第26話 夜明けと共に
第26話 夜明けと共に
夜空を彩っていた夜空の煌めきが、淡い青に消えていき、山々の輪郭がはっきりと見え始め、世界の色が鮮明になっていく。
そう、日が昇る前だ。
空の下、広大な荒野の中に、野営する人々の集まりがあった。
その数、およそ五万人。皆、メリダの街から西に避難してきたのだ。
しかし、たった一日でここまで辿り着くとは、誰もが夢にも思っていなかった。各々が荷物を最低限にしているとはいえ、普通に考えても二日以上はかかるはずだ。
この驚異的な速さには、理由があった。先の災害で兵士たちがメリダの復興のために駐留し始めてから、テントや食料などの物資と、運搬手段である馬車は相当な数が集められていた。特に馬はよく訓練されており、通常よりも長い距離を移動することができる。つまり、今回は迅速な避難に最適な環境が整っていたのだ。
こうした経緯もあり、人々の心中には余裕があった。それに、すぐにメリダに戻る事になるだろうとさえ考えていたのだ。
だが、これは「避難」なのだ。避難した理由そのものを楽観できない。
テオはテントを巡回しながら思う。
今、王都の付近で戦いが起こっている。"人形"というものが何かはわからないが、その軍勢が凄まじい勢いで国を侵略しているのだ。陛下は防衛線を築き、今も戦っているに違いない。本来ならば、私も部下を連れて戦場に行くべきなのだろう。だが、陛下と姫様にこの避難民の安全を託された。恩義のあるリゴ殿も果たすべき使命があると、姫様と共に行かれた。そして愛娘のソフィアが、あそこまでの我儘を通してまでリゴ殿に同行すると決意したのだ。
(私は…私の全力を尽くさねばな)
テオはそう心に強く思い、天を仰ぐ。ちょうどその時だった。
「ん? なんだあれは」
東の空に、何か一筋の白い線が見える。あんな雲は見たことがない。その先端には、何かの影が見える。
「何だ? 鳥ではないようだが…。おい、フラガ! あれが見えるか?」
一緒に巡回していたフラガが駆け寄ってくる。フラガはクロス・ボウの射撃が得意で、サラに次いで目がいい。そのフラガが、早速空を見上げて目を凝らす。すると、表情が固まった。
「見えたか? あれはなんだ?」
「隊長…わかりません」
フラガは一言で答える。テオは納得がいかない。この距離でも鳥の種類を言い当てたこともあるフラガだ。見えないはずがなかった。
「もう一度よく見るんだ。あれは鳥なのか?」
テオがもう一度尋ねると、フラガはゆっくりとテオに向き直る。
「隊長…すみません。鳥ではない事はわかるのですが、あんなのは見たことがありません。それに…」
急にフラガは口ごもる。
「それに?」
「あれは…馬鹿でかい、何かです。あの狼たちや、でかい鷹なんかが小さく感じるくらいの…」
テオにもようやく理解できた。正体はわからないが、あれは私たちの常識を超えた、何か異様なものだ。そしてあれは、こちらに向かっている。
テオの額から一筋、冷や汗が流れ落ちる。まずい! 何か対応を!
「フラガ! 緊急呼集だ! 臨戦態勢を整える! 急げ!」
「りょ、了解!!」
辺り一帯に角笛の音が響き、兵たちが慌ただしく動き回る。人々は何事かと辺りを見回すが、状況が飲み込めない。
テオの指示でクロス・ボウや弓を持った射撃隊の兵士たちが、急いで配置に着こうと動く。しかし、それはもうすぐそこに来ていた。
空気を揺らす轟音。それから、少し熱を帯びた風が吹き荒れる。その音と風の先には、空から飛来した砦のように巨大な影。近づくにつれ、それが生き物ではないこともわかり、更に混乱が増す。
それが人々の目にも触れ始め、大混乱が起きる。悲鳴が上がり、その場を離れようとする人々であたりは埋め尽くされた。五万人の人々が一斉にパニックになれば、大惨事が起こる。兵士たちにはどうする事も出来なかった。
だが、混乱は突然収まることになる。得体のしれないものが地に降り立つ直前、急に辺り一帯に轟くほどの声を発したのだ。
「み、皆さん!! 落ち着いて下さい!! 私は味方です!!」
その声は五万人の人々と兵士の全員に届くほどの大声だった。雑音が多く、やや聞こえにくいが…若い女の子の声だ。その声を聴いて、辺りは困惑と共に静まり返る。
(この声は…?)
