかも。薔薇が描かれたバングルを手に取る。錬金で薔薇の部分の素材をトルマリンに変えればいいか?
「これをくれ」
「ありがとうございます」
代金金貨8枚を支払う。意外と安かったな。
「終わった?」
「終わった終わった。帰るぞ」
妙に上機嫌なフラウを連れて今度こそ家に向かう。
……あ、妙に機嫌が良いのはあそこで何か買って貰ったと思ってるのか。いや実際買ったけどさ。
店に着く前じゃないと従魔達に邪魔されるだろう。
「フラウ、手を出せ」
「え、ここで?まだ周りに人が……」
とか言いながらおずおずと手を出して来た。手を軽く持ってバングルをはめる。
「バ、バングル?」
そのまま錬金で一部だけトルマリンに変える。
「今日までの気持ちだ。帰るぞ」
「え、あ、うん」
変な空気になってしまった。慣れないことはやるもんじゃ無いな。