第二章 第十五話「海に眠る大剣」
昨日の晩おかしかったと天。
色んなストレスやトラウマから来てしまったのか。
それでも一緒に転生したのが私でよかったとの質問に、いつも通りからかっていると思い別に答える勇人。
すると天から表情が消えて、さっさと宿を後にしてしまった。
結局、漁に向かう船には間に合わず途方に暮れる。
宿に戻ろうにも天がいる気がして戻れず、結果辺りをぶらつくに至る。
今いるのは宿から離れた、人が少ない所から変わり、最初にライドと出会った場所-露店が立ち並ぶエリアだ。
ここは両サイド岩に挟まれて海は見えずに空気が滞っており、よく見ればガラや人相が悪い人が多くいる。
だがそれも、ガヤガヤと行き交う人達により掻き消されて、怖いといった印象は受けない。
それどころか隣の露店同士で話し合ったり、何やら各々売っているものを交換したりしているのが印象深い。
アサガナでは何でも金、金、金となにもかも見て取れて必要だったのに。
歩いていると、俺は露店の一つにネックレスが沢山売っている店を見つける。
そのネックレスたちの先端には剣やその他色んな武器が成っていたので、俺は迷わずそちらに歩みよる。
「お前最近きたヤツじゃねぇか。よかったら一つ、どうだい?」
露店の店主らしき人が俺に寄越すのは幾つかのネックレス。
その中でも一回り大きな武器をぶら下げたネックレスが目を引く。それはバスターソードのような形状をしていた。
俺は目を輝かせて引き寄せられるように手を伸ばす。
今更だが俺は無類の武器好きだ。特に剣。
なんと言うか⋯⋯かっこいいだろ?
その中でも大剣が結構好きだ。ガタイのいい人が振っている大剣なんて安心感が半端じゃない。
目下の目標としては、そのくらい振れるようになりたいってのもある。
俺はそれを受け取ると、店主は「振ってみな」と含みを持った笑みを浮かべる。
俺は周りに人がいないことを確認してそれを振るう-剣解放。
「ッ!?」
しかし、それは剣の先が折れるように地面に引っ張られて豪快に地面に叩き落としてしまった。
俺は既のところで離していたが、思い切りねじ曲がった手首を痛めてしまった。
「なんつー重さしてるんだよ⋯⋯」
その武器は刃渡り二メートルはあろう大きさで、これならばグリムなんて一撃で屠れそうだ。
だがその分、鉄塊であるため重さは増しており、俺の力では持て余してしまう。
「はっはっはっ!やっぱり無理か!」
顔を天に豪快に笑う店主。
俺はムカつき、「なんの!」と今度は両手で掴むと持ち上げる。
持ち上げる⋯⋯事は何とか成功した。しかし-。
「グギギギギギギ-ッ!」
-重いッ!フウカに手渡された木剣の数倍は重いッ!