テオは何か引っかかるものを感じた。その声音には、よく知るものがある。それに、目の前に降り立った巨大な金属製のもの…これは船なのか? そう考えていた時、人影が降りてきた。それを見た兵士たちが慌てて一斉に、その人影に狙いを定める。テオは一目見て、人影の正体を確信し必死に叫んだ。
「や、やめろ!! 撃つな!! 全員、その場で武器を降ろすんだ! 早く!!」
人影は愛娘のソフィアだった。この子の顔を見間違えようがない。だが、テオは激しく動揺する。どういうことなのだ?
「ソフィア! 私だ、父さんだ!」
声に気づき、ソフィアがテオの方を振り向く。そして嬉しそうに笑顔を浮かべて手を振った。
「お父さん! 良かった、無事に着いたんだね! アビー、やったよ!」
アビー? 聞き慣れない名前だ。テオが疑問に思っていると、ソフィアの後ろの大きな扉から、何かが姿を現した。それはまるで…大きな鎧だった。
「ソフィア!!? 危ない!! 後ろに何かいるぞ!?」
まさか、あれが話に聞いた人形なのか!? テオはソフィアの危機を感じ、ソフィアの元に走り出す。その様子を側で見ていたフラガとサラも瞬時に反応し、それぞれクロス・ボウと弓を構えて鎧人形に狙いを定めた。
「お父さん? どうしたの? そんな真っ赤な顔して走ってたら、鼻血でちゃうよ?」
何を間の抜けた事を言っているのだ! 我が娘の発言に衝撃を受けつつ、テオはソフィアの元に真っ直ぐ走る。後少し!
その瞬間、ソフィアとテオの間に影が割り込む。それはあの鎧人形だった。
「ソフィア様、危険です。お下がり下さい。この者たちは極度の緊張と興奮状態にあると推測できます」
「ちょっと…アビー?」
声の主はアビーだった。この鎧は琥珀の女王号に積まれた、もう一機のキャヴァリアーだったのだ。そして今、アビーが操作するこの機体は、テオたちに立ちはだかり、ソフィアを護ろうとしている。
「警告する。これ以上近づき、ソフィア様に危害を加えようとするならば、この場を制圧します。武器を捨てて降伏しなさい」
テオは足を止める。なんだこれは? 状況がまるで飲み込めない。
「ソフィア…様だと? 貴様は何者だ? まさか、貴様が王都を襲撃している人形とやらなのか? だが…なぜ娘と共にいるのだ? 答えろ!!」
テオはフラガとサラに目配せをする。それを理解した二人はテオの合図を待つ。
「ソフィア様は私の主人だ。さあ、早く武装解除しなさい」
アビーはキャヴァリアーの右手を動かす。筒が複数束ねられたものが回転していた。後で聞いた話によれば、ガトリングという武器らしい。それをテオたちに向けて構える。ソフィアは慌ててアビーのキャヴァリアーに飛びつき、頭をガンガン叩いた。
「ちょっと待った!! アビー、この人は私のお父さん!! 心配して来てくれただけだから、みんなを攻撃しちゃダメ!!」
ソフィアが叫ぶと、アビーがピロピロと音を発している。
「お父さん…? まさか、ソフィア様の?」
「そうだってば! アビーの勘違い! あと、お父さんも勘違いだよ!」
ソフィアに言われ、アビーとテオが顔を見合わせる。とりあえず両者は武器をしまい、後ろの二人の射手もそれに倣った。
「うむ…ごほんっ!…その、アビーとやら。少し冷静に話そう。教えてくれ、あなたは何者なんだ? 人間ではないらしいが、ソフィアとはどういう関係なのだ?」
テオが恐る恐る、丁寧に尋ねる。真っ赤な顔も平常に戻りつつあった。
「まさか、ソフィア様のお父様だったとは…いきなり武器を向けてしまい、失礼致しました。私はアビー。ソフィア様に仕えており、この琥珀の女王号と共に参りました。また、リゴ・ソラン様から、ソフィア様の護衛と助力をを仰せつかっています」
「なに、リゴ殿? そうか…リゴ殿の計らいなのか。あの方は、ソフィアを護って下さったのだな…ありがたい。アビー殿。私はテオ・ルー。この子の父です。娘がお世話になっています」
テオとアビーが挨拶を交わし、この場の緊張感は和らいだ。兵士や人々はまだ混乱しているが、とりあえず敵ではない事は伝わったらしく、安堵の声が漏れ始める。
「もう…ヒヤヒヤしたよ。あのね、お父さん。みんなに大事な話があって、この船で飛んで来たの。お願い! みんなに話をさせて!」
娘の真剣な眼差しを直視して、テオは息を呑む。この子がこんな目をしたことがあっただろうか。テオは黙って頷きを返し、すぐに兵士たちに指示を出す。それから程なくして、ソフィアと船の周囲に人々が集められた。
「まだ警戒している者もいるので全員ではないが…集められる人たちは呼んだぞ!」
それを聞いたソフィアは紐で繋がった棒のようなものを手に持つ。アビーの話によれば、拡声機というものに繋がっているらしい。ソフィアは大勢の人前で話すのは苦手だが、深呼吸をして話し始める。
「わ、私は、テオ・ルーの娘、ソフィア・ルーです。ここには、危険が迫っている事をお伝えするために来ました」
ソフィアは辿々しいが、ゆっくり説明を始める。まずは、エメリア姫が東の地で使命を果たし、帰ってきている事。エメリア姫の命で、私はこの船でここに来たこと。そして、敵もこちらに近づいていることを。
「敵が…来ている? ではまさか…王都は突破されたのか?」
テオに聞かれ、ソフィアは下を向き、言葉を詰まらせる。隠しても意味はない。話さなくちゃ。
「王都も…他の土地も、全部壊されちゃったの。誰も生きてない。陛下も、マルセラさんも、他の人たちもみんな、死んじゃった…」
その場にいた者は皆、絶句した。信じられない。そんなの嘘だ。そう思いたかったが、ソフィアの言った事はおそらく真実なのだ。なぜなら、糸が切れたように目の前の少女が泣いていたのだから。
「陛下…」
「ちくしょう…ちくしょう!」
悔しさと、無力感に包まれるサラとフラガ。他の兵士たちも呆然としていた。避難している人々も、事の深刻さを理解し、恐怖に頭を抱えている者もいる。
だが、それも一時的なもので、なんとかそれは嘘だと信じたい者も多かった。そして、ソフィアを全力で否定し、罵声を浴びせ始める。
「そんな事があるわけねぇだろ!! 街の時もそうだったが、こいつはまた妄言を吐いて俺たちを惑わしてやがるんだ! 姫様も乗せられて…」
「まさか、この娘は敵とやらに通じているんじゃないのか? あんな得体のしれないものに乗って、おっかない鎧に護られて…普通じゃないぜ!?」
「おい、兵士たちは何をしてやがる!? この頭のおかしい娘をとっとと捕まえろよ!」
激しく非難されるソフィア。わかってはいたが、想像以上に苦しい。ソフィアの小さな体が震えて、段々声も出せなくなる。
その場にいるルー家の一同やソフィアを知る者たちは、この耐え難い光景に胸を痛める。助けてあげたい。だが、話を始める前、ソフィアに念を押されていた。
何があっても耐えるから、私に話をさせて。
ソフィアはそう言っていたのだ。
「お姉ちゃん…いやだよ、こんなの。ねえ、お母さん! お姉ちゃんを助けてあげようよ!」
ルーナは必死に母のカトラに懇願する。だが、カトラも、隣にいるテオも、黙っている。テオの拳は血が滴るほどに固く握られ、カトラは歯軋りが聴こえそうな程に口を噛みしめている。二人は必死に堪えているのだ。娘の言葉を信じて。
ルーナはこれ以上ソフィアの苦しむ姿を見られなくなり、顔を覆う。涙が止まらない。その時間は永遠に続くのかと思えるほど長く感じた。
その時、東の方から轟音が聴こえてきた。それから、何かが激しくぶつかる音。まるで、剣がぶつかり合うような…
一同にどよめきが起きる。何かがこちらに迫ってきている。それも、おそらく戦いながら。
動揺が広がりつつある、このタイミングでソフィアが再び声を発した。
「やっぱり、私が話してもダメだね…。わかってた。でも、私は諦めない。エメリア様とも約束したの。だから、私は私にできる全力を尽くして、みんなを護るよ!」
そう言って、ソフィアは後ろを振り向く。そこにアビーが現れ、ソフィアはキャヴァリアーの腕にしがみつく。
「みんな! もうすぐエメリア様がここに来るから、避難の支度をしてて!」
「お姉ちゃん!? どこに行くの!?」
ルーナがソフィアを呼び止める。ついさっきまで泣きじゃくっていたので、顔がぐしゃぐしゃだ。
「ルーナ…お姉ちゃん、頑張るからね!! お母さんたちと、ちゃんと支度をするんだよー!!」
そう言うと、ソフィアはアビーと共に走り去る。そして、再び琥珀の女王号は戦いの音がする方へゆっくり飛び去って行った。