さすが鉄の塊。その分攻撃力はあるが、代償としてスピードととてつもない筋力を要求してくる。
「グギギギギギ⋯⋯」
「おぉ?」
それでも俺は頭までそいつを持ち上げる。
そして、何も無い所に向かってそいつを力いっぱい振り下ろした。
「オラぁぁぁぁぁっ!」
刹那、バスターソードが地面を割り辺りに振動を与えて揺らす。凄まじい壊音が耳を劈き、目の前が爆発したように煙が立ちこめて目を開けていられない。
暫くして舞っていた土煙が晴れると、地面は大きく割れていた。
俺の力-いや、この武器により引き出された俺の力は地面すら割ってしまう力なのか。
「おぉぉお⋯⋯コラァアアアッ!」
突如耳元で聞こえたあまりの大きな声に耳がいかれる。隣を見ると叫んだであろう店主が怒りの形相で俺の胸ぐらを掴む。
「ばかやろうっ!こんな所で制御も出来ないのに振り下ろすんじゃねぇ!見てみろ!」
そう言って指さすのはこの辺りを挟んでいた岩の方。よく見ればさっきの亀裂が深かったようで、そこにまで影響しているようだ。
下は崖、自然が作り出した奇跡的に岩々に挟まれた地形なだけで、そこまで頑丈な所ではないようだ。
「すみません!いやぁ~どうしても試したくって、つい⋯⋯」
俺の悪い所はこういった周りを見ずにやってしまうこと。
お陰でクラスでも浮いていた事を忘れていた。
「まぁこのくらいなら、壊れねぇよ。ただもう振るんじゃねぇぞ?寸止めするかと思ったのによ」
店主の言葉に俺は若干のショックを受ける。
何度も言うが三年間欠かさず木刀を振ってきたのだ。やはり憧れの武器を扱えないのはちょっと寂しい。
「⋯⋯まぁ、良かったら。この武器安くしとくよ」
ガッカリとしたムードを放つ俺を店主は宥めるようにそう提案する。
「幾らです?」
「銀貨五十枚だな」
-高ぇ。
「高ぇ、つうか高ぇよ!なんでアサガナよりも高いんだよ!」
「仕方ないだろ。ここでは金よりも物々交換でのやり取りが主で、金にそこまで需要はないんだからよ。にいちゃんなんか交換できそうなもの持ってるのか?」
言われて身体のあちこち触ってみるが、それらしいものは無い。
もしかしてと服を差し出そうとするも「なんだこりゃ」と受け入れてくれない。
ネックレスは二つあるが、通常の剣とジェットソード。どちらも使うから売れないし、この街では”簡易武具”が主流だからNOと答えられるだろう。
「あぁー!無理だー!」
俺は空に吠えて思っていた事が頭を過ぎる。
この街の住民はアサガナと違い、自分たちで解決する事が多い。
服が無ければ裁縫を。
食べるものが無ければ漁に出て魚を得る。
そもそも金が要る暮らしとは違い、自給自足の生活を行っている人が殆ど。
建物が壊れたら皆で助ける。報酬金なんて要らない。渡すのは食べ物や道具などの現物物資。
足りないものがあれば互いに交換し、そこに利益関係は無く、ただ相手の為にといった行動をとる。
アサガナではおばあちゃんですら役場にて求人を出して、報酬を与えると決めてようやく助けが来る。
それに比べたら街シークリフは、金関係なしに手伝ってくれたりしてとても温かく感じる。
金回りはあっちの方が豊かだが、人なりの温かさはこっちの方があると思う。
ただ問題があり、その分何も持ってない金でしか解決策がない俺(今はお金ないけど)みたいな旅行者には、高すぎてとてもきつい。
「はぁ⋯⋯ありがとう。おじちゃん」
やはり何でも金が必要だ。
とぼとぼと去ろうとする俺の背中に「おい待ちな!」と店主が声を掛ける。
「⋯⋯なんですか?」
「お前さん⋯⋯大剣が好きなのかい?」
「まぁ。でもさっき振れない事は理解したばかりですが」
不貞腐れて応えると、店主は頭をぽりぽりと掻きながら言う。
「巨人の噂⋯⋯知ってるか?」
「はぁ?」
店主は続けて語る。
「なんでも、昔、一人の巨人が大きな波からこの街を守ったって伝説だよ」
ん?それがなんだって言うんだ?
「その巨人の剣が、海の底に眠ってるって噂だ」
「⋯⋯ほぅ?」
噂だ。ただの都市伝説みたいなもの。
そう店主は付け加えるが、俺は食いついていた。
気付けば店主にくっ付くくらいに聞き入っていた。
「分からねぇよ?ただ噂では、とてつもなく大きく、自由自在に重量を操り斬撃が繰り出せるという-」
「なるほどわかった。ありがとう」
俺は御礼を言ってその場を後にする。
海の中に⋯⋯ねぇ。
「フフフ⋯⋯」
俺は不敵に笑みを浮かべて、取り憑かれたように真っ直ぐにある場所へ向かった。
善は急げ-だ。