その姿を見送ったテオとカトラは、その場に崩れる。
「お父さん!? お母さんも!? どうしたの?!」
ルーナが慌てて駆け寄る。だが、二人の顔はとても嬉しそうだった。
「二人とも…どうしちゃったの?」
ルーナが困惑しながら二人の顔を覗き込むが、しばらくは黙っていた。それから一言、二人で一緒に呟く。
『まったく、あの子は…』
エメリアはキャヴァリアーで西に疾走していた。メリダを出発してからしばらく経ち、間も無く日が昇る。
だが、背後から迫る影が複数見えた。それはミナリスで見た人形のようだったが、四つ脚で地面を滑るように移動している。
「リオン! 敵に追いつかれそうだ! 振り切れるか!?」
「エメリア様、申し訳ありません。目的地は近いのですが、逃げ切るには距離が足りません。それに、このまま避難している人々の元に行くのはリスクが高過ぎます」
エメリアたちが敵を引き連れて突入しては元も子もない。なんとか敵を振り切らねば。
「何か手は…。リオン! このキャヴァリアーの武器はなんだ?」
「飛び道具はありませんが、右手にフォトン・ソード、左手はパイル・バンカーを装備しています」
「ソード…は何となくわかるが、パイル・バンカーとは何だ?」
「パイル・バンカーは特殊な合金の…つまり、強靭な杭を至近距離で敵に打ち込む、接近戦武器です。障害物の破壊にも使え、壁の破壊に最適です」
上等だ。エメリアはキャヴァリアーがますます好きになる。だが、今はそれどころじゃない。
「リオン、敵に仕掛けたい。キャヴァリアーを私が動かす事は出来るか?」
「エメリア様が? 操縦の説明をした事がありましたか?」
勿論、ない。だが、昔から頭を働かせるより、体を動かした方が覚えが良かった。
「まあ、習うより慣れろ、だな。それで、今から乗る事は可能なのか?」
「可能ですが…エメリア様は無茶しますね」
「それが私だ。気に入らんか?」
リオンは機械だが、ため息を吐く動作をする。
「仰せのままに、ご主人様。私がアシストします。まずはコア・フレームに搭乗して下さい」
リオンが言うと、キャヴァリアーのコアの上部が開く。そこにエメリアは入り込むと、座席があった。だが、ベルトの締め方くらいしかわからない。
「リオン、とりあえず乗ったが、次はどうする?」
「座席の両側に手を乗せて下さい。手甲を装着します」
エメリアが両手をそれぞれ乗せると、手甲らしきものが自動的にエメリアの手に着けられる。
「それはエメリア様の手の動きをトレースします。つまり、キャヴァリアーの腕がエメリア様と同じ動きをするのです。脚部の操作や力加減などは練習が必要なので、私が手伝います。転ぶことはないと思いますが、あまり無茶な動きはしないで下さいね」
「よし。剣が扱えるなら、問題ない! さあ、行くぞ!」
エメリアの前のスクリーンが起動しら外の景色がよく見える。首の動きや足運びも、ある程度エメリアの思い通りになっているが、地面を滑るように動く感じは足で表すのが難しい。それでも、いけそうな気がした。
「まずは一番近い、こいつだ! 真正面から突っ込んでくれ」
いきなり無茶から始めるエメリア。リオンはピロピロと文句を言っているようだが、ちゃんと命令に従っている。
キャヴァリアーは一直線に敵に向かう。相手も迎撃しようと態勢を整えるが、相当な速さで動いていたので、制動に手間取っているようだ。そこをエメリアは右手のソードで横に斬りはらう。
敵の胴体が四つ足の脚部から離れ、地面を転がる。まずは一つ。
続いて、挟み込むように接近する二体が迫る。足並みも揃えており、同士討ちは狙えない。
「そう来るならば、二体同時に倒すまでだ! リオン、パイル・バンカー用意!」
エメリアのキャヴァリアーは屈むようにその場に停止する。そして、そこに左右から突っ込んでくる二体。槍で突き、剣を上段から振り下ろそうとする。
だが、エメリアはそれを最小限の足さばきで躱す。そして剣の敵にはカウンターでソードを下段から振り上げて斬り、槍の相手には横っ腹にパイル・バンカーを打ち込む。二体は瞬く間に撃破された。
「エメリア様、お見事です! 初めてキャヴァリアーに乗られたのに、その性能を引き出しています! どんな魔法を使われたのですか?」
エメリアの戦い方に感嘆するリオン。エメリアは少し照れ臭そうに笑う。
「まあ、正直適当だ。腕が想像以上に私の動きに従ってくれているからな。その加減で足の動きも大体理解できたんだ。まあ、怪我で右手は思うように動かないが、生身で打ち合うのではないからな。あまり庇わずに戦える」
エメリアの戦い方は洗練され、達人の域にあった。実戦は多くないが、日頃の真っ直ぐな鍛錬の成果だろう。磨き上げたそのセンスは、今キャヴァリアーで発揮されている。
「さて…残りは何体だ?」
「あと二体…ですが、この二体は射撃をしています! 容易には接近できませんね」
先ほどまでの人形と違って、今度は槍を高速で打ち出す、大型の弩弓を構えていた。しかも、それを連射してくる。
「おいおい、あれはそんなに連射できる武器か?! リオン、対策はないか?」
「今の装備では、躱すのが精一杯です! 荷台を捨てても、速さで負けています」
荷台。まだついていたのか。そこでエメリアは、一つ思いつく。
「リオン、合図をしたら荷台を切り離せ」
「エメリア様? 何をなさるんですか?」
「いいから、頼むぞ!」
エメリアはキャヴァリアーを敵に向ける。狙いを絞り、こちらを仕留めようとする敵に対し、エメリアはまた真正面から攻める。
「エメリア様! これでは蜂の巣に…」
「ならん!! それよりも用意しろ!」
そのまま突っ込むエメリア。敵の射撃が始まり、次々と槍が飛んでくる。これ以上は躱せない。そうリオンが思った直後…
「今だ!! 切れ!!」
荷台がキャヴァリアーから切り離される。その瞬間、エメリアは急制動をかけ、停止する。荷台はキャヴァリアーの背中に当たりながら、頭上を越えて前に出る。それをエメリアは右手で掴み、盾がわりにして突進した。
敵もすかさず撃ち込むが、荷台は意外に硬く、貫通出来ない。そのまま体当たりを仕掛け、激突する。地面に倒された敵を左手で殴りつけ、パイル・バンカーを打ち込んだ。これで残りは一体。
「さあ、次で終わりだ」
「ですが…荷台はもう持ちませんよ?」
荷台は頑丈だったが、さすがに体当たりした際に壊れてしまった。
「まだ手はあるさ。敵を見ていて閃いたんだが、このパイル・バンカーの杭は飛ばせないのか?」
リオンはエメリアの閃きに唸る。まさか、こんな手があるとは。パイル・バンカーの安全制限をいくつか変更すれば、杭を射出できた。
「いけます。流石は、我がご主人様です」
「まあまあ、成功したら褒めてくれ」
そう言って、エメリアは敵の射撃を躱しながら距離を詰める。そして、パイル・バンカーの狙いを定め…
「よし! 打ち抜け!!」
勢いよく射出される杭は敵を貫き、沈黙させる。これで敵を全て撃退した。そう思った矢先…
「おい…あの数はなんだ?」
夥しい数の新手が押し寄せる。流石にキャヴァリアーだけでは撃退出来ない。万事休すかと思われたその時、頭上から何かがやってきた。
「エメリアお姉ちゃん! お待たせ!」
琥珀の女王号。ソフィアが戻ってきた!エメリアは嬉しさのあまり、父親譲りの豪快な笑い声をあげる。
「ソフィア!! よく来てくれた!!」
キャヴァリアーの手を振るエメリア。それを見てソフィアは安心する。
「ここは私たちがやります! ついでにリゴも迎えに行ってきます! みんなのこと、お願い!!」
ソフィアはわかっていたのか。エメリアは感心した。自分が行かないと、民は纏まらない。それを承知で飛び出し、そして戻ってきたのか。
「まったく…あいつは…」
嬉しそうに微笑み、エメリアは頷く。そして足元に転がっている荷台から槍を引き抜き、持ってきたものをリオンに手伝ってもらい、括り付ける。
それは王家の紋章旗。そして、アリアス王国の象徴だ。
エメリアはキャヴァリアーで旗を掲げ、再び西へ疾走する。後ろはソフィアたちが護っている。なんと嬉しい瞬間だろうか。
戸惑いながら避難の支度をする人々。その背中に光が差す。東から朝日が昇ってきたのだ。
そして、夜明けを告げる朝日と共に、旗が翻るのが見える。それが何か確かめようと集まる人々の前に、旗を掲げる大きな鎧が現れ、その上から誰か飛び降りた。
その人の髪は朝日に照らされ銀色に輝く。
その人こそ、アリアスの王。
エメリア・オーランドだった。




